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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 三十八話

亀裂・すれ違う想い

2012-07-22 19:24:36 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2735   閲覧ユーザー数:2612

冬の日の家庭。

 

そこでは、テーブルの中心で巨大な鍋がグツグツと煮立っていた。

 

そこの鍋をかき混ぜる二つの影があった。

 

「そろそろ煮立ってきたなぁ~」

「うん、おいしそうだね」

 

そこにははやてと、以前に図書館で知り合った、二人目の友達となった青い髪の少女が一緒に鍋をかき混ぜていた。

 

「ただいまいただきます!」

「おかえりなカリフくん。一緒に挨拶せんでももうできとるで」

「……カリフくん?」

 

いいタイミングでドアを盛大に開けたカリフがシグナムたちよりも速くリビングに到着した時、カリフはそこにいた人物を見てキョトンとした。

 

「あれ? お前……」

「こ、こんばんわ」

「こんばんわ」

 

カリフと青髪の女の子、なのはの友達として以前に出会った月村すずかは呆然と挨拶を交わしたのだった。

 

 

「が、あぁぁぁ……」

「大丈夫? ロッテ。私の転移も大分危機一髪だったからよかったけど……」

「なんとか……だけど、あのカリフって奴……傍若無人だと報告では聞いていたけど……なんてひどいことする奴だ……本気で殺そうとしてた……」

「今回は油断してたつもりはなかったんだけどね……もうあの子を舐めるのは止めましょう。私たちの想像以上に危険過ぎる」

 

戦闘が終わった後の街中、アリアと仮面の男の姿から変身を解いたボロボロのロッテが話し合っていた。

 

「じゃあ……一体どうすれば……」

「大丈夫、もう手は打ったわ……これが見事に成功すればあの子の二重スパイは完全に瓦解することになる……」

 

アリアは冷静に、まさに感情を込めずに淡々と答える。

 

「ただ……あんまり使いたくなかった手だけど仕方ないわ。お父様のためですもの」

「……そうだよね……アリア」

 

猫姉妹は複雑な心境を決して表には出さず、夜の海鳴市の風景を眺めていた。

 

 

 

その同時刻、クロノの元に一通の匿名の写真が転送されていた。

 

なのは、フェイト、アルフ、リンディ、ユーノ、エイミィとシグナムたちとの戦闘の直後だったから、全員でその写真を何気なしに開いた。

 

ウイルス類がないことから、イタズラか手違いメールだと思い、中身を確認してから本来の持ち主の元へと転送し直そうとして開いたのだった。

 

そして、全員が絶句した。

 

「これは……そんなはず……」

「……CG……という訳ではないようです……」

「まさか……嘘だろ?」

「なんで……この人が……」

「彼女は……虚数空間に……」

 

リンディ、エイミィ、クロノ、なのは、ユーノは言葉を失い……

 

「カリフ……と……誰だい……こいつ……」

 

アルフは何とも言えない感情を吐露しながら写真を食い入るように見つめ……

 

「カリフと……母……さん?」

 

フェイトは自分の中で振り払った過去と否応なしに対面させられ、自我を失いかけた。

 

 

 

 

 

 

『内通者を発見した』

 

その一言とともに映しだされた写真

 

中身はポケットに手を入れるカリフと……

 

 

 

 

フェイトを『人形』と罵り、フェイトの心と体に深い傷を負わせた張本人……プレシア・テスタロッサのツーショット写真が同封されていたのだった。

 

 

 

 

「へ~、カリフくんってはやてちゃんとお友達だったんだね」

「それだけ世間は狭いってことさ。人の縁ってのもそうバカにできたものじゃなさそうだ」

「そういう縁なら私は大歓迎や」

 

八神家では、全員で鍋をつつきながら談笑をしていた。

 

すずかは既にカリフに慣れ、カリフもすずかに対してはそれほどツンケンする態度も取らなくなった。

 

だが、はやて、すずか、カリフを余所に守護騎士たちは微妙な空気に包まれていた。

 

箸が中々進まず、ヴィータでさえもこの空気に戸惑っている。

 

その原因というのは……

 

「なんや、食べてないですね。プレシアさんもアリシアちゃんも食べへんのですか?」

「い、いえ……そう言う訳では……」

 

