No.459318 天の迷い子 第七話2012-07-25 21:08:25 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:1731 閲覧ユーザー数:1572 |
「遼姉、雄姉、鍛冶屋って何処にあるんだ?」
調練を終え、廊下を歩いていた二人を呼び止め、そんな事を流騎は尋ねた。
その手には一振りの刀。
数日前、昏睡状態から目覚めた流騎の手にあった物で、話によると、夢の中で彼の師であり、義理の祖父でもある老人から手渡された物であるらしい。
普通ならそんな事はありえないと笑い飛ばすのだが、彼自身がその有り得ないような現れ方をしているので、そういうものなのだろうと皆納得していた。
「ん?何や?新しい武器でも見に行くんか?」
「なんだ、もうその剣を駄目にしてしまったのか?武器を雑に扱うのは関心せんぞ。」
「いや、そういう訳じゃなくてさ。そもそもこの刀を使うには俺じゃまだまだ力量不足だと思うんだ。だってこれは、うちの流派の後継者の証。それを振るうには、少なくとも、師匠と同等の力量に辿り着かないと、刀に申し訳ないし。」
彼は目覚めた次の日、皆を集め、自分も戦場に出して欲しいと頼み込んだ。
この先起こる戦乱の世。
その時、彼女たちを護るには、やはり戦場に出なければならない。
確かに流騎は先の未来を知っている。
反董卓連合が組まれ、その後乱世の世となり、三国が建つ。
だが、知っているのはそれだけである。
後は、多少の人物の名前ぐらいで、細かい歴史や出来事、それらが起こった理由などは全くと言っていいほど知らないのだ。
未来の知識で護ることが出来ない以上、この世界で力と知識を身に着け、それで護るしかない。
だから、流騎は戦場に出ることを望んだ。
「ふむ、なるほど。お前がそう決めたのなら私たちにそれを否定する権利は無いな。ところで、どの様な得物にするつもりなのだ?」
「うん、種類としてはこいつと同じ刀にしたいんだ。それで、刀にも色々あって、主に戦場で使うために作られた野太刀っていう刀を作ってもらおうと思ってる。以前、師匠に“自分が使う得物の事も満足に知らんでどうする”って言われて、ある程度は教わったからなんとか説明できると思うし。」
「ほぉ~~、武器の製造工程も勉強しとるんか。流騎のお師匠は大したひとやなぁ。」
張遼はからからと笑い、「ついてきぃ」と言って先に歩きたした。
Side 静護
「ほれ、着いたで。ここがうちの偃月刀やら、華雄の金剛爆斧やらを作ってもらった洛陽でも一番の鍛冶屋や。」
連れて来られたのは、街の外れにある小さな店。
人の往来も少なく、とてもじゃないが…。
「…街一番の鍛冶屋には見えへんか?」
「えっ!?いや、その…!」
思っていたことを言い当てられ、慌てて言い訳を探す。
「にゃははは!かまへんよ、うちも最初に紹介された時はおんなじ事思ったからな。何でこんな街の外れにあるちっこい店が洛陽一なんや~って。」
「だが、腕は確かだ。我が金剛爆斧も張遼の飛竜偃月刀も一級品の業物。…ただ、頑固で気難しいのだ。気が向かんと武器を作らんし、料金も気分で変わる。私がこれを作ってもらうのにどれだけ苦労したか…。気に入らんことがあれば金槌が飛んでくるし、あんな性格では店に客が来ないのは当然だ!なにより≪ゴキィッ!!≫はぶぅ!!!」
途中から愚痴をこぼし始めた雄姉の顔面に金槌が飛んできた。
しかも、話に夢中になっていたとはいえ、雄姉が避けられない速さで。
「店の前でごちゃごちゃぬかしてんじゃねえ!!用があるならとっとと入って来い、鬱陶しい!」
店の中からドスの利いたガラガラ声が響いた。
「あ~~、はよ行った方がええな。うちらにもとばっちりが来るで。」
「賛成。でも雄姉が…。」
金槌を喰らって伸びている雄姉を見下ろす。
「…引き摺っていこか。」
そう言って遼姉は雄姉の脚を掴んでいた
店の中に入ると、ぶわっと強烈な熱気が身体を包み込んだ。
うっ、と初めての感覚に思わず顔をしかめていると、「大丈夫ですか?」と声をかけられた。
声の主は一人の少年、おそらく自分と大して変わらないだろう。
一見線の細い印象だが体つきは引き締まっていてやはり鍛冶職人だと感心してしまう。
「こんにちは、張遼将軍、華雄将軍は…あ~、こほん。そ、それで今日はどんな御用ですか?武器の研ぎなおしでしょうか?」
「いや、今日はちゃうねん。こいつの武器を作ったって欲しいんや。」
トン、と背中を押される。
「そちらの方の武器を?あ、申し遅れました、僕は鍛冶師堂堅の弟子で、干鋼と申します。よろしくお願いします。」
「俺は流騎と言います。まだ初陣も済ませていない若輩者ですがよろしくお願いします。」
ペコリとお互いに頭を下げあう。
なんだか可笑しくなって、二人してくすくす笑い合ってしまった。
すると、奥のほうからぬうっと一人の老人が出てきた。
老人であるにも係わらず服の上から見てもそれと分かるほどに発達した筋肉。
鋭い眼光、丸めた頭と相まってとても怖く見える。
