~ラッセル家・夜~
「コホン……腹も膨れたことじゃし早速始めるとしよう。エステル、例のオーブメントを台の上へ。」
「う、うん……」
博士の言葉でエステルは緊張した顔で黒いオーブメントを測定器の台の上に置いた。
「これでいいの?」
「うむ。ティータや。そちらの用意はどうじゃ?」
博士はオーブメントを確認しティータに用意の状態を聞いた。
「うん、バッチリだよ。」
「よろしい。それでは『黒の導力器』の導力測定波実験を始める。」
「『黒の導力器(オーブメント)』?」
「なんか、まんまなネーミングねぇ。」
「全くだ。もう少しいい名はなかったのか?」
博士が勝手につけた名前にエステルやリフィアは呆れた。
「シンプル・イズ・ベストじゃ。とりあえず名前がないのは不便じゃからの。」
「ドキドキ、ワクワク……」
ティータは期待の目で実験を待っていた。
「あーティータったら凄いやる気の目ね。」
「ティータちゃん、凄く輝いているよ。」
「うん。ティータちゃん、凄い楽しそう。」
「あ……てへへ。」
エステルやミント、ツーヤに言われたティータは恥ずかしがった。
「よし、それでは始めるぞ。ティータ。装置の起動を頼む。」
「うんっ!」
ティータが装置の起動を始め、博士も操作をし始めた。
「出力を45%に固定……。各種測定器のスタンバイ開始。」
「了解……………………………………。うんっ。各種測定器、準備完了だよ。」
「さーて、ここからが本番じゃ。入出力が見当たらない以上、中の結晶回路に導力波をぶつけて反応を探るしかないわけじゃが……。そこで、この測定装置の真価が発揮されるというわけじゃ!」
博士は楽しそうに言った。
「ノ、ノリノリねぇ……」
「ええ、ああいう所を見ると興味がある時のリフィアお姉様そっくりですね。」
「おー、さすがプリネ。わかっているね。」
「むう……」
博士の様子にエステルは苦笑し、プリネやエヴリーヌの言葉に心当たりのあるリフィアは言い返せず唸った。そして実験が始まり順調に進み始めた。
「よしよし、順調じゃ。ティータや、測定器の反応はどうじゃ?」
順調に進んでいると感じた博士はティータに測定器の様子を聞いた。だが、ティータは表情の曇った顔で答えた。
「う、うん……なんだかヘンかも……」
「なぬ?」
「メーターの針がぶるぶる震えちゃって……あっ、ぐるぐる回り始めたよ!」
ティータは慌てた様子で伝えた。
「なんじゃと!?」博士は予想外の答えに声を上げた。
そしてその時オーブメントが黒く光り始めた。
「な、なんじゃ!?」
「きゃあ!」
黒い光に博士やティータは驚いた。
「ヨシュア、これ……!?」
「あの時の黒い光……!」
見覚えのある光にエステルはヨシュアに確認した。
「ほう、これが例の黒い光か……」
「魔力じゃないなにか変な力が感じるね。」
リフィアは初めて見る黒い光を珍しがり、エヴリーヌは光から感じられる力の正体に首を傾げた。
「ご主人様……」
「ママ……」
「大丈夫よ、ツーヤ。」
「そうよ、ミント。一度この光が出たけど特にあたし達を傷つけたりしなかったわ。」
謎の光にツーヤはミントは不安がってプリネやエステルの背中に隠れたが、プリネやエステルは優しく諭した。
そして黒い光はどんどん広がった。
「なんじゃと!?」
そして外の照明や家の光等導力器が次々と導力をなくし始め、市内は真っ暗になった。その様子に気付いたエステル達は実験をしている博士やティータをその場に残して市内を手分けして街中を見たがなんと街全体の導力器が止まり、街中がパニックになっていた。
「お、おじいちゃん、これ以上はダメだよぉ!測定装置を止めなくっちゃ!」
「ええい、止めてくれるな!あと少しで何かが掴めそう……」
あたりの様子に気付いて測定を止めようとしているティータを振り切って博士が測定を続けようとしたところ、エステルとミントが戻って来た。
