三話
「疾っ!」
「ギャアァァ……!」
転移陣でオルグレン爺さんの焦った声を聞いてから早一週間が過ぎた。いきなりすぎているだろうとは思うが、それだけ大変だったのだから仕方がない。
まず第一に、俺が転移によって飛ばされた場所はオルグレン爺さんが言っていた場所ではなかった。彼の話だと海が近いとの事だったはずが、俺の周り一面に広がるのは岩・岩・岩!たまにある開けた場所には断崖絶壁に加えてその下には溶岩らしき物がドロドロと流れている。しかも溶岩の滝なんて物もあって、暑いし眩しいしでどうにもならないけども、このおかげで周りの明るさが保たれているのだから何とも言えない……というか、どう考えても話に出てた地下回廊だ。
「ぬんっ!」
「グぺぁっ!」
更に、この地下回廊はどういうわけかひっきりなしに知識の中にある魔物と呼ばれるヤツらが襲いかかってくる。最初はそうでもなかったんだが、探索と出口調査のために進むたびに数が増えていった。今じゃあろくに寝る暇も無い。おかげで現在進行形で徹夜中だ。しかも2徹目。能力でドラッグオンドラグーンに出てくる青いラインの入ったハンドガード付きの長剣であるカイムの剣をレベル1の状態で出して、先程から鎧を着込んだ肌が真っ赤でしわだらけの醜悪な顔立ちの人型の魔物を斬り捨てている最中だ。殺しがどうこうとか言うことはない。ヤツらは俺を殺そうとしていて、俺は死にたくない。だから殺す。完膚なきまでに、例えヤツらが人間であったとしてもそれは変わることはない。
「カァッ!!」
「ぎゃっ」
返り血を全身に浴びながら他よりも豪勢な鎧と頭部に一本の角のような物が付いた兜を着た指揮官っぽいのの首を斬り落とす。こいつらの名前や種類は知らないが、どうやら軍隊のような階級制度らしい。さっきから部隊長のようなヤツやこの指揮官っぽいのが指示を出してたみたいだし。当然、何を言っているかはさっぱりだったけれども。
「はぁ……はぁ……ふぅ~」
さっきのヤツで今回は最後だったみたいで、気配探知をしたあとに息をつく。今回合計で50強……ヤツらは人間の軍隊のように陣形を組んで来ないだけまだ良いと言える。鎧を着込み、自分たちで作ったのか奪ったのか、剣や槍と多彩な武器を持つ。一度だけ行軍?途中のヤツらを隠れて見た時は、精神的な疲れもあってかなりげんなりしたものだ。だって亜種らしき2m以上はあるだろう重装備で固めたヤツも何体かいたんだからな。数も下手すれば200はくだらなかったし、本当に手を出さないで良かったと思う。
「……眠れ、安らかに」
さて、とにもかくにも戦闘は終わったから剥ぎ取りを開始しよう。これはこいつらをちゃんと殺しましたよという証明的な意味合いだ。これがあればもし何かしら報酬がある場合、ガッツリ儲けられるからな。まずは死者に対する黙祷を捧げた後、剥ぎ取る指揮官と部隊長の死体はきっちり真っ直ぐにしてから死体の手を合わせる。そうしてもう一度祈りを捧げてから、とりあえず指揮官と部隊長の特徴的な兜を腕輪の中に取る。人数編成は一定だったから、隊長格だけ持っていれば大丈夫だろう。上手く取れなくて中に生首入ってるけど、そこは許容範囲としてもらいたい。
そして、死者への最低限の礼儀を取るのは当たり前の事だ。相手が生前どんなくそ野郎だったとしても、殺す理由と同じくこれは変わらない。アサシンクリードの中にもあるように、死んだらただの肉塊だがそれがどんなモノだろうと俺の行動と精神は変わらないだろう……俺はアイツとは違う。
剥ぎ取りを終えた俺はそそくさとその場を離れる。血の匂いが充満しているここにいつまでもいると、匂いに誘われて次のヤツらか別の魔物が来かねないからだ。一度入れ替わりと言っても過言ではないタイミングで来たから今は気をつけている。
「あ~あ、こりゃ着替えないとな……もう着れないか」
血まみれでボロボロの学ランを摘んでみて、ぼそりと呟いた。この一週間腕輪から出した下着とYシャツは着替えてたけど、学ランは変えてないというか変えれなかった。おそらく俺が着たまま来たからだろうと思う。着替え自体は一瞬で終わるから、大した手間はかからないがどこか寂しい所もある。正真正銘1つだけの俺のあの世界の思い出。たいしたものじゃないけど、それでもなんだかんだで着続けてきたのは俺にも未練があったのか、はたまた……どちらにせよ、こいつはもう使えない。血が染み渡りすぎているからだ。それにさっきの戦闘で余計ボロボロだし。
それから一時間ほど進んで開けた場所に出た俺は学ランを脱いで、流れている溶岩に投げた。これでもって前の世界への未練等を断ち切る意味も含めて、溶けて沈んでいく学ランを最後まで見続ける。そしてこの世界での生に改めて向き合う事を誓おう。これから俺はここで生きていき、ここで戦い、ここで死んでいこう。その過程でアイツが立ちふさがるというのなら、いやそうでなくともいつかは完膚なきまでに叩きのめし、アイツの周りの大切な物を全て壊したあと、ゆっくりと殺してやる。
「っらぁ!!」
「ぎゃっ!」
全てが沈み込んだのを確認すると同時に、振り向きざまにアサシンブレードでもって後ろに忍び寄っていた先程の赤い人型の魔物の喉を突き刺して、蹴り飛ばすことで抜く。見れば俺の着ていた学ランの匂いに誘われたのか、それか目立つ場所にいた俺をたまたま見つけたのかは知らないが、また50を超えるだろうヤツらが集まってきていた。
「これはこれは、感傷に浸る時間ももらえないとはね……」
ぼそりとつぶやいて、腕輪からYシャツと学校指定のスラックスからアサシンクリード2に出てくる真っ黒なフード付きローブにブーツ、肩宛て等を付けたアルタイルの鎧に切り替える。左肩には腕を隠す程度のマントが付いており、他にも腰に長剣、ブーツに短剣、他の場所には投げナイフと見事なまでに暗殺用装備ではあるが、すごく動きやすい。それに加えて氷属性と風属性の魔法によって魔導具のようにこの装備自体に簡易式の冷房の術式が付いているので暑さに関しては問題ない。なので俺は両手のアサシンブレードを出して、敵陣に駆ける。
「ハハハッ!」
喉元を突き、敵の攻撃を逆に利用して敵に攻撃し、武器を奪い、投げつけ、骨を砕き、頭を潰しながらとにかく殺しつくす。相手を殺す時の骨を砕き、肉を引き裂く感触がたまらない。上手く返り血を浴びずにくびり殺せた時はとてつもない達成感を感じる様になった。俺が壊れているとは思わない。この残忍性が元々の俺であると理解できる。きちんと理性もあるし、無差別にやることはない。頭の中はひどく冷静で、きちんと周りが見えている。でも、身体がたぎって笑いが止まらない。
「アハハハハハハハハハハハッ!!」
あぁ……楽しい。
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何かと不幸な人生をイケメンハーレムの友人のせいで送ってきた主人公、漣海人。しかも最後はその友人によって殺され、それを哀れんだ神達は力を与えて異世界へと飛ばしてくれた!!とにかく作者の好きなものを入れて書く小説です。技とか物とかそういう何でも出てくるような物やチートが苦手な方はご注意を。