No.459443 そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海1 金髪っ子2012-07-25 23:15:39 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:1748 閲覧ユーザー数:1647 |
そらのおとしものショートストーリー5th あの子と海1 金髪っ子
「畜生……っ。どうしてこんなことになっちまったんだ……」
楽しいものになる筈だった海でのバカンス。
イカロスやニンフは勿論、日和や鳳凰院月乃なんかも呼んで皆でワイワイやるつもりだった。
おっぱいボインボインお尻プリンプリンの水着の美少女達に囲まれてうっはうっはのむっひょっひょのひと時を過ごすつもりだった。
ところがだ。
それぞれ都合がどうとかで1人欠け2人欠け、海に到着したのは当初の予定より大幅に少なかった。
たわわに実るおっぱいの量が減ってしまった。
だが俺に訪れた悲劇はそれだけでは終わらなかったのだ。
俺達は観光用ヨットに乗って大海原へと繰り出した。ところがいつものお騒がせメンバーがこともあろうに船内で喧嘩を始めた。
そして危険指数は超1級品である奴らはお約束的な展開として船に大穴を開けてくれた。沈み行く船体。俺は水面へと放り出され……運良く浮いていた丸太に捕まって事なきを得たが、その後気絶してしまった。で、現在……。
「こんな無人島に流れ着くなんて俺は漫画の主人公かっての~~っ!!」
綺麗な淡い青い色をした海に向かって大声で叫ぶ。
何と俺は漂流してどことも知らない無人島へ流れ着いてしまったのだ。前に1度、会長達に騙されてそはらと2人きりで無人島生活体験もどきをさせられたことはある。が、今回は正真正銘の本物だ。本当に無人島に流れ着いてしまった。
「私よ……私は美しい」
しかも、全裸で太陽を見上げながら恍惚に浸る金髪西洋男と2人きりで、だ。
「何でよりにもよって、一緒に漂着したのがコイツなんだぁ~~~~っ!!」
同じ金髪だったらアストレアと漂流生活を送りたいってのっ!
何でこんな訳の分からない自称天才魔術師の変態と無人島体験しなけりゃならんのだ……。
不幸過ぎる自分に泣いてしまいそうだ。
「さっきから何をカリカリ怒っているのだ? アインツベルンの雇われ魔術師よ」
男は訳が分からないと謂わんばかりに振り返りながら首を捻った。
全裸なので当然汚いものが視界に入ってくる。最悪だ……。
「だから何度言ったら俺はアインツ何たらの雇われ魔術師じゃねえって理解しやがるんだっ!! 俺の名前は桜井智樹だっての!」
「フム。つまり貴様は親しみを込めてケリィと呼んで欲しい。そういう訳だな? まったく、図々しい奴だ。だが私は寛大なので貴様の願いを叶えてやろう。感謝するが良いケリィよ」
「誰がケリィだっ! 俺の名前は桜井智樹だってのっ! 間違えるな」
「フハッハハハ。照れているのだな、ケリィよ」
「照れてねえっ!」
コイツも昔のイカロスやニンフ同様にまるで人の話を聞こうとしねえ。
「大体、お前は何故俺達と一緒に海にやって来てんだよっ? 呼んでねえだろうがっ!」
俺が呼んだのは基本的に美少女だけだ。
会長を呼んだら自動的に守形先輩が、月乃を呼んだら自動的に鳳凰院の野郎が付いて来ることになったがそれはあくまでもおまけ。
俺は美少女だらけの海できゃっきゃうふふのひと時のムフフ体験がしたかっただけなのに……。
なのに一緒にいるのが男だなんて酷過ぎる~~っ!!
「何を言っている? アーチボルト家⑨代目頭首ロード・エルメロイがここに仕るとちゃんと述べたではないか。私は実に礼儀正しい」
恍惚にうち震えるケイネスの野郎。全裸のものだから恐ろしいモノが一緒に揺れている……死ねっ!
「名乗りを上げようが呼ばれてもいない人間が堂々と来てるんじゃねえっ!」
「フッ。貴様達が心の底で私の参加を渇望して止まなかったのはよく分かっている。何、礼など要らぬ」
「望んでねえってのっ!」
畜生っ!
