No.456184

魔法少女リリカルなのは~生まれ墜ちるは悪魔の子~ 十話

自称・時空の管理者

2012-07-20 11:23:17 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:2297   閲覧ユーザー数:2224

 プレシアとの外食から一夜明けた海鳴市

 

 辺りはうっすらと茜色に染められていた。

 

 空は朱に彩られ、光を反射するビル、照らされる公園

 

 どこにでもある景色が海鳴にもあった。

 

 ただ一つ、他とは異質な点があるとしたら……

 

−−−グオォォォ!!

 

 公園の海のほとりの木が突然に『唸り』……

 

「おーおー。今回のは随分とイキがいいな」

「うん。ジュエルシードの感応が激しい証拠だ」

「まあ、フェイトの敵じゃないね」

 

 空からその異形を見下ろす二人の年端もいかない少年と少女、それに一匹の狼がいた。

 

 木は完全に己の道を踏み外し、生物の体を成さなくなった時に新たな影が二つ。

 

「ジュエルシード!!」

「気をつけてなのは! 今回のは手強いよ!!」

 

 なのはとユーノの参戦にフェイトは予想できていたのか、なのはたちを一瞥するだけだった。

 

 そして視線を木に向け、どうやって倒そうかとプランを練っていた時だった。

 

「あれ、今回はオレに譲ってくれ」

「「え!?」」

 

 木を指差してニコニコと笑うカリフにフェイトとアルフは度肝を抜かされた。

 

「あれに一人でなんて危ないよ!」

「そうだよ! ここは三人(?)で攻めたほうがいいって!!」

「どうしたんだろ?」

「さぁ……」

 

 二人がなにか騒いだことに遠目のなのはたちも気付いたようだが、カリフはそれでも頑なに譲らない。

 

 寧ろ鼻で笑う。

 

「たかが虫に毛が生えたような奴だ。問題ない」

「で、でも…」

「それにお前はやり過ぎだ」

「な、なにが?」

 

 思わぬカリフの反撃にフェイトはたじろぐ。

 

「フェイト……随分とジュエルシードを見つけんのが早過ぎやしねぇか?」

「……」

「やっぱな……お前のことだから寝てねえ上にメシも食ってねえんだろ?」

 

 フェイトの沈黙にカリフは溜息を吐かずにはいられなかった。

 

 ただでさえ小さい体なのに、食わず休まずに疲れだけを溜めているのは目の下に薄い隈を作っていた様子で明らかだった。

 

 そんな状態で闘えば万が一ということもある。

 

「だから今回は譲れ。これ以上やると痛い目見るぞ?」

「そ、そうだよフェイト……今回はカリフの言葉に甘えよう? ね?」

 

 内心では不安もあるけど、やっぱり自分の主が心配なほうが強かった。

 

 カリフとアルフの説得にフェイトもついに折れた。

 

「……分かったよ……でも、無理だけは……」

「お前に言われるのだけは心外だ」

「うぅ……」

「気にしないことだよフェイト。こうやって悪ぶっちゃあいるけど本当はフェイトがしんぱぐはぁ!!」

「アルフ!?」

「おっと。手が勝手にアルフの顔面に吸い込まれた所でそろそろ行くぞ」

 

 そう言って顔を押さえてのたうち回るアルフと本気で心配するフェイトを置いて一人地に降り立つ。

 

−−−グオォォォ!!

「五月蝿い奴め、すぐに遊んでやるから待ってろ」

 

 そう呟きながら独特の構えをとった時だった。

 

「あの……カリフくん?」

「ん?」

 

 背後からの声に気付き、振り向くと、そこには少し遠慮がちのなのはがいた。

 

「なんだ? 高町なのは」

「あぅ……そんなに睨まないで…」

「生れつきだ」

「ご、ごめん…」

 

 戦い直前に気分が高まっていることもあってか、カリフの鋭くなった眼光になのははあとずさる。

 

 そんな少女にカリフは溜息を吐いて警告する。

 

「もう分かったから速く立ち去れ。こいつはオレ一人で片付ける」

「え……えぇ!?」

 

 さも当たり前のように告げるカリフになのはは慌て警告する。

 

「駄目だよ! カリフくんは魔力が無い普通の男の子なんだよ!」

「ふん。それよりも上に逃げな」

「え?……!!」

 