「ちょっとちょっと!町中の照明が消えてるわよ?」
「みんな、灯りが消えて凄く騒いでいたよ!?」
「ふえっ!?」
「なんと……。ええい、仕方ない!これにて実験終了じゃああっ!」
エステルとミントの言葉にティータは驚き、博士は悔しそうな表情で測定装置を止めた。すると消えていた照明がついた。
「あ……。も、元に戻った……」
「よかった~……」
「はうううう~……」
「計器の方は……。ダメじゃ、何も記録しておらん。ということは、生きていたのは『黒の導力器』が乗った本体のみ。あとは根こそぎということか……」
照明がついたのを見て、エステル達は安堵の溜息をつき、博士は測定装置の結果を見て唸った。
「よかった……。実験を中止したみたいだね。」
「あ、ヨシュア!外の様子はどうなの?」
「うん……。照明は元通りになったみたいだ。まだ騒ぎは収まっていないけどね。今、リフィア達に手分けして騒ぎを収めてもらっているところだよ。」
「そっか……。すぐにあたし達も行かなきゃね。でも、一体全体、何が起こっちゃったってわけ?」
エステルは『黒の導力器』が起こした出来事に首を傾げた。エステルの疑問に博士は少しの間考えた後、答えを言った。
「そうじゃな……。あえて表現するなら『導力停止現象』と言うべきか。」
「『導力停止現象』……」
「オーブメント内を走る導力が働かなくなったということですね。」
「え!それってオーブメントが使えないって事だよね?それは大変だよ!みんな、生活ができなくなっちゃうよ!」
「そうね、やっぱり、その『黒の導力器』が原因なのかな……?」
博士の説明を理解したヨシュアは確認し、ミントは驚き、エステルは頷いた後導力が停止した原因の『黒の導力器』を見た。
「うむ、間違いあるまい。しかし、これほど広範囲のオーブメントを停止させるとは。むむむむむむむむむ……こいつは予想以上の代物じゃぞ。面白い、すこぶる面白いわい!」
「お、面白がってる場合じゃないと思うんですけど~……」
『黒の導力器』の効果範囲を知って、目を輝かせている博士にエステルは白い目で見た。その時、誰かが部屋に入って来た。
「ハ~カ~セ~ッ!!」
怒りを隠し切れていない声を出しながら、部屋に入って来た人物――マードックは博士に近付いた。
「おお、マードック。いいところに来たじゃないか。」
「いいところ、じゃありません!毎回毎回、新発明のたびにとんでもない騒ぎを起こして!町中の照明を消すなんて今度は何をやったんですかッ!?」
「失敬な。今回はわしは無関係じゃぞ。そこに置いてある『黒の導力器』の仕業じゃ。」
怒り心頭に見えるマードックの言葉に博士は心外そうな表情で答えた後、『黒の導力器』を指し示した。
「そ、それは例の……。なるほど、それが原因ならこの異常事態もうなずける……………だ、だからといってアンタが無関係ということがあるかあっ!」
「ちっ、バレたか……」
博士の説明に誤魔化されそうになったマードックは少しの間考えた後、結局博士が関与している事に気付いて叫び、博士は誤魔化せなかった事に舌打ちをした。
「な、なんかやたらと息が合ってるわね~。」
「喧嘩しているように見えるけど、仲良くしているようにも見えるよね?」
「いつもこんな感じなんだ?」
博士とマードックの掛け合いにエステル達は苦笑した後ティータに確認した。
「あう、恥ずかしながら……」
ティータは照れながら答えた。
その後エステル達は騒動を収めているリフィア達の所に戻ってそれぞれ手分けして騒動を収め、全て鎮まった時には夜の遅い時間になりエステル達はラッセル家に泊めてもらうことになった………
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第96話