~アイナ街道・夜~
「ハア、ハア、どうにか無事につきそうだな。」
「ああ、これも隊長のお陰だな。」
そのころ、仮面の男に助けられた男たちは安堵の息をはいていた。
「残念だったな。そうはさせん。」
「な、何!?」
突然自分達の背後から声が聞こえ、驚いた男達が振り向くとそこには鞘から愛剣を抜いて立っているリウイがいた。
「いつの間に……!」
「リベールの間諜達よ。一度だけ言う。自分達のやった罪を認め、武器を退き大人しく俺に降伏するがいい。命だけは保証してやろう。」
「なっ!?」
「なぜ、我々の正体を知っている……!」
リウイの宣言に黒装束の男達は驚いた。
「2度は言わぬ。是か否か。どちらだ。」
「何者かはわからぬが我等の正体を今の時点で知ってて貰っては困る……!」
「閣下の悲願のために死んでもらうぞ……!」
黒装束の男達――リベール軍大佐、リシャールが率いる情報部の兵、特務兵達は武器を構えてリウイに襲いかかった!しかし
「……雑魚共が。俺に戦いを挑んだ事、後悔するがいい。メーテアルザ!!」
「「ぎゃぁぁぁぁっ!?」」
無謀にもリウイに挑んだ特務兵達はリウイの魔法剣により、一撃で全身血達磨になり、悲鳴を上げて地面に倒れた。
「お前達には少々聞きたい事があるからな。急所は外してある。お前達の謀を聞かせてもらうと同時に罪なき者達を襲った報いも受けてもらうぞ……お前達がやった事、後悔するがいい。」
「く、くそ……」
「か、身体が動かない……!」
リウイの一撃で身体中の神経を傷つけられ、身体が動かない特務兵達は地面に伏せたまま呻いた。
「これは………」
そこに先ほどアガットと戦った仮面の男がやって来て、特務兵達の惨状を見て驚いた。
「た、隊長!」
「も、申し訳……ありま……せん……!どうか、撤退の援護を……!」
特務兵達は仮面の男に希望を持った顔を向けて助けを求めた。
「やれやれ……遊撃士協会の次はメンフィル帝国か。……今日は厄日だな。」
助けを求める特務兵達を一瞬だけ見た後、レイピアを構えているリウイから目を離さず溜息をついて呟いた後、リウイに交渉を持ちかけた。
「このような所で貴殿のような方に会えるとは夢にも思いませんでした。リウイ皇帝陛下。」
「なっ!?」
「た、隊長……!今、なんと……!?」
仮面の男の言葉に倒れている特務兵達は驚愕の表情で仮面の男とリウイを見た。
「フン。お前が特務兵を率いる将の一人、ロランス少尉か。」
「フフ……”大陸最強”と讃えられる陛下に自分のような未熟者の事を知っていただいているとは、恐悦至極でございます。」
「世辞はいい。何の用だ。」
「ハッ……ここはお互い見なかった事にしていただけないでしょうか?」
「ほう………ならば今ここで大使館の周りでコソコソと嗅ぎまわるネズミ共を退かせる事を誓え。こちらとしては鬱陶しいし、こちらに来てから結びつけた同盟を女王の目を盗み、謀を考えているお前達のせいで崩すのは心苦しい。」
仮面の男――ロランスの交渉にリウイは余裕の笑みで答えた。
「ハッ。明日には連絡をして退かせましょう。なのでここは見逃してはいただけないでしょうか?」
「さて……な。お前達がなぜ、俺達を嗅ぎまわるか教えるのならば別にいいぞ。」
「わかりました。………自分達は同盟国の事をより深く知りたかっただけです。」
「フン。要は俺達の弱みを探っていたようなものではないか。………それで俺達の弱みは握れたか?」
ロランスの言葉を嘲笑したリウイは表情を余裕の笑みに変えて尋ねた。
「フフ、まさか。わかった事は陛下は身分もない見知らぬ少女を重用している剛胆な方という事しかわかりませんでした。」
「……ほう………興味深い話だな。部下達にはみな平等に接しているつもりなのだがな。」
ロランスの言葉が遠回しにイリーナの事を示している事に気付いたリウイは目を細めて、先を促した。
「確かイリーナという少女でしたかな?大使館で使用人として働いているその少女だけ、こちらの出身である事がわかりました。……しかもその少女は陛下達のお世話をしているそうですな?」
「………………何が言いたい。」
顔には出さず、リウイはロランスを最大限に警戒した。
「フフ、少し気になっただけですよ。陛下はその少女を大事にしているのか、少女が大使館を外出した際、メンフィル兵らしき私服の者達が隠れて護衛をしている所を見ましたから、何かあると思っただけです。」
「…………………」
「ですから自分達は陛下に安心してもらうために、僭越ながら自分達がその少女を見守っていただけです。」
「余計なお世話だ。その者共も退かせろ。」
「フフ。今後自分達、情報部のする事にメンフィル帝国が関わらなければ貴殿等の事はもう調べない事を誓いましょう。」
「……いいだろう。同盟国とはいえそこまで関わるつもりはなかったしな。ただしあくまでメンフィル帝国が関わらないだけだ。個人が勝手に首を突っ込む事までは責任を持たんぞ。」
「フフ、それだけで十分です。では………」
リウイの言葉にロランスは口元に笑みを浮かべて、呻いている特務兵達に近寄ろうとしたがリウイに阻まれた。
「……どういうおつもりで?」
「そちらこそどういうつもりだ?そいつらは王である俺を襲ったのだぞ?拘束し、事情を聞くのは当然の事だろう?それにその者達は放火や一般市民の襲撃を行っている。王としてそいつらの事は見過ごせん。」
「…………陛下ともあろう御方が約定を反故されるつもりですか?」
「何を言っている。俺はあくまでお前がここに現れた事を見逃し、そちらの謀に関与しないとしか言っていない。誰がこいつらを見逃すと言った?」
「(クッ……やはり向こうの方が上手か。)………………仕方ありません。こう見えても部下思いなので、申し訳ありませんが力づくでもその者達を連れて行く事をお許し下さい……!」
騙された事に気付いたロランスは心の中で舌打ちをした後、長剣を構えた。
「フッ……よく言う。俺を見た時から、殺気を向けていた事に気付いていないと思ったのか?」
「…………………………」
「まあいい。俺に一太刀でも浴びせればそいつらを解放してやろう。ただし、逆にお前が戦闘不能まで陥れば、部下共々拘束させてもらい、貴様等の謀を全て話してもらうぞ。」
「……その言葉、偽りはないでしょうな?」
「誇り高き”闇夜の眷属”の王として、偽りはない事を誓おう。」
ロランスの確認の言葉にリウイはレイピアの切っ先をロランスに向けて宣言した。
「フッ……では……!」
そしてリウイとロランスの戦いが始まった………!
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