~王都グランセル・封印区画・最下層~
かつてのクーデター事件の最終決戦となった封印区画。そこにクーデター事件解決の功労者として、中尉から大尉に昇格したユリアが先頭に立って、ケビンを案内していた。
「ふ~、それにしてもほんまゴツイとこですねぇ。いい加減、足が疲れましたわ。」
「ふふ、安心するといい。ここが『封印区画』の最下層だ。」
「わお、ホンマですか!?は~、あと半分とか言われたらどないしようかと思いましたよ。」
ユリアの話を聞いたケビンは嬉しそうな表情で答えた。
「フッ、ご謙遜を。神父殿が、聖職者にしてはかなり鍛えてあるのはお見通しだ。そうでないと君の役目はなかなか務まらないだろうからね。」
「あいた、かなわんなぁ。まーええですわ。リベール王家とウチのところは昔から縁が深いみたいですし。そや、大尉さん。例の市長さんのアレですけど……」
「ああ、『封じの宝杖』だね。………盟約に従い、指定された方法で厳重に保管させてもらっている。いつでも手渡せると思うよ。」
「おおきに、助かりますわ。盟約に協力的な国といったら、リベールぐらいで、他の国は色々難癖をつけて来てなかなか渡してくれまへんし。」
「…………そうか。盟約といえばメンフィルはどうしているんだい?」
ケビンの言葉を真剣に受け止めたユリアは尋ねた。
「あ~………………あそこは異世界出身で盟約がない分、こっちが渡すように言っても渡してくれないんですよね…………時には”自分達の世界の技術”だからとか、”自分達は使いこなせる”から俺らはお呼びでないって、言われる時もかなりあると聞いています。実際、向こうの世界の技術はどんな物が全くわかりまへんから、攻めどころがなく、こっちは何も言えないんですよね…………かと言ってゼムリア大陸以上の国力を持つと言われる色々と反則なあの国に喧嘩を売る訳にもいきまへんし。」
「…………………そうか。昔から縁がある身としてはなんとかしてあげたいが、すまないが君達の助けにはなれないだろう。」
「あ~、気にせんといて下さい。俺らの事情で昔から縁のあるリベール王家に迷惑をかける訳にもいきまへんし。実際、あんなすさまじい国と同盟関係にまで持ち込んだ事が奇跡に近い事でしょうし。」
申し訳なさそうにしているユリアにケビンは気にしていない事を言った。
「すさまじい………か。実際言われてみたら、そうだろうな…………国力、軍力もそうだがそれらを親子揃って、卓越とした政治力、指導力で有効に活用する皇家の能力。そして何より首脳陣の彼らは老いがなく、我々より遥かに長命だしな。彼らの登場でゼムリア大陸の国同士の力関係が完全に変わってしまったしな。」
ケビンの言葉を聞いてユリアは遠い目をしながら答えた。
「全くやで………特に”英雄王”や”闇の聖女”は不老不死という情報もありますから、リベールはともかくエレボニアにとっては頭の痛い話やろうな。」
「そうだろうな………だが、我々リベールにとってはありがたい話だ。我々の落ち度がない限り、恐らく向こうも今の関係のままにしてくれると思うしな。他国任せになってしまうのは情けない事だが、リベールにとっての強みの一つがメンフィルとの同盟関係になるしな。」
「ハハ………次代のメンフィルの女帝になると言われるリフィア姫殿下もかなりの評判と噂されているし、今回の事件みたいなこともありまへんやろうしな。」
「…………………」
冗談混じりのケビンの言葉を聞いたユリアは目を伏せた。
「おっと!すみません、そっちの事も考えず、つい…………」
「いや………気にしないでくれ。そういえば、異世界の宗教との関係はどうなのだろう?」
謝罪するケビンに気にしていない事を答えたユリアは尋ねた。
「かさねがさね良好ですわ。特にイーリュン教は神の教えを広めるのが目的ではなく、傷ついた人々を癒すのが目的やから同じ聖職者として向こうさんの気持ちもわかりますし。」
「……確かにイーリュン教の慈悲深さや信念には恐れ入るよ。特にどんな事があろうと決して争わないという教えは、尊敬に値する。………軍人である自分には耳が痛い事だが。」
ケビンに答えたユリアは苦笑しながら言った。
「いや~……それを言ったら”俺ら”もそうやし、大尉はんが気にすることないやろ。」
「フフ……そう言ってもらえるとありがたいよ。アーライナ教はどうなのだい?」
「アーライナ教ですか……」
ユリアに尋ねられたケビンは真剣な表情をした。
「………その様子からすると、何か問題があるのだろうか?」
