あの後、劉備達と別れて、しばらく俺達は凉州に向かっていた。
「ふう、もうすぐ凉州だな」
「はい。色々足止め等がありましたが……
しかし、町に着くまでは油断は禁物です。何時でも何処でも此方の事情を無視して賊は来ますから」
「わかってるよ。けど、どうすっかな」
「何をですか」
「いやな、董卓の人となりを見るためにはある程度董卓に会う機会のある立場にならないといけないのはわかるよな」
「つまり、どうやってそれなりの地位に付くかということですか?」
「そういうこと。俺はそれなりに董卓の近しい奴に実力を見せて、董卓にお目通りできるかなと思ったわけだが」
「かなり厳しいかもしれません。
近しい人間となると、軍師の賈駆、そして武将になると、華雄、『神速』の張遼、そして『飛将軍』呂布といった所でしょうか」
「まあ、そこら辺かな。つってもそいつらの情報がないから出たとこ勝負になりそうだが。
しかし、二つ名があるってことは強いんだろうな」
「同じ武を目指す者として血が騒ぎますか」
「当たり前だ。この頃豪傑と呼ばれる奴らとやってなかったからな。何処まで自分が強くなったか確かめたい。お前もそうじゃないのか?」
張遼と呂布か。正史でも演義でも名高い豪傑だ。
正直かなり厳しくなるかもしれないが、負けるつもりはない。
「私はそれほどでも、一応武を修めていますが、どちらかと言うと文の方が合っているので」
「そうだな。お前はそういう奴だった。
ま、それもお偉いさんと謁見出来ればの話しだけどな」
取らぬ狸の皮算用ってやつだ。
「地道に将が通う店なんかを調べたり、謁見の許可を貰うように言い続けるのが妥当なとこか」
「そうですね。では着いたら情報収集で」
ま、面倒だがやるしかないと思いつつ、馬を進めていると、前方に砂塵らしきものが見えてきた。
「早馬……にしちゃ砂塵がでかいな。
森羅、目の良い奴数人連れて来い。早めにな」
「御意」
そしてすぐに弓隊の3人が此方にきた。
「隊長、どうしたんスか?」
「お前達にあの砂塵の中で何が起こってるのか見て欲しくてな」
「了解」
うちの弓隊の連中は総じて遠射、連射を可能だ。
故に視力の良い奴が自然と弓隊に入っている。
「隊長、見たところお偉いさんが賊から逃げてる所ですね。
護衛が見えないから賊にやられたと思います。
どうしますか?隊長?」
ほう、これはチャンスじゃねーのか。
大体この辺りのお偉いさんなら、董卓の部下なんだろうな。
つまり、助ける→雇われる→董卓との謁見許可をもらう→直接面談キター!
という構造。
「蒼様、大体考えてることは想像がつきます。
言っておくと物事はそう簡単に運びません。
しかし、助けることによって董卓に近付けるのは確実かと」
……なぜだ。なぜこうも地の文を読まれる。
ハッ!まさかこれが巷で有名の……
「そう!私の蒼様に対する愛の力です!」
「違うからな。俺が言いたかったのは読心術な。
いやホント地の文読むの自重してくれ。
んじゃ、真面目な話になるが、森羅、お前は五十率いて偉いさんの護衛。
残りは俺に続いて賊を蹴散らす。わかったな」
「御意。直ぐに終わらしましょう」
とにかく偉いさんの覚えを良くして、董卓に謁見しなきゃな。
―side 月
今、私はある村の視察の帰りに賊に追われている。
「詠ちゃんの言うとおり誰かについて来てもらったらよかったのかな?」
もう護衛の人もいない。
もうすぐ追いつかれて私も死んでしまうのかな。
「くっ、董卓様。前方に騎馬が!」
もう前も塞がれた。詠ちゃん、ごめんね。
「我々は、傭兵集団『紅蓮団』だ。これよりそちらの護衛につく」
騎馬の先頭に立っている人の言葉を理解するのに少し時間がかかったけど、助かるかもしれないと思った。
― side out
「賊は約二百程ぐらいですね。隊長」
「おし、それじゃまず全員3人一組に別れろ。それで突撃して蹴散らす。
今回は蹴散らすだけだ。全滅させたら御の字だと思え。死ぬんじゃねえぞ」
「「「了解!」」」
そう命じ俺達は九組に別れ付かず離れずの距離で賊の中に入って、蹴散らし始めた。
各々持つ得物が違う。俺のように槍を振るう奴ら、剣を振るう奴ら、鎚や弓等、自分の合った得物で蹴散らす。
俺は《赤光》を馬上で振るいながら回りを見回す。
誰も危ない状況には陥ってない。全員己を考え、回りを考えて戦えている。
このまま直ぐに終わらせるか。とっとと董卓の人となりを見なきゃいけないんでな。
その為にも此処で董卓に近いお偉いさんの覚えを良くしなきゃいけない。
というか今守っている対象は誰なんだろうな?
それなりに偉い立場ならいいが……
そして約二時間ぐらいで戦いは終わった。
賊は大半やられ、蜘蛛の子を散らすように逃げ、こちらは当然、死傷者、重傷者はゼロという大勝だった。伊達に厳しい訓練をしちゃいない。
俺は意気揚々で森羅が護っている偉いさんの所に向かうと、ひどく驚いている森羅がいた。
「おーい、森羅。どうしたよそんなに驚いた顔して。珍しい」
「失礼ですね。……まあ、流石にこの状況を考えてなかったので。
とにかく、この方が我々が護っていた人です」
森羅が指し示している方向をみると、いかにも上品な、そして儚げな少女がいた。服装、雰囲気からしてかなりの立場なんだろう。どうやら本命に近いようだな。
「まずは俺から名乗らせてもらう。
俺の名は李高 雲犬。この『紅蓮団』を率いている者だ」
「あの、助けて下さってありがとうございます。
私の名前は董卓と言います」
へえ、董卓ね。そんな名前なのか。奇遇だな今、俺が会いたい奴のランキング5には入る奴と同じ名前だな。
……って、えぇーー!?
驚きながら森羅をみると驚いているのか何度も頷いている。
いきなりド本命ってマジかよ?
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