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IS インフィニット・ストラトス ~転入生は女嫌い!?~ 第三十五話 ~科学者の疑念~

Granteedさん

第三十五話です。

2012-07-20 18:45:21 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:11827   閲覧ユーザー数:11055

~逃走中~

 

「っておい千冬!何で出席簿を振っただけで地面がえぐれるんだよ!?」

 

「うるさい!とにかく大人しくしろ!!」

 

「ってセシリア!何で狙撃中にBT兵器が使える!?いつの間に克服したんだよ!!」

 

「逃げないで下さいクロウさん!!」

 

「もう嫌だぁぁぁぁぁ!!!」

 

とまあそんなこんなでクロウは逃げ回り続け、最終的にはEAGLEの煙幕弾で二人の目をくらませて全速力で振り切った。セシリアと千冬の魔の手から抜け出してからは放課後まで寮の自室にこもっていたクロウであった。なお後日、一夏がこの時の心境をクロウに聞くと、「・・・思い出したくない」という返事が返ってきたらしい。

 

~アリーナ~

 

放課後になり、一夏から“特訓やらないのか?”という連絡を受け、いつものアリーナへと足を運ぶと、全員が集合していた。

 

「よ、よおみんな。待たせたな」

 

「遅いぜクロウ!早くやろうぜ!!」

 

「クロウさん、話はまだ終わってはいませんわよ?」

 

セシリアは凍てついた視線をクロウに向ける。クロウは“当分セシリアには近づかない様にしよう”と決心をして今日のメニューを言い渡す。

 

「それじゃ今日のメニューだが 「私も参加してよろしいでしょうか、教官?」・・何?」

 

一同が声のした方向を向くと、そこには修復が完了した“シュヴァルツェア・レーゲン”を装着したラウラの姿があった。

 

「おう、ボーデヴィッヒか。怪我の具合はどうだ?」

 

「ご心配おかけしました。しかし教官、どうぞ私の事はラウラ、とお呼び下さい」

 

クロウとラウラは普通に話をしているが、セシリアと鈴はあからさまにラウラへ嫌悪の視線を向けていた。一夏達は直接的な被害を被っていないためか特に悪感情は抱いていないらしく、遠巻きにクロウとラウラの会話を聞いている。

 

「そうか。じゃあラウラ、特訓に参加したいのか?」

 

「はい、教官にご指導の程をお願いしたいのと、嫁と一緒にいたいのです」

 

そこまで言ってとうとう我慢できなくなったのか、鈴が食ってかかる。それに釣られてセシリアもラウラに非難の言葉を浴びせる。

 

「そ、そもそもあたしはあんたにされた事、許したわけじゃないからね!!」

 

「そ、そうですわ!はっきりと謝罪をしてください!!」

 

「すまなかったな、許せ」

 

そう言うといきなり頭を下げるラウラ。文句を言っていた二人は、毒気を抜かれてしまった様で惚けている。そこにクロウが仲裁の一言。

 

「それでいいだろ、お前ら。さて、じゃあラウラも加わった事だし、今日のメニューは少し変えるぞ」

 

「どうするのですか、教官?」

 

「そうだな、まずは俺とラウラの一対一をやろう。皆はそれを見て、自分ならどうやってラウラと戦うかのイメージトレーニングだ。ラウラのAICは珍しいからな、シミュレートしておくのも悪くはない」

 

「分かりました、教官」

 

そう言うと、ラウラとクロウを残して他のメンバーは観客席に移動する。ラウラはプラズマ手刀を展開、クロウもEAGLEとバンカーを構える。

 

「さて、いつでもいいぞラウラ」

 

「では、行かせていただきます!!」

 

まずはラウラが距離を取りつつ、レールガンで牽制を始める。クロウもラウラから離れ、EAGLEによる射撃を開始。

 

「レールガンは単発では当たりづらいぜ!」

 

「それでは!!」

 

言うが早いか、ラウラは瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一気に加速。クロウの懐に飛び込み、プラズマ手刀を振るう。クロウはバンカーを使い手刀を受け流す。

 

「近接戦闘ならばこちらが有利です!」

 

ラウラのプラズマ手刀はリーチが短い分、手数で勝負し、かつ扱いやすいものとなっておりラウラが軍隊で培った格闘術がそのまま使えるのも大きな利点だった。クロウはバンカーでは分が悪いと判断したのか、数合打ち合って離れる。

 

「お次はこいつだ!!」

 

