三月の終わり。春休みの出来事
ここ、私の家こと更識家の屋敷の蔵。そこには私を含め、四人の少女が念じている。しばらくすると先日楯無の名を継いだ姉さんが私たちに話しかけてきた
「簪ちゃん、本音ちゃん、虚ちゃん、浮かび上がった?」
私を含め、三人とも首を振った。姉さんも少しショックを受けていた
「う~ん、一体どうすればいいのかしらね? 果実の紋章を浮かび上がらせるなんて」
「そうは言ってもお嬢様、伝承にも書いていないのですからただ時が解決するしかないのでは?」
「う~ん、のんびりやればいいんじゃないの?」
「そういうわけにも……いかないと……思う」
私たちは……世界樹大戦に参加をしようとしている
裏方役の暗部として歴史ある私の家、更識家では初代、五代目、九代目、十三代目と四つ足したところで襲名した更識家とそこに仕える布仏家の子供たちは世界樹大戦というものに参加することになっている……と伝承に書かれているみたいだ
主な目的は監視と一般人への攻撃を防ぐこと。優勝はできれば狙うくらいで本命ではない。今回の世界樹大戦の参加も家のことを考えるとある意味必然ということらしい
そして、姉さんは十七代目。つまり今回、私たちは参加しなければならない
(でも……どうせ……私には出てこない……)
一人でこっそりとしょんぼりする
昔からそうだ。姉が何をやってもうまくいくため私はいつも陰にいる
実際には十分すごい実力の持ち主なのだと専属の従者の本音やほかのお手伝いさんが言ってくれるけど、ただのお世辞に決まっている
これ以上は無駄と思った姉さんは解散の宣言をした
私はすぐに自分の部屋に戻ることにした。正直あんまり一緒にいたくない
部屋に入るといつものようにDVDを選ぶ……今日はこれにしよう
お気に入りのヒーローものにした。やっぱり彼らはかっこいい
……私には手の届かない存在だ。見ていてそう思う
少しボーとしていたからか、もうすぐ終わる
これが終わったら寝よう……見ながら寝る準備をした
準備が終わったと同時にアニメも終わった。片付けないと、そう思った時
(熱い……焼ける……右ほほあたりが……)
急いで鏡を見ると、私の右ほほに果実の模様がついていた
そして鏡を見て分かったけど、私の後ろに青い髪に青い軍服、眼鏡をかけた青年がいた
「僕の名前は、ヒューバート・オズウェル。あなたが僕のパートナーですか?」
私は振り返って私も自己紹介をした
「更識……簪」
「簪ですね……あまり驚いていないんですね」
意外そうな顔で私を見ていた。それもそうか、私たちは事情を知っている
とりあえずそのことを説明した
「……なるほど、あなた方の事情は分かりました。ところで質問なのですがあなたは何を願いますか?」
……そういえばそうだった。優勝者には願い事が……でも
「……私には……無理……全部……姉さんがやってしまうから」
「……どういうことですか?」
私は話した。自分よりも優秀な姉のこと。自分はできそこないということ
優勝するのは姉だ。そう告げた時、彼はため息をついた
「……まるで昔の自分を見ている気分です……いいですか!? あなたが優秀かどうかはどうでもいいんです! まずはお姉さんと話をすること、そこから始めてください!」
いきなり怒ったので私は驚いた
「……これは聞いた話なのですが、とある領主の息子に兄弟がいました。しかし、幼少期の時に父親によって勉学では優秀だった弟は別の国に養子に出されました。彼は当時、どうして僕を捨てたのかと両親を恨みました。同時に何もしなくても領主になれる兄のことも恨みました」
「そして数年後、彼は必死に努力をして軍人となった。ある日、任務で自分を捨てた領主が所有する故郷に戻ることになりました。戻ってきた時、彼の兄は領主になったばかりでした。当時、彼の兄は騎士学校に通っていて自分の父親が亡くなったから後を継ぐように領主になった。彼は何もせず、遊んでいたと思っていた兄を許せませんでした。そして彼は圧倒的な力で兄をその領地から追い出しました」
