No.459833

IS学園にもう一人男を追加した ~ 42~44話

rzthooさん

・・・

2012-07-26 17:33:26 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2421   閲覧ユーザー数:2335

42話

 

 

 

 

一夏SIDE

 

 

夏休みが終わり、二学期に入った。

そして、二学期初とする、一組と二組の合同実戦訓練が行われている。

 

鈴 「てやぁああああぁ!」

一 「うぐっ・・・」

 

そんな中、俺は二組の鈴と戦闘中。

一組、二組の生徒からの視線を気にする暇もなく、双天牙月を持った甲龍の猛攻が続く。

 

(ヤバイ、最初の時に決めていれば・・・)

 

白式が第二移行(セカンド・シフト)したおかげで、戦闘能力が上がっているものの、燃費の悪さが前より悪くなってしまった。

 

鈴 「もらいっ!」

一 「っ!?」

 

甲龍の衝撃砲が、何発も直撃。

そして、白式が戦闘不能になるとともに、俺の敗北が決まった。

 

鈴 「これで、あたしの二連勝ね。ほれほれ、なんか奢りなさいよ」

 

墜落した俺の下に、鈴がISを解除してニヤケ顔で近づいてきた。

 

一 「ぐう・・・」

 

"燃費と安定性を第一とした甲龍相手では、やはり勝てないのだろうか"と、思いつつ、獅苑達の方を見る。

 

鈴 「・・・あ、あれ? 獅苑って、ラウラだけと戦闘してたよね?」

一 「お、おう・・・」

 

俺達が戦闘する前は、確かにラウラだけと戦闘していたはずだ。

だけど、今じゃ・・・

 

シ 「うぐっ・・・」

箒 「シャルロット下がれっ! セシリア、援護頼む!」

セ 「分かっていますわっ! ラウラさんも!」

ラ 「了解した!」

獅 「・・・」

 

4人に増えてる。

周りのギャラリー達も唖然とし、山田先生が口をパカッと開いて見ている。

 

鈴 「専用機持ち相手に、4対1でほぼ互角・・・いや、それ以上ね」

一 「本当、メチャクチャだな、獅苑は・・・」

鈴 「でもまぁ、それでこそ、獅苑よね」

 

確かに・・・

 

鈴 「あたしも参戦してこようかな。ダメージもそんなに受けてないし」

一 「うっ・・・」

 

嫌味っぽく言われて、少しムッとするものの言い返せない自分が悔しい。

 

鈴 「じゃあ、行ってきまーす」

 

ISを展開し、箒達について、5対1の状態に。

でもまぁ、結果は獅苑の一人勝ちだったけど・・・

 

 

獅苑SIDE

 

 

実戦訓練終了後、織斑先生から"生徒会全員に学園長からの呼び出しがある"と、言われ、本音と共に廊下を歩いている。

 

獅 「・・・学園長がいる所ってどこ?」

 

まぁ、学園長室なのだろうが、俺はまったくIS学園の構図を知らない。

やはり、下駄箱と教室、そしてトイレ場所以外も覚えた方がよかったか・・・

 

本 「ん~とね~・・・あっ、あそこだよ~」

 

すると、本音はパタパタと走り出し、教室のドアとは違う、立派な両開きドアを指差す。

 

本 「という訳で・・・ドーンッ!」

 

本音は両腕を突き出し、ドアを思いっきり開く。

 

虚 「本音っ! その開け方は止めなさいって言ったでしょ!」

本 「ご、ごめんなさい~・・・」

? 「まぁまぁ、虚君、そこまで怒らないでも・・・私は本音君のために、扉を外内側に開くようにしたんだよ」

本 「わぁ~い!」

虚 「はぁ・・・」

楯 「あれ? 獅苑君は?」

獅 「あ、俺はここにいます」

 

本音の行動と、学園長室での会話に聞き耳を立ててしまったせいか、廊下でずっと立っていてしまった。

 

獅 (・・・以外と普通だな)

 

学園長室の中は、企業の社長室の様な感じ。

 

? 「初めまして、君が朝霧獅苑君だね?」

獅 [コクッ]

轡 「私は轡木(くつわぎ) 十蔵(じゅうぞう)。学園の実務関係を取り仕切ってます」

 

優しい笑みを浮かべ、俺を見定めようとしてるのか、目を一切離さない。

 

楯 「まぁ、いつもは用務員として、学園の清掃してるんだけどね」

獅 「はあ・・・」

楯 「・・・なんか、軽いわね。もっと驚かないの?」

本 「駄目ですよ~、会長~。ギリーはこういう性格なんですから~」

楯 「・・・そういえば、そうだったわね」

 

別にいいだろ。興味のない事で驚かなくても、めんどいし・・・

 

轡 「やはり、楯無君の言うとおり、面白い子だね。優君が一目を置くわけだ」

虚 「ゴホンッ・・・学園長、そろそろ本題に」

轡 「あ、そうだね。では・・・」

 

急に空気が冷え切り、轡木さんは机に両肘を突く。

 

轡 「今回、4人を呼んだ訳を説明する。実はアメリカの第2世代型『アラクネ』、第3世代型イギリスのBT兵器搭載IS2号機『サイレント・ゼフィロス』が、何者かに強奪された」

全 「・・・」

 

全員は微動だにしない。たぶん、どういう内容なのかはすでに予想してたのだろう。

本音だって、真面目な面持ちで聞いてるし・・・

 

轡 「本国の生徒達には、国の政府から現状維持との命令が出されている。我々学園側もこれに従い、現状維持する事になった」

楯 「では、私達は状況に合わせて動けばいいのですか?」

轡 「そうだね、その時の指示は楯無君に任せるよ」

楯 「はい」

轡 「後、私からちょっと提案があるんだがね」

 

肘を机から離した轡木さんが、イスの背もたれに寄りかかる。

 

轡 「生徒会だけじゃ、手が足りないと思ってね。新たな委員会を作ろうと思うんだ」

虚 「・・・もしかして、獅苑君を?」

轡 「その通り。朝霧君には、『風紀委員会』に入ってもらいたい」

獅 「風紀委員会、ですか・・・」

楯 「じゃ、じゃあ、生徒会副会長は・・・?」

轡 「それも、やってもらいたいね。ですよね、虚君」

虚 「はい。会長はすぐに仕事を放棄しますから」

楯 「うっ・・・すみません」

 

ガックシと、申し訳なさそうにうな垂れる楯無さん。

 

轡 「引き受けてくれるかな?」

獅 「・・・別に俺は構いませんけど、風紀委員会って一体どうすれば?」

轡 「今まで道理で構わないよ。生徒会副会長として、働いてもいいし、そろそろ学園祭が近づいてきてるからね。その辺の警備とかしてほしいな」

本 「え、え~と、それは忙しすぎるような、なんて~・・・」

轡 「ん~、でも、朝霧君以上の人材はいないんだよ。現生徒会長の楯無君に勝利し、初代ブリュンヒルデと張り合えた朝霧君しか・・・」

楯 「だってさ~」

 

楯無さんがニヤケ顔で、俺の腕を肘で突く。

 

轡 「あと、ちゃんと顧問も決めているんだ」

獅 「顧問ですか・・・」

轡 「そう、その顧問は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【職員室】

 

千 「よろしく頼むぞ」

獅 「・・・はい」

 

風紀委員会の顧問は織斑先生だった。

どうやら、織斑先生は『予想外事態の対処における実質的な指揮』を一任されており、俺の役職『風紀委員会』と、若干似ている。風紀を正すという意味で。

 

千 「どうした? 私が顧問で不服か?」

獅 「いえ、心強いです」

千 「お前に言われると、気分が良くなるな・・・一応、顧問として一言だけ言っておく」

獅 「何でしょうか?」

千 「織斑達の事は無視しろ。あいつらは注意しても、直らんだろうからな。それに、お前はあいつらを応援している仲なのだろう?」

獅 「ま、まぁ・・・」

千 「そういう事だ・・・私から言える事は以上だ、教室に戻っていいぞ」

 

"失礼しました"と、一礼して職員室を退室。

 

簪 「あっ・・・」

 

ちょうど、出るタイミングで簪と遭遇。

 

獅 「どうしてここに?」

簪 「散歩、です・・・」

 

まぁ、今は昼休みだから、廊下に生徒がいても不思議じゃないか・・・

 

簪 「朝霧さんは、職員室で何を?」

獅 「ちょっと、織斑先生とな・・・そういえば『打鉄弐式』の調子はどうなんだ?」

簪 「は、はい、良好です。学園祭までには完成すると思います」

獅 「そいつは良かった・・・お姉さんとは、どうだ?」

簪 「え・・・」

 