EAGLEの弾倉を交換し、グレネードを連続で発射する。複数の弾頭は一直線にラウラへと飛んでいく。

 

「そんなものっ!!」

 

ラウラはワイヤーブレードを展開。ブレードが欠けるのにも構わず、空中で全て撃ち落とす。そのままワイヤーブレードがクロウに迫る。クロウは回避行動に入り、アリーナを駆ける。

 

「じゃあこれはどうだ?」

 

クロウは距離を保ったまま、EAGLEの弾倉を交換。今度はエネルギーパックに切り替え、スパイカーをEAGLEに銃口から出現させる。

 

「刺突の対応はどうかなっ!」

 

クロウはその状態で突撃をする。ブラスタの性能とも相まって、瞬時加速(イグニッション・ブースト)並の速度を出しつつ、一気にラウラに迫る。しかしラウラはクロウの突撃に片手を上げて対応する。

 

「私の装備を忘れないでいただきたい!!」

 

右腕を上げ、AICを展開。クロウは停止できず、勢い余ってAICの放つ結界に囚われてしまう。

 

「これでチェックメイトです!!」

 

ラウラは動きの止まっているクロウに向けて、レールガンを展開。射撃を加える所だったが、クロウは最強の武装を呼び出す。

 

「まだ甘い!SPIGOT、来い!!」

 

クロウの周囲に四基のSPIGOTが出現、そのままラウラへと斬撃を仕掛ける。

 

「切り裂け、SPIGOT!!」

 

「ぐっ!!」

 

AICは一方向にしか使用する事が出来ない。しかも集中力を要するので、AIC展開中はろくな回避行動も取れないのだ。その状態でSPIGOTを受け無事ですむ訳も無く、ラウラのS・E(シールド・エネルギー)はあっという間にゼロとなった。

 

「ふう。ラウラ、お疲れさん」

 

「教官こそ、素晴らしい腕前です。まさかわざと突進してきたのですか?」

 

「まあな、お前のAICは多方向からの攻撃に弱い。俺のSPIGOTだと、AICで動きが止まった所を一方的に攻撃出来るって訳だ」

 

話している間に、一夏達が観客席からアリーナに移動してくる。全員が揃った所でクロウが質問を投げかけた。

 

「さてお前らだったらどうやってラウラを攻略する?」

 

「・・・俺、勝てる気がしないんだけど」

 

いきなり一夏が弱気発言をする。箒を除き、他の面々は攻略法をいくつか考えている様だった。

 

「私ならば、ブルー・ティアーズによる多角射撃を交えた、狙撃ですわね」

 

「アタシは龍砲を撃ちながら近接攻撃位しかないわ」

 

「僕も鈴みたいに射撃をしながら距離を詰めて“灰色の鱗殻(グレー・スケール)”かなあ」

 

「わ、私は・・・」

 

箒は作戦が思いつかないのか、言葉に詰まる。そんな箒を見て、クロウは優しい声をかけた。

 

「まあ、箒は専用機持ちじゃないからな。考えられなくても仕方は無いさ」

 

「・・・・・・」

 

意見も出尽くした所でクロウが締めの言葉を発する。

 

「さて、皆が言った通りラウラのAICの対策は多方向からの攻撃、又は集中力を乱してAICを使えない様にするか、だ。今後ラウラは相手と戦う時に一対一に絞るか、味方と連携してAICを使う様にしてみろ。二対一だったら確実にAICが破られるからな」

 

「了解しました」

 

「クロウ、今日の特訓はどうするんだ?」

 

一夏は特訓が待ちきれない、と言った様子で急かす。

 

「そうだな、今日はラウラも入って人数も多くなったから2チームに分けて特訓するぞ。まず一夏、鈴、箒の三人は近接戦闘の特訓をメインにする。教官はラウラがやってくれ。次にセシリアとシャルロットは遠距離の特訓、こっちは俺が見てやる。その後、二対二の試合をやるぞ。二対二の組み合わせは俺が特訓を見た上で判断するからな。それじゃあ始め!」

 

クロウの声がアリーナに響き、特訓が始まった・・・。

 

 

 

「よし、今日はこれで終わりだ」

 

「はぁ~、疲れた~」

 

と言いつつ脱力する一夏。特訓を始めた時とは違い、地面に大の字に寝転ぶ様な事はしなかったが。そこにラウラがねぎらいの言葉をかける。

 