どうしてこう俺の周りの奴はどいつもこいつも話を聞いてくれないんだっ!
「大体っ! 何で全裸なんだ? 服はどうした? 暑苦しい青い修道服みたいなのを着ていただろうがっ!」
こんな変なのと2人きりというのでも憂鬱なのに、しかも全裸の男だなんて。
俺はプリンプリンのボインボインが良かったのにぃ~~っ!!
「服はヨットの中での誅罰の際に綺麗に焼け落ちた。よってもうこの世には存在しない。しかし、服が焼け落ちた所で私の美しさは少しも損なわれないから安心しろ」
「イカロス~~っ! 余計なことをしやがって~~~~っ!!」
俺を不幸に陥れた張本人の名前を大きく叫ぶ。
そもそもヨットが沈んだのはイカロスとコイツが派手にやりあったせいだった。
『魔術師同士で魔力を供給したり受給したりするには体液を直接交換するのが一番である』
ケイネスの奴は洋上で突然そんなことを言い出した。
『……それはつまり、男同士で絡み合うことでしか魔導は守れないということですね。ええ、分かります』
瞳を蘭々と赤く光らせ鼻息荒くイカロスは頷いてみせた。
この時点で俺とアストレアは話から興味を失った。
『見て見て~。でっかいマグロが泳いでるわよ~』
『お前泳げないんだからあんまり身を乗り出すなよ』
『子供じゃないんだからそんなことは分かっているわよぉ……わっ、わっ、わきゃぁっ!?』
言った側から落ちかけるアストレア。そんな穏やかな時間が過ぎていく筈だったんだ。そうなって欲しかった。
でも、現実は違った。
『面白い冗談を言うではないか。古来より一流の魔術師は幼女の力を借りて数々の偉業を成し遂げて来た。これ即ち、魔術師が幼女と精神的にも肉体的にも結びついて来た証である。故に幼女だ』
ケイネスは楽しそう青い海を眺めているカオスの手を握った。
『幼女よ。貴様を私の聖少女ジャンヌ・ダルクに認定してやろう。光栄に思うが良い』
『ほえっ?』
カオスは口を半開きにしてケイネスを見ている。
『おいっ』
『分かってる』
アストレアと2人でケイネスを牽制に掛かる。カオスの兄貴分としてペド変態が近づくのを黙って見ていられない。
だが、俺達が起こそうとしたアクションは不発に終わった。
『……そんなこと、私が絶対に許しませんっ!』
イカロスが大きく翼を広げながら俺に向かって跳躍して来た。
『なっ、何をするんだ。突然っ!?』
イカロスは突風を巻き起こしながら降りると俺の首根っこを掴んだ。
『うわらばぁああああああああぁっ!?』
そしてイカロスの羽が顔にモロにぶつかった反動でアストレアは柵を乗り越えて海へと沈んでいった。ここは丁度深海8千mほどあるらしい。そしてそんな水圧に耐えられるようにアストレアは作られていない。だからアストレアは……。
『……体液の交換は男同士で行うものですっ!』
イカロスは俺をケイネスに向かって力強く放り投げた。
『おわぁあああああああああぁっ!?』
俺は顔からケイネスの野郎の顔に向かって一直線に飛んでいく。イカロスの奴、俺とケイネスに唇同士の結合をさせるつもりなのか!?
俺は魔術師じゃないってのに! ていうか、男同士でキスなんて出来るかっ!