簪は顔を俯く。

 

獅 「・・・悪い、今の質問は忘れてくれ」

 

簪の頭を手でポンポンと優しく撫で、簪の横を通り過ぎる。

 

簪 「・・・分からないんです」

獅 「ん?」

 

俺と簪が背中合わせになった時、簪の口から声が漏れる。

 

獅 「分からない?」

簪 「今はもう姉さんの事は嫌悪してないんです。でも、なんて言うか、今は同じ土俵に立っちゃいけない気がして・・・」

獅 「・・・だったら、俺が同じ土俵に立たせてやる」

簪 「え・・・?」

 

こちらを向く簪の頭の上には?マークが浮かんでいるのが、背中越しでも容易に想像ができる。

 

獅 「これでも、生徒会副会長だしな。融通は利く方だ」

簪 「で、でも[コツンッ]・・痛っ」

獅 「・・・俺も楽しみなんだ。だから、俺から楽しみを奪うなよ」

簪 「あ・・・」

 

デコピンをした、指を頭に持っていき、手を広げ撫でる。

 

獅 「またな・・・」

簪 「・・・」

 

最後に軽く頭に手を押し付けて、その場を立ち去る。

 

簪 「・・・ありが、とう」

 

 

 

【学食】

 

獅 「ん?」

 

今日は午前午後に分けられて実習が各クラス行われていて、昼休みが長めに取られている。

という訳で、俺は余った時間を有効活用しようと学食に来たんだが・・・

 

一 「お、獅苑!」

 

お馴染のメンバー6人が仲良く昼食中。

 

鈴 「良いところに来たわね、獅苑」

獅 「?」

シ 「実はね、一夏と白式は誰とタッグになったら、一番効率的かな?って話してたんだ」

箒 「だから、私の紅椿と組んだ方が、白式の燃費の悪さが解決するんだ。私が一夏と組んだ方が良い」

 

まぁ、『絢爛舞踏』と『零落白夜』は対となる能力だし、互いに補え合えるからな・・・

 

セ 「ですが、わたくしのブルー・ティアーズなら、白式の苦手距離をカバーできますわよ」

 

確かに、白式が荷電粒子砲の使用が可能になったとはいえ、一夏の射撃能力は低いからな・・・

 

鈴 「何言ってるのよ。甲龍は近接と中距離もこなすから、白式と相性がいいのよ。それに、一夏と私は幼馴染だし」

 

幼馴染は置いとくとして、鈴の言ってる事にも一理ある。

 

箒 「ええい! 幼馴染なら私の方が先だ! それに、なんだ、白式と紅椿は絵になるからな・・・お、お似合いなのだ」

 

うーん、分からなくもないけど・・・

 

ラ 「それ以前に、一夏は私の嫁だ。故に私と組む」

 

義妹(ラウラ)よ。それはちょっと、俺も納得できないぞ・・・

 

獅 「・・・で、一夏は誰と組むんだ?」

一 「うーん、俺は・・・」

 

今まで口論していた会話はピタッと止み、次の一夏の言葉を待ちながら、5人は唾をゴクリと飲む。

 

一 「・・・やっぱ、シャルかな」

シ 「ぼ、僕っ!?」

 

先までの口論中、自分のISには白式をカバーする箇所が見つけられなかったのが原因で、口論に参加できなかったシャルロットに、まさかの指名が。

 

シ 「え、えっと・・・どうして、僕なのかな?」

 

手元をモジモジさせて理由を尋ねるシャルロット。

その目には、期待と輝きが溢れ出している。

だが・・・

 

一 「前に組んだから」

全 「・・・」

シ 「あ、そう・・・」

 

シャルロットの目から輝きが消え失せた。

まさに、天国から地獄。体だけが生きてる状態で、シャルロットは目を虚ろにしながら食事を開始。

それなのに、馬鹿(いちか)は、のん気に首を傾げてやがる。

 

シ 「どうせ・・・どうせ、そんな事だろうとは思ってたよ・・・はぁ」

 

アカン、これは重症だわ・・・

 

獅 「今度、マドレーヌ作ってやるから、機嫌直せ。なっ?」

ラ 「私も後で、カフェオレ奢ってやる。だから、気をしっかり持て」

シ 「あ、ありがとう・・・」

 

とりあえず、シャルロットの魂は帰ってきてくれたようだ。

 

鈴 「あんたって、ひどいわね・・・」

箒 「女心を何だと思ってるんだ、まったく・・・」

セ 「一夏さんの唐変木(とうへんぼく)ぶりには、時折許せないものがありますわね」

 

三人が一夏を罵倒。

 

シ 「みんな・・・ありがとう」

 

その事がシャルロットにとっては、自分のために言ってくれたのかもと思ったのだろう、シャルロットの顔には笑顔が戻る。

 

鈴 「べ、別に、アンタの為に言ったんじゃないわよ」

シ 「えへ。鈴ってそう言いながらも、結構優しいよね」

鈴 「ふ、ふんっ!」

 

腕を組んで、頬を赤らめている鈴がそっぽを向く。

 

一(獅 「・・・なぁ、これはどういう「俺に聞かずに、自分で確かめろ」・・・はい」

 

これぐらい、きつく言っても罰は当たらないだろう。

そういえば、最初の話から大分逸れたな。

 

獅 「タッグね・・・あっ!」

全 「っ!?」

ラ 「ど、どうしました、姉上?」

獅 「あ、いや、何でもない・・・」

 

さすがに、声が大きかったのか、学食内にいる全生徒が俺に視線を向けていた。

 

獅 「ちょっと用を思い出したから、またアリーナで!」

 

とりあえずは、俺が閃いた事を楯無さんに報告しないと・・・

 

セ 「どうしたんでしょう?」

鈴 「さぁあ~・・・」

 

 

投稿者SIDE

 

 

【生徒会室】

 

楯 「そういえば、虚ちゃんは卒業したらどうするの? 善吉おじ様と一緒に本館で働くの?」

 

楯無は机にうな垂れながら、学園祭関係の書類を整理している虚に尋ねる。

 

虚 「いえ、IS学園の教員になろうと思います。と言っても、お嬢様が在校生の間ですけど・・・」

楯 「さすが、三年主席・・・あと、お嬢様はやめて」

本 「へぇ~、お姉ちゃん教員やるんだ~。だったら~、来年は担任がいいな~」

楯 「さすがに虚ちゃんでも、一年でクラスが持てるわけないでしょ」

本 「え~・・・」

 

いつもと変わらない生徒会メンバーの会話。

そこに・・・

 

[ドガッ!]

全 「えっ!?」

 

物凄い勢いで開かれた生徒会室の扉。

 

獅 「面白い事、思いつきましたっ!」

 

獅苑がまたと見ない満面な笑みで生徒会室に入室。

その笑みには、無垢な子供を連想させ、可愛らしさが滲み出ている。

 

楯 「ど、どうしたの?」

 

楯無が今の獅苑の対応の仕方が分からず、たじろいでいる。

 

虚 「本音、これは・・・?」

本 「う~ん・・・ギリーの顔から考えると、何か面白い事を閃いたんだと思うよ~。でも、あそこまではしゃいでるのは見たことないけど~・・・」

 

2人が余所でコソコソ話している中、獅苑が楯無が座っている机の前で身を乗り出す。

 

獅 「学園祭のプログラムに入れてもらいたいものがあるんです! 耳貸してください」

楯 「何々?」

 

楯無も身を乗り出して、獅苑の口に耳を近づける。

 

獅 「ゴニョゴニョ・・・」

楯 「・・・へ~、面白そうじゃない」

獅 「ですよねっ!」

 

満足げに笑う獅苑。

 

本 「なになに~?」

虚 「私達にも教えてください」

 

獅苑の提案が気になり、2人に説明を求めてきた。

 

楯 「じゃあ2人とも、耳貸して・・・ゴニョゴニョ」

本 「・・・わぁあ~、面白そうだね~。一大イベントだよ~」

虚 「なら、さっそく準備に取り掛かりましょう」

 

獅苑の提案は満場一致し、行動を開始する生徒会メンバー。

 

楯 「でも、どうやって決めようかな?」

獅 「その辺は、個人で組んでもらっていいでしょう。でも、一夏と簪はタッグに決めさせてもらいます」

楯 「え? でも、簪ちゃんは・・・」

獅 「一夏の事を嫌ってるんでしょう。本音から聞いてます」

 

