No.459061

IS -インフィニット・ストラトス- ~恋夢交響曲~ 第一話

キキョウさん

恋夢交響曲・第一話

2012-07-25 13:26:05 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1754   閲覧ユーザー数:1679

『・・・で、引越しのほうは終わったのかい?』

 

電話から女性の声が聞こえてくる。ここ数年間いやというほど聞いてきた声、中学校の頃から専門の道へ進み始め、そこで知り合ったISの設計、開発を研究しているマリア・レイン博士の声である。

 

「はい、幼馴染にも手伝ってもらってますし、もうすぐ終わります」

 

『まぁ、こんなことになったのも何かの縁だろうし・・・しっかりやんなよ』

 

「わかってますよ」

 

少し苦笑いしながら意思表示、確かにこうなったのは何かの運命なんだろう。正直その運命とやらは理不尽ではあるが。

 

『じゃあ私は次の開発計画についてのプレゼンやらで忙しいからそろそろ切るぞ』

 

「はい、先生もがんばってください」

 

『ほう、言うようになったじゃないか・・・またな』

 

電話が切れたのを確認し携帯を置く。先生も一応心配はしてくれてるんだなぁ。

 

「電話終わったんでしょ~、いつまで私一人に引越し作業やらせてんのよ~」

 

このぐちぐち文句をたれる女の子、幼馴染の塚乃旭(つかのあさひ)に突っ込まれ、そういえばまだ引越しの作業が中途半端だったことを思い出した。

 

「あ~、悪い」

 

先生の気づかいをかみしめる暇もないまま、幼馴染の文句がいい加減うるさくなりそうなので本来は自分自身でやらなければならない作業に戻る。

 

「で、なんでIS学園に入ることになったわけ?」

 

旭の質問はもっともすぎる質問。本来、IS学園はISの操縦技術、知識を学ぶために女の子しか通えない、いわゆる女子校である。そんな男には無縁の花園に今期から俺、天加瀬奏羅(あまかせそうら)は入学することになってしまったのだ。

 

「奏君はISの設計者目指してるのは知ってるけどわざわざ全寮制のIS学園に入るとか私が奏君だったら3日でギブアップだよ」

 

「まぁ・・・大変だろうなぁ・・・」

 

女子校に男子が入る、簡単にいえば言葉が通じる異国に放り出されるようなものである。ストレスとかすっごい溜まって発狂しないだろうか・・・

 

「いや、男から見たらたぶん天国だから前向きに考えとこう」

 

こういうときは前向きに考えるべきだ。前に入学した時のことを予想してみたことがあるけど心が折れそうになった。

 

「大体そういうとこに男子一人が放り込まれるんだからね~、周りの女の子は『なにあいつ男子なのに女子校に一人混ざっちゃってんの~、超きも~い』っていわれるんじゃない?」

 

「いきなり現実味のある未来予想図をありがとう・・・」

 

どうやらこいつも俺と同じ予想である。

 

「お前が入ってくれれば楽なんだけどなぁ」

 

「私は私で進路希望してるんだから無理だよ」

 

こいつは女性であるのにまるでISに興味を示さない。一回理由を聞いてみたが「こういうのはレディがやるようなことじゃないの!」と言っていた。正直な話、こいつをIS学園に放り込んだら大変なことになるだろう。

そんなことを考えてる間に旭は学園から送られてきた資料をあさり、時間割を引っ張り出していた。

 

「へー、やっぱIS関係の授業がメインなんだねぇ・・・そういえば奏君は実技のほうには出るの?」

 

「正直に言うと、出たくはない。体育みたいな体使うのは苦手だからなぁ・・・」

 

「ですよね~」

 

俺は男だけどISを使うことができる、だからIS学園にわざわざ入学させられるのである。

いや、この言い方も正しくないのかもしれない。だって俺はある事件が起こるまで、ISを使うことができなかったのだから。

 

その事件は公式には発表されてない、いわゆるなかったことにされた事件。

俺とあの子の運命を変えた、あまり思い出したくもない事件。

俺が開発助手見習い、あの子がテストパイロットとして選ばれたある計画があった。

 

『GV計画』

 

次世代型のISを研究する計画で、人の思念や脳波をエネルギーに換え、ISの動力として運用しようという計画である。

その適性検査にあの子が選ばれ、彼女のたっての願いで俺が開発助手見習いとしてこのチームに参加することになった。理論上は可能、装置も完成に至り、実験も最終段階に移行、これが成功すれば、この計画、そして俺と彼女の夢の第一歩がはじまる。はずだった。

突如システムは暴走、彼女をシステムから切り離そうとするが間に合わず、実験室は光に包まれた。

研究所はくずれ、気付いた時には俺は瓦礫の隙間に挟まって何とか生きていた。でも自分のことはどうだって良かった。彼女の安否を確認しなければ。不思議と痛みは感じることはなく、今まで実験室だった場所へと進む。

そこに彼女はいなかった。

死体もなく、何も残されてはいない。あるのは実験の間彼女が使っていたISだけ。

言葉が出なかった。さっきまで手の届いていたものが急にどこかに行ってしまったのだから。追い打ちをかけるように運命は、そこから俺に悲しむ間も与えてくれなかった。研究所の崩壊が始まったのである。

俺は死を覚悟した。せめて死ぬなら彼女がいた場所で、そう思い彼女のISに手を触れた。

 

 

 

彼女の声が聞こえた。

 

 

 

同時にISが動き始める。俺はISを装着し、無我夢中で外へと飛び出したんだ。

そこからのことは覚えてない。気がついたらどこかの病院のベットの上だった。いろんな人がやってきて、いろんなことを俺に伝えた。助かったのは俺一人だと いうこと、俺がISを動かしたこと、国が俺を保護・監視の目的でIS学園に入学させること、この事件を政府は発表しないこと、そして彼女の遺体だけ見つ かっていないこと。

 

 

 

 

 

 

「どうしたの、難しい顔して?」

 

旭がニヤニヤしながら覗き込んできた。幼馴染だからだろう、こんな顔でも心配してくれてるのがわかる。

 

「いや、これから風呂とかトイレとかどうするんだろうなって」

 

「そんなどうでもいいことで悩まないでよね・・・」

 

少し呆れたように、そして少し安心したように旭がつっこむ。

 

「こう見えても前向きに生きてますから」

 

「まったく、能天気だよねぇ・・・」

 

「最高のほめ言葉どうもありがとう・・・」

 

 

 

世の中はまもなく受験シーズンまっさかり、そろそろセンター試験や高校受験もはじまる頃。みんなが自分の夢のために前へ進む季節

 

「引越し祝いになんか食べに行くか」

 

「じゃあ奏君のおごりだからね~」

 

「へいへい」

 

 

 

『夢をあきらめないで、私と君の夢』

 

 

 

彼女が言った言葉を胸に俺は夢に向かって歩いていこうと思う。

 

 

数ヵ月後、テレビでニュースを見てとてつもなく驚き、なおかつこれからの生活に少しだけ安堵するとは思ってなかったけど。

 


 
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