「よく頑張ったな、嫁よ」

 

「ていうかあんたその“嫁”っていうの何よ!?」

 

疲れているにも関わらず鈴がラウラに詰め寄る。クロウ達も疑問に思っていた事だったが、あまりにもラウラが普通に言うので、聞くタイミングを逃していた。

 

「日本では気に入った相手を“嫁にする”というのが一般的だと聞いた。だから私は嫁の事を“嫁”と呼んでいるだけだ」

 

「「「「「「・・・」」」」」」

 

一同はその言葉を聞いて唖然としている。クロウは“こっちの日本にはそんな風習があるのか?”と考えていた。ラウラはそんな一同を尻目にあくまでマイペースだった。

 

「教官、少し聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「おう、何だラウラ?」

 

「教官の強さの源とは何ですか?」

 

「何だって?」

 

聞いた瞬間、クロウが怪訝な顔をして聞き返す。

 

「はい。嫁の強さの源は目標に向かって進む意思と聞きました。教官の強さの源は一体何なのですか?」

 

この質問にクロウは困ってしまう。クロウの強さとは言うまでも無く、前の世界での経験に基づいたものだ。それを話すということは、クロウの秘密を話す事と同義だった。クロウは少し逡巡しつつも、口を開く。

 

「・・・分かった。話してやるよ」

 

「クロウ!?でもそれは!!」

 

「一夏、信じなきゃそいつの本質は見えない。俺はここにいるラウラ・ボーデヴィッヒを信じたいんだよ」

 

「・・・」

 

クロウに諭され、一夏が黙り込む。一人ラウラは事情がわからないまま、首を傾げていた。

 

「?教官には何かあるのですか??」

 

「ああ、話してやる。少し長いがな。ただしこれから話すのは信じられない様な事ばかりだ」

 

そこまで聞いてもラウラは全くぶれなかった。一夏達は事態を静観する事に決めた様で、皆口を閉じている。

 

「了解しました。私は教官の事を信じます」

 

「分かった。実は俺、23歳なんだよ。 「そうですか」 ・・・え?」

 

クロウは一夏達に話した時と同じようにラウラも驚くと思っていたようだが、当のラウラは平然とした顔をしていた。その思いは一夏達も一緒だったらしく、全員が目を丸くしている。

 

「・・・お前、驚かないの?」

 

「教官が何歳であろうと私の意思は変わりません。続きをどうぞ」

 

「あ、ああ。それでな、俺は元々この世界の住人じゃないんだよ」

 

「・・・え?」

 

~十分後~

 

「・・・という事だ」

 

クロウがラウラに説明を終えると、さすがのラウラも驚きを隠せない様だった。

 

「なるほど。だから教官はそこまで強いのですね。私がああも簡単にやられる理由がようやく分かりました」

 

「んでラウラ、この話はほかの人間には言わない様にしてくれ。今の所知っているのはお前を含めてここにいる奴と、山田先生と千冬だな」

 

「了解しました、教官」

 

そこまで話すと、場の空気が緩む。一夏達も会話に参加して話し出す。

 

「でもラウラには驚いたな。クロウの年の事を聞いても驚かないなんて」

 

「あそこまで強いとなると何かあると思うのは普通だぞ、嫁よ。まあ、私も教官が別の世界の人間と聞いた時は驚いたが」

 

「あたし達なんか驚いて開いた口が塞がらなかったのに」

 

「僕も初めてクロウの事を聞いた時は驚いたなあ」

 

「シャルロットさんはいつクロウさんの事を聞きましたの?」

 

一同は雑談タイムに入り、思い思いの事を口にする。雑談をしばらく眺めていたクロウだったが、思い出したかの様に口を開いた。

 

「ああ、そうだラウラ。ちょっといいか?」

 

「何でしょうか、教官」

 

「これからは俺の事はクロウって呼んでくれ。それと敬語は禁止な」

 

「なっ、何故ですか!?」

 

ラウラがクロウの話を聞いた時に比ではないぐらいの驚き様を見せる。クロウとしては当たり前の事を言ったつもりだったのだが、少し気まずそうに言葉を続ける。

 

「いや、同級生で教官、しかも敬語っていうのはどう考えてもおかしいだろう?だから普通に呼んで欲しいだけなんだが」

 

「・・・分かりました。“クロウ”」

 

「OKだ。さて、皆も早く上がるぞ。明日も特訓をするからな」

 

