~グランアリーナ・選手控室~
「はは、あのチンピラどもがあそこまで健闘するとはねぇ。人間、変われば変わるもんだ。」
「勝負は見えていたがなかなかいい試合だったぜ。」
試合から戻って来たエステル達にレイヴンの事をよく知っているカルナはレイヴン達の事を見直し、グラッツはエステル達の勝利を祝った。
「ハッハッハッ。ありがとう。まあ、彼らが心を入れ替えたのも全てはボクの人徳のタマモノでね。」
「へー、そうなんだ?」
調子に乗って嘘を語るオリビエの言葉はアネラスは信じた。
「事情を知らない人相手になにデタラメ言ってるのよ……。ていうかアンタ、あの連中と面識はないでしょ!」
「恋に落ちるのは一瞬、加速するのは無限大だからね。」
「意味不明すぎますね……」
嘘を教えるオリビエにエステルは突っ込み、ヨシュアは呆れた。
「それでは我々はこの後、仕事があるので失礼する。……君達との対戦を楽しみにしているよ。」
「じゃあね。」
「へへっ、今度は試合で会おうぜ。」
「またね、新人君達!」
そしてクルツ達は控室を出て行った。
「少し気になったのだが……なぜここに3組のチームしかいないのだ?予選試合後、司会は出場するチームは9組と言っておったからな。プリネ達を除けば4試合する事になるぞ?」
「言われてみればそうよね。なんで3組しかいないのかな?」
「確かに妙だね。」
クルツ達が去った後、ある事に気付いたリフィアの疑問にエステルとヨシュアも頷いた。
「ほら、キリキリ歩かないか!」
「ったく、うるせえな。そんなに急かすんじゃねえよ。」
「ああ……どうしてこんな事になったんだろーな。」
「兄ぃ、気合いを入れなよ!あいつらと当たった時にそんなことでどうすんのさ!」
その時、廊下から声が聞こえて来た。
「ん?」
「なんか、聞き覚えのある声だね。」
「………な~んか、イヤな予感………」
廊下から聞こえてくる声にリフィアやエヴリーヌは首を傾げ、エステルは嫌な予感がした。そして控室に新たなチームが入って来た。
「「あ。」」
入って来たチームはなんと兵士に連れられたカプア一家だった。エステルとジョゼットはお互い顔を合わせると同時に呆けた。
「なんでボクッ娘達がここにいるのよ!?」
「それはこっちのセリフだ!」
そしてお互い言い争い始めた。
「てめえらは……」
「ふーん、初戦の相手はお前さんたちじゃ無かったか。」
ドルンはエステル達を見て弱冠驚き、キールは少し残念そうな表情をした。
「ハッハッハッ!どこかで見た顔だと思ったら、ボースを騒がせた愉快な空賊君達じゃないか。」
「どうしてここに………」
ドルン達の登場にオリビエは楽しそうに笑い、ヨシュアは驚いた。
「誰が愉快な空賊だよ!?フン、まあいいや。あんたたちと当たったら今度こそ、そこのノーテンキ女に思い知らせてやろうと思ったのに」
「あ、あんですって~?」
オリビエの言葉に反論したジョゼットは鼻をならして、エステル達を見て言った。ジョゼットの言葉にエステルは頭に来て、怒った。
「コラ!無駄口を叩くんじゃない!公爵閣下の温情があって参加していることを忘れたか?」
「まあまあ兵士さん。そう目くじらを立てないでくれよ。ここに連れて来られてから俺たちゃ、大人しかっただろう?」
自分達に注意する兵士をキールは笑顔で宥めた。
「願わくば、また牢に戻るまでその態度を通して欲しいものだな。」
「あんたたちも、こいつらとはなるべく口を利かないでほしい。面倒を起こしてもらっては困るのだ。」
「別に面倒を起こすつもりはないけど……」
兵士達に言われ、エステルは溜息を吐いた。
「判ってるとは思うが、競技場には一個中隊の兵が警備についている。」
「逃げられると思うんじゃないぞ。」
「わかってますって。そんな馬鹿なマネはしませんよ。」
「フンだ。目障りだからとっとと行けばぁ?」
兵士達の警告に笑顔で返し、ジョゼットは挑発した。
「このっ……」
「ガキの挑発に乗るなよ。いいな、くれぐれもおかしな事を考えるんじゃないぞ。」
そして兵士達は控室を出た。