簪は日本の代表候補生で、その専用IS『打鉄弐式』は、日本の『倉持技研』で製作される予定であった。だが、織斑千冬の弟である一夏が、ISを操縦できることが発覚し、打鉄弐式の開発は中止され、一夏の専用IS『白式』の製作に人員を持ってかれてしまった。

そのせいで、簪は会った事もない一夏に嫌悪を抱いて、今までの行事には参加せず、姉の対抗心として自らがISの製作していた。

まぁ、それも獅苑のおかげで、姉の楯無に対して柔らかくなったり、打鉄弐式は本音を交えての開発により、8割がたは完成している。

 

獅 「だからこそ、2人を組ませたいと思います。お節介だとは思いますけど・・・」

楯 「ううん、ありがと。そこまで、簪ちゃんの事を考えてくれて・・・私もできる限りの事はするわ」

獅 「お願いします」

楯 「じゃあ、この企画『専用機限定タッグマッチ』は、今度の全校集会で皆に説明するわ。その時に,

もう一つのビックイベントと風紀委員会の説明もするから、3人とも良いわね?」

獅 「はい」

本 「は~い」

虚 「分かりました」

獅 「じゃあ、失礼します。本音、アリーナに行くぞ」

本 「りょうか~い」

 

トコトコと俺の後をついて、生徒会室を2人で退出。

 

本 「ねぇねぇ~」

獅 「何だ?」

本 「獅苑くんがあんな提案したのには、まだ理由があるんでしょ~?」

獅 「・・・良く分かったな」

本 「あったりまえだよ~。私は獅苑くんの彼女なんだから~」

 

獅苑の腕に自らの腕を絡める本音。

 

本 「で~、あとは何なの~?」

獅 「一つ目はさっきも言った一夏と簪の関係を良好にさせる事。これは一夏に懸けるしかないけど・・・二つ目は簪と楯無さんを同じ土俵に立たせる事」

本 「同じ土俵~?」

獅 「簪はまだ楯無さんとの交流を拒んでるけど、それはおそらく、まだ自分に自信が持ててないからだ。だったら、俺が無理矢理同じ土俵に立たせてやろうと思ってな。俺が箒と仲直りしたみたいに、決闘で・・・」

本 「ふ~ん、ありがとね。会長も言ってたけど、かんちゃんの事をそこまで考えてくれて・・・」

獅 「・・・でもまぁ、俺が楽しみたいって気持ちもあるけど」

本 「えへへ~、顔がニヤついてるよ~」

獅 「ふふっ・・・そうか、ニヤついてるか」

 

獅苑は本音に指摘されても、顔のニヤケを直す事無く、笑みをこぼし続けた。

 

(楽しくなるといいな・・・学園祭)

 

 

 

 

 

 

43話

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

 

朝。今日は以外と目覚めが良い為、未だにグッスリと寝ている獅苑を置いて、一人で校舎に向かう。

 

一 「・・・ん?」

 

校舎が近づいてくると同時に、一人の女生徒が校舎を見上げている姿が見えてきた。

彼女も俺と同じで早めに学校に来たのかと、少し興味本位で見ていると・・・

 

一 「!?」

楯 「だ~れだ?」

 

一瞬にして女生徒の姿は消え、次の瞬間には視界が暗闇と化す。

どうやら、さっきの女生徒に目元を、後ろから手で覆われているようだ。

 

一 「あ、あなたは・・・?」

楯 「あら、私が質問してるのに・・・まぁいいわ」

 

そう言いながら、手元から柔らかい手の感触が離れ、視界が戻る。

そして、俺は女生徒の顔を確認するために、後ろを向こうとするが・・・

 

[ムニッ]

楯 「引っかかった♪」

 

頬を扇子で押され、女生徒は面白そうに喜ぶ。

 

一 「・・・」

 

え、えーと・・・どうして、こんな状況になってるんだ、俺・・・?

 

楯 「それじゃあね、織斑一夏君・・・」

一 「な、なんで、俺の名前を・・・?」

楯 「有名人でしょ、あなた。名前ぐらい知ってて当然よ」

 

た、確かにそうか・・・

 

楯 「またね♪」

一 「あっ・・・あれ?」

 

呼び止めようとした女生徒の姿はすでにない。

 

(そういえば、あの人、一度見たことあるな・・・)

 

俺が女生徒の行方を捜すため、周りを見渡す。

すると、寮の方から、獅苑を負ぶってるのほほんさんが近づいてきた。

 

本 「あ! オリムーおはよう~」

一 「おはよう・・・っていうか、大丈夫か?」

 

獅苑とのほほんさんとの身長差があるため、獅苑の爪先が地面を引きずっている。

 

本 「大丈夫だよ~、ギリー最近、体重が減ったとかで、軽くて運びやすいよ~」

 

いや、運びやすいって・・・

 

一 「というか、獅苑って元から軽いよな」

本 「そうなんだよね~、ほんっとうに羨ましいよ~。私より軽いのかな~?」

 

それだと、のほほんさんが太りすぎなんじゃ・・・?

 

本 「なんか、言った~?」

一 「な、なにもっ!」

本 「そうか~、なら、良かった~・・・」

 

あれ? 今、工具みたいな物体をしまいましたよね?

 

(あんまり、触れないほうがいいな・・・色々と)

一 「・・・それより、何か急いでるようだったけど?」

本 「あ、そうだ~! じゃ、じゃあまた教室でね~、オリムー!」

 

のほほんさんは獅苑を背負ったまま、校舎に入る。

 

(確か今日は全校集会だったよな・・・何か関係してるのかな?)

一 「・・・今、悩んでもしょうがないか」

 

そう言って、下駄箱で上履きに履き替え、教室にて自習。

でも結局、意味が分からず撃沈したんだけど・・・

 

【ホール】

 

脳がショートして気づけば、もう全校集会のお時間。

内容は今月中にある学園祭が主で、朝のSHRと1時限目の半分の時間を費やしている。

 

[ザワザワ・・・]

(・・・これだけ女子が集まると、騒がしいな)

 

騒がしいというか、それを通り越して姦(かしま)しい。

 

(つうか、獅苑の奴はどこにいるんだ? のほほんさんは普通に列に並んでるし・・・)

 

確か、クラス代表決定戦の時に"生徒会に入った"って言ってたから、舞台の裏手にでもいるのだろうか。

すると、獅苑ではない、三年生の女子生徒が舞台の上手から出てきた。

 

虚 「それでは、生徒会長から学園祭の説明がございます」

 

"生徒会長"という単語に、今までコソコソ喋っていた女子達がピタッと静まる。

 

楯 「やあ、みんなおはよう」

一 (あ、あの人・・・)

 

壇上で挨拶する女生徒は、今日の朝に見た女生徒だった。

俺は思わず声が出そうになった口を抑え、もう一度"生徒会長"の方を見る。

 

楯 「ふふっ・・・」

 

一瞬、"生徒会長"と目が会い、笑みを浮かべられた。

その笑みにドキッとしたものの、俺は"生徒会長"の言葉に耳を傾ける。

 

楯 「さてさて、今年は色々立て込んでいて、ちゃんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君達の生徒の長よ。以後、よろしく」

 

ニコリと微笑む"生徒会長"の魅了に、あちこちの列から熱っぽく、頬を赤らめている女生徒が多数。

 

楯 「では、今月の一大イベント学園祭だけど、今回の学園祭に特別ルールを二つ導入するわ。一つは、『専用機限定タッグマッチ』。今年の1年生は、専用機持ちがかなり多いからね・・・後、タッグを組むのは個人で誘ってね。じゃあ、もう一つは・・・」

一 「?」

 

なぜか"生徒会長"が、こちらを見て笑い、『専用機限定タッグマッチ』の空中投影ディスプレイを扇子で横にスライドさせて、新たなディスプレイを出現させる。

 

(なんか、嫌な予感が・・・)

楯 「名づけて、『各部対抗織斑一夏争奪戦』!」

一 「え・・・」

全 「えええええええええっ!!」

 

"生徒会長"がパンッと扇子を開くと、大きなディスプレイにデカデカと俺の写真が映し出された。

さらには、俺の近くにいた女生徒からの視線が突き刺さり、全員が騒ぎ始める。

 

楯 「静かにっ」

 

"生徒会長"の言葉に従いピタッとホールが静かになり、扇子を閉じた音が不思議と大きくホールに響く。

 

楯 「学園祭では、毎年各部活動ごとに催し物を出し、投票によって上位組の部活動には、特別助成金が出る仕組みでした。しかし、それではつまらないと思いましたので・・・」

 

すると、扇子を俺に向けて・・・

 

楯 「投票によって、1位になった部活動に、織斑一夏を強制的に入部させましょう!」

全 「うおおおおおっ!」

 

女子達の雄叫びが上がる。その様子を"生徒会長"はニタニタと見ている。

 

一 (・・・俺の了承は?)