「てめぇ、武器を作って欲しいのか?しっかしひょろい餓鬼だな、てめぇ程度ならそこらのなまくらで十分だろ。」
「はい、そうかも知れません。正直、今の俺の実力は確実の勝てると言えるのは兵卒で二人ぐらいまで、三人なら危ないし、四人同時なら間違いなく負けるでしょう。ただし、それは“今の”俺です。いずれはこの街一の鍛冶師と言われるあなたの武器に見合うだけの“漢”になって見せます。」
老人、堂堅さんはぎろりと俺を睨む。
俺は、じっとその目を見返していた。
「…はっ、とりあえず口だけの半端な餓鬼じゃあ無えみてぇだな。わかった、作ってやらぁ。どんなもんを作って欲しいんだ?」
「あ、ありがとうございます!えっと、これの刃をもう一尺ほど長くした物を作って欲しいんですけど。作り方も俺が覚えている限りを説明します。まず………。」
一通りの説明を終え、息をつく。
すると堂堅さんは、きらきらした眼で俺を見た。
「なるほどな。たたら吹きに折り返し鍛錬、それに質の違う鋼を合わせることで硬度を増す、か。全く新しい方法だ。こりゃあ面白ぇことになりそうだ。」
そして干鋼も同じ様に、いや、それ以上に眼をキラッキラさせながら俺を見る。
「あ、あの、その剣が今言っていた製法で作られた日本刀っていう物なんですよね?よ、良かったら見せてくれませんかお願いします!!」
途中から息継ぎもせず早口でまくし立てる。
よっぽど興奮してるんだろうなぁ。
「分かってる。実物を見るのと見ないのじゃ出来だって変わってくるだろうしな。」
スラッとその刀身を抜き放つ。
その瞬間、全員がはっと息を呑んだ。
人を斬る、その事に特化した人殺しの道具。
なのにその刃は、神々しさすら感じるほどに美しかった。
「こ、こりゃあすげぇ。」
「まるで吸い込まれるみたいに魅せられてまうな。」
「ほわぁ~~~。」
三者三様に感想を口から漏らす。
「ほう、これは美しい。」
『≪びくぅっ!≫!!?』
いつの間にか復活した雄姉が音も無く背後に立っていた。
「び、びっくりしたぁ!自分気ぃついてんやったら一声掛けぇや!」
「そ、そうですよ!あ~、心臓バクバクいってます!」
「てめぇ!呼吸が止まるかと思ったじゃねぇか!!」
「≪ゴツン!!≫…っくぉおお!!人を気絶させておいて目覚めたすぐにまた殴るとはどう言う了見だ!!今日という今日はもう許さん!表に出ろ!!」
いきなり殴られた雄姉が涙目で堂堅さんに怒鳴る。
「上等じゃねえか小娘!てめぇ如きに遅れを取るほどまだまだ衰えちゃいねえぜ!!」
腕まくりをして外に出て行く堂堅さん。
「止めなくていいのか?遼姉。」
「いつものことやからな。ほっといたらそのうち戻って来るやろ。干鋼お茶。」
「はい、わかりました。大丈夫ですよ、いつものことですから。」
「いつも二人が喧嘩してるから、人が寄り付かないんじゃ…。」
『……………。』
図星かよ。
しばらくして肩で息をしながら戻ってきた二人にお茶を渡すと、それを一気に呷る。
『ぶはあっ!!』
…吐き出した。
そりゃあそうでしょうよ、淹れたてなんだから。
落ち着いた堂堅さんに料金の話をすると、
「料金はいらねぇ。新しい製法を教えてもらった上に、あんな見事な剣も見せてもらったんだ、それで十分だ。」
と言われた。
しかし無料というわけにはいかないとしばらく粘ってみたが、代金は要らないの一点張り。
「まあ本人がええって言うてんねんから甘えとき。」
と遼姉が言った。雄姉も、
「うむ、良かったではないか、料金が浮いて。…待て、私のときは相場の倍近く請求された気が…。」
「気のせいじゃねぇか?」
そして始まる喧嘩。もういいって。
「色々理由を言ってますけど、親方は流騎さんの事を気に入ったんです。じゃないと親方、武器をうつなんて言いませんから。」
にっこりと微笑む干鋼。
「そっか。それじゃあお言葉に甘えさせてもらいます。ありがとうございます。」
そう言って俺は二人に深々と頭を下げた。
「おう、まあ任しとけ。最高の刀に仕上げてやる。てめぇは少しでも俺の刀に負けねぇ様に必死で鍛錬するんだな。」
「はい!!」
にやりと笑う堂堅さん。
すると干鋼がおずおずと口を開いた。
「あの、僕、幼い頃から親方に付いてて、その、同年代の知り合いがほとんど居なくて、えっと…。」
「くすっ。なあ、よかったら俺と友達になってくれないかな?周りにあんまり同年代の同姓が居なくてさ。」
「あっ。はい、お願いします!!」
ぎゅっと俺の手を握って満面の笑みを浮かべる干鋼。
「なんだよ、友達なんだから堅苦しい話し方は無しにしてくれよ、干鋼。」
「うん、わかった。改めて、よろしくね流騎!」
「ああ、よろしく。」
この世界で始めて出来た男友達と握手を交わし、笑い合った。
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お久しぶりの方はお久しぶり、始めましての方は始めまして、へたれ素人です。
ちまちま書いて、ようやく一話。
それでは、どぞ。