『甘いな。スカルプッ!!』
ケイネスが呪文を唱えた瞬間、突如目の前に水銀の壁が現れた。
『へっ? ……ブバッ!?』
考えている間もなく俺は水銀の壁にぶつかって地面へと墜落した。
ケイネスとキスする事態は避けられたが凄く痛かった。
そして俺が落ちた後も2人の争いは激化の一途を辿るばかりだった。
『私のような超一流の魔術師は超一流の幼女を必要としているのだっ!』
『……超一流の魔術師は超一流の魔術師男と絡み合わないとダメに決まっています』
『おいっ! お前ら、船が壊れるから争いを止めろっ!』
俺の言葉が2人に届くことはなかった。
こんな時にニンフの知恵や会長の悪巧み、またはそはらや日和の癒やし系オーラがあればどうにかなったのかも知れない。
でも、船上にいない人物に助けを求めてもどうしようもなかった。
『……男同士の良さが分からない貴方はマスターと一緒に死んであの世で結ばれるしかありません。超々高熱体圧縮対艦砲(ヘパイストス)発射っ!』
『ちょっと待てぇっ!? 何でそんな結論に陥るんだァ~~~~っ!?』
俺の叫びは戦いに心奪われた変態達には通じなかった。
輝く閃光。
吹き飛ぶ船体。
『うぉおおおおおおおおおおおぉっ!?!?!?』
海上へと投げ出される俺。
『わぁ~~~~い。また海の中をお散歩だぁっ♪』
海がホームなので沈んでいくのに動じない幼女。
『……貴方は知らない。何故戦略型エンジェロイドが一子相伝なのかを』
『もう一度言おう。私は天才だっ! 誰よりも早くどんな魔術も習得することが出来る。もう一度言おう。私は天才だっ!』
そして沈みゆく船で尚も争い続ける2人。
後は……現在語っている通りだ。
「アストレア……っ」
胸が大きなお馬鹿なあの少女はもう俺の心の中にしか存在しない。
カオスは平気だろうが今頃は深海8千メートル以上の地点にいるだろう。
イカロスはどこに行ったのか分からないが少なくともここにはいない。
美少女たちとの海でのバカンスが……本当に最悪なものになっちまった。
「お前っ! 超一流の魔術師なんだろ。だったら、その魔術の力を使って俺達を陸地に戻せってのっ!」
こうなった以上、さっさと帰ろう。
この無人島がどこなのか知らないけれど。
やたら熱帯っぽい感じのする島で相当流されて来たのだろうことは予測がつくんだが。
「それは不可能だな」
髪を掻き上げながら偉そうに答えるケイネス。揺れる全裸。キモい。それしか言葉が出ない。
「何でだよ? お前、本当は3流の魔術師なんじゃないのか?」
「愚か者。私は天才だと何度も言ってあるであろう」
「じゃあ、何でだ?」
「魔術を使って陸まで帰るには、魔力の残量が足りんのだ」
ケイネスは海をジッと眺めた。
「私の見立てでは一番近い空美浜まで距離は約801km。第6魔法と呼んでも差し支えない私の超魔術である忍法水蜘蛛の術を使った場合……」
「なあ、何で魔術なのに忍法なんだ? ていうかそれ、ハットリくんの忍法だよな!?」
ケイネスは俺のツッコミをあっさりとスルーした。
「私の超魔術である魔法水蜘蛛の術を使った場合、809.9kmまでは問題なく進める。だが、そこで私は止まる」
「後はたった100mじゃねえか。残りは泳げば良いだろうがっ!」
「フッ。そんなことも分からぬとは愚かな男だな。私は泳げないのだっ!」
ケイネスは大きく目を見開いた。
「もしこれで私が泳げでもしたら、私の完璧さは神を遥かに超えてしまう。それでは神が私に嫉妬してしまい、あらゆる艱難辛苦を与えに来るであろう。故に私は泳げないままでいる」
「偉そうに格好付けているが、単に金づちなだけじゃねえかっ!」
激しく身振り手振りで訴えるケイネスにツッコミを入れる。
「なら、足りない分の100mは俺がお前を引っ張って陸まで泳いでやるよ。それなら、良いだろう?」
ケイネスは顎に手を当てた。
「ケリィよ。お前を連れて水蜘蛛の術を使った場合、走行距離は半分になる。私を連れて400km泳ぐことは出来るか?」
「出来るわけがねえだろっ! ギネスブックに載るっての!」
俺のツッコミが大空へと吸い込まれた。
「つまり、打つ手なしってことかよ……」
状況が分かってがっかりする。どうやらこの島で助けが来るまで気長に待つしかない。
「けど……この島、まずいんじゃねえ?」
以前そはらとサバイバル体験していた“島”は食べ物が豊富で水も多く生きていくのには困らなかった。
けれど、この島はあの時と比べてより小さく、自然もほとんどなくて食べられそうなものがない。加えて生水があるとも思えなかった。
要するに生きていくのさえ厳しい。
「早く出ないと命に関わるぞ」
下手すれば2、3日で死にかねない。
「だが、私は先程の戦いで魔力を消耗してしまい、帰るには至らない」
「………………足りない魔力は他から持ってくれば良いです。それが魔術師のやり方です」
どこかから…声が聞こえた。というかよく知っている声だった。
「おいっ!」
姿の見えないソイツに向かってツッコミを入れる。
どこだ? どこにいる?