楯 「あはっ♪」

 

いや、"あはっ♪"じゃなくて・・・

 

楯 「あと、もう一つだけ。今日から新しい委員会を発足しました。その説明は、風紀委員長の朝霧獅苑君にしてもらいます」

 

やっぱり、獅苑は壇上の裏にいたんだ。でもさ、そこにいたのなら、あの"生徒会長"止めてほしかったな・・・

つか、獅苑が風紀委員長って、合うような合わないような・・・

 

楯 「・・・あれ?」

 

だが、いくら待っても獅苑は壇上に出てこない。その事に、この場にいる全員が首を傾げる。

 

虚 「ちょっと、見てきます」

楯 「お願い・・・少々、お待ちよ」

 

どうしたんだろう、獅苑の奴・・・?

 

一 「・・・まさか、寝てる?」

本 「そうじゃない~」

 

のほほんさんと意見が合った。

すると、予想どうりに、目が虚ろの獅苑がさっきの生徒会役員に押されて、壇上に立たされる。

 

楯 「ほら、説明しないと・・・」

獅 「・・・あまり、羽目を外し過ぎないように」

 

すごい短い説明。つか、説明というか、注意だよね・・・

 

獅 「あと、顧問が織斑先生なんですけど」

全 「えっ!」

 

へぇ~、千冬姉が・・・っていうか、みんな目を輝かせすぎ。

 

獅 「指導がすべて織斑先生になるとは限らないので、過度な期待はしないでください」

 

"え~"と、皆のテンションが下がっていった。

 

獅 「・・・以上です」

一 「終わりかいっ!?」

 

やばっ、声に出して突っ込んじまった。

みんなの視線が・・恥ずかしい・・・

 

楯 「良いツッコミありがとね。まぁ、あまり騒ぎすぎてると、この子の拳骨が飛ぶから気をつけてね」

1年 「私、お姉さまに拳骨されたいです!」

1年 「私もっ!」

楯 「じゃあ、その人は後で頼みに言ってね」

虚 「では、これで全校集会を終わります」

 

こんなんで終わりでいいのか・・・?

 

【教室】

 

朝のショッキングな出来事から時間は過ぎ、今は放課後の特別HR。

その時間を使って、クラスの出し物を決めているのだが・・・

 

一 「却下」

全 「ええええええっ!?」

 

一応、クラス代表という立場にいる俺は、前に立って皆の意見を纏める係りなのだが、上がった内容が

『織斑一夏のホストクラブ』『織斑一夏と王様ゲーム』などの、全部俺だけが頑張らなければいけない物が揃ってしまっていた。

 

相 「え~、いいじゃんいいじゃん!」

一 「アホか! 誰が嬉しいんだ、こんなもん!?」

女1 「私は嬉しいわね、断言する!」

谷 「そうだそうだ! 女子を喜ばせる義務を全うせよ!」

女2 「織斑一夏は共有財産である!」

一 「ふざけるな! しかもなんで、俺だけなんだよ!? 獅苑だって、俺と同じ立場じゃんか!」

女3 「お姉さまは、私達の女神よ! そんな事はさせられないわっ!」

女4 「それに、織斑君の方が受けがいいしね! あ、別にお姉さまの受けが悪いとかじゃないですよ!」

 

くそ~、獅苑の奴、良いポジションに着きやがって・・・

 

一 「とにかく、もっと普通なのをだな!」

ラ 「メイド喫茶はどうだ?」

獅 [ビクッ!]

 

そう言ってきたのは、まさかのラウラだった。

その衝撃に、俺だけでなく、クラスにいる全員が固まる。

 

ラ 「メイド喫茶なら、客受けはいいだろう。それに、飲食店の経費を回収が行えし、招待券制で外部から来た人達の休憩所としての需要も少なからずあるはずだ」

 

淡々といつもと変わらない口調で説明するラウラ。

 

シ 「いいんじゃないかな? 一夏が執事か、厨房を担当してもらえば、OKだし・・・もちろん、獅苑君はメイドさんだけど」

獅 「・・・」

 

最後尾に座っている獅苑の筋肉が硬直してるのが、前で立っている俺でも確認ができた。

そんな中、シャルの言葉に賛同したのか、女子達のテンションが上がってきていた。

 

女5 「織斑君が執事・・・良い!」

夜 「それに、お姉さまのメイド姿も見てみたい!」

本 「わぁあ~、私も見た~い!」

鷹 「でも、執事服とメイド服なんて、どこで手に入れるの?」

? 「それなら、私がご用意します」

 

"え?"と、みんなが声がした窓の方を向く。

するとそこから、メイド服を着た女性が窓から這いずりあがってきた。

 

(あれ? ここ、3階じゃなかったか?)

 

しかも、排水溝などの手や足をかけられる所はないはず。

 

セ 「チェ、チェルシー!? な、なんでここに?」

 

しかも、セシリアの知り合いと来たか・・・

 

真 「え、えと、ど、どうしましょ・・・?」

 

やはり、山田先生だけでは、この場を解決できないか。

それなのに、千冬姉は『時間がかかりそうだから、私は職員室に戻る。出し物が決まったら職員室に来い』と言って、山田先生に押し付けて教室を出て行ってしまった。

そんな事を回想してる内に、確か・・チェルシーさんだっけ? とまぁ、チェルシーさんが窓から教室に入り、スカートを掴み、上品にお辞儀して自己紹介をしていた。

 

チ 「申し送れました。私はセシリアお嬢様のメイド、チェルシー・ブランケットと申します・・・それと、ちゃんと学園長には許可を取っていますので、もし疑うようであれば、確認しても構いません」

真 「は、はい・・・」

 

山田先生が端末を手に、学園長に連絡。

 

(・・・チェルシーさんって、落ち着いてそうな女性だな。とても、窓から進入するようには見えないんだが)

セ 「そ、それより、チェルシー。ど、どうしていらっしゃるのかしら? 本国に帰ったのでは・・・?」

チ 「いえ、直感的に私の出番かと思いまして・・・それで、どうですか、織斑一夏様?」

一 「え、なんで、俺の名前を・・・」

チ 「お嬢様から、色々と聞いていますから」

一 「あ、そうなんですか・・・」

セ 「ちょ、ちょっと、チェルシー!」

 

セシリアが顔を赤くして席を立ち、高速でチェルシーさんの口元を押さえる。

 

セ 「そ、そんな事より、服を貸しに来たのでしょう!?」

チ 「ああ、そうでした。それで、何着が必要なんですか?」

一 「・・・え、もう決まりなの?」

 

 

 

 

 

【職員室】

 

一 「・・・という訳で、一組は喫茶店に決まりました」

 

詳しく言うなら『ご奉仕喫茶』だけど・・・

 

千 「また無難なものを選んだな・・・で、詳しくはどういうものなんだ? 発案者は?」

一 「えーと、コスプレ喫茶みたいなものです。発案者はラウラです」

千 「・・・今、"ラウラ"と言ったか?」

一 「そ、そうですけど・・・」

千 「・・・」

 

聞き間違えじゃない事を知った千冬姉は、まばたきを二回ぐらいして呆ける。

すると、次の瞬間に盛大に噴き出した。

 

千 「ぷはははっ! ボーデヴィッヒがコスプレ喫茶を! それは意外だ・・・」

一 「やっぱり、意外ですか?」

千 「それはそうだ。あいつの過去を知ってる分、おかしくて仕方がないぞ・・・くっ、ははっ!」

 

それから、しばらく笑っていた千冬姉は、目尻の涙を拭く。

 

先生達 「・・・」

千 「あ・・・」

 

職員室に先生達は、千冬姉の反応を珍しそうに見ていた。それに気づいた千冬姉は、咳払いをして語調を整える。

 

千 「ん、んんっ・・・さて、報告は以上か?」

一 「はい。以上です」

千 「では、この申請書に必要な機材と食材を書いて、一週間以内に提出しろよ・・・い・い・な!」

一 「は、はいっ!」

 

申請書を書くのがめんどくさいと思っていたら、千冬姉からの凄みの効いた確認され、背筋をピンッと伸ばして答えた。

相変わらず、こういうところはとても怖い。

 

(でも、昔に比べたら変わったよな、千冬姉・・・)

 

