No.457105

魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 二十二話

終わりと始まり

2012-07-22 00:00:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2359   閲覧ユーザー数:2256

「……」

「……」

「起きたか……」

「起きましたね……」

「あぁ~よかった~。気が付いたんだね?」

 

誰も何も言おうとしない、というより何を言えばいいのか分からないといった様子だ。

 

順になのは、ユーノが起きてクロノ、リンディとエイミィがすぐ傍で立ちすくんでいた。

 

なのはとユーノはベッドの上でキョロキョロと見回している所を見るに状況が分かっていない様子だった。

 

それに見かねてクロノが早々に話を進めた。

 

「君たちはカリフが金髪になったところは覚えているかい?」

「あぅ……はい」

「カリフさんが手から出した砲撃がジュエルシードを破壊したの。時の庭園も一緒にね」

「あの時に艦長とクロノくんもフェイトちゃんたちも気絶しちゃったんだけどね、カリフくんが全員をアースラの転送場所に運んでくれたの」

「え? じゃあカリフは……」

「彼ならフェイト・テスタロッサと一緒に独房にいるよ……周りの目が鬱陶しいって理由で……な」

 

独房という単語になのはは物騒なイメージしか浮かばず、クロノにフェイトの様子を窺う。

 

心配そうななのはを安心させるようにクロノは優しい笑いを見せる。

 

「心配しなくてもいい。フェイトの処遇なんだが、言い方は悪いけど彼女たちは道具として扱われていたからね。無罪とまではいかないけどできるだけ無罪に近い判決になるよう協力するよ」

「以前からクロノくんってば一人で徹夜で調べてたもんね」

「隠さず素直にそうすればいいのに」

「エイミィ!! 母さ…艦長!!」

 

エイミィとリンディの一言にクロノが顔を赤くさせて怒鳴る光景になのはは感激する。

 

そんな微笑ましい状況の中、なのははもう一人気になる人物を思い出した。

 

「そう言えばカリフくんはどうなるんですか?」

 

その一言に騒いでいたアースラ組の動きが止まり、それぞれが苦い顔で説明に困っていた。その様子になのはとユーノは顔を見合わせて首を傾げる。

 

そして、意を決してクロノが第一に口を開けた。

 

「彼は本来なら保護して元の世界を探してあげようと思ったんだが……」

「「?」」

「えっと……実はね……」

 

クロノが頭を抑えて溜息を吐く姿になのはとユーノは疑問に思うが、以外にもリンディが続けた。

 

「『生まれた世界に帰りたがる奴もいれば愛着も湧く奴もいるだろう…だが、オレにはそんな情など持ってはいない。それよりも重要なことはただ一つ、我が道を貫くだけだ』……と言って全面的な保護を断ったわ」

「……なんというか、すごいですね……」

「意味が分からない……」

「あはは……」

 

クロノも困惑しているようだが、あくまでも保護は本人の意思を尊重するものなので無理強いはできない。

 

あまりにカリフらしい答えに逆に納得してしまう自分にも呆れてしまう。

 

なのはの苦笑を余所にエイミィはこの状況を立ち直らせようと手を叩いて提案する。

 

「まずは食堂に行かない? なのはちゃんもユーノくんもお腹がすいたでしょ?」

「あ、そういえば……」

「まだお昼食べてなかったね……」

 

クロノもそこで復活の兆しを見せるようにいつも通りに振る舞う。

 

「それなら速く移動しよう。この時間になると混んでしまうからね」

「それじゃ、決まりね」

 

リンディが締めくくってなのはたちと共に食堂へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生々しいオリがついたアースラの収容室の一室では重い空気が流れていた。

 

「……」

「……」

 

フェイトとアルフは同じベッドの上に腰かけて黙りこんでいる。

 

「139……140……141……」

 

そして、その向かい側のベッドの上にはカリフが手錠をかけられたまま軽い腹筋を行っている。

 

そんな空気がしばらく続いた時……カリフは腹筋を止めてベッドに寝転がる。

 

そして告げた。

 

「プレシアは隠し通してはいたが、体に病を宿していた」

「え?……」

「……」

 

アルフは初めて聞いたようだが、フェイトは何も言わずに俯いていた。

 

「その様子からして知っていたようだな……毎日と言っていいほど顔を合わせて観察してたか……顔色を化粧で隠していたのがわざとらしかったか……まあ、もう終わったことだ……全てな……」

「……ねえカリフ……」

「ん?」

「私……生まれてもよかったのかな……」

「フェイト……」

 

俯くフェイトの言葉にアルフが悲痛に呼ぶ。唯一生きる目的であった拠り所を失ったフェイトにとって一番聞きたい答えでもある。

 

そんな答えにカリフは呆れるほどあっさりと答えた。

 

「生まれてくるのに罪とかそんなのがあるのか?」

 

ベッドから起き上がって降りる。

 

「生を受けた者たちにあるのは“生きる”という目的と願望しかなく、神もいなければ秩序も義務もない……できるのは自分らしく“生きる”という気持ちだけだ」

「……」

「そして、プレシアは“個”を重んじて生きて逝った……それだけさ」

「アタシらを捨てることが……かい?」

 

アルフは力無く言い、カリフはフェイトとアルフの間に腰かける。

 

「真意はもうだれにも分からん……だが、過程はどうあれお前等はプレシアに助けられたのだ」

「「え?」」

 

