声に導かれて入った部屋はなんと司令官室だった。
~レイストン要塞・司令官室~
「間一髪だったな。」
部屋の中に入ったエステル達を見たのはなんと、以前エステル達の追及を誤魔化したシード少佐だった。
「やっぱり……!」
エステルはシードの顔を見て、自分達を導いた聞き覚えのある声に納得した。
「さあ、念のため鍵を。」
「わかりました」
シードに促されたヨシュアは入って来たドアの鍵をかけた。
「フン、何のつもりじゃ?レイストン要塞の守備隊長。リシャール大佐に、わしの監禁を命じられていたのではないのか?」
シードを見た博士は鼻をならして、シードを睨みながら言った。
「……その節は失礼しました。すでに王国軍は、大佐の率いる情報部によって掌握されています。主だった将官は、懐柔されるか、さもなくば自由を奪われる始末……。モルガン将軍も、ハーケン門に監禁されている状態なのです。」
「えええっ!?あのガンコ爺さんが!?」
「大変なことになっていますね……」
「おいおい、一体どうしてそんな事になっちまったんだ?王国軍ってのはそこまでモロい組織なのかよ。」
「全く………なさけないですわね。それで軍として成り立っている事に呆れますわ。」
シードから王国軍の現状を知らされたエステルやヨシュアは驚き、アガットやフィニリィは王国軍が組織としてあまりにも脆すぎている事に呆れた。
「残念ながら……。帝国との戦いが終わってから軍の規律は少しずつ乱れていった。特に将官クラスの者たちの間で横領・着服・収賄が絶えなかった。そこをリシャール大佐に付け込まれてしまったのだ。」
シードは今の現状を暗い表情で語った。
「なるほどのう……。持ち前の情報力を駆使して弱みを握ったというわけか。」
シードの説明を聞いた博士は納得するように頷いた。
「その通りです。モルガン将軍が監禁された今、リシャール大佐は王国軍の実質的なトップとなりました。」
「と、とんでもないわね……」
「アリシア女王はどうだ?王国軍の指揮権は、最終的に女王に帰属するんじゃねえのか?」
リシャールが軍を牛耳っている事を知ったエステルは驚き、アガットはある事に気付いて尋ねた。
「不可解なことだが……女王陛下は沈黙を保ったままだ。陛下の直属である王室親衛隊も反逆罪の疑いで追われている……」
「は、反逆罪!?あのユリア中尉たちが!?」
「中央工房の襲撃事件を親衛隊の仕業に偽装したらしい。ご丁寧にも証拠写真まで用意したようだ。」
「ドロシーさんの写真か……」
シードの説明を聞いて、親衛隊が嵌められた写真の出所に心当たりがあったヨシュアは思わず呟いた。
「そ、そんなのおかしーですっ!中央工房をめちゃくちゃにしておじいちゃんを掠って……。アガットさんを撃って死にそうな目に遭わせたのに……。それを人のせいにするなんて!」
「ああ……返す言葉もない。上官の命令は絶対だが……黙認した私にも責任がある。だから……せめてもの罪滅ぼしをさせて欲しかった。」
珍しく怒りを表したティータにシードは申し訳なさそうな表情で言った。
「難儀な人だな、あんた。」
アガットは何も出来ないシードに同情した。
「フン、そういう事であれば無礼の数々は水に流してやろう。その石頭を、スパナで叩くくらいで勘弁してやるわい。」
「きょ、恐縮です。」
「お、おじいちゃんってばぁ。」
「冗談じゃ。」
「ねえ……メンフィルは今回の件はどうするの?リベールの同盟国なんでしょう?」
エステルはある事に気付いて、シードに尋ねた。
「申し訳ないがそれはわからない。………ただ、もしメンフィルが今回の件に介入してしまったら、恐らく周辺国からはリベールはメンフィルの支配国と見られてしまうだろう。
………正直、メンフィルには今回の件に介入してほしくないんだ……」
「そっか…………話はわかったけど……。これからどうするつもりなの?ほとぼりが冷めるまであたしたちを匿(かくま)ってくれるの?」
自分にとって恩人であり、友人もいるメンフィルに介入されたくない事が言われている事に複雑な気持ちを抱いたエステルだったが、気を取り直して尋ねた。
「いや、それよりもはるかに安全な方法がある。君たちには、この部屋から要塞を脱出してもらいたい。」
「この部屋って……」
シードの言葉が理解できず、エステルは周囲を見た。
「なるほど……。脱出口があるんですね?」
「ふふ、なかなか鋭いな。」
ヨシュアの言葉に笑みを浮かべたシードは部屋の壁を押した。すると隠し扉が現れた。
「わわっ……」
「さすが軍の司令室。なかなか凝ってるじゃねえか。」
「この緊急退避口を使えば要塞の裏にある水路に出られる。ボートが用意されているからそれを使って脱出できるはずだ。本来なら、部外者に明かしたら禁固10年は確実なのだが……。まあ、軍規は許してくれなくとも女神達は許してくれるだろうよ。」
「少佐さん……」
軍規を破ってまで自分達を助力してくれるシードをティータは心配そうな表情で見た。
「遠慮なく使わせてもらうぜ。最初に俺が降りる。次に、爺さんとティータが来い。エステル、ヨシュア。しんがりはお前らに任せたぞ。後、そこの小さいのは適当についてこい。」
「わかったわ!」
「了解です。」
「ちょっと!精霊王女であるこの私になんて口を聞いているのですか!?こら!待ちなさい!」
アガットはエステル達に指示した後、フィニリィの講義の言葉を無視して隠し扉の先に行った。
「少佐、さらばじゃ。」
「えっと、あの……。ありがとーございました!」
「まったくもう………まあいいですわ。…………ごきげんよう。」
そしてアガットに続き、博士やティータ、フィニリィが続いて行った。
「さてと……。残りはあたしたちだけね。少佐、色々とありがとう。」
「お世話になりました。」
「いや、礼はよしてくれ。実のところ……君たちと最初に会った時にこうなることは予想していた。」
「最初に会った時……?」
「ゲートでお会いした時ですね?」
シードの言葉にエステルは首を傾げたが、ヨシュアは心当たりがあり、確認した。ヨシュアの言葉を肯定するようにシードは頷いた。
「ああ……。名字を聞いたときにね。君たちは、カシウス大佐のお子さんたちなのだろう?」
「カシウス大佐って……。ええっ、父さんってそんなに偉い階級だったの!?」
父の過去の階級を知ったエステルは信じられない表情で驚いた。
「私も、あのリシャール大佐も彼直属の部下だったのだよ。10年前の侵略戦争でメンフィルに頼らず帝国軍を撃退した陰の英雄……。その子供たちならば必ずや、真実を突き止めて博士を助けに来ると思ってね。」
「そ、そうだったんだ……。でも、父さんが帝国軍を撃退した英雄って……」
父が英雄である事が気になったエステルはシードに尋ねようとしたが、その時入口の扉が叩かれた。
「少佐、よろしいですか!どうやら侵入者が地下牢に来ていた模様です!まだ司令部に潜伏している可能性が高そうですが、いかがしますか!?」
「や、やば……」
兵士が戻って来た事を理解したエステルは焦った。
「わかった!すぐ行くからその場で待機!」
シードは部下が来ないよう指示した後、外の兵士には聞こえない声でエステル達に脱出するよう促した。
「さあ、早く行きたまえ。」
「う、うん……!」
「それでは失礼します。」
そしてエステル達は隠し扉の先に行き、その先にあったボートの前で待っているアガット達と合流した後、ボートでレイストン要塞を脱出した………
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第112話