さっきまで蒐集しようと襲いかかったプレシアとアリシアの存在だった。

 

無理矢理といった形で連れてこられたプレシアたちはカリフの親戚という設定にしている。

 

もちろん、カリフは嘘などつけるわけもないので、プレシアと何故か妙なシンパシーを感じた騎士たちがその設定を貫き通した。

 

カリフが喋る前に決着をつけさせた面々はひとまず安心したのだった。

 

しかし、有無を言わさずに襲いかかっていった身としてはプレシアたちに申し訳無さがこみ上げてくる。

 

アリシアにもその空気が伝染したのか全く鍋には手を付けない。

 

そんな微妙な空気を脱するためにプレシアはある提案をした。

 

「ねぇはやてちゃん。ちょっとだけカリフとそこのお姉さんを貸してくれないかしら?」

「カリフくんと、シグナムですか?」

 

カリフとシグナムは意外そうにプレシアを見た。

 

「ちょっと今すぐに話し合いたいことがあって……いいかしら?」

「そうですか? カリフくんたちが構わないのならええですけど……」

 

そう言って二人に確認の視線を送ると、シグナムは頷き、カリフはやれやれといった様子で立ち上がった。

 

その間に鍋の具を自分の皿に確保することを忘れない。

 

「おま、取りすぎ」

「ええよヴィータ、材料ならカリフくんが持ってきたのもタンマリ残ってるから。アリシアちゃんも遠慮無く食べてな?」

「……うん」

 

そんな会話がリビングから聞こえてくる中、カリフたちはリビングを出て、二階に上がった。

 

階段のそばで誰もいないことを確認すると、プレシアは口を開いた。

 

「……しばらくぶりね……カリフ」

「プレシア……まさか生きていたとはな……」

「……あまり驚かないのね」

「……オレも似たような経験はしてるからな……」

「そう……」

 

カリフならどんなことをしてもおかしくない……それに今はそんなことを話しに来たわけではないのだから。

 

「あなた……シグナムといったかしら?」

「はい……そういうあなたはカリフとは……」

「えぇ、ちょっと前にね……」

 

シグナムと向き合って挨拶を交わした後、プレシアは表情を引き締めた。

 

「それなら色々と教えてもらうわ……あなたたちが一体何者か……今ここで何が起こっているか……を」

 

そこから、シグナムはポツポツと答えて言った。

 

闇の書の覚醒のこと

 

 

 

主がはやてだということ

 

 

 

 

魔力蒐集の真の目的とこれまでの経緯

 

 

 

 

そして、呪いのことも……

 

 

 

 

 

 

全てを聞き終えたプレシアは少し思案してから言った。

 

「まさか……第一級指定遺失物があんな小さな子に……そう……あの子を助けるために私を……」

「はい、言い訳にしかなりませんが、こうするほか仕方なかったのです……ですが、詫びさせてください。あなたのご息女にまで危害を加えてしまいました」

 

騎士体質のシグナムはさっきまでずっと悔やんでいた。

 

闇討ち紛いなことをして関係の無い者に恐怖を与えているのだから。

 

こんな騎士道にあるまじき行為にシグナムは心を痛めていた。

 

だが、プレシアは穏やかな表情で以てシグナムの前に立った。

 

「いいのよ、あなたの気持ちは痛いほど分かるわ……愛する者を守りたくてやったことを咎めることなんて私にはできないわ」

「で、ですが……」

「いいの、あなたはかつての私そのもの……だけど、あなたは私と違ってちゃんと進むべき道が見えている……」

「……」

「だから、私だけはあなたの行為を咎めることはしないから……一つだけ約束してちょうだい」

「はっ、何でしょうか?」

 

プレシアは聖母のような眼差しでシグナムに言った。

 

「あの子を……はやてちゃんを守ってあげて……大切な人を守ってあげて」

 

その一言に、シグナムは驚き、そして、感謝した。

 

「はい……誓います」

 

家族愛

 

たった一つのシンパシーだけでもここまで心が通じ合うものなのだろうか。

 

それは、この二人だけが知っていることである。

 

その一部始終を見せつけられ、意外と口を挟めなくなっていたカリフはやっとプレシアに問う。

 

