「か、管理局の崩壊か管理局の統制か作り直しが目的……」
デュナは心底から驚いていた。まさか、自分が誘拐された所が、そんな事を企んでいるとは思いもしなかったのだ。
そして、エメリアの言葉もう一人驚いている人間がいた。なのはである。
エメリアの目的という事はそれはエメリアと手を組んでいるフィルノも同じことを企んでいるという事だ。フィルノがどうしてそんな事をしているのかという理由を、なのはは知らない。その原因となったフィルノの両親の逮捕と牢屋内での殺害されたという事件は、当時のなのはにとっては関係ない事と思っていたし、自分のリハビリで忙しくて大変だったからだ。もちろん退院してからもそんな事件の内容をはやてとかに聞く理由もなかった。だからこそ、なのはがどうしてフィルノがそんな目的を企てているのか分かる筈がなく、分からないからこそ驚いていたのだ。
「そうだ。そしてデュナ・シルフィア。君を此処に無理やり連れてきたのはそれが関係している。お前も妹のリィナ・シルフィアを誘拐した管理局が許せなかったはずだろう」
「……えぇ、その通りよ。何事もなく平和に暮らしていた私たちを、あの管理局はぐちゃぐちゃにぶち壊したのよ!! リィナを連れてこないという理由だけで、両親を殺害したのよ!! そんな管理局を許せるわけがないでしょ!! あんなの、次元世界を管理しているような組織じゃない。唯の、次元世界を跨いで統括している国と同じよ……」
後半辺りから悲しくなり、デュナは涙を流して泣いていた。相当管理局を恨んでいたのだろうとなのはは思った。管理局はディナの家族を踏みにじったと言っても過言でないとまで思ってしまった。
そしてまた、管理局に居ながらそんな事を裏で繰り返されていたのだという事を再度認識した。エメリアの妹の事も聞いたが、ディナの件も聞いて自分は何を信じればいいのか、さらに分からなくなっていたのだ。こんな事を聞いて今更いつも通りの生活に戻れるわけがない。そこまでなのはは入り込んでしまったのだ。
「その通りだ。そこでだデュナ・シルフィア。君には私たちの仲間にならないか?」
「ぇ、それって……」
何を言っているのか分からないような顔をデュナはした。どうしてそんな話になるのかさっぱり分からなかったようだ。
その言葉はなのはも少し驚いていた。ようやくエメリアがデュナを無理やり連れてきた理由が分かったが、こんな理由だとは思いもしなかったようだ。
「元々、勧誘するために君をここに連れてきたのさ。無理やり連れてきたが、それは本当にすまないと思ってるのだ」
「…………」
デュナは泣き止むがエメリアの言葉を聞いて黙ってしまった。なのは同様、勧誘だとは思いもしてなかったのだが、冷静になって考えていたのだ。
「それで、君はどうしたいのだ? 決めるのは君の自由だ。断れたところで君が恨んでいる管理局に連絡するわけがない。妹のリィナも君の所に返すつもりさ。その後管理局に追われるかもしれんが」
「……最後、軽く脅しになっていると思うのだけど」
二人の会話をずっと聞いていたなのはは、エメリアの言葉にツッコミを少し入れた。なのはの言葉にエメリアは苦笑しながら返す。
「確かにそうかもしれんな」
「……まぁ、断ったらそうなる事は私も目に見えているけど」
しかし、実際なのはもエメリアと同じことを思っていた。誰か仲間がいない限り、エメリアの勧誘を断ったところで管理局に捕まる事は考えなくても大体分かる事だった。たとえどこに逃げたところで管理局は追ってくるだろうとはなのはも思っていたのだ。組織というものはそういうものだから。
「……分かりました。ここで断ったところで逃げ道がないというのは、私も考えていましたし」
「一応聞くが、君はそれで良いのか?」
エメリアは念のためもう一度聞いた。
「えぇ。それに管理局に対しても復讐が出来るのなら、私にとっては嬉しい事よ。私一人の力が到底敵わないのは分かっていたつもりだから、反管理局組織があるのなら私から入りたいと思ったくらいよ。それにそこなら、私とリィナを匿ってくれるという事でもあるのだから」
