No.458069

ハイスクールD×B~サイヤと悪魔の体現者~ 五話

住みこみの猫姉妹

2012-07-23 13:57:26 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:3118   閲覧ユーザー数:2982

さっきまで自分たちは襲われていた。

 

だが、それは突然現れた。

 

黒歌は傍らの白音を抱きながらさっきまで笑い続け、今は静かになったカリフを見て呆然となる。

 

長い間の逃亡劇はこれにて終わった。

 

だけど、あの子供の真意が分からない今はとても危険だ。

 

ここは慎重に……

 

「うん……」

「白音!?」

 

こんな時に妹が起きたことに内心で酷く狼狽してしまう。

 

そして、妹に気を取られた時だった。

 

「ほう……これは珍しい傷だな」

「!?」

 

気を抜いた一瞬の隙にその子供は易々と黒歌たちのすぐ近くへと迫っていた。

 

威嚇しようにも手が痛みで上がらない。

 

この状況に歯痒さを感じているときだった。

 

「さっきの槍は光ってたのに刺し傷でしかなくて火傷とかはない……珍しいな」

 

そう言いながら私の肩に指を当てて目を瞑る。

 

何かされるのだと思って魔力を練ろうとしたその時だった。

 

「え!?」

 

驚いた。

 

カリフの指先の触れる場所から暖かく感じ、傷の痛みも消えていく。

 

「怪我したところは気が若干乱れるからそれを正しているだけだ。んな警戒すんじゃねえよ鬱陶しい」

 

もっとも、黒歌が驚いたのはカリフの使った力にあった。

 

(これは気!? それに今も気で痛みを緩和させる仙術も使った!?)

 

驚愕のまま立てた仮説だが、すぐにその可能性を否定した。

 

(でも、この子は悪魔でも天使でも堕天使でもなければ妖怪でもない……普通の人間……)

 

だからこそ疑問が尽きない。

 

見た限りたった五歳余りの子供が仙術に限りなく近い術を目の前で使ったのだから。

 

もしかして英雄の血か?

 

そう思っていた時、カリフは応急処置を終えて黒歌と向き合う。

 

「お前等……本当に運がいいな」

「え?」

「?」

 

急にカリフは意味深なことを言ったと思ったら……

 

「とりあえずうちに来い」

「……はい?」

「……?」

 

親指をクイっと背後に指して言った言葉に黒歌は呆然とし、白音は可愛らしく首を傾げるだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「あら~♪」

 

しばらくして山から降りた一行はカリフの独断の元で鬼畜家にほぼ無理矢理連れて来られていた。

 

「にゅう……」

「あ、あの~……」

 

そして、勢いに身を任せてそのまま帰宅すると、両親はカリフを叱る前に呆気に取られていた。

 

ドアを開けると、そこには知らない二人の少女と上半身裸の息子

 

解釈のしかたによってはとても大変なことなのだが、両親の感性は少しずれている。

 

「あなたたちはカリフのお友達?」

「え、いや~、あの~……」

 

リビングのテーブルで出されたお茶を飲んで緊張して乾く口を潤す黒歌

 

白音はずっと黒歌の服のすそを掴んで目を潤ませている。

 

そんな二人の少女に両親は骨抜きにされていた。

 

「それで、こんな時間に何をしてたの? ご両親は心配してると思うわ」

「いえ、その、両親は結構前に亡くなって……」

 

その問いに両親はバツが悪そうに表情を歪ませた。

 

「あ……ごめんなさいね……」

「じゃあ君たちは住むところは?」

「……」

 

父親の質問に黒歌が黙りこむ。

 

それを察知した父親が急に膝を叩いて立ち上がった。

 

「今日からここに住みなさい」

 

そして、とんでもないことを言った。

 

「……は?」

 

黒歌も急な一言にキョトンとする。

 

「いやいやいや……なんでそういうことになってるのにゃ?」

「だって君たち住む所が無いんでしょ?」

「そうだけど……」

「じゃあ住もう」

「いや、だから……」

 

思わず、素の喋り方に戻ってしまった黒歌と両親は互いに芸人のような漫才を続ける中、白音は出されていたジュースを飲み干した後、近くのソファーの上で座禅を組んでいるカリフへトコトコ近付いてきた。

 

目を瞑って座禅を組むカリフは対して気にしない様子で集中する。

 

「……なにしてるの?」

「精神統一と今日の反省……一日を振りかえって己の弱さと向き合う」

「……」

 

カリフの言葉を理解できなかった様子の白音は可愛らしく首を傾げてカリフの横でじっと見つめる。

 

そんな二人を見て母親は微笑ましく思い、黒歌の説得を続ける。

 

「黒歌ちゃんでいいかしら? この申し出なんだけど、私も主人と同じで黒歌ちゃんと白音ちゃんをうちに置いて、いえ、住んでくれないかと思っているの」

「……なんでそこまでするのかが分からないのですが……」

「あれ……」

 