「そうは言うがお前よぉ……フェイトとはどうする気だ?」

「……」

 

そう、プレシア自身も考えている課題が未だに残っているのだった。

 

「アリシアの蘇生にも心当たりはある……聞こうと思っていたけどもう過ぎたことだからどうでもいい。問題はこれからだ」

「そ、それは……」

 

問い詰めるような形になっている二人の間にシグナムが聞いた。

 

「待て、先程のフェイトと名は一体……」

「こいつの実名はプレシア・テスタロッサ……どこか同じに思わんか?」

「テスタロッサ……まさか親族の方でしたか……」

 

その問いにプレシアは自嘲の笑みを浮かべる。

 

「……親族ね。そう言えたらどれだけ気が楽か……」

 

自分に対する皮肉から、シグナムもその親子の家庭内事情をなんとなく悟り、シグナムも口を挟めなくなった。

 

そんな時だった。

 

「お?」

 

カリフは自分の携帯が震えていることに気付いた。

 

マナーモードにしていた携帯を名前の確認もせずに取る。

 

「もしもし」

 

いつもの軽い感じで言うと、電話の向こう側から相反するような重い声が返ってきた。

 

『カリフ……今すぐに僕たちのマンションへ来るんだ……確かめたいことがある』

「クロノか……今は飯の時間と知っての物言いか? それは」

 

いつものように上からの目線で語るが、返ってきたのは意外にも沈痛の一言だった。

 

『今すぐだ……真実を……君の真意を知りたい』

 

いつもと違う雰囲気にカリフは真顔になり、冗談を止めた。

 

「いいだろう。すぐに向かってやる」

『あぁ……そうしてくれ』

 

そうとだけ言うと携帯は唐突に切れた。

 

ツーツーとなる携帯を握って溜息を吐いた。

 

「シグナム……詫びなければならんようだ」

「? 何かあったのか?」

「あぁ……多分だけど……」

 

カリフは少し困ったような表情で笑いながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「内通してんのバレちゃった」

「……へ?」

 

まさかのぶっ飛び発言にシグナムは思わず卒倒しそうなくらいの眩暈に襲われたのだった。

 

「な、なんなの……?」

 

プレシアだけは未だに状況を把握できなかった……

 

 

連絡を受けたカリフは寒空の下で一瞬の内にフェイトたちのいるマンションの前へとやってきた。

 

カリフはいつもと同じように、まるで忘れ物を取りに学校へ来たような感覚だった。

 

だが、クロノの声質からいって只事では無いことは確かだった。

 

最初の内はシグナムを含めた騎士全員は心配していたが、鬱陶しいから付いてくるなの一言で渋々納得させた。

 

「オレはマゾじゃねえっつーの」

 

これから罵倒の言葉が自分に投げつけられるのだろうと予測したカリフは耳をほじって辟易していた。

 

だが、事を荒立てはしない。

 

相手は約束を契った相手だから、殺すわけにはいかない。

 

黙らせることはするだろうけど。

 

「ちゃっちゃと終わらせて帰るか」

 

そう言いながら、フェイトたちがいると思われる部屋のベランダへと足で跳躍して跳び移った。

 

驚異的なジャンプをしたカリフはベランダの窓を開けて明りの付いている部屋の中へと入ると……

 

「お邪魔」

「……」

 

沈痛な面持ちで待ち構えていたクロノ、それになのはやフェイトたちが勢ぞろいしていた。

 

カリフは至っていつも通りのスタンスで会釈するも、クロノたちはいつものように突っ込むこともせず、険しい表情でカリフを見ている。

 

部屋の中へと自分のペースで上がり込んだカリフは一息吐いた後、沈黙を続けるメンバーに言い放った。

 

「それで? 何か用かな?」

 

何でも無いかのように振る舞うカリフにリンディはソファーから立ち上がり、ストレートに聞いた。

 

「あなたは回りくどいことが嫌いますから単刀直入に聞きます……今から見せる映像のことを教えてくれますか?」

 

いつものようなくだけた感じではなく、その口調はまるで真実を問い詰めるような事務的……いや、もはや取り調べのように有無を言わせない感じのそれだった。

 

カリフは空中の出てくるモニターに映る映像を目にして眉を顰めた。

 