 カリフの警告と共に影ができ、再び木に注意を向けると、そこには自分たちに根をたたき付けようと振り上げている所だった。

 

「レイジ……」

 

 相棒に呼びかけようとした時、一つの根がなのはの横から迫ってきていた。

 

「!?」

「なのは!!」

 

 ユーノの声と共になのはは気付くが、もう遅かった。

 

 なのはの眼前に命を絶つ鈍器が迫り、悲鳴すら上げることも許さずに残り一ミリと迫っていた。

 

「おっと」

 

 その時だった。

 

 

 カリフが巨大な木の根の直撃を受けた。

 

「きゃあ!!」

「カリフ!!」

 

 けたたましい衝撃音になのはは悲鳴を上げ、フェイトは悲痛にカリフを呼んだ。

 

 アルフもユーノもその光景に衝撃を受けていた。

 

−−−グググ……

 

 木もほくそ笑むかのように唸っている。

 

 そして……

 

「そう。そうでなくてはなぁ……」

「「「「なっ!!」」」」

 

 その場の全員の予想を裏切った。

 

 そこには左手を突き出して微動だにしないカリフが楽しそうに笑っていた。

 

 人差し指一本で根を支えて……

 

「なにぼっとしてやがる」

「ふえ!?」

「さっさと離れな」

「う、うん!」

 

 顎を上空に振る仕草でなのははカリフの意図を理解し、すぐに上空へと飛ぶ。

 

 その途中でなのはは止まり、カリフに向き直って言った。

 

「あの! 助けてくれてありがとう!」

 

 そうとだけ笑顔で言うとまた嬉しそうに上空へと帰っていく。

 

 そんななのはを見てカリフは頬をポリポリと掻いてぼやく。

 

「そんなつもりじゃなかったんだがなぁ……」

 

 なのはを助けた理由は二つあった。

 

 一つは単純に邪魔だったから。

 

 もう一つは命を懸ける覚悟もない素人を巻き込んで死なせるのは自分の理念に反するからである。

 

 本当にそれだけ。他に理由もない。

 

 戦うのに思いやりや優しさなど糞の役にも立ちゃしない。

 

 まあ、相手がどう捉えようがかまやしない……むしろ今重要なのは……

 

「オレが少しでも楽しければそれでいい……」

−−−グオォォォ!!

 

 木はこれまでとは比べ物にならないほどの数の根を地面から出して一斉にカリフに襲い掛かる。

 

 最大の敵はカリフと認定し、夕日を遮るほどの数と驚異的な長さを誇る根を見せ付けた。

 

 孔雀の羽のように見せ付けて威嚇するが、カリフは腕を組んで鼻で笑うだけ。

 

 むしろ、少しだけだが笑みを浮かべた。

 

「ふん。ナリだけはマシなようだが……」

 

 その瞬間、カリフは……

 

「「「「!?」」」」

 

 ピシュンとその場から消え……

 

「それがなんだ?」

−−−グルル!?

 

 突如後ろから聞こえてきた声に木が振り向いた瞬間、木は鈍い打撃音と共に肢体を『く』の字に曲げて吹き飛んだ。

 

 巨体のあった場所ではカリフがアッパーカットを繰り出した姿があった。

 

「……ひゃは!」

 

 拳から伝わる快感にカリフは恍惚の笑みを浮かべ、白いオーラを纏って殴り飛ばされた木の後方へ孤を描いて先回りし……

 

「うぇあ!!」

 

 木に踵落としをくらわせた。

 

 メキメキと樹皮が砕ける音と共に地面へと急降下していく。

 

「ぎゃは!」

 

 急降下して落下する木の樹皮に五指を食い込ませ……

 

「死にやがれええぇぇっ!!」

 

 急降下している落下スピードに加えて更なるスピードを課した状態で木を投げ付ける。

 

 凄まじいスピードで投げられた木は摩擦熱で枝が燃え始める。

 

−−−グギャアアァァ!!

