~レウィニア神権国・王都プレイア・郊外~
「……………………………」
エクリアに背を向けて歩いていたリウイは誰もいない平野に来ると、そこで立ち止まった。
「……………………………」
立ち止まったリウイを見て、エクリアも立ち止まり、リウイが言いだすのを待った。
「…………何から聞きたい。」
エクリアに背を向けたまま、リウイは少しの間考えるように目を閉じた後、やがて目を開き尋ねた。
「………その……遅くなりましたが、プリネ様の誕生、おめでとうございます。」
「……………別にお前に祝われる筋合いはないが、一応受け取っておこう。第一、お前が言いたい本題はそれではないだろう。」
「……………………」
リウイに指摘されたエクリアは黙った後、やがて決意の表情になって、尋ねた。
「その…………イリーナ・マグダエルという女性の事で聞きたいのですが………」
「………………あの者は縁あって、俺達に仕えている。両親は昔、不幸があってあの者が幼い内に逝ってしまったが、血縁の妹や祖父は今でも生きている。……それだけだ。」
「………どこで出会われたのでしょうか?」
「………………………」
エクリアに尋ねられたリウイは黙った後、やがて口を開いた。
「………冥き途の門番達と親しいお前なら、俺達が来た事ぐらいは聞いているだろう。」
「………はい。その……イリーナの魂が突如、消えてしまった事も………」
リウイに尋ねられたエクリアは震えながら答えた。
「………俺達は門番達の言う通り、あいつが消えた場所を探した。その結果があの者だ。」
「………!!じゃあ、やはりあの娘なのですね………!よかった………!」
リウイの言葉を聞き、エクリアはイリーナが生きている事に思わず涙を流した。
「…………………」
その様子をリウイは背を向けたまま、黙って聞いていた。
「……正直ここに寄るべきか、迷った。ここは今のお前の故郷といっておかしくない場所だからな。」
「………………………」
「だがその一方、お前とあの者が出会えば何かが変わると思って、リフィアの言う通り賭けに出たのだが……あの様子では、賭けは失敗したようだな。」
「?……あの。そういえばどうしてあの娘は今、貴方の妻ではなく、プリネ様の侍女をしているのでしょうか……?」
「……何か勘違いをしているようだな。あの者は”イリーナ”ではない。”イリーナ・マグダエル”という者だ。」
「…………!そういう事……ですか……あの娘は生き返った訳ではなく、転生をしたんですね……」
リウイの言葉を聞いたエクリアは複雑そうな表情をした。
「………言っておくが、いくらあいつが転生し、お前の利用価値が無くなったとはいえ、お前を許した訳ではないからな。」
「構いません……私は貴方に殺されて当然の存在なのですから……妹の幸せを……貴方の愛妻を奪っておきながら、私はぬくぬくとこうして生きている……妻を奪われた貴方からすれば、許せない事でしょうし、私自身も自分を許して等おりません。……この思い、一時期はセリカ様のお陰で晴れましたが、リタさん達からイリーナの魂の行方を
聞き、そして”イリーナ・マグダエル”という女性を見て、思いました。……やはり私は許されるべき存在ではないと。……私は貴方と………そしてイリーナに裁かれるべき存在です。」
リウイに言われたエクリアは静かに答えた。
「フン……かつて、俺達の最大の敵であった者が随分弱気になったものだ。お前を慕って俺達に殺されて逝ったお前の部下達が報われないな。」
「………………………」
リウイの皮肉にエクリアは何も返さず、目を閉じて黙って聞いていた。
「………神殺しに伝えておけ。『イリーナの魂を救った礼を変える』と。」
「え………?」
リウイから出た言葉にエクリアは驚いた。
「『レスぺレントにお前達が姿を現す事がない限り、お前の使徒は狙わない』と。」
「!!」
「神殺しを思うなら、二度と俺達に会おう等思わぬ事だ。……もう、お前に話す事はない。………さらばだ。」
そしてリウイは自分の言葉を聞いて驚いているエクリアとすれ違い、宿屋へと戻って行った。
「…………………」
一人残されたエクリアは何も言わず、その場に留まっていた。
「セリカ様の事を考えるなら……私は…………でも…………」