「……」

 

その自分とプレシアの映る映像を目にして……

 

「この写真は匿名ですが、特殊な加工をされた形跡もありません。日付の今日の、しかもあなたの今着ている服と同じ……

「……」

「この写真も正規ルートではなく充分に怪しい物……ですが、私たちはこれの審議を明らかにする義務もあります」

「……」

「この時間帯にあなたに応援要請を出したのですが、携帯に応答はありませんでした……だけどこの映像からなら納得もしますし、辻褄も合う……なにか異論はありますか?」

「ふあ~……」

 

リンディの止めの一言にカリフは能天気に首筋を掻いて欠伸をした。

 

「カリフくん……本当……なの?」

「なぜオレがプライベートに首を突っ込まれなければならんのだ? このまま黙秘しても構わんだろ?」

 

なのはの必死な問いかけにカリフはのらりくらりといやらしく笑いながら受け流す。

 

だが、それはあまりに無茶な頼みであり、誰もが望んでいなかった。

 

一人の少女は特に顕著だった。

 

「お願いカリフ……答えて……」

「……」

「これ……嘘だよね?……これは何かの間違いだよね……? そうでしょ?」

「……」

「なんとか言ってよ!!」

 

フェイトからの声を震わせながらの質問に沈黙を続けていたが、我慢できなくなったフェイトが思いの丈を叫んだ。

 

無理も無い

 

母親の一件は未だにフェイトの中のしこりとなって残っている。

 

そのため、普段は温厚な彼女も『こんなはずじゃなかった』現実の再来によって心をグチャグチャに乱されていた。

 

「カリフは……私たちの味方だよね……でしょ?」

「カリフ……間違いなら間違いって言っておくれよ……こんな写真よりもあんたのことを信じるから……なんとか言っておくれよ……」

 

アルフも悲しそうにしながらもカリフの無実を信じる。

 

二人はカリフに助けてもらい、寝食を共にしてきた。

 

だからこそ二人は信じたかった。

 

目の前で何も言わぬ少年がやましいことなどしていないと……自分たちの味方だと……

 

周りの皆も同じ様に彼の無実を望んでいた。

 

「……」

 

そこまで熱烈な視線と真剣な態度にあてられたカリフはここで黙秘を続けることは彼女たちへの失礼にあたるとして、やっとその重い口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「そうだ。その写真は偽りのない真実……オレはその時にプレシアと接触した」

「……え?」

 

カリフの言葉にフェイトの声が漏れた。

 

(今……なんて……訳が分からないよ……)

 

現実を否定するかのように頭の中でさっき聞いた記憶を塗り替えようとしていたのだが、それも無駄に終わった。

 

「言った通りだ。オレはプレシアと今日初めて対面したのだ。そしてさっきまで奴と一緒にいた。これで満足か?」

 

だが、カリフは堂々と全てを話した。嘘偽りのない、彼女たちが恐れていた事実を……

 

彼は臆面も無く公表した。

 

いつも通りふんぞり返るカリフにクロノは怒りを抑えようともせずにカリフにがなりたてた。

 

「君は……君はなんてことをしているんだ!! よりにもよってなのはたちが戦っている時に……!」

「るせえよ。てめえ等にとやかく言われる筋合いはない。聞きたいことがあるって言われて来てみれば……いい加減にしてもらおう。オレのやることにちょっかい出しやがって」

「で、でも! プレシアは犯罪者なんだよ!! そんな彼女がカリフくんと繋がっているとしたら……!」

「うるせーなぁ。力づくってか? やるならやってみろよ。すぐに全員を病院送りにしてやるからな」

 

全く反省の色を見せないカリフに全員が険しい色を見せ始めた。

 

「それに、お前たちはプレシアに手出しできないでいる……」

「……」

「だからオレを呼んだんだろう?……もうお前等には奴を……プレシアを裁くなんてことはできねえからな」

「そ、それは……」

 

エイミィはカリフの一言に言葉を詰まらせた。

 

「お前等はもう奴が死んだことを報告……もしくはその瞬間を映した資料を管理局に送ったのだろう? 幾ら管理局が傲慢でも『死者』を裁く権利などないからなぁ」

「だが、彼女は生きている! そして君はプレシアと接触している!! それが問題なんだ!」

 