 

 悲鳴を上げる木は全身を燃やし、天然のミサイルと化して地面に突っ込み、アスファルトを破壊した。

 

 それどころかアスファルトにクレーターを作り、爆弾を爆破させたような粉塵を放射させて辺りを覆った。

 

「「「「…………」」」」

 

 傍目で見ていたフェイトたちはあまりのショッキングさに呆けた。

 

 今まで生きてきて、これほどまでに粗暴で乱暴、凶悪にして圧倒的な戦法は見たことがない。

 

 なのはとユーノは初めて見るカリフの実力に思考が停止し、フェイトとアルフはカリフの潜在的パワーに圧倒されていた。

 

「ふ〜……少しは気が晴れたぜ」

 

 

 晴れやかに手に着いた埃を払うカリフは少し満足したようだ。

 

(あっさりと片づけてしまった……でもまぁ、こんなもんか……)

 

 物足りないとは感じたが、久しぶりに殴ることができたから良しとしよう……

 

 そう思いながら未だ固まっているフェイトを促した。

 

「封印。早く」

「え?……あ、封印だね……」

 

 我に返ったフェイトに吊られてなのはも我に返り、二人はそれぞれのデバイスから金と桃色の魔力を溜め、閃光を放った。

 

「「ジュエルシード、封印!」」

 

 凄まじき魔力が木に集中し、やがてはジュエルシードだけが宙に浮いていた。

 

 ジュエルシードを挟むように向かい合うフェイトとなのは

 

「この前みたいに暴走しちゃうと危ないから……」

「うん……でも、譲れないから」

 

 フェイトはバルディッシュを鎌形状に変えて構える。

 

 なのはも避けられぬ戦いを感じ取り、レイジングハートを握りしめる。

 

「私が勝ったら甘ったれじゃないって認めて、ジュエルシードを集める理由を教えて」

 

 なのはの提案にフェイトも沈黙の了解で答える。

 

 沈黙だけが支配する状況の中で、アルフもユーノも固唾を飲む。

 

 もちろん、カリフも例外でなく、静かに二人を見据える。

 

 今回は久しぶりに気分もいいから二人の決闘を堪能しよう。

 

(まだ言うことは甘ったれだが……中々サマになってきたじゃないか……)

 

 なにより、あの二人はもはや鋼鉄の絆で繋がれた宿敵となっている。

 

 その繋がりはとても危険であり、しかし特別でもあった。

 

 元は戦の『い』の字も知らない一般人がよくここまで昇華した、と内心でなのはに敬意を評していた。

 

 故に、これはもはや喧嘩でもなければジュエルシードの賭け試合でもない。

 

 聖戦

 

 何人たりともこの戦に横槍は入れさせない。

 

 カリフは自然にこの戦いに惹かれ始めていた。

 

 強さなど関係ない。

 

 信念と信念の戦いである。

 

「……」

「……」

 

 やがて二人はデバイスに一層力を篭め、互いにぶつかり合う。

 

 

 

 はずだった。

 

「ストップだ!」

 

 突如、その声と共に二人のデバイスは防がれた。

 

 そして、そこには黒のバリアジャケットに身を包んだ少年がいた。

 

「……あ?」

 

 そして、カリフのさっきまでの高揚感は一気に萎えた。

 

 若干苛立ったカリフに気付かず、少年は続ける。

 

「時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンだ! ここでの戦闘は危険だ! 武装を解除するんだ!」

「管理局!?」

 

 アルフが驚愕するが、どうでもいい。

 

 重要なのは二人の聖戦をも止めた。

 

「……はぁ?」

 

 その瞬間、カリフの額に血管が浮かぶ。

 

「うわ!」

「わあ!」

 

 カリフの周りの木々に皹が入り、周囲の小石が破裂したのにアルフとユーノは驚愕し、跳びはねてしまった。

 

 それに気付かないクロノと名乗る少年は続ける。

 

「これより、ジュエルシードは時空管理局が管理する!」

 

 ジュエルシードをも掠め取るような発言。

 

 この時、カリフの中の何かがブチキレた。

 

「うわぁ!」

「え!? なになに!?」

 

 カリフの周辺のアスファルトだけが急に砕け、爆ぜたのにアルフとユーノはまた驚愕する。

 

 だが、ここまでくると、アルフはカリフの仕業だと思いながらゆっくりと彼の顔を覗き込む。

 

「あの〜……カリ……」

 

 ここから先の声が出なかった。

 

 否、出せなかった。

 

「あ……ぁ……」

 

 アルフは持ち前の野性の勘と本能に警鐘をかけていた。

 

 後にアルフは言うだろう……

 

「ねぇアルフちゃぁん………あれ……死刑でいいよねぇ?」

 

 あんな顔……人間にはできっこない……

 

 あれは紛れも無い、本物の悪魔だった……と。


 
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