「まあ………アーライナ教というか、アーライナ教の一部の信者に問題があるから、教会として解決策もありまへんから、頭を悩ましているんですわ。」
「一部の信者に問題?一体それは何なのだ?」
ケビンの話を聞いたユリアは首を傾げた。
「………アーライナ教の教えは”混沌”でっしゃろ?ですから一部の信者達が外法の行いをするアホ達もいるんです。」
「………”闇の聖女”殿はそれを知っているのか?」
ケビンの話を聞いたユリアは驚いて尋ねた。
「ええ。なんとかしてくれとこっちが度々頼んでいるんですけど、聖女さんは『それもまたアーライナの教えですから、何かするつもりはありません。』って、言って何もしてくれないんですわ………」
「驚いたな………あれだけ評判のいい”闇の聖女”殿にそんな冷酷な一面があったとは………」
「…………まあ、向こうの教えで言えば、反していないという話ですし、聖女さん自身は関与してない上、聖女さん自身が行っている福祉活動とか考えると聖女さん自身が悪い訳やありまへん上、皇族でもありますからこっちも強く言えないんですわ。要は信者自身、”混沌”をどう受け取るか……ですわ。」
驚いているユリアにケビンは溜息を吐きながら答えた。
「……難しい問題だな。それで?外法を行いをした者は”そちら”で対処しているのか?」
「ええ。それに関しては聖女さんも特に何も追及してきませんでしたし。一応、聖女さんのお墨付きと言う事で”俺ら”で対処しています。………それより、例のブツ、見せてもらえますか?」
「ああ―――こちらだ。」
そしてケビンとユリアはクーデター事件の最優決戦場であった最深部に向かった。
~封印区画・最深部~
「こいつはまた……」
ケビンは最深部にあるバラバラになったトロイメライを見て驚いた。
「七耀教会もさぞかしこれらの扱いには困るだろう。超弩級(ちょうどきゅう)と言ってもいい古代遺物(アーティファクト)だろうからね。」
「………………………………。……ちょいと調べさせてもろてもええですか?」
「もちろんだ。陛下の許可も下りている。どうか我々に知恵を貸していただきたい。」
ユリアの許可を貰ったケビンはトロイメライを調べ始めた。
「こいつが報告書にあった『環の守護者』っちゅうヤツか。カルバードで出土した巨像に雰囲気は似とるが……。うー、動いているところをこの目で確認したかったわ~。それと……」
次にケビンはリシャールがゴスペルを設置した装置に目を付けて近付いた。
「古代ゼムリア文明末期……1200年前の代物やな……。装置としての機能は不明ながら遺跡全体の中枢であるらしい……」
「アーティファクトの解析は現代の技術では不可能らしいな。同じ導力として稼働しながらもオーブメントとは異なる機械体系……。そうラッセル博士が仰っていたよ。」
「『早すぎた女神の贈り物』―――そう教会では定義しとりますわ。それであっちが……」
ユリアの言葉に頷いたケビンは支柱が収納されてある床に近付いた。
「『ゴスペル』っちゅう漆黒のオーブメントが使われた直後……ここにあった巨大な柱が床の中に格納されたそうですな?」
「ああ、ここを含めた四隅にある柱が格納されたそうだ。しかし、2ヶ月近く経つのに、その意味はいまだ掴めていない。」
「封じられた『輝く環』……。そして使われた漆黒の『福音』……。装置が喋った『第二結界』と『デバイスタワー』の起動……。なるほどなー……。微妙にカラクリが見えてきたわ。」
「カラクリが見えた……。そ、それは一体どういう……!?」
ケビンの言葉に驚いたユリアは尋ねた。
「いや~、何ちゅうか直感みたいなモンですけど。恐らくこの場所は『門』やないかと思います。」
「『門』……?」
「ええ、そうです。女神の至宝に至るための『道』を塞いでいた『門』……。そして、それをこじ開けたのが『福音』と呼ばれた漆黒の鍵……。そう考えれば、ここに肝心の『輝く環』が無いのも肯けますわ。」
「だ、だが、『道』と言ってもここはすでに遺跡の最下層だ。博士の調査でも、他のエリアが存在しない事は判明しているが……」
ケビンの説明にユリアは驚き、焦りながら尋ねた。
「多分、目に見える形での『道』とはちゃいますやろ。地下に流れる七耀脈……。あるいはもっと別の経路……。恐らく、それを越えたどこかに『環』の手がかりがあるはずですわ。」
そしてケビンは真剣な表情でユリアの疑問に答えた…………………
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外伝~環の行方~