中学時代の千冬姉は、それはそれは怖かった。まるで"触れたら切れるナイフ"みたいに、身内の俺でさえ、ビクビクしていたほどだ。

だけど、束さんとつるみ始めた高校時代には、すっかり丸くなり、今では、束さんの肩を並べられる人は世界を探しても、千冬姉だけだろう。

 

千 「織斑、学園祭には各国の軍事関係者や、IS関連企業などの多くの人が来場する。一般人の参加は基本的に不可だが、生徒一人につき一枚の招待券が配られる。渡す相手を考えておけよ」

一 「あ、はい」

 

俺は一礼して、職員室を出る。

 

一 「ふぅ・・・」

 

ドアを閉めて、俺は目を閉じてため息を吐く。

そして、目を開くと・・・

 

楯 「やぁ・・・」

一 「・・・何か?」

楯 「ん? 何を警戒しているのかな?」

 

あなたがそれを言いますか・・・

とりあえず、俺はアリーナの方に歩き出す。

 

楯 「・・・」

 

すると、更識先輩もまた、ごく自然な流れで、俺と並んで歩き出す。

 

一 「はぁ・・・」

 

この人から、逃げ切れないと思った俺は、諦めてあえて何も言わず、普通に廊下を歩く。

どうやらこの人は、完全に『流れ』というものを、掴んでいるようで、相手の有無を聞かずに勝手に行動を起こすくせに、強引さを感じさせない。

 

楯 「まぁまぁ、そう塞ぎ込まずに。若い内から自閉しているといい事無いわよ」

一 「誰のせいですか、誰の」

楯 「んー、それなら交換条件を出しましょう」

一 「交換条件?」

楯 「これから当面、私が君のISコーチをしてあげる。それでどう?」

一 「いや、コーチはいっぱいいるんで」

 

少なくても5人くらい・・・

 

楯 「そんな事言わずに。なんせ、私は生徒会長なんだから」

一 「それが?」

楯 「あれ、知らないのかな? IS学園の生徒会長というと・・・」

? 「覚悟ぉぉっ!」

一 「は?」

 

更識先輩が説明しようとする瞬間、前方から竹刀を片手に襲ってきた女子。

だが、驚いている俺とは対照的に、更識先輩はあろうことか扇子で竹刀を受け流し、体制を崩した女子に手刀を叩き込む。

 

[ガシャンッ!]

一 「こ、今度は何だ?」

 

手刀を叩き込まれた女子が崩れ落ちるのと同時に窓ガラスが破裂、そこから次々と矢が先輩の顔面を狙って放たれてきた。

俺は咄嗟に、伏せてガラスの破片と、矢の被害は受けなかったが、更識先輩は落ち着いて竹刀を足で拾い上げる。

 

楯 「ちょっと、借りるよ」

 

そう言うと、割れた矢が飛んできた方向に投擲。

 

一 「・・・止まった?」

 

矢の雨が止み、俺は窓から顔を出すと、隣の校舎の廊下に倒れている袴姿の弓を持った女子を発見した。

 

(まさか、この距離で竹刀を当てたのか・・・?)

楯 「ふぅ・・・怪我は無い?」

一 「な、無いです・・・」

 

一仕事を終えたかのように、体を脱力させる更識先輩。

だが、俺が"この人は一体、何者なのだろう"と思っていると、すぐ近くのロッカーからボクシンググローブをはめた三人目の刺客が現れる。

 

刺客 「もらったぁぁぁ!」

楯 「ふむん、元気だね・・・ところで、織斑一夏君」

 

口元を扇子で隠しながら、女子の右ストレートを避ける。

 

楯 「さっきの話だけど、生徒会長という肩書きは、ある一つの事実を証明してるんだよね」

刺客 「こ、このっ!」

楯 「生徒会長、即ち全ての生徒の長たる存在は・・・」

刺客 「え・・・」

 

説明中の間でも、刺客のパンチを全て紙一重で避け続けていた。

そして、刺客が本気で繰り出した右ストレートを、これもまた円の動きで避け、刺客が踏み込んだ左足を蹴って、宙に浮かせる。

 

楯 「最強であれ」

 

そのまま、扇子を宙に上げ、刺客が出てきたロッカールームに回転を入れた腕で叩き込まれ、残った回転の勢いで足でロッカーを閉めた。

 

楯 「・・・とね」

 

宙に放った扇子を掴み、口元で扇子を広げる。

そして、扇子を持ってない手で、回転で上がってしまったスカートの裾を押さえ、こちらをニタニタと見る。

 

楯 「見えた?」

一 「みっ、見てませんよっ!」

楯 「それは何より」

 

"ふふっ"と笑みを込めて、扇子を閉じる。

 

一 「・・・で、この状況は一体なんですか?」

楯 「うん? 見ての通りだよ。か弱い私は常に危険に晒されているから、騎士(ナイト)の一人もほしいところなの」

一 「・・・さっき、最強と言ってませんでしたか?」

楯 「あら、バレた?」

 

また楽しそうに尚且つ、上品に笑う。

 

一 「というか、獅苑に頼めばいいじゃないですか。副会長なんでしょ?」

楯 「それは、駄目よ・・・恥ずかしいじゃない」

 

途端に歯切れが悪くなった更識先輩。

 

一 「え? 何て言いました?」

楯 「な、何でもないわよ!」

 

言葉の後半部分が聞こえ辛かったのだが、それを指摘すると、先輩はそそくさと歩いてしまう。

この場で、さり気に去ってもいいのだが、なぜ、付いて行ってしまうのだろうか?

 

楯 「とにかく、最強である生徒会長はいつでも襲っていいの。そして、挑戦者が勝ったなら、その者が生徒会長になれるって訳」

一 「はぁ・・・」

楯 「それにしても、私が就任して以来、襲撃なんてなかったのになぁ・・・やっぱり、これは君のせいかな?」

一 「なんでです?」

楯 「ん? ほら、全校集会で言った事よ。運動部とか、格闘系は一位を取るのは難しいからね。だから、実力行使に出たんでしょう。私を生徒会長から失脚させて、景品キャンセル、ついでに君も手に入れる」

 

・・・なんか、怖くなってきた。この後の学園生活。

 

一 「・・・それで、先輩はどこに向かってるんですか?」

 

さっきまで、アリーナを目指してたはずが、刺客撃退の後、パーティの先頭が俺から先輩に変わっていた。

 

楯 「とりあえず、生徒会室に君を招待するわ。お茶くらいは出すけど・・・来る?」

 

否定の選択は・・・なさそうだな。

 

一 「行きます・・・」

楯 「うむ、よろしい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

投稿者SIDE

 

 

【生徒会室】

 

虚 「・・・いつまで、ぼんやりしてるの?」

本 「夜、遅・・眠・・・ギリー・・後始末・・行った・・・」

 

よほど眠いのか、単語だけの会話になる本音。

だが、それでも姉の虚には、何が言いたいのかは分かったようだ。

 

虚 「はぁ・・・ほら、しゃんとしなさい」

本 「は~い・・・」

 

返事はしたものの、本音はつまらなさそうに机に突っ伏しているのを止めなかった。

すると、そこへ・・・

 

楯 「ただいま」

虚 「あ、会長、おかえりなさい」

本 「さ~い・・・」

 

楯無と一夏が入室。

 

本 「わー・・・オリムーだ~・・・」

 

一夏の登場に、若干テンションが上がるものの、眠気には勝てないのか、上げた両腕は再度、机に落ちる。

 

一 「あれ? なんで、のほほんさんが・・・?」

楯 「更識家と布仏家は主従関係にあるのよ。ほら、そこにかけなさいな。虚ちゃん、紅茶お願い」

虚 「分かりました」

 

虚がお茶の準備を開始し、一夏は本音の隣、楯無は生徒会長だけの特等席に座る。

 

本 「う~・・・」

一 「えーと、のほほんさん。眠いの?」

本 「うん・・・深夜・・壁紙・・収拾・・・連日・・・」

一 「う、うん?」

 

単語だけの文章に、一夏は何かが分からず、首を傾げる。

 

虚 「それにしても、あだ名で呼び合うなんて、仲いいのね。はい、どうぞ」

一 「あ、どうも・・・」

 

紅茶を入れたカップを、自分の分を入れて、皆に配る虚。

 

虚 「本音、冷蔵庫からケーキ出してきて」

本 「もしかして、ギリーが作ったケーキ!?」

虚 「そうだけど・・・いいですよね、会長」

楯 「朝霧君はいらないって、言ってたから大丈夫じゃない。あと、いつもみたいに下の名前でいいわよ」

虚 「では、楯無さんも獅苑君の事も下の名前で呼びませんと」

楯 「え、いや、それは、その・・・」

一 「・・・獅苑と更識先輩って、仲いいのか?」

 

