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魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 三十六話

エンカウント・引かれ合う者たち

2012-07-22 19:13:38 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2168   閲覧ユーザー数:2097

この時、ユーノは大いに動揺していた。

 

「えっと……なんて?」

「言っただろう? もう一度聞けば引きちぎるぞ?」

 

何を? と聞きたかったが、それどころじゃない。

 

カリフはさも当たり前……一般常識を教えるように言った。

 

「これからお前には危険な橋を渡ってもらう。オレと共にな」

 

間違いなく……死刑宣告だった。

 

 

 

 

 

 

 

「え、えっと……理由を聞いても?」

 

ユーノは今にも逃げ出したい衝動を必死に抑えて体を震わせていた。

 

しかし、カリフは不敵に笑って言った。

 

「そいつらには恩がある。それを返すためにも必要なことだ」

「そ、それで僕にどうしろと?」

 

声が上ずってマヌケに見えるユーノにカリフは言った。

 

「簡単だ。オレの言う内容のことを詳しく調べろ……それの対処法を主にな」

「ど、どんな内容を……?」

「……闇の書と言えばいいか?」

「!?」

 

カリフの口から出てきたまさかの一言にユーノは目を見開く。

 

「そして、オレは恩を返したい……奴がいる……」

 

カリフは欠伸をしながら言った。

 

「今の闇の書の主の八神はやてにな」

 

今回の事件の核心となる内容を堂々と告げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、カリフはリンディのはからいで地上に戻され、八神家に帰ったのだが……

 

「はぁ!? 何考えてんだお前!! もが!」

 

突然、叫ぶヴィータの顔を押さえて黙らせる。

 

だが、他の面子はヴィータと同じ意見のようであり、表情を引き攣らせていた。

 

「か、管理局に喋ったのか……? 我等のことを……!?」

「静かにしろ。はやてはまだ寝てんだろ?」

「「「「……」」」」

 

朝の五時くらいに合流したカリフは管理局でやったことを全て話した。

 

全てが騎士たちの予想をあらゆる意味で裏切るような内容だったが……

 

「スパイ……か、確かに管理局の力を利用できるのは大きい……」

「だけどその人は信用できるの?」

 

ザフィーラとシャマルの心配にカリフは欠伸をしながら返した。

 

「大丈夫大丈夫、たしか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あの、僕に拒否権は?』

『特にない』

『……もし断ったら?』

『記憶を排除する。なに、心配はない。多少頭の形が変わっても死ななければ問題は無い』

『……』

 

 

 

 

 

 

「あれだけ言えば大丈夫だろう。『バラしたらお前も道連れ』って釘は刺した」

「あ、悪魔だ……」

「もっと褒めて褒めて」

 

騎士たちはそのスパイ役に選ばれた名も知らない局員に合掌していると、カリフはおもむろに立ち上がる。

 

「さて、そろそろ行くとするか」

「? どこにだ?」

「知り合いの家だ。ケーキと引っ越しの手伝いという等価交換を払った」

「そうか……」

「んじゃ」

 

嬉々として告げるカリフはその時だけ、年相応の子供に見えた。

 

ただ単に食い気が原因かもしれないが、カリフもよく考えればはやてと同じ歳。

 

それなのに、なぜこんな戦いに巻き込まれたのか……そこら辺が謎だった。

 

(……話でも聞ければいいのだが……)

 

シグナムはそう思いながらソファーにもたれかかって仮眠に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、時間が経って昼下がりのことだった。

 

「わぁ……私ん家とちかーい!」

「本当?」

「うん!」

 

新しいとされるマンションになのはとフェイトがベランダではしゃいでる。

 

話によると、フェイトは元々から裁判が終わればこの世界でなのはと過ごしたかったという。

 

そして、その願いが今日叶ったというわけだった。

 

今日はそんなフェイトの引っ越しの日であった。

 

そんな所へ荷物を持ってきたのは……

 

「おいリンディ、これはどこだ?」

「あぁ、それはリビングに置いといて」

「そら!」

「荷物は投げないでね頼むから」

 