クロノの一言にカリフは鼻で一笑する。

 

「だからなんだ? 貴様等がお得意の『法律』など既に無に帰している……これは貴様等の立ち入れる領域じゃないんだよ」

「くっ!」

「この際だから言っておこう! オレはお前たちよりも強い! この意味が分かるか!?」

「それが……なんだと……」

「この世は弱肉強食!! 何をしようが強者は許され、弱者は駒にされるだけ!! 誰を生かそうが殺そうが強者の思いのまま、だが弱者はそのルールに従うしかないつまり!!! オレは何しようが……全て許されるべきなんだ!!」

 

カリフは一息入れ、大きく息を吸って吐き捨てた。

 

あまりに傲慢、他の人の意見を無視した自身絶対説に全員からはもう怒りも悲しみさえも超越した何かが感じられた。

 

「っ……!!」

 

その瞬間、我慢できなくなったアルフは怒りの形相でカリフに渾身の一撃を振り抜いた。

 

だが、カリフはそれを小手先で受け流した後、アルフの首筋を掴んで引き寄せた。

 

「がふ!」

「アルフさん!!」

 

胸倉を掴まれた苦しさに苦悶の声を洩らすアルフになのはは悲痛な叫びを発した。

 

対して、カリフはアルフの胸倉を掴んで感心したように言った。

 

「今のは今まででいい一撃だったぞ? 重心の置き方、的確な急所狙い、そして何より、いい殺気を放っていた」

「だ……黙れ……!!」

 

アルフは首を絞められながらもカリフの腕を爪を立てて力強く掴んだ。

 

「あたしたちは……フェイトやあたしはあんたを信じてたんだ……あんたはあんたのままだって……プレシアとはなんの関係も無いって……! それなのに……! フェイトや……あたし等を騙して許されるべきだと……そんなふざけるた話があるかい!!」

「教えろと言ってわめき散らし、教えてやれば駄々をこねる……オレと似て中々の我儘っぷりだ。お前のそういうところが好きだぞ?」

「げ……」

「んん~? 何か言ったか?」

「外道っ!」

 

呼吸ができないアルフは必死にカリフの腕を引っ掻いたり顔を蹴ろうともがくが、腕は固く、狼の爪など受け付けない。アルフの悔しさの蹴りなどカリフはたやすく避ける。

 

それが逆にアルフを逆撫でする。

 

「一つ盛大に勘違いしている……オレはオレのままだ。オレは何一つ、変わっちゃいないのさ」

「か……か……」

 

そろそろ危ないと思ったカリフはアルフをソファーへと投げて離す。

 

なのはたちはアルフに駆け寄って介抱し、カリフを睨みつけた。

 

「酷い……最低だよ……カリフくん」

「なのはと同意見だ……君はもっと義に篤い奴だと思っていたけれど……見損なった」

 

なのはとクロノからの罵倒にもカリフは満面の笑みで答えた。

 

「それは違う。お前たちはオレという人物を理解できなかった……それだけだ」

 

その一言に周りの空気が重くなるのを感じた。

 

「話は終わりか? ならオレももう一つ真実を教えてやろうか?」

「……なんだと?」

「プレシアのことだ。奴はフェイトを嫌っているって言っているがな……本当は……」

 

ここまでバレたのならもう隠す必要はない。

 

カリフは今のプレシアの心境、そしてプレシアの本心をこの場で語ろうとした。

 

ここまで真実を話したなら最後までいこう……

 

そして、プレシアを……

 

そう思って口を開いた時だった。

 

 

 

 

 

「止めてっ!!!」

『!!』

 

突然の金切り声……尋常じゃない感情の衝動にカリフを含めた全員は驚愕した。

 

カリフですら驚愕させるほどの感情の爆発があった場所へ目を向けると、そこには大量の涙を溢れさせたフェイトが床に膝を付いていた。

 

「もう……聞きたくない……」

「……フェイト……プレシアはな……」

「喋らないで!! もう何も聞きたくない!! カリフの声なんて聞きたくない!!」

 

カリフの声そのものを拒絶してフェイトは耳を手で塞いだ。

 