一夏が本音に耳打ち。

すると、本音は一夏の発言に、何か面白い事を思いついたようで、眠そうにしてた目が半分ぐらい開かれる。

机に突っ伏した状態のままだけど・・・

そして、楯無に聞こえるぐらいの音量で、一夏に説明する。

 

本(楯 「仲いいってレベルじゃないよ~。何せ、会長の意中のあい「わぁあああぁ! それ以上はなしっ! それに、本音ちゃんは獅苑君の恋人でしょ!」・・そうだよ~。でも、狙ってるもんね~」

楯 「・・・///」

一 「・・・」

 

このやり取りを見た一夏は、自分を手玉にした楯無が、こんなにもあっさり、しかも本音に弄ばれている事に、唖然とする。

 

虚 「もうすっかり、打ち解けてるみたいね」

 

三人が話している間に、本音に頼んだはずのケーキ取りを虚が行って、カップと同様に皆に配っていく。

 

本 「あ、ごめんね~、お姉ちゃん」

一 「・・・お姉ちゃん?」

虚 「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私は布仏虚。本音の姉よ」

一 「え、えと、織斑一夏です」

虚 「ふふっ、ご丁寧にどうも」

 

虚の真剣な自己紹介に、一夏も席から立って自己紹介。

 

楯 「そこまで、固くならなくてもいいのに・・・あれ? 獅苑君来ないの・・・」

虚 「何言ってるんですか。今、あなたが気絶させた生徒の回収と、壊した窓ガラスの修繕に行ってますよ」

一 「あの、更識先輩が襲われた時の・・・?」

楯 「あ、あはは、情報早いね・・・」

 

楯無は苦笑い。虚はため息をつきながら、席に着き、本音は獅苑の手作りショートケーキに夢中。

 

楯 「とまぁ、本題に入るけど・・・」

一 「は、はい」

 

急に楯無が"生徒会長"の顔になって、一夏は飲もうとしてた紅茶を下ろす。

 

楯 「最初から説明した方がいいわね。まず、私が全校集会に言った、一夏君争奪戦の件だけど。あれには、事情があってね」

一 「事情・・・?」

楯 「君が部活動に入らないことで、色々と苦情が来るのよ。だから、生徒会は君をどこかに入部させないと、いけなくなっちゃったの」

一 「それで、学園祭の投票決戦、ですか・・・」

 

ちなみに、一夏が部活動に入らない理由は、ISの特訓のせいで余裕がない事と、女子だけの部活動に入るのは精神的に持たないらしい。

 

楯 「でね、交換条件として、学園祭の間まで、私が特別に鍛えてあげましょう。ISも生身をね」

一 「悪いですけど、遠慮します」

楯 「そう言わずに・・・あ、お茶飲んでも大丈夫よ」

一 「・・・いただきます」

 

改めて、カップを持った一夏は、紅茶を少し飲む。

 

一 「・・・大体、どうして俺を指導したがるんですか?」

楯 「簡単よ。それは単純に、君が弱いから」

 

即答された楯無の答えに、一夏はムッとなる。

 

一 「それなりには、弱くないつもりですが」

楯 「ううん、弱いよ。無茶苦茶弱い。だから、少しマシになるよう、私が鍛えてあげようという話」

 

ここまで言われちゃ、一夏も黙ってはいない。

一夏は席を立ち上がり、楯無に向かって指を指す。

 

一 「じゃあ、勝負しましょう。俺が負けたら従います」

楯 「うん、いいよ」

 

 

 

【場所を移して、畳道場】

 

楯 「さて、勝負の方法だけど・・・」

 

袴姿の楯無が、扇子を広げて、こちらも同じ服装の一夏に説明する。

ちなみに、この場には楯無と一夏の2人しかいない。

 

楯 「私が床に倒されたら、君の勝ち。逆に君が、続行不能になったら私の勝ちね」

一 「え、ちょっと、それはさすがに・・・」

 

"俺の方が有利じゃ"と、言おうとした一夏だが、その言葉は楯無に遮られる。

 

楯 「どうせ、私が勝つから大丈夫」

一 「・・・」

 

この発言が、軽い挑発だとしても、一夏の心に火を点ける。

昔、一夏は剣道だけでなく、素手での古武術を、箒と習っていた道場『篠ノ之道場』で、教えてもらっていた。

 

一 (習った事は、体に染み付いてるんだ。錆びる事はあっても、朽ちる事はないはずだ・・・)

一 「行きますよ」

楯 「いつでも・・・」

 

一夏は小手試しとして、笑みを崩さない楯無さんに、基本的な足移動で腕を取る。

 

一 「えっ!?」

 

だが、掴んだ瞬間に一夏の体は宙を舞い、気づけば背中から畳みに叩きつけられていた。

 

一 「ごほっごほっ・・・」

 

叩きつけられた衝撃で、肺の空気が一気に吐き出され、一夏はむせる。

すると、楯無は呼吸を整えようとしている一夏の首筋、頚動脈を指でなぞる。

つまりは、"その気になれば殺せる"という意味。

 

楯 「まずは、一回」

一 「く、くそっ」

 

一夏は何とか立ち上がり、フラフラなりながらも、対策を考える。

 

(この人、かなり強い・・・千冬姉を相手するくらいの気持ちでかからないと、絶対に勝てない)

 

そう悟った一夏だが、その考えのせいで、無闇に手を出す事ができず、状況は膠着(こうちゃく)状態に陥(おちい)る。

 

楯 「・・・ん? 来ないの? それじゃあ、私から・・・行くよ」

 

ドンッと、畳を蹴った楯無は、一夏の目の前に急接近される。

 

(小説に書いてあったので、一応説明)

今の楯無のすり足移動は『無拍子(むびょうし)』と呼ばれる、古武術の奥義の一つ。

人間の大体は、自身のリズムで生きており、心臓の鼓動しかり、呼吸のタイミングもしかりで、様々なリズムがあり、

例えば、相手と『息が合う』というのは、リズムが互いに合っているの"肯定"で、『肌が合わない』というのは、逆に"否定"の意味を表している。

で、そのリズムを意図的にずらす事で、相手の攻め手を崩す『打ち拍子』と言い、

その対となる、あえてリズムを合わす事で、場を自在に支配できる『当て拍子』が存在する。

そして『無拍子』は、『打ち拍子』『当て拍子』の最上段に位置し、リズムを一切感じさせる事無く、またリズムを感じる事無く、リズムの空白を使う技術の事を『無拍子』と言う。

 

一 「しまっ――――――」

 

一夏の言葉が最後まで出る事無く、楯無がポン、ポンと、肘や肩に軽い掌底打(しょうていう)ちが打たれる。そして一夏の、主に間接の筋肉が強張った一瞬を狙って、楯無が双掌打(そうしょうだ)を両肺へと叩き込まれた。

 

一 「がっ・・・」

 

呼吸困難に陥った一夏が、倒れそうな体を足で踏ん張る。

 

楯 「足元ご注意♪」

 

だが、楯無の払いによって、踏ん張っていた足を払われ、畳に倒れる。

しかも、倒す前に指で一夏の間接を突き、一夏は軽いマヒ状態でとても動ける感じではない。

 

楯 「これで、二回目だけど・・・まだやる?」

一 「ま、まだまだ、やれますよ・・・」

 

まだしゃんとしない体に鞭を打った一夏は、深い息を吐くと同時に、跳ね起きる。

 

楯 「うん♪ かんばる男の子って、素敵よ」

一 「そ、それはどうも・・・」

 

一夏は震える足を何とか抑え、深呼吸を二度行い、意識を冷たく集中させる。

 

楯 「ムッ、本気だね」

一 「・・・」

 

無言の肯定。

すると、楯無も無言で応え、鋭い緊張感が張り詰める。

 

一 (初撃で倒す覚悟で・・・行くぞ)

楯 「!」

 

篠ノ之流古武術裏奥義『零拍子』・・・相手の一拍子目より前に、仕掛ける技。

楯無は、今までと違う一夏の速さに、一瞬驚き半歩下がる。

 

一 (もらった!)

 

勝利を確信した一夏は、半歩下がった楯無の足が着地する前に、腕を取って力任せに投げ飛ば・・・された?

