その後ルーアンに到着し、ケビンと別れたエステル達はギルドに向かった。
~遊撃士協会・ルーアン支部~
「あ………」
ギルドに入った時、見覚えのある人物達を見つけたエステルは思わず声を出した。
「お、戻ってきたか」
「エステルちゃん!ミントちゃん!お帰りなさ~い!」
「こんにちは!」
「ナイアル、ドロシー!どうしてルーアンにいるの?」
見覚えのある人物達――『リベール通信』の記者とカメラマンのナイアルとドロシーにミントは元気に挨拶をし、エステルは何故ギルドにいるかを尋ねた。
「そりゃあ、話題の市長選を取材しに来たに決まってるだろ。で、妙な事件が起こってるって聞いて、ギルドに事情を聞きに来たわけさ。」
「妙な事件って……。例の『白い影』のことね。」
ナイアルの話を聞いたエステルはすぐに察しがついた。
「実は、君たちが調べている間に市街で別の目撃事件があってね。市民の間にも徐々に動揺が広がっている状況なんだ。」
「そうか……。だんだん、大事(おおごと)になってきたな。」
ジャンの話を聞いたアガットは真剣な表情で答えた。
「そして極めつけが……。このお嬢さんが撮った写真さ。これはかなり有力な資料になると思うんだけど……」
「写真って……。ま、まま、まさかっ!?」
ジャンの説明を聞いたエステルは身を震わせた。
「心霊写真ってやつか?」
「ええええ~!?お化けさんの写真をドロシーさんが撮ったの!?」
アガットの言葉を聞いたミントは驚いた後、エステルの後ろに隠れながらドロシーに尋ねた。
「うーん、そうなのかなぁ。ホテルから夜景を撮ってたら偶然写っていたからよくわからないんだけど~。とりあえず見てみてくれる~?」
そしてドロシーは写真をエステル達に見せた。写真にはマント姿の白い影が写っていた。
「「…………………………」」
写真を見たエステルとミントは驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
「……なんつーか。決定的じゃねえか?」
「あ、あはは……。そう決めつけるのは早いわよ。オーバルカメラの調子が悪かっただけかもしれないし……」
「う~ん、故障ってことはありえないと思うよ~?中央工房で買った最新機種だしメンテナンスもバッチリだもの~。」
「そういう事にしといてってばっ!」
アガットの言葉を否定して逃避しようとしたエステルだったがドロシーに否定され、ドロシーを睨んだ。
「エステルちゃん、コワイ……」
「まあ、そういう訳でかなり具体性を帯びた話になってきちゃったんだけど……。この件は、マスコミと協力しても損はないと思う。早速、各地で調べてきた事をここで報告してくれないか?」
「う、うん……。一応、3箇所で調べたけど。」
「た、大変だ~!」
エステル達が報告をしようとしたその時、一人の青年が慌ててギルドに入って来た。
「ど、どうしたの!そんなに慌てて……」
「どんな事が起こったの!?お兄さん!」
「強盗でも起こったか!?」
慌てている青年を見てエステル達は尋ねた。
「いや、違うんだ!ノーマンさんの支持者とボルトスさんの支持者が言い争いを始めちまって……。ラングランド大橋で睨みあってる状態なんだ!」
「あ、あんですって~!?」
「ノーマンとボルトスといやあ、どっちも市長選の候補じゃねえか。」
「ええっ!市長さんになる人を応援している人達が喧嘩しているの!?」
青年の話を聞いたエステル達は驚いた。
「ほほう。そりゃあ良いネタだな。ドロシー、とっとと行くぞ!」
「アイアイサー!エステルちゃん、また後でね。」
青年の話を聞き、目を光らせたナイアルはドロシーと共に急いでギルドを出た。
「な、なんて素早い……」
「念のため、俺たちも行くか。喧嘩になりそうだったら間に入って仲裁するぞ。」
「う、うん!」
「はーい!」
「すまない。よろしく頼んだよ。」
そしてエステル達はラングランド大橋に向かった。
~ラングランド大橋~
エステル達がラングランド大橋に到着するとそこでは市長候補の支持者達が睨みあって、言い争いをしていた。
「とぼけるんじゃない!ホテルに現れた幽霊ってのがあんたたちの仕業だっていうのはもう分かってるんだよ!」
「ノーマンさんの息子さんもショックで寝込んでるんだぞ!やりすぎだとは思わないのか!?」
市長候補の一人――ノーマンの支持者達がもう一人の市長候補――ボルトスの支持者達を非難した。
「フン、その息子ってのは『レイヴン』の不良じゃねえか!そんなロクデナシの言うことが信用できるかよ!」
「……ちょっと待ちたまえ。私個人を批判するならともかく家族を攻撃するのは卑怯だろう。そのロクデナシってのは撤回してもらおうじゃないか。」
「うーん、確かにそれは言い過ぎかもしれないねぇ。」
ボルトスの支持者の反論を聞いたノーマンは口を出し、ボルトスも頷いた。
「ちょっと主任!そこで納得しないでくれよ!あんたがそんな弱腰だから観光推進派が調子に乗るんだ!」
「な、なんだと~!?」
「調子に乗ってるのはあんたら港湾推進派じゃないか!幽霊騒ぎなんてセコイ手使って嫌がらせなんかしやがって!」
お互いの支持者達が言い争いをしている中、エステル達はどうするか考えた。
「あちゃあ……。ヒートアップしてるわねぇ。これは止めた方がいいのかしら?」
「喧嘩沙汰にはなってねぇからまだ早いかもしれんが……。いざ喧嘩が始まったらすぐに止められるような場所に移動しておきてえな。」
「でも、人が一杯でミント達が入る隙間がないよ?」
様子を見たエステル達は言い争いに介入するかを相談していた。
「そうなのよね………見物人が多くてとても前に進めないんだけど……。まったく、ナイアルたちってばちゃっかり前を確保しちゃってさ。」
ミントの言葉に頷いたエステルはちゃっかり最前列を陣取っているナイアル達を見て、溜息を吐いた。
「もう我慢できねえ!てめえらみてぇな軟弱野郎が腕っぷしで勝てると思うなよ!」
一方ボルトス側の支持者が今にも殴りかかりそうな構えをした。
「じょ、上等だ!やってやろうじゃないか!」
「ノーマンさんの名誉は僕たちノーマン商会員が守る!」
それを見たノーマン側の支持者も今にも喧嘩をしそうな構えをした。
「止めたまえ君たち!暴力はいかん、暴力は!」
「みんな抑えてくれ!ここは冷静に話し合いを……」
ノーマンやボルトスは止めようとしたが両者の支持者達は聞く耳を持たなかった。
(やばっ……!)