クロウが全員を上がらせ、自分も着替えるために更衣室へと足を運んでいった。

 

 

~???~

 

「む~ん・・・」

 

そこは奇妙な部屋であった。窓は一切なく、部屋の至る場所には機械の部品が散りばめられており、ケーブルが樹海さながらの様に広がっている。大型のモニターが三台並んで配置されており、そこにはそれぞれ映像が流れている。女性はその映像を凝視していた。

 

「・・・・・・」

 

三台のモニターには、一機のISが映っている。そのISの搭乗者が何かを叫んだかと思うと、いきなりひとつのモニターが暗転する。他の二台には、ISに向けてビームが発射される様子が映っている。そしてISからレーザーが発射されたかと思うと、それは画面一杯に広がり二台目も暗転。最後のモニターに映るのは空。そのまま上昇していくが、いきなりモニターに先程のISが映る。再びビームが映し出されるが、ISは全てを回避する。映っているISは銃剣を出すと、画面の方向に突撃した。そのまま、急降下し、衝撃と共に最後のモニターも暗転。女性は大きく伸びをした。

 

「う~ん、一体なんだろうな~」

 

女性の名前は篠ノ之 束。何を隠そうISの生みの親だ。

 

「何なんだろうな~これは」

 

そう言うと、モニターの隣に張り付けられている一枚の書類を見る。そこにはクロウの入学書類があった。最も、その経歴は千冬が偽造したものだったが。

 

「これの事知りたかったのにな~」

 

既に束は、偽造した書類の件に関しては真実を突き止めていた。調査結果は“不明”。まるでクロウ・ブルーストと言う人物はこの世には存在していなかったかの様に痕跡が全く無かった。

 

「まったく、亡国企業(ファントムタスク)とかいう所も使えないな~。せっかく剥離剤まであげたのにな~」

 

今回、束が亡国企業に出した依頼は“クロウ・ブルーストのISのコアを剥離剤

リムーバー

による奪取、もしくは撃墜”だった。しかし依頼は失敗、クロウ・ブルーストのISの事は何も分からずじまいに終わった。

 

「何でこれが四月からちーちゃんやいっくん、箒ちゃんの周りをうろついているのかな~?」

 

束が一人呟いていると、部屋の隅に落ちていた携帯電話が着信を告げる。その音を聞いた瞬間、束は携帯電話にダイブ。すぐさま耳に当てた。

 

「もすもす、終日(ひねもす)?」

 

しかし束が電話に出て、応答をした瞬間に電話は切られてしまった。

 

「わーっ!ちょっと待って待って!!」

 

願いが届いたのか、再び携帯電話が鳴る。

 

「はい、みんなのアイドル・篠ノ之 束だよん!──って待って待ってちーちゃん!切らないでぇ!!」

 

≪・・・その名前で呼ぶな≫

 

「はいはーい、分かったよ!ちーちゃん!!」

 

修正する気の無い声に電話の相手はため息をつく

 

≪はぁ、まあいい。今日は聞きたい事がある≫

 

「何かな??」

 

≪今回のVTシステムの騒動にお前は関与しているのか?≫

 

「いやだなあちーちゃん、私があんな出来損ない作る訳ないでしょ?存在は知っていたけどね、ていうかあれを作った研究所は二時間程前に地上から消しておいたから。・・・ああ、言っておくけど死亡者はゼロだよ」

 

≪・・・そうか、邪魔したな≫

 

「いやいや邪魔なんてとんでもないよ?ちーちゃんならいつでも大歓迎だから!!」

 

≪では、またな≫

 

そう言うと携帯は、ぶつりと音を立てて切れる。束は携帯電話を見つめていたが、しばらくすると、にやけた顔で携帯電話を放った。

 

「ふふっ、久しぶりにちーちゃんの声が聞けて嬉しいなあ。ちーちゃんは相変わらず素敵ングだよ」

 

束が呟いていると再び携帯電話が鳴り、着信を伝える。その着信音を聞いた瞬間、束は再び放り投げた携帯電話にダイブした。

 

「やあやあやあ!久しぶりだね!!ずっとず───っと待ってたよ!!」

 

「───。・・・姉さん」

 

「うんうん、用件は分かってるよ、欲しいんだよね?君だけのオンリーワン、箒ちゃんの専用機が。もちろん用意してあるよ?規格外仕様(オーバースペック)にして、白と並び立つもの。その機体の名前は 『紅椿(あかつばき)』!!」


 
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