 

一 「がはっ!」

 

投げ飛ばす力を逆に利用され、一夏は前のめりに倒される。

 

一 「まだっ!」

 

意識がもうろうとする中、一夏は気合を振り絞って、楯無の足首を掴む。

 

楯 「あら」

一 「今度こそもらった!」

 

これもまた、掴んだ足首を力任せに真上に上げ、空中で仰向けになった楯無を、立ち上がった一夏が両脇で捉える。

 

楯 「甘ーい」

一 「なぁっ!?」

 

だが、楯無は右手を畳みに突いて、それを軸に回転し、一夏の拘束を振り切る。

そのまま、左手も畳みに突いて、一夏にカポエラキックを炸裂させる。

 

楯 「攻め方は良かったんだけどなぁ・・・」

 

ピョンッと、逆立ちした状態から、しっかりと地に足をつけた状態に戻る。

 

一 「くっ・・・でやぁあああっ!!」

 

吹っ飛ばされた一夏は、強引に腕と脚で着地し、男の意地に懸けて、殴りかかる勢いで楯無目掛けて飛び出す。

そして、型もなにもないただの特攻で、楯無に掴みかかった。

だが・・・

 

一 「あ・・・」

楯 「きゃん♪」

 

掴みかかった箇所が、袴の襟(えり)だったため、胴着がズルッと開かれる。

もちろん、そこから高級そうなレースのブラジャーに包まれた、楯無のバストが露(あらわ)になる。

 

楯 「一夏君のえっち」

一 「なぁっ!?」

 

楯無は露になった胸を隠す事も、悲鳴を上げるも無く、一夏の腕をすばやく払い落とし、一夏の額に掌底打ちを決める。

 

楯 「おねーさんの下着姿は高いわよ」

 

畳みに倒れこんだ一夏は、未だに隠されてないバストに目が行って、動揺を隠せず、隙だらけ。

一夏は後ずさるだけで、楯無がジリジリと近寄る。

 

一 「え、えと、なぜ隠さないんですか?」←片言

楯 「別に隠すものじゃないもの。でも、ただ見られたんじゃ、釣り合わないでしょ・・・だから[ガシャン!]・・・え?」

 

突然、道場の扉が開かれる。

 

獅 「あ、ここにいましたか・・・ん?」

楯 「し、しし、し、獅苑君っ!?・・・あっ!」

 

押すのは強いが、不意打ちの押しに弱い楯無は、自分の今の格好を見る。

 

楯 「あ、あっち、向いて!」

獅 「あ、すみません・・・」

 

楯無は獅苑に背を向け、乱れた袴を整える。

 

一 「さっき、"隠すものじゃない"って、言ってたような・・・」

楯 「っ!」

一 「ぐほっ!」

 

尻餅をついていた状態で、一夏の腹に楯無の蹴りが入る。

 

一 [・・・ガクッ]

獅 「ん? 一夏?」

 

一夏の悲鳴に気づき、一夏の傍に駆け寄る獅苑。

 

獅 「・・・楯無さん、今のはやりすぎ」

楯 「そ、そうだったわね・・・」

 

未だに、不意打ちに見られた下着の事が、楯無の心臓の鼓動を早めている。

 

楯 (というより、私があんな格好だったんだから、心配ぐらいしてくれてもいいのに・・・)

獅 「楯無さんが、一夏にやられる訳ないでしょう」

楯 「・・・こ、心読まないで頂戴」

 

すると、獅苑は一夏を担ぎ立ち上がる。

 

獅 「・・・似合ってましたよ、下着」

楯 「っ~~~///!」

 

悪戯っぽく言った獅苑の言葉に、楯無は赤くなった顔を隠しながら、道場を飛び出した。

 

獅 (可愛い反応だ・・・とりあえず、運ぶか)

 

その後、一夏は獅苑の介護の下、無事に目が覚めました。

 

 

【その頃、下着を獅苑に見られた楯無は・・・】

【生徒会室】

 

楯 「はぁ・・・」

本 「もう~、会長、気にしすぎ~」

楯 「はぁ・・・」

本 「あらら~、完全に心ここにあらずの状態・・・」

虚 「ほっときましょ。お嬢様にとっては、良い薬だから」

本 「そだね~」

楯 「はぁ・・・」

楯 (見られるんだったら、もっと良いのつけてくればよかった・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

44話

 

 

 

 

 

 

一夏SIDE

 

 

楯 「という訳で、これから私が一夏君の専属コーチをする事になりました」

セ・シ 「はい?」

 

勝負から翌日。

第三アリーナにて、更識先輩が訓練中だった2人の前で宣言した。

 

シ 「え、どういう事・・・?」

セ 「一夏さん! 説明、ありますわよね」

一 「これは、その・・・勝負の結果なんだ・・・」

楯 「負けたら言いなりっていう、ね」

 

クスッと、笑みを込めて言う先輩。

そして、場はどんどん修羅場になっていく。

 

シ・セ 「一夏 (さん)っ!」

 

案の定、2人が勝負だと言い出してきやがった。

 

ラ 「私も参戦するぞっ!」

 

まさかのラウラも参戦。

しかも、ラウラは実力行使で、俺を勝負させようとしてきた。

 

獅 「アホ・・・」

楯 [ドキッ!]

 

だが、獅苑が俺を掴みあげようとした、ラウラのIS腕の動きを片手で止め、ラウラの額にデコピンをかます。

どうやら、獅苑はラウラに連れられて、この場に来たようだ。

 

ラ 「あ、姉上も何か言って下さい!」

シ 「そうだよ!」

セ 「これでは、納得ができませんわ!」

 

獅苑の登場に、三人が助け舟を求める。

 

獅 「・・・」

 

獅苑は、困ったように顔をしかめ、一瞬、俺の方を見る。

 

獅 「・・・楯無さん、一夏を頼みます」

楯 「えっ!? あ、うん・・・」

ラ 「姉上っ!」

 

まさかの裏切りにあった三人の内、ラウラが、いの一番に叫ぶ。

 

セ 「獅苑さんは、この人に味方しますのね・・・」

シ 「しかも、"さん"付け?」

獅 「・・・その辺は、あとで説明するから、今は堪えてくれ」

 

そう言った獅苑は、ラウラをなだめる様に、頭を撫でる。

すると、ラウラは落ち着いた猫の様に、落ち着き始め、残りの2人も諦めたのか、引き下がる。

三人とも俺を睨んでるけど・・・

 

楯 「じゃ、じゃあ、始めましょうか・・・」

一 「は、はい」

 

どうも、獅苑が来てから歯切れが悪い更識先輩。

すると、先輩は両手を握り締めて、ゴニョゴニョと喋り始めた。

 

楯 「今日は、良い下着つけてきたから、大丈夫なはず・・・」

一 「何て、言いました?」

楯 「な、何でもないわ・・・とりあえず、最初は経験者の真似から、始めるわよ」

 

 

投稿者SIDE

 

 

楯 「じゃあ、シャルロットちゃんにセシリアちゃん、『シューター・フロー』で、円状制御飛翔(サークル・ロンド)をやってみせてよ」

シ 「それって、射撃型の戦闘動作(バトル・スタンス)ですよね」

セ 「"やれ"と言われれば、やりますが・・・一夏さんの役に立ちますの?」

獅 「立つだろう。白式が第二形態(セカンド・シフト)して、射撃武器が追加された。合ってますか?」

楯 「獅苑君が言った通りよ。でも、一夏君の射撃能力の低さは皆知ってるでしょ。つまり、射撃戦は一夏君には向かない。だから、あえて・・・」

ラ 「近距離で叩き込む」

 

楯無の言おうとした言葉を、ラウラが先に出す。

 

楯 「そう、鋭いね、ラウラちゃん」

 

そう言って、扇子をパンッと開き、扇子には"見事"と、達筆で書かれてあった。

 

ラ 「・・・ラウラちゃん」

 

ラウラは呼ばれ慣れていない"ちゃん"付けに、思考がノロくなる。

 

獅 「・・・」

 

獅苑はそんなラウラを少し見つめながらも、シャルロットとセシリアが試合を開始する前に、ラウラを引きずって、客席へ。

 

シ 『じゃあ、始めます』

 

獅苑がラウラの復活を待っている間にも、シャルロットが試合開始の合図を出す。

そして、二機のISが相手に砲口を向けたまま、接近する事無く、右方向に円の形で旋回し始める。

 

シ 『行くよ、セシリア』

セ 『いつでも、よろしくてよ』

 

徐々に加速し始めた2人は、射撃を開始。

加速を利用して、相手の射撃を避け、決してお互いに減速を行わない。

 

一 「これは・・・」

楯 「あれはね、射撃と高度なマニュアル機体制御を同時に行ってるんだよ。しかも、回避と命中に意識を割(さ)きながら、だからね。ISを完全に自分のものにしないと、なかなかああはいかない」