意外な一言に二人が俯いていた顔をカリフに向ける。

 

「クロノから聞いたんだがな、本来ならお前等は100年も200年も収容される大罪……だが、保存されたプレシアの証言からお前等の罪は大幅に軽減……無実スレスレまでいけるってよ」

「そ、それじゃあ……」

「つまりだ……プレシアの行動でお前等が助かったんだ。人は自分が生まれた理由を『他人を助けるため』と言う奴もいる」

「……」

「つまりは生まれた理由、意義があるとすれば、所詮は偶然、もしくは自分で行動して作りだすものなのだ。理由なんて生きてりゃ分かる」

 

そう言ってフェイトとアルフの首に腕を回す。

 

「そして、自分を押し殺すことはあまりよろしくない」

「な…なにを……」

「気付かないと思ったか? 何か溜めこみやがって……使い魔にも伝染するものなんだって?」

 

カリフの言葉にアルフを見ると、アルフは涙を流して震えていた。

 

「弱みをみせないことは生きる上で重要ではある。だが、場合によってはそれは毒ともなり得る……」

「……」

「強くなるために感情を爆発させることは……」

 

カリフの言葉にフェイトの瞳から

 

 

 

「罪でもなんでもない」

 

一筋の雫が零れた

 

「……ぐす…」

「……ヒック……グズ……」

 

アルフとフェイトはそれぞれカリフの胸に額を当てて嗚咽を漏らす。

 

「……感情を我慢してなにが楽しいんだか………」

 

カリフはそれ以降は何も語らず、ただそこに座っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、数十分が経つころにはフェイトもアルフも目を赤くさせながらもどこか清々しい表情でカリフから離れた。

 

そんな二人を見てカリフはニヒルな笑みを浮かべた。

 

「ほう、そんな顔もできるんだな」

「うん……でも、なんだかすっきりしちゃった」

「だろ?」

 

そんなカリフにフェイトとアルフが互いに顔を見合わせて笑う。

 

そこでフェイトが一言

 

「ありがとう」

「……」

 

その一言にカリフはつまらなさそうに溜息を吐いた。

 

「勘違いすんな。いつまでもグズグズと凹むお前等にイラついてただけだ」

「それでも、カリフの一言で私、自分を始められそうになったんだよ……」

「……ふん」

 

ベッドに寝転がってうつぶせになる。どこか拗ねたような、照れたような、ただ、カリフには珍しい“逃げ”の反応にフェイトとアルフは互いに笑い合う。

 

そんな微笑ましい光景の中、うつむいていたカリフが一言

 

「……減った」

「え?」

「なんか言った?」

 

声がベッドに相殺されて上手く聞き取れなかったカリフの言葉を聞き直そうとカリフを見た時だった。

 

「うわ!!」

「きゃあ!!」

 

突然、カリフの手錠が派手な音を立てて独りでに粉砕されるのにのけ反って驚く。

 

「……」

 

そして、カリフはもぞもぞと起き上がり、腕を回しながらオリの前に立ってオリを握ると……

 

「「……」」

 

ガコンと鈍い音を立てながらオリをまるで粘土のように折り曲げて人一人が通り抜けられるような穴を作った。二人は唖然としてその光景を眺める。

 

「これから食堂に向かうが、来るか?」

「……ていうかその前に聞いていいかい?」

「なんだ?」

「気になってたんだけど……なんでカリフだけ手錠を?」

「あれが無いと入れてくんなかった」

「これは脱走では?」

「違うな」

 

カリフはオリをくぐり抜けながら笑って答えた。

 

「これがオレの人生だよ」

 

これには二人も苦笑いを浮かべる。アルフも半ば諦めたのかカリフの後を追う様にオリを抜ける。

 

だが、フェイトは少し躊躇ってしまう。

 

(カリフ……私は……君のように強くなれるかな……)

 

カリフの背中に手を伸ばすが、途中で止まってしまう。

 

あの背中に届くのか、これからも付いて行っていいのか、一緒にいてくれるのか……様々な不安がフェイトの手を止める。

 

(君のように……自由に……)

 

自分の信念を貫けるのか、自分に正直でいられるのか……そう考えた

 

そして、彼女の手は徐々に退いていき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ」

 

カリフの手によって握られ、引っ張られるようにオリの外まで運ばれた。

 

「速くしねえと置いてくぞ」

 

呆然とする中、そう言って遠ざかるカリフを慌ててカリフの隣にまで来る。

 

そして、横を見るとそこにはカリフがいた。

 

(隣に……いる……)

 

すぐ近くにいても、その背中は遥か遠く、自分たちの知らない所にある。

 

それなら近付こう。

 

それがどんなに困難で苛烈を極めようとも、いつか隣り合わせになるまで……

 

「そっか……それでいいんだよね……母さん」

 

少女の小さな呟きは誰の耳にも入らなかった。

 

だけど、その想いは確かに心の中で響いて、沁み込んだ。

 

そして彼女は……自由への第一歩を踏み出したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、食堂に堂々と出てきたカリフたちの出現にクロノたちは口に含んでいた食べ物をミスト状にぶちまけて驚き、クロノだけがカリフに詰め寄って返り討ちにあい、その騒動をフェイトたちを含めたクルー全員が半数以上の犠牲を以て鎮めるという事件が密かに起きていた。


 
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