「ねえ……一体どうなってるのよ。どうして、あんたたちが武術大会なんかに出てるわけ?」
「デュナン公爵あたりに出場しろと言われたんですか?」
「確かに、俺たちを出場させようとか言いだしたのはその何とかっていう公爵らしいぜ。試合に勝つたびに刑を軽くしてくれるんだってさ。」
エステルとヨシュアの疑問にキールは説明した。
「し、信じられないことするわね。」
「全くだ!あの放蕩者は何を考えているのだ!?」
「エヴリーヌは遊べる玩具が増えるから歓迎だよ、キャハッ♪」
ドルン達の出場にデュナンが関わっている事にエステルやリフィアは呆れ、エヴリーヌは凶悪な笑みを浮かべた。
「ふーむ、法治国家とも思えないような独断っぷりだな。」
「ハッハッハッ。何ともお茶目さんな公爵さんだ。」
「万が一、優勝なんてしたらどうするんだろうね………」
ジンは信じられない思いになっており、オリビエは笑い、ヨシュアは溜息を吐いた。
「まあ、せっかくの申し出だ。刑が決まってムショに移される前にできるだけ稼いでおこうと思ってな。もっとも……それだけが理由じゃねえけどよ。」
「へ……どういうこと?」
ドルンの言葉が気になったエステルは目を丸くして、尋ねた。
「うっさいなあ。あんたたちには関係ないだろ。ボクたちだってそれなりの意地はあるんだよ。」
「僕たちと戦うために参加したんじゃないとすると……特務兵たちと戦うためですか?」
「な、なんで……」
誤魔化そうとしたジョゼットだったが、ヨシュアに言い当てられて、驚いた。
「くっ……その通りだぜ。あいつら、味方のフリして俺たちのことをハメやがったんだ!情報部とやらの勢力を拡大するためのダシとして使い捨てやがったのさ!」
「まあ、だまされた俺たちもマヌケといえばマヌケだけど……。それでも、エゲつなさすぎだぜ。」
本当の目的をヨシュアが言いあてたので隠すのをやめたドルンやキールは本音を語った。
「うーん、確かに……。そう考えてみるとあんたたちも不憫(ふびん)よねえ。」
「だ~から、哀れみの目でボクたちを見るなってばぁ!ボクたちに借りがあるクセにっ!」
「へ?あんたたちに借りって……?」
ジョゼットの言葉にエステルは首を傾げた。
「フフン、この前の出来事さ。お前さんたちが要塞にいたことを連中に知られるとマズイんじゃないのか?」
「あ……」
得意げに話すキールの言葉にエステルは表情を青褪めた。
「連中への恨みがあったからてめえらのことは喋らなかったんだ。がはは、せいぜい感謝しやがれよ。」
「う~……」
「確かに……黙っていてくれたことは感謝します。」
ドルンの言葉を聞き、エステルは唸り、ヨシュアは目を伏せてお礼を言った。
「何だか面白そうな話をしてるねぇ。どういう事情なのかお兄さんにも教えて欲しいなぁ。」
「え~い、何でもないってば!」
「おっと……。お取込み中のようだがそろそろ始まるみたいだぜ。」
事情を聞きだそうとするオリビエにエステルが怒っているところをジンが会場内の空気を感じ取って、その場にいる全員に言った。
「続きまして、第三試合のカードを発表させていただきます。南、蒼の組―――メンフィル帝国出身。冒険家リフィア選手以下2名のチーム!北、紅の組―――メンフィル帝国軍所属。闇剣士カーリアン選手以下1名のチーム!」
「フッフッフ………こんなにも速く、カーリアン婆に日頃の恨みを晴らす時が来るとはな。」
自分達が相手をするのが日頃から痛い目に遭わされているカーリアンだと知ったリフィアは不敵な笑みを浮かべた。
「ま、熱くなりすぎてエヴリーヌの足を引っ張らないでよ。」
「誰に言っておる!そういうお主こそ、戦いに夢中になりすぎて余の足を引っ張るなよ?」
エヴリーヌに忠告されたリフィアは言い返した。
「がんばってね、2人とも!」
「相手は強敵だけど、応援しているよ。」
「うむ!行くぞ、エヴリーヌ!」
「オッケー!」
エステルとヨシュアの応援の言葉を背に受け、リフィア達はアリーナに向かった…………
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第122話