一 「・・・」

楯 「君にはね、経験値も必要だけど、高度なマニュアル制御も必要なんだよ・・・じゃあ、お手本を見せてもらおうかな、獅苑君」

獅 「ん?」

 

ラウラの頬で遊んでいた獅苑に、楯無が近寄り何かを耳打ちする。

 

楯 「・・・頼める?」

獅 「分かりました」

 

OKの返事を出した獅苑は、ピットに向かう。

 

楯 「2人とも、もうオート制御に切り替えてもいいよ。その代わりに、今から獅苑君と試合してもらうわ」

一 「え、でも・・・」

 

専用機持ち5人相手に、勝ってしまう獅苑と、2人で戦わせるのに、いささか疑問に思う一夏。

 

楯 「大丈夫よ。ちゃんと、ハンデもつけてるし・・・あ、獅苑君を本気にさせたら、一人1時間だけ、2人っきりにさせてもいいわよ。"ムフフッ"な、時間を・・・」

シ・セ 『っ!!!』

 

"一夏君と"とは、言わなくても、直感でそう悟った2人は、赤面しつつも気合を入れる。

 

ラ 「わ、私も参加させろ!」

 

楯無の発言に我に返ったのか、ラウラが楯無に詰め寄る。

もちろん、答えは〇で、ラウラは一目散に、獅苑とは逆のピットに向かった。

 

 

獅苑SIDE

 

 

コ 『勝てそう?』

獅 「さぁ?」

 

楯無さんの出した"条件"

1.インパクトカノンだけで、敵機を落とせ。

2.白式並みに機動性を落として、戦闘しろ。

3.制限時間は3分。

 

コ 『それに、敵も2人から3人に増えてるし・・・』

獅 「・・・何とかなるだろ。あと、弱気になってるコウは、コウらしくないぞ」

コ 『あはは、そうかもね。じゃあ、楽しもうか♪』

 

コウの調子が戻ったところで、死戔を展開。

 

コ 『スピードの制限はこっちでやっとくよ』

獅 「分かった・・・行くか」

 

いつもの圧力が感じられないスピードで、フィールドに出る。

すると、目の前には、3匹の女豹がこちらを睨みつけている。

 

シ 「今回こそ、勝つんだから」

セ 「ハンデがあろうとも、本気で倒させていただきますわ!」

ラ 「姉上には、悪いですけど、全力で潰させていただきます!」

 

気合十分の3人に、俺は満足げに笑う。

 

楯 『じゃあ、始めて頂戴』

 

楯無さんの合図により、試合開始。

 

セ 「先手必勝ですわ!」

 

シャルロットとラウラは左右に展開し、セシリアがレーザーライフルを発砲。

左手のハンド・ジェネレーターが使えない為、無駄に動く事無く、レーザーを避ける。

 

シ 「行くよぉ!」

 

すると、上空に回ったシャルロットが、急降下しながらサブマシンガンを乱射。

威力の低いサブマシンガンでも、一発でも死戔にとっては、無視できないダメージ。

 

セ 「ブルー・ティアーズ!」

 

さらに、4機のピットが俺の左右前後上下に弾丸が飛んでくる。

もちろん、この攻撃は黒翼で防げる。

 

(俺も学習してるんだ。あの時のようにはいかない)

 

夏休み、箒との決闘で受けた攻撃。

黒翼で防がせて、俺の本来の視界を奪い、俺がレーダーに反応する前に、攻撃を仕掛ける戦術。

つまり、ラウラは・・・

 

獅 「・・・見つけた」

ラ 「っ!」

 

真下を向くと、攻撃とタイミングを合わせて、突っ込んでくるラウラ。

おそらく、AICで動きを封じて、そこからタコ殴りにするはずだったんだろう。

 

ラ 「ちっ・・・」

 

俺と視線が合ったラウラは、策がバレたと悟り、機体にブレーキをかける。

 

獅 「まずは、一機目」

 

ブレーキで動きが止まったシュヴァルツェア・レーゲンに向かって加速。

 

セ 「わたくし達が、許すと思ってっ!」

シ 「ラウラ、後退して!」

 

急降下している俺に、援護射撃をしてくる2人。

だが、黒翼をバックに展開して、防ぎ続ける。

 

ラ 「くっ!」

 

もう目前のラウラが、後退しながらレールカノンを構え発砲。

 

獅 「花天月地!」

 

右手から放出されたエネルギーの雨によって、レールカノンを爆破させ、その勢いでラウラごと、地面に叩きつける。

 

獅 「鉄槌、2連射!」

 

ドンッ・・・ドンッと、放たれたカノンにより、シュヴァルツェア・レーゲンは強制解除。

 

獅 「次は・・・」

セ 「っ!」

 

獲物をセシリアに定め、黒翼を開いて飛び立つ。

 

セ 「・・・ふふっ」

獅 「?」

シ 「後ろががら空きだよ!」

 

セシリアが不敵な笑みを浮かべるのと同時に、後ろを取ったシャルロットが、盾殺(シールド・ピアーズ)しを出して、突っ込んできた。

 

セ 「避けたら、ブルー・ティアーズの的ですわよ!」

シ 「これで、僕達の勝ち!」

 

勝利を確信したシャルロットが、盾殺しを射出。

だが・・・

 

[ガシッ!]

シ 「えっ!?」

 

盾殺しが死戔に直撃する前に、左手で横から掴む。

 

獅 「避けられなければ、受け止めればいい・・・鉄槌!」

シ 「ぐっ・・・」

 

鉄槌の威力で、吹っ飛びそうになるシャルロットを、掴んで止める。

 

獅 「もう一発!」

セ 「させませんわっ!」

 

セシリアがレーザーライフルで止めを阻止しようとする。

俺は咄嗟に、シャルロットから離れようとするものの・・・

 

シ 「逃がさないよ」

 

俺が掴んでいた左手を、さらに掴みかえしてきたシャルロット。

そうしている間にも、レーザーライフルから、青白いレーザーが放たれる。

 

獅 「・・・」

シ・セ 「え?」

 

俺は無常にも、シャルロットを盾に使用しました。

 

セ 「あ、あなたねぇ・・・」

獅 「どうした、来ないのか? "金髪"」

[ブチッ!]

セ 「そう呼ばれるのも、久しぶりですわね・・・覚悟しなさい!」

シ 「セシリア、落ち着いて! 獅苑君の思うつぼだよ!」

 

だが、シャルロットの言葉は耳に入らず、頭に血が上ったセシリアは、ブルー・ティアーズで、俺を正確に狙ってきた。

俺も正確に、レーザーをシャルロットに命中させる。

 

シ 「セ、セシリア!」

セ 「ああ、ちょこまかと!」

 

シャルロットはずっと、セシリアに呼びかけるものの、聞いてくれず、どんどんSEを削られていっている。

 

獅 「・・・終わらせるか」

シ 「っ! セシリア、退いて!」

 

シャルロットが注意を投げかけても、もう遅い。

俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で、セシリアに近づく。

 

セ 「しまっ」

獅 「遅い!」

 

慌ててレーザーライフルを構えようとする、セシリアにシャルロットごと、地面に叩き落す。

地面では、セシリアが上、シャルロットが下の状態で、大きなクレーターに収まり、ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡのSEはほぼ空。

俺は2人めがけ、瞬時加速で急降下の後、ブルー・ティアーズの装甲に触れ・・・

 

獅 「鉄槌!」

 

ドンッと、さらに深みを増すクレーター。

今の攻撃で、ブルー・ティアーズとラファールのSEは尽きた。

 

獅 「・・・ふぅ、これでいいですか?」

 

観客席にいる楯無さんに、呼びかけると、グッと親指を立てた。

 

 

一夏SIDE

 

 

一 「・・・さすが、獅苑だ」

 

フィールドでは、獅苑が三人の介護をしている。

セシリアは、獅苑に何か言ってるようだけど・・・

 

楯 「さて、一夏君には、あれをマニュアル制御でやってもらうわ。オート制御みたいに動けなんて、言わないから、おねーさんに任せなさい!」

一 「分かりました・・・それにしても、マニュアル制御で良く動けますね、獅苑」

楯 「え、そうなの?」

一 「あれ? 知らないんですか?」

 

俺もコウから、聞いたんだけど・・・

 

楯 「・・・私も鍛え直そうかしら」

一 「ん?」

 

いきなり、険しい顔つきになった更識先輩。

 

楯 「・・・よしっ! さっさと、始めましょう!」

一 「は、はい!」

 

急に気合が入った先輩。

こうして、今日から新コーチの猛特訓が始まった。


 
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