カリフが全面的に一人で行っている。

 

そんな姿を見てなのはとフェイトが申し訳なさそうに謝る。

 

「あの、カリフ……ごめんね」

「私もなにか手伝いたいんだけど……」

「いらん」

 

だが、そんな二人の申し出をバッサリ切り捨てた。

 

「これくらいはオレ一人の方が速く終わる……お前等は力弱くて何もできねえからな」

「そのバカ力を有効活用できる場だ。こんな時くらい人の役に立ったらどうだ?」

「ふん、力もひょろっちい、戦闘もオレに勝てない、だけど態度だけはでかいな……どこぞのネズミのクソにすら劣る存在はこれだから嫌なんだ」

「おい! それは僕のことうわぁ!」

 

怒鳴り散らすクロノを冷蔵庫の中に押し込み、ガムテープで瞬時にぐるぐる巻きにするカリフに皆は苦笑する。

 

『おいこら出せ!!』

「出して欲しければ『ハッピーうれピーよろピクねー、弱過ぎて困っちゃうテヘペロ♪』って十回聞こえるように言え! てめえが弱いって自覚して周りに連呼しろバカヤロー!!」

『ふざけるな! そんなみっともないことできるか!』

 

カリフは冷蔵庫の扉を壁側に向けて設置し、無視する。

 

中からドンドンと抵抗する声が聞こえてくる。

 

『おい? 待て、冗談は止せ! 今すぐここから出せ!』

(相変わらずの外道だね~……)

(クロノも無理に対抗しないほうがいいのに……)

 

今や仔犬状態のアルフとフェレット状態のユーノがくろのたちに突っ込んでいる中、中から声が聞こえてくる冷蔵庫をガン無視してカリフが残り少ない家具を持ってこようとドアを開けた時だった。

 

「あ」

「え?」

「ん?」

 

そこには同い年くらいの二人の少女が立っていた。

 

「ど、どうも……」

「こんにちは……」

「……ちわ」

 

カリフはそんなことお構いなしに軽く挨拶して再び降りていく。

 

そんなカリフに首を傾げていると、そこへなのはがやって来た。

 

「あ、アリサちゃん、すずかちゃん」

「なのは!」

「なのはちゃん!」

 

二人は嬉しそうに笑って挨拶を交わす。

 

そんな時、フェイトがなのはの後ろから顔を出す。

 

「あ! フェイトちゃんいい所に」

「なのは、それと……」

 

アリサとすずかを見ると、二人共手を振ってくる。

 

「初めまして……かな?」

「ビデオメールじゃ会ってる何度も会ってるけど……なんだか不思議だわ」

 

以前よりなのははアリサやすずかをフェイトへのビデオメールに誘って送っていた。

 

それで互いに顔だけは知っているということだ。

 

そう話していると、そこへカリフが戻って来た。

 

「あ、カリフ。荷物は?」

「もう無かった」

「そう、ありがとう」

 

フェイトが優しげにカリフと話していると、急にアリサがフェイトとアリサの間に割り込んできた。

 

「あんただれ? もしかしてなのはの言ってたカリフって名前?」

「……」

 

オレのことをまた面倒そうな奴に教えたな? と半目で睨むと、なのはも手を合わせて謝る仕草を見せた。

 

別にばれてもどうということはないのだが……

 

「お前は?」

「私はアリサ、アリサ・バニングスよ。で、こっちが……」

「すずかです。月村すずか」

「……カリフだ」

 

名乗ってきた以上、こっちも名乗らねばならないと思って返すと二人は笑って迎えてくれた。

 

「で、その月村とアサリ・バーニングスとかがどうした?」

「って待ちなさい! なんでいきなり名前を間違えるの!? 目の前で名乗って間違えるってなに!?」

「アサリ・バーニングス……なんて美味そうな名前なことか……」

「あぁごめん気付かなかったわ。あんた私に喧嘩売ってるのよね? いいわよやってやろうじゃないの」

「あ、アリサちゃん……」

「落ち着いて落ち着いて」

「これはカリフなりの冗談だから、ね?」

 

