北郷一刀が刺されたあの事件から、2ヶ月の歳月が経とうとしていた。
傷は癒え、体を動かしても大丈夫なほど回復したので現在は執務に戻ってはいるが、空いた時間を利用して一刀は今後の身の振り方について真剣に悩んでいた。
傷がある程度癒えて喋れるようになってから何度も各国の軍師を集め、一刀は徹底的に現状を把握する為に話し合いを行った。
その結果分かった事なのだが、全員が自分の寵愛の時間を増やす為に色々と暗躍していた事を知り、頭を痛めた一刀は2つの書物の原案を作成した。
さらに、華琳、桃香、雪蓮の三人にその原案を確認して貰いながら修正に修正を重ね、自分と関わりのある全員の了承を得て作り上げた努力の結晶を世に出すか出さまいか。
一刀は散々悩んだ末、その場の気分で出版される事になった2つの書物。
これが後の世に語られる、北郷家夜伽大全と北郷後宮指南書である。
何故、彼がこの書物を作り上げるに至ったかの謎を解明する為、2000年後の世界で論争が起こる事になるのだが閑話休題。
本当の理由は至極単純で、あまりにも皆の仲が悪く日に日に胃が痛くなる思いをするくらいなら、己の体力にモノを言わせ下半身で解決しようとしただけの事なのだから。
ここで2つの書物の内容を説明させて貰うが、夜伽大全は数年前に元にいた世界で及川と一緒に妄想を膨らませた記憶を必死になって思い出し、バレない様に少しづつ全員に試しては工夫を重ねてきた前戯から始まりピロートークに至るまでの全てを纏めた書物である。
ただでさえ致す人数が多いのに、いつも一緒の動きだと妙にマンネリ化し始めたのだ。
愛する人の為にも、すぐにこれではいけないと思った一刀は今まで以上に頭をフル回転させ考えたのだ。
普通で物足りなくなったら、アブノーマルな方向に走ればいいじゃない。
民が日常で行なっている夫婦の営みを知る事はできないが、元いた世界ではそういう情報が簡単に知識として手に入れらた為、及川と夢を追いかけたあの頃の知識は今でも頭の片隅に残っている。
性に対して世界のどの国よりも抜きん出てる日本の技術を使えば、皆ハッピーになれるのではないかと思いついた一刀は、すぐに知識を取り入れる事にした。
もちろん誰もが楽しめるように、雰囲気を盛り上げる為にシチュエーションやトークを考え、背徳感をくすぐる小道具を口の固い職人と共に内緒で自費制作したのだ。
その結果、一刀も驚くほどの効果を得てしまった。
誰も彼もが聞いた事も感じた事もない未知の快楽に、身も心も燃え上がりピロートークではベタ褒めの嵐。
今までとは違う新鮮な彼女達を見る事ができた事もあり、一刀はこの事を自分だけの知識にしておくのは世の損である。
と考え、全員に内緒でこの書物を出版することに至ったのだ。
偽名で出版したので、バレないだろうと高をくくっていた一刀だが内容が内容なだけにすぐにバレてしまい、女性陣からはたこ殴りにされたのだがまだ知らない事が書かれてあった為ただのじゃれ合いにしかならなかったのが幸いか。
こうして一刀の企みは成功したのだが、この書物が出回る事により夫婦の営みが改善され大陸の人口が爆発的に増える事になるのは、まだ少し先の未来である。
次に、後宮指南書である。
簡単に言うのであれば伽のスケジュール帳であるが、その細分化された時間と人数の多さ、そして何よりそのスケジュールを正確にこなした一刀の化け物的な体力を知る事ができる書物である。
また、時間を正確に管理するという概念をこの時代から作り出したという証明でもある書物でもあるので、歴史的観点から見ても貴重な物となっており歴史学者は挙って研究をする事になるのだが…。
当の本人は、スケジュール通りに進めるため鼻歌を歌いながらある者達の元へ向かった。
「やっぱスク水とか用意したいよな。…素材次第ではできなくもないか」
これからのニ刻は、蜀のあわわはわわ軍師、朱里と雛里の番となっている。
未だ成長しないまな板具合と、色々な知識を貪欲なまでに吸収する様は行為に値する。
からかい甲斐のある二人なので、今日はちょっと意地悪してみようかな。
と、ニヤニヤしながら部屋へと向かった。
そしてニ刻後、一刀の努力が身を結んだ結果、満ち足りた顔をしている二人の寝顔がそこにはあった。
夜、一刀が厠へと行くために部屋から出たのを耳で確認した後、雛里は瞼を開け満ち足りた顔をしている朱里の寝顔を盗み見た。
彼女と出会った当初は、お互いを高めながら同じ主に仕え大陸を平和へと導くものだと信じて疑わなかった。
しかし、今はどうだ!
あれほど仲のよかった友が、今は憎くて憎くてたまらなくなっている。
蜀の面々が彼に出会ったのは最近なので想いは一番とは言えないが、彼のの良さを蜀陣営の中で一番に理解したのは自分という誇りが雛里にはあった。
人見知りが激しく初対面の人物と話す事が苦手で、常に他人の視線や言動に注意を払っていたため、その裏に隠された思想を読み取る事が得意になってしまっていた自分。
そんな自分が嫌で、改善しようと試みたが全て失敗して蜀の皆に分からない様に泣いていた折に、彼に出会って話す機会を得て分かった驚愕。
彼の言動には、今まで会った事のある全ての人達より裏表がなかったのだ。
比べるとすれば恋なみの正直さを彼は持っていた。
だからこそ、一刀の、己が全てをさらけ出す言動に恐怖を抱いた。
未だかつてこの様な思考を持った人物にあった事がない、と思いつつ彼をなるべく避ける日々が続いた。
しかしその恐怖とは裏腹に、全くと言っていいほど嫌悪感がなくむしろ陽だまりの様な暖かさを感じている。
気付くと雛里は、彼の一挙一動から目が離せなくなっていた。
次第に彼の事を目が追いかける事が多くなり、気付くとひたすら行動を観察している事実に赤面する事もしばしば。
一刀への興味は尊敬に変わり、その思いは敬愛に変わり、そして恋慕という大輪の花を咲かせるのはすぐだった。
胸が高なり、彼に会うだけで心臓が破裂しそうになり、目と目があうと、それこそ死んでしまうくらい体中が熱くなり上手く言葉にできなかった。
だからこそ思う。
朱里には悪いが、どこか遠くに行って貰おう。と。
さすがに帰って来られないような遠くに行ってもらうのは少々マズい。
仮にソレに成功しても、成功させられるのは蜀では自分以外にはおらず、他国も朱里に干渉する理由などないはずなので真っ先に自分が疑われる。
ならば、数年ほどばかり帰って来ないとなるのは平気だろう。
いつも朱里ばかりが褒められてきた。
勿論、自分も褒められた事はあったが彼女の影に隠れているのは事実。
ならば名誉は、彼女に全てあげよう。
しかし、真の主と仰ぐ一刀は、彼から与えられるもの全ては絶対に渡したくない。
雛里は、睡魔に身を任せながら目を閉じた。
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冒頭で詠さんの事を書いてたのですが、あまりにも詠さんが暴走するので削除致しました。
修正したら追記でうpしたいと思います。