「分かった。そこまで言うのならば私からは何も言わない。唯、私たちの組織に入るのならば後悔だけはするなよ」
「そんなの分かっているわよ」
こうして、デュナは自分からエメリア達が居る組織に入る事に決まったのだった。デュナの目を見る限り、本当に管理局に復習したいような目をしていた。それほどまでに管理局を恨んでいたようだった。
「さてと、後で迎えが来たらデュナ・シルフィアを連れて行くとして――」
エメリアはそう言いながら立ち上がり、顔をなのはの方に向け、続けざまにこう言う。
「君はどうするのだ? 私の妹の話をしてからずっと悩んでいるようだったが?」
エメリアの言葉になのはは少し戸惑っていた。管理局の実態を知って、そう易々と戻れるわけがない。もしここで断ったとしたら多分フィルノには会わずに管理局に戻る事になるだろう。さらに言えば、ここで話した会話を聞いておきながら、誰も話さず自分で悩み続けることになる。それはまたフェイト達に心配を掛けると同じだった。
しかし、ここでエメリア達と一緒に行動するとなればフェイト達と敵対することになる。フィルノに会ってから考えるという自己中心的な事は叶う訳がない事はなのはは分かっている。
なのはは窮地の選択を強いられていたのだ。二つの選択の内どちらかを選ぶ事によってなのはの運命が変わり、またなのはの魔導師ランクは高いので、なのはの選択によって世界の歴史も大きく変わる可能性もあった。それがなのはをさらに追い詰めていた。
フェイト達に心配を掛けながら管理局に戻るか、フェイト達と敵対してエメリア側の仲間になるか。その選択を。
「――分かった。私もあなた達について行く。フェイトちゃん達に心配かけるなら、いっそ今の管理局を変えた方が良い。そうすれば私もふっ切れるし、フェイトちゃん達と戦う事になっても正義の為だと思えるから」
「……邪念があるより信念が突き通している方が良いという事か」
エメリアの言葉なのは頷く。なのはのした選択には、エメリアは納得する部分があった。もし、自分がなのはと同じような立場ならば、なのはと同じような事を思ったかもしれないと思ったのだ。
そして、エメリアはなのはの頷きを見た後、突然微笑みだしたのだった。
「気に入った。先ほどまではもし君が仲間になってその時でも未だに悩んでいたらどうしようかと思っていたのだが、そこまで決意をしているのなら問題なさそうだな。私からも是非とも歓迎しよう。ようこそ私たちの組織へ」
エメリアはなのはに近づき、なのはの前で立ち止まると、右手を差し出した。
なのはも自分の右手を出し、エメリアの右手を握手するのだった。
「えぇ。こちらこそよろしくね」
なのはの心には先ほどまでの迷いがまったく無かった。エメリアとデュナの事を聞き、今の管理局がおかしいという事は思っていた。なのはが悩んでいた事はフェイト達の事だけであり、親友を裏切ってまで管理局を崩壊、もしくは作り変える覚悟があるかどうかという事だけだった。しかしなのはの思いはそれよりも管理局を変えるという事の方が上回ったのだ。さらに言えば、デュナの家族の事を聞いたのがなのはの心にかなり響き、自分を偽ってまで管理局に居続けるつもりはないと思ったのだ。たとえそれが、親友と敵対するとなっても――
「さて、フィルノが言うにはそろそろ私の仲間が来ると思うのだが……」
「フィルノ君が?」
握手を止めると、エメリアはそんな事を言う。
その言葉を聞いたなのはは、フィルノという名前を聞いて咄嗟に聞き返していた。
「あぁ、基本私達の仲間を指揮しているのはフィルノだからな。彼の管理局に対する憎しみは本当に計り知れない。私達が憎んでいるほどにだ」
「一体、フィルノ君は管理局に何をされたの?」
「分からない。唯言える事は彼の両親が捕まり、更には殺された事に対する復讐としか……」
「両親が?」
フィルノの両親が殺されたことを全く知らないなのははつい聞き返していた。なのはが入院している頃の事件は余りなのはの耳に入ってこなかったのだから。