拳をポキポキと鳴らすアリサをすずか、なのは、フェイトが宥める。

 

「まったく、ジョークの一つも碌に返せないのか? そんなんで嫁に行けるのか?」

「余計なお世話よ!!」

 

ウガーと唸るアリサを無視してカリフは玄関へとやってくるリンディに気付いて時間を聞く。

 

「今、何時だ? できれば昼の三時くらいに終わらせたい」

「あら? なにか用があるの?」

「水戸○門の再放送だ。絶対に見逃す訳にはいかん! 今日の深夜にはカ○ジもあるから」

「水戸○門とカ○ジ? 最初の方は知ってるけど後のは知らないなぁ……カリフくんって水戸○門好きなの?」

 

ここですずかもカリフに話しかけると、カリフは当然のように言った。

 

「そりゃそうさ。小物悪党が長年、綿密に重ねてきた計画をどこの馬の骨かも分からない奴に邪魔され、そして計画破綻に絶望する。そこへ追い討ちの紋所を見せびらかして国家権力で徹底的に失墜させられる所なんか爆笑モンでさぁ。あの脚本書いた人は天才だわ」

「そ、そう……なんだ……」

「なんて歪んだ楽しみ方……ていうか根本的に間違えてる……」

 

会って間もない二人だが、なんとなくカリフの性格が分かった。

 

相当に自分たちとは違うカリフに少なからず戸惑っていると、そこへリンディが提案する。

 

「まあ、話はなのはさんのお宅でしませんこと? 私も挨拶に行きたいし」

「あ、そうですね。そうしましょうよ」

 

後ろからさらに出てきたエイミィも同調すると、カリフも含めて満場一致で首を縦に振る。

 

『ハッピーうれピーよろピクねー、弱過ぎて困っちゃうテヘペロ! ハッピーうれピーよろピクねー、弱過ぎて困っちゃうテヘペロ!』

「もっとだクロノ頑張れクロノお前はやればできる子だクロノ感情をこめろクロノー」

 

奥からガタガタと物音と共にヤケクソ気味な声が聞こえてくる。

 

それに対してカリフは大声で心と感情の無いエールを送る。

 

それに対してリンディも乾いた笑みを浮かべる。

 

「……まずはクロノを介抱してちょうだい……」

「あはははは……」

「あ~……」

 

なのはとフェイト、他の面子も苦笑していたことは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

場所も変わり、翠屋のオープンテラスでフェイト、なのは、すずか、アリサ、カリフが席に座ってケーキに舌鼓を打ち、すずかとアリサは獣体型になったユーノとアルフを抱きかかえている。

 

「ユーノくん久しぶり~」

「赤い犬か~、結構珍しいわよね?」

 

カリフは相変わらずケーキとコーヒーに思い馳せていると、そこへフェイトたちに近付く影があった。

 

「やあ、フェイトちゃん」

「あ、こんにちは」

 

律儀に返すフェイトだが、すぐにアースラスタッフだと分かった。そして、その人が何か小包を渡してきた。

 

不思議そうにしながらも受け取り、スタッフが首を縦にふったのを確認して小包を開ける。

 

すると、そこには……

 

「あら、やっと届いたのね」

「リンディてい……リンディさんこれって……」

 

フェイトが小包の中を確認するように聞くと、リンディの後ろから士朗と桃子が嬉しそうに言ってきた。

 

「へぇ、フェイトちゃんも聖祥学校に行くのかい? あそこはいい所だぞ~」

「明日からなのはさんと同じクラスになるのよね?」

「フェイトちゃん!」

 

なのはが嬉しそうにフェイトを見ると、フェイトも嬉しそうに聖祥学校の制服の入った小包を嬉しそうに、そして照れくさそうに抱きしめる。

 

「あの……ありがとうございます……」

 

そんな微笑ましい光景にリンディはテーブルで一息つくカリフに溜息を洩らした。

 