遠回しに『イリーナと2度と会うな』と言われた事を理解したエクリアは自分の中で起きている葛藤に迷っていた。
「……私はセリカ様の使徒………セリカ様の幸せのためだけに生きるのが私の生きる目的……セリカ様を狙う敵が少しでも減るなら、私の……贖罪は……ウッ……ウッ………」
心の中ではイリーナに謝罪したいエクリアだったが、セリカを狙う敵を少しでも減らすべきだと思ったエクリアは、セリカを優先し、自分が本当にしたい事を押し殺す事に顔を俯かせ、声を押し殺して涙を流した。
「…………………」
声を押し殺して泣いていたエクリアだったが、やがて表情を戻して顔を上げた。
「………すっかり、遅くなってしまったわ……お客様も来ている事だし、早く帰らないと……」
そしてエクリアはセリカの屋敷へと戻って行った。
~レウィニア神権国・王都プレイア・郊外~
翌日、宿屋で休んだリウイ達は王都の郊外でリフィア達を待っていた。
「待たせたの、リウイ!」
「エヴリーヌは久しぶりにリウイお兄ちゃんと一緒に寝たかったのに……リフィアは強引すぎ。」
「うふふ……世界を敵に廻した人って、どんな男かと思ったけど、中々の美人な男の人だったわ♪あれなら、ドレスとか着たら凄く似合うんじゃないかしら♪」
リウイ達を見つけて、近付いて来たリフィアは声をかけ、エヴリーヌは溜息を吐きながら文句を言い、レンは噂の”神殺し”に出会った感想を言った。
「……ようやく戻って来たか。」
「お帰りなさいませ、リフィア様。」
リフィアと合流したリウイは溜息を吐き、ペテレーネは会釈をした。
「目を放せばすぐにどこかへ行くこの癖……誰に似たのかしらね?」
「……こっちを見ないでくれるかしら?」
呆れている様子のファーミシルスに見られたカーリアンは気不味そうな表情で言った。
「2人とも、プレイアはどうでした?」
一方プリネはイリーナとツーヤに感想を尋ねた。
「なんていうか……とても綺麗で賑やかな都でした。それと水が凄く綺麗で、神様が住んでいるような神々しい感じもしました。」
「……プレイアには土着神である”水の巫女”がいる王都だからな。あながち、ツーヤの言っている事も嘘ではないだろう。」
ツーヤの感想を聞いたリフィアは感心した様子でツーヤを見た。
「……………………」
「イリーナさん?どうしたんですか?」
プレイアを黙って見続けているイリーナに首を傾げたプリネは尋ねた。
「!!す、すみません……ボーっとしていて聞いていませんでした……」
プリネに言われ、ハッとしたイリーナはプリネに謝った。
「いえ、別にいいのですが、何か気になる事があったんですか?」
「はい。………昨日宿屋まで案内してくれた女性ですが……………なんとなく、その方から懐かしい雰囲気を感じたのです。……どうしても、それが気になってしまって………」
「!!そうなのですか………」
イリーナの答えを聞いたプリネは驚き、視線を一瞬リウイに向けた後、なんでもないふうに装った。
「………………………」
イリーナの言葉を聞き、内心驚いたリウイだったが、顔には出さず黙っていた。
「ねえねえ、早く行かない?エヴリーヌ、早くセテトリの葡萄、一杯食べたいもの。」
「天使と睡魔が仲良くしているなんて街、興味あるわ~♪私も早く、行きたいわ♪」
「………私は人間でありながら竜や力天使(ヴァーチャーズ)、ソロモンの一柱に力を認めさせた”匠王”とやらに興味があるわ。一体どんな人間なのだか……」
エヴリーヌの提案にカーリアンは興味ありげな表情で頷き、ファーミシルスも同意した。
「……そうだな。いつまでもここに長居する訳にはいかん。そろそろ行くか………全ての種族が共存し合う街、『ユイドラ』へ。」
「……申し訳ないのですが、私達もご同行させて頂いてもよろしいかしら?」
リウイが全員に目的地に行くよう促したその時、一人の女性がリウイ達を呼び止めた……………
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外伝~因縁の再会~後篇
リウイとエクリアの一対一の話の時のBGMはVERITAの”真実の記憶”、リウイ達がレウィニアを出る時にかかるBGMは”約束の剣 VERITAver"がかかっていると思って下さい♪