「もうやだ……カリフも母さんみたいに私をいらない子だって見捨てて……捨てられて……私たちを騙して……」

「フェイト……」

「カリフなんて嫌い……大っ嫌い……もう声も……聞きたくない……」

 

今まで抑えていたフェイトの感情は本人も望まないほどの拒絶をカリフにぶつけた。

 

目に光を失い、絶望を思い知らされた少女からの呪詛

 

年端もいかない、甘えたい盛りの少女が受けた『裏切り』という名の傷の捌け口にされたカリフは何も言えなかった。

 

カリフは相手の心理に対しても神がかり的なほど敏感だ。

 

だからこそ、理解した……フェイトの悲しみを。

 

そして、納得した……自分のあり方を。

 

「……なら望み通り何も言わない……お前たちに言うことなど何もない……」

 

そう言ってベランダに出て、手すりの上に立った。

 

そして、皆がこっちを見ている中、カリフは静かに言った。

 

「あばよ……」

 

そう言ってカリフはベランダから飛び降り、舞空術で夜空へと飛びたった。

 

それを追う者は一人もいない。

 

もう、追っても意味は無いと悟ったからこそだった。

 

(カリフ……君は……)

 

その中でもユーノだけは皆と違っていた。

 

彼はカリフの真意を計りかねていた。

 

(君は一体……どこへ向かおうとしているんだ……)

 

闇の書の主の救出……カリフの真の行動原理から、ユーノは未だにカリフの黄金の魂を確信している。

 

(だが、このままでいいのか? これ以上進めば彼は……間違いなく孤独になる……)

 

ユーノは何もできない自分に嫌気がさした。

 

友一人助けることも庇うこともできない。

 

だけど、今それをしたらカリフの気持ちを無碍にしてしまうことになる。

 

カリフは真に信用する者にしか頼みごとをしない。

 

ユーノの信用を裏切りたくないという気持ちが彼を踏みとどまらせた。

 

(ごめんカリフ……僕は……君のように強くなれないよ……)

 

ユーノは人知れず、拳を握りしめて己の非力さを恨むのだった。

 

 

 

 

海鳴市の外れの山の麓

 

カリフは木の枝の上に寝そべって夜空を見上げていた。

 

「オレとしたことが……プレシアに便宜を図ろうなどとセンチになって……血迷ったな……」

 

あの時のことを思い返してみれば、自分の行動は異常だった。

 

なぜ、自分はプレシアの無実を証明したかったのだろうか……

 

自分には何の得も無い……意味の無い行動であり、愚かなことだった。

 

そして、許せなかったのは、無意識的に自分は己の『潔白』を証明しようとしていたことだった。

 

なんのため?

 

嫌われたくないから?

 

そうだとしたら、なんと下らないことか……

 

「ここに来て……オレの心も弱くなってしまったのか……? あんたもこんな感じだったのか……ベジータ……」

 

かつての育ての親に思いを馳せる。

 

かつては傍若無人、気に入らない者を殺し尽くし、略奪を繰り返してきたサイヤ人の王……ベジータ

 

そんな彼は王だったときの心を失くし、平和に埋没した原因が地球に住みついたことだと考えていた。

 

彼から一度だけ聞いた自嘲ともとれる昔話を今更ながらに思い出していた。

 

「『穏やかになっていく自分が許せない』……か」

 

寝転がっていた体は動くこと無く、ただ、雲に隠れた月を眺めていた。

 

「今ならあんたの言葉が理解できるよ……『親父』……オレもだよ……オレも自分が許せないと思っている……」

 

そして、自分の『弱さ』、ベジータの『強さ』を感じさせられた。

 

父親との未だ埋められぬ『差』を思い知らされていた。

 

「オレはやっぱりガキだった……あんたのことが羨ましくなるように……嫉妬している……ただのクソガキだ……」

 

結局、自分はガキだった。

 

なのはやフェイトのことなど言えた義理じゃない。

 

自分も『弱さ』を受け入れるのに躊躇っていた。

 

「人のこと言えない……本当に『覚悟』、『勇気』がなかったのは……」

 

夜空を見上げて言ったカリフはふと思った。

 

「オレかもしれないな……」

 

この日の夜空だけは少しだけ優しい……と


 
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