「あなたはいいの? 学校」

「さあね、行く必要も無ければ目的も無い。今はバイト優先だ」

「だけど……」

「しつこいぞ、オレに指図するか? オレの生き方にケチをつけるか? 学校に行かない奴がそんなに憐れか? オレの生き方に茶々を入れるな」

 

あまりにトゲのある言葉にリンディも何も言えなくなってしまうが、それを聞いていたアリサが納得いかないように言った。

 

「そんなこと言わないで来てみたらいいじゃない。案外楽しいわよ?」

「それを決めるのもオレだ。今は必要ない」

「あんたねぇ……学校は今しか行けないのよ? あんたのお父さんやお母さんは子供に学校にも行かせないわけ?」

 

その時、リンディたちカリフの事情を知っている者が慌てた表情になるが、カリフはさらに衝撃的な事実を告白した。

 

「死んだよ。とうの昔にな」

「……え?」

 

その答えにアリサやすずかはもちろん、カリフが次元漂流者だとしか知っているなのはたちも衝撃を受けた。

 

「オレを生んだ父も、血を分けた兄も、オレを育てた父も母も、義理の弟たちも、オレを鍛えた師も、それに連なるオレを知る者は皆死んだよ……とうの昔にな」

「そ、そうか……」

 

話を聞くに、彼の家庭事情は複雑だったのだろう……生みの親と育ての親が彼にはいた。

 

だけど、その両方が死に、さらには彼を知ることごとくが死んだという。

 

そして、この話に最も衝撃を受けたのはリンディを中心としたアースラ組だった。

 

普段は悪ふざけや突飛のない行動を繰り返すが、その影には今の自分たちには想像もできないほどの過去があった。

 

元の世界で親密な人と死別し、さらには別の世界に孤独になって来たのだから……

 

だが、そんな壮絶な過去を背負っている本人はそのことを何とも思っていない。

 

「皆死んだ……だからこそオレは彼等から賜ったこの“命”を全うしなければならない……恩を、奇妙な愛着に似た何かを抱いていたのなら尚更な……」

「……それできみは平気なのかい? 彼らを忘れようと思ったことは?」

 

堪らずに士朗が言うと、カリフは時計を確認して予定の時間が迫っていると分かればその場から立ち上がる。

 

「忘れるなんてことはできない……絶対にしない……去ってしまった者たちから受け継いだものは、さらに『先』に進めなくてはならない……忘れることは奴らを裏切ることになるからな……」

「……そうか」

 

士朗はこの少年に軽い畏怖を抱いた。

 

自分の娘と歳は違わないはずなのに、自分のこれまでの命、出来事、親たちのことを恥ずかしがるどころか自信に満ちた顔で話した。

 

そこには先人へのリスペクトをそこに見て、そのために今を生きている。

 

一際目立つのは彼の目の『光』だ。

 

今の社会にもういないとされているほど神々しく、それでいて力強い黄金の輝きを見た。

 

(ここで、こんな少年に会えるとは……)

 

高町士朗は自分よりも年下の男の子に畏怖を、敬意を、憧れを抱いた。

 

もし、彼が士朗に命令を下したらそれに抗えないほどに……

 

そんな士朗の気持ちを察することなく、カリフはテーブルに金を置いた。

 

「釣りはいらね、もう帰るから」

 

そう言いながら何事も無かったように、彼は翠屋から離れて行ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周りの環境に変化が見られ始めている中、事態は動きだす。

 

「お母さん、今日のご飯はなにー?」

「アリシアは食いしんぼうさんね。今日はシチューよ」

「やったー!」

 

まだ、誰も気付かない。

 

「前にこの街で巨大な魔力を纏う人間が見つかった」

「今回はその人を捕まえましょう?」

「わかった!」

「張り切り過ぎて空周りするなよ? ヴィータ」

「うっせー!」

 

彼らの間には既に『引力』があり……

 

「……この気どっかで感じたな……どこだっけ?」

 

彼等は再び集結することに……まだ気付けない。


 
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