「……知らないのか? まぁ、あの事件は何故か規制が掛けられていたから、私も彼から聞いていないのでこれくらいしか知らないのだが、ニュースにもなったはずだから知っていてもおかしくないとは思ったのだけどな…… ちょっと待っててくれ」
そう言って、エメリアは立ち上がり、少し離れたところに置いてあった、たくさんある新聞の中からある新聞を取り出しその新聞をなのはに渡す。
エメリアがなのはに渡した新聞の内容には、管理局に捕まっていたフィルノの両親が何者かによって殺されたという内容が書かれているものだった。
なのはは新聞の内容を読むとかなり驚き、更に新聞の日付を見てみると、新暦67年と書いてあった。なのはが忘れもしない年であった。
そして一通り読み終わると、なのははエメリアに新聞を返した。
「……私が重症にあって入院している間に、フィルノ君の両親は殺された?」
なのはは驚きが隠せないでいた。フィルノの事を忘れていたからという理由で知らなかったという事もあるが、こんな事件があった事にかなり驚いていたのだ。
「本当に君は知らなかったのだな。まぁ、君が入院していたというのなら仕方ないかもしれないが」
「これより詳しいものは無いの!?」
「これ以上知っている事は私もない。この件については触れないでくれと彼に固く言われているのでな……」
「そうなんだ……」
なのははショックが隠しきれなかった。記憶を思い出しているので、フィルノの両親がどれだけ親切だったのかは覚えている。だから管理局に捕まり、更には殺された事に悲しかったのだ。
また、フィルノ両親が犯罪を犯すような事をするはずがないと思い、しかも拘置所に居るのに殺されたという事になると、管理局の協力が無ければできない事であり、そこには絶対に何かあるとなのはは思えた。
「本当の事を知りたいのなら彼本人に聞いた方が良い。まぁ、彼が君に話してくれるかは分からないが」
「さて」とエメリアは言い、持っていた新聞を元の位置に戻し、デュナとなのはの一度見てこう言う。
「先ほど言った通り、私の仲間が来るまでは君たち二人はここで待っていてくれ。一応私にも表の仕事もしなくてはならないのでね。実験をしたという嘘を報告しないといけないので」
「そういえば、此処に連れてこられた人間はどうしているの? まさか人体実験をしているという訳ではないでしょうね?」
エメリアが出ていこうとすると、デュナがその事を聞く。その事についてはなのはも気になっていた所だった。実験しているようには見えないが、連れてきた人たちはどうしているのかという事は聞きたかったのだ。
「あぁ、その事は全然大丈夫だよ。私の所に連れてきた人間は全員フィルノが管理局に気づかれないように建てた第83管理外世界のある所に全員居るさ。上には報告するだけで良いから、嘘を言っておけば大丈夫なのだよ」
「それでは仲間が来たら報告する」と言ってエメリアは今度こそ出ようとするのだが、突如この応接間の出入り口が開き、そこから一人のエメリアの部下である研究員が入ってきた。
その事にエメリアは眉をひそめるが、入ってきた研究員の慌てぶりに何かあったのだと察する。
「……一体何があったのだ」
先ほどより声を低くして、エメリアは研究員に聞く。
研究員の慌てぶりはかなりのもので、本当に急いで報告するべき事があるような感じで、息切れを起こしていたくらいだった。
そして、研究員から聞いた言葉にエメリア達は驚くことになる。
「じ、時空管理局が何故かラスティル・エメリア研究長、高町なのは二等空佐、デュナ・シルフィアの三名を直ちに連れて来いとっ!! 断れば、この場に居る人間全員を抹殺すると!!」
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J・S事件から八年後、高町なのははある青年に会った。
その青年はなのはに関わりがある人物だった。
だがなのはにはその記憶が消されていた。
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