……これって……でも、口をはさまずに続きを聞く
「でも、追い出したというのに彼の兄はいつも弟のことを心配してくれていたんです。弟が養子に出されたことを兄は知らず、そのことを知って父親に激怒したらしいです。騎士学校で忙しい中、結構な頻度で弟に手紙を書いてくれていた……そんな見えないところで心配をしていました」
私にもなんとなく、覚えがあった。姉さんがこっそり助けてくれたこと……私があとでこっそりと見に行った時の姉さんの顔は本当にうれしそうだった
「いろいろあって何とか和解した兄弟はある日、母親に死んだ父親の日記を見せてもらい、知りました。父親は不器用ながらも僕たちのことを本当に考えていてくれたんだと」
「その時、弟は思いました。どうしてもっとお互いのことを理解しようとしなかったんだろう、どうしてもっとお互いのことを話さなかったんだろう。色々と思ったそうです」
「ヒューバート……」
何も言えなかった。私は……姉さんに対して何も言っていない。心の中で不満をぶつけてばかり
「簪、あなたにはそんな彼と同じ道をたどってほしくない。今からすぐにお姉さんの所に行って本当の自分の気持ちをぶつけてください。そうでないと……戦いにくいですから」
そう言ってヒューバートはそっぽを向いてしまった……何だかずるい
私は気が付いたら走っていた。姉さん……お姉ちゃんの部屋に向かって
少し乱暴に部屋のドアを開ける。当たり前だけど驚いていた
そんなことかまわず、私はお姉ちゃんとお話をした
私はどう思っている。お姉ちゃんと比べられて嫌だ。楯無の妹ではなく私を見てほしいってずっと思っていた
お姉ちゃんに対する文句も、どういう所が好きで嫌いとかとにかくいっぱい、いっぱい喋った。
一通り喋るとお姉ちゃんは私を抱きしめてくれた。うっすらと涙を浮かべて
「ごめんね、ダメなお姉ちゃんで……簪ちゃんが苦しんでいるなんて知らなかった……」
「でもね、これだけは忘れないで……私は簪ちゃんのことが大好きだって」
私もお姉ちゃんを抱きしめた。多分……私も泣いていた
その晩、私たちは一緒に寝ることにした。いつもよりもゆっくりと安心して眠れた
次の日に改めて皆にヒューバートのことを紹介した。皆私の事をほめてくれた。誰よりも早く呼べたことに
「でも……偶然だから」
「偶然でもいいの! とにかく簪ちゃんはすごい!!」
「そうだよ~かんちゃんは立派」
「大丈夫です。自信をお持ちください」
前の私ならどうせお世辞って思っていた。でも、今ならわかる
皆、心から私の事を見てくれているんだって
だから私は笑顔でお礼を言った。ありがとうって
余談だけど、新学期が始まってすぐにIS学園に通っている虚さんの所にも世界樹大戦のパートナーが現れたって連絡があった
その一週間後、本音の所にもやってきた。お姉ちゃんの所に現れたのは五月ごろだったらしい
ちょっとだけお姉ちゃんに勝ったみたいで嬉しかった
そして、月日は流れ……もう一度、三月になった。私と本音はIS学園に入学するが決まっている
これから始まる世界樹大戦、怖いこともあるけど……ヒューバートや本音、虚さんがいてくれる
何よりもお姉ちゃんがいるから安心できる
笑顔で入学したい、私はそう思った
スキット
お礼にDVDを
「ヒューバート、ありがとうね」
「……何のことかわかりませんが、一応受け取っておきましょう」
「何かお礼をしたいんだけれど……そうだ、何か見る?」
「いえ、遠慮……これは!」
ヒューバートが簪の持っているDVDの内容の多さに驚いて興奮している。だが、一応冷静を保って答えた
「……そうですね、簪のお勧めでお願いします」
「……分かった」
そんな彼の様子を見て簪はこっそりと笑みを浮かべた
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今回は更識姉妹の話です
時期としては鈴が引っ越した時期と同じです
つまり前回の続きです
視点は簪で