母親が指をさす方向には……

 

「……それって楽しい?」

「いい気分だ。一日を振りかえれば弱点、補強すべきポイントが分かるからな」

「……やっていい?」

「邪魔だけはするなよ?」

 

白音とカリフが仲良く座禅を組んでいるのを見て母親と父親が微笑む。

 

「カリフがあんなに機嫌がいいことは滅多にないの……黒歌ちゃんたちのおかげって思うの」

「いや、何もしてないし……」

「でもカリフが同い年のお友達を連れて来てくれたことが重要なんだよ。友達なんて君たちが初めてだからね」

 

夫婦二人からそう言われると、黒歌は座禅を組んで足が痺れたのかモゾモゾしている白音を見て理解した。

 

(白音のあんなに穏やかな顔……いつぶりかにゃ……)

 

今思い出せば両親が死んでからという者、すぐに堕天使二人組に追われる生活が続いていた。

 

両親の死に未だ回復してなかった時に命の危機によるストレスでずっと泣いていたか、夜もろくに眠れずに脅えていた顔しか見てなかった。

 

だけど、偶然に逃げてきたこの街で今話しているカリフって同い年の子を見ていた。

 

白音にとって同い年の子は新鮮だったのかもしれない。

 

そして、まだ堅いけど気になっていた子と知り合って少し表情が柔らかくなったように見えた。

 

(戦いの時は怖かったけど……結果的にはあの子のおかげでもう逃げ回る必要もなくなったんだね……)

 

理由はどうあれ、これで以前よりは自由になった。

 

これからの目的が無かった黒歌たちにとってこの申し出はとても有り難いものだった。

 

目の前でニコニコと笑う二人の人間を見て黒歌は決めた。

 

「それならここでお世話になってもらってもいいかにゃん?」

 

その黒歌の申し出に両親は頬を緩ませて露骨に微笑んだ。

 

「もちろん。というよりもう親子になっちゃおうかしら?」

「いや~……白音ちゃんみたいな娘も欲しかったし、黒歌ちゃんに一杯を会釈してもらえたらな~なんて思ってたんだよ。可愛いって正義だわ」

「にゃはは……」

 

両親のあまりの喜びように流石の黒歌も苦笑していると、傍からカリフが横から現れた。

 

「おい、もう寝ちまったぞ……」

「あら~……白音ちゃんはもうおねむ?」

 

カリフが鬱陶しそうに白音をだっこで運んでいた。

 

すやすやと寝息を立てて眠る白音に両親はデレデレとなり、黒歌はどこか安心したように息を吐いた。

 

「最近はずっと寝てなかったからかにゃ? よく眠ってるにゃん」

「ならさっさとこいつを連れてけ。え~っと……オレの部屋にでも連れてけ。オレはソファーで寝る」

 

その一言に黒歌は寝ている白音をカリフから優しく受け取る。

 

「そんなに気を遣わなくてもいいにゃん。ソファーでも大歓迎だにゃん」

 

黒歌がそう言うと、カリフは目を鋭くして返す。

 

「勘違いするなよ? 寝床はこうしないとお袋がうるさいからな」

 

母親がクスクス笑ってカリフを見つめる。

 

カリフは指一本立てて黒歌を指してきた。

 

「その代わり、お前からは聞きたいことがいくらでもある。明日に洗いざらい話してもらうぞ」

 

それを聞いた黒歌はそこから表情を少し引き締める。

 

「……分かったにゃ。私も君に聞きたいことがあるから丁度いいにゃ」

「話が速くて助かる。だが、今のお前等に聞いてもまともな答えは期待できないから明日にはなんでも答えられるように知っている内容はまとめておけ」

 

そう残した後、カリフはリビングの電気を消してソファーに寝転がる。

 

そんな息子の姿を見て母親はおっとりと答える。

 

「毛布くらいはかけなさいね」

「へいへい」

 

手を振ってぶっきらぼうに答えるカリフに両親は家の電気を消して寝室へ向かう。

 

そんな中で黒歌は両親に尋ねる。

 

「あの……私たちが部屋で寝てもいいのかにゃん?」

「大丈夫よ。明日には部屋は空けておくし、ああなったらもう動かないから」

 

そう言われてしまったら納得するしかない。

 

だが、これもカリフなりの優しさなのかと思い、黒歌は寝そべるカリフの耳元で呟く。

 

「今日は色々とありがとうにゃ。おやすみ」

 

そう言ってリビングから黒歌が出ていくのを確認すると、カリフは呟いた。

 

「ガラじゃねえ……」

 

今更、自分がやってきた行動に対して溜息を吐いていた。

 

反省はするけど後悔はしない。

 

今度からはこんな場面に遭遇しないように祈るしかない。

 

そう思いながらカリフは眠りについたのだった。


 
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