(チッ……止められねえか。)
「お願いだから、どいて~!喧嘩を止められないよ~!」
人の多さで進めない事にエステル達は焦ったその時
~~~♪
リュートの弾く音が聞こえてきた。そしてエステル達や橋にいる全員がリュートが聞こえてきた方向を見ると、そこにはボートに乗り、リュートを持った金髪の青年――オリビエがいた。
「フッ……。哀しいことだね。」
オリビエはボートを橋の近くで止めた。
「争いは何も生み出さない……。空しい亀裂を生み出すだけさ。そんな君たちに、歌を贈ろう。心の断絶を乗り越えて、お互いに手を取り合えるようなそんな優しくも切ない歌を……」
そう言ったオリビエはリュートを弾きながら歌い始めた。
「陽の光~ 映す~ 虹の橋~
掛け渡り 君の元へ……
求めれば~ 空に~ 溶け消えて~
寂しいと~ 君が舞う……
届くことのない はかない願いなら~
せめてひとつ 傷を残そう~
はじめての約束 守らない約束
君の吐息 琥珀にして~
永遠の夢 閉じ込めよう……」
そして演奏と歌を終えたオリビエは髪をかきあげた。
「フッ……。みんな感じてくれたようだね。ただ一つの真実……それは愛は永遠だということを。今風に言えばラヴ・イズ・エターナル。」
「「「「「「「「「……………………………………」」」」」」」」」」
その場にいた全員はオリビエを見て、呆れて何も言わなかった。
「コ、コホン……。とりあえず、ボルトスさん。ここはいったんお互い頭を冷やした方が良さそうだな。」
「ええ、そうですね。通行の邪魔になりますし。みんな、いったん港の方に戻ろう。」
「そ、そうっすね……」
「そうだ……。チラシを配らなくちゃ。」
そして両陣営はそそくさと橋を離れた。
(み、みんな逃げた……)
(……気持ちは分かるぜ。)
その様子を見て呆れているエステルの小声にアガットも呆れながら頷いた。
(わあ………オリビエさんって、歌やリュートも上手いんだ!)
(ミ、ミント…………”アレ”はミントの教育に悪いから、絶対手本にしたらダメだからね!?)
(ほえ?うん。………でも、オリビエさん、本当に歌やリュートを弾くのが上手いんだけどなぁ………)
一方目を輝かせてオリビエを見ているミントに気付いたエステルは慌てて注意をして、注意をされたミントは首を傾げながら頷いた。
「フッ、どこの国でも民衆が熱しやすく冷めやすいのは同じだな。いや、真に恐るべきはみんなの平常心を取り戻したこの奇跡のごとき旋律か……。さあ記者諸君!思う存分、写真を撮って取材してくれたまえっ!」
「うわ~、いいんですかぁ。それじゃあ遠慮なくいきますね。ハイ、チーズ♪」
オリビエの言葉を聞いたドロシーは意気揚々とカメラでオリビエを撮りまくっていた。
「うーん、マーベラス。」
そしてオリビエもしっかりポーズを撮って、酔いしれっていた。
「えーと、その……。俺はさっきの話を聞かせてもらおうかね。」
「う、うん、そうね。早いうちに報告しないと忘れちゃいそうな気が……」
「とっととギルドに戻ってジャンに報告するか。」
「はーい!」
オリビエを無理やり無視したナイアルの言葉に頷いたエステル達がオリビエとドロシーを放って、ギルドに戻ろうとした時
「おや……。ちょっと、エステル君。どこに行こうというのかね?ま、待ちたまえ!いや、どうか待ってください!」
「おお、いい表情ですね~!とってもキュートです~♪」
エステル達の行動を見たオリビエは焦りながら呼び止め、ドロシーは呑気に写真を撮っていた。
その後ドロシーとちゃっかりついて来るオリビエを連れて、エステル達はギルドに向かった…………
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第190話