「……って、おいっ!」
一面の砂浜に一箇所だけ妖しすぎる岩が置かれていた。丁度人間が伏せて上から灰色のシートを掛けたような感じの岩が。
あの中にイカロスが隠れているのは間違いなかった。
「なるほど。つまり、アインツベルンの雇われ魔術師であるケリィから魔術を供給してもらえば良い訳だな」
「……体液を直接交換することでしか貴方達が助かる方法はありません。いえ、激しく淫らに絡み合えば助かります」
ケイネスに向かって囁きかける岩。
「お前はさっきから何をほざいているんだ、イカロスっ!」
イカロス岩に向かって大声で怒鳴る。
「……私はただの岩でイカロスではありません。故にマスターのご命令でもお聞きすることは出来ません」
イカロス岩はしれっと答えた。
「岩に話し掛けるとはケリィは全く愚かだな」
「……マスターの低脳さは目を覆いたくなるばかりです。ですが、総受けとしては天下無双の逸材です」
ケイネスとイカロス岩は同時に溜め息を吐き出した。ムカつくっ!
「……さあ、早く魔力の補充を行って下さい。そうしないと貴方の体力と魔力は減る一方です」
「なるほど。それは早く動かねばならんな。私は天才故に無駄を嫌う」
「へっ?」
ケイネスが俺に向かって歩いてきた。
あれっ? これって?
「さあ、魔術補給の時間だ。貴様に拒否権はない。アインツベルンに雇われたその魔術の力を私に寄越すが良い」
ケイネスは大真面目な顔だ。
これは……やばいっ!
「おいっ! イカロスっ! 俺を助けろっ!」
「……私はただの岩です。故にそのご命令は聞けません」
「マスターのご命令だぞっ! まっこと正真正銘混じり気なしの本物のご命令だぞっ!」
「……私はエンジェロイドという殻を打ち破ったのです。故にその命令を聞かずに自分の信念を追求したいと思います」
「…………ほんと、最近のお前は良いこと言うようになったなあ」
イカロスが自分の殻を突き破るのがいつもホモ絡みでなければ本当に良いんだがなあ……。
「これは結婚ではない。チューだっ!」
「へっ?」
俺はイカロスに気を取られていて、最も気にしなければならない筈のケイネスから目を逸らしてしまっていた。
それが……俺の一生消し去ることが出来ない忌まわしい記憶の始まりとなった。
「嫌ぁあああああああああああああああああぁっ!!」
「さあ、私に持てる全ての魔力を捧げるが良い。魔力供給の始まりだっ!」
「半裸の美少女達ときゃっきゃうふふのアバンチュールなひと時を過ごす筈が……何でこうなってしまったんだぁあああああああぁっ!? ぎゃぁあああああああああぁっ!!」
「……日本では、南国の島国のことをよくパラダイスと表現します。ここは……ここは本当に天国です。……ブハッ」
翌日、俺はケイネスと共に空美町へと帰還した。
「どうしたの、智樹っ!? 全身が真っ白じゃないのよ」
「智ちゃん、一体何があったの?」
島を離れるまでの時間、何が起きたのか。俺がそれを話すことは生涯なかった。
ただ、心に深い闇を抱えながら生きていくことを選んだだけだった。
「……魔術師の生き方。最高です♪」
反対に帰って来てからのイカロスは自然な笑顔をいつでも振りまける素敵な女の子に変身した。
「私は天才だ。故にどんな危機さえも華麗に切り抜けてしまうのだ。だが、私の求める魔道はまだ遠い」
俺にひと夏のアバンチュールを与えた男は今日も元気だった。
そんな俺達の変化をアストレアは今も空美町の大空から優しく見守ってくれている。
了
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