No.455775

万華鏡と魔法少女、第二十八話、忍と提督

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2012-07-19 19:22:47 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5197   閲覧ユーザー数:4841

必ず、人は間違いを犯し愚行に走る

 

 

恐らくそれは真理であり、致し方無い事なのだろう

 

 

だが、それを認めて抗う事は誰にでもできる

 

 

生が失われ散りゆく様を幾つもの体験の中で俺は学んだ

 

 

その者には、家族もいた子供も…愛し合っていた恋人も苦難を共に分かち合った親友でさえ

 

 

彼等は救いようの無い非道な事をやりつづけていたかもしれない

 

 

だけど、彼等は死に間際には必ずこう言っていた

 

 

…『すまない』、『ありがとう』と…

 

 

同じ人間、同じ者同士で殺し合い最後は必ず感謝の言葉、懺悔の言葉を残して消えていった

 

 

俺は目の前でその様を見るのがただ怖かった

 

 

何に謝っているのか?何に感謝しているのか、いままで殺してきた人達にかそれとも神にか残してきた大切な者たちにか?

 

 

後悔はしても救われる事はない

 

 

生きたくても生きられない

 

 

俺は嫌だ…悲しい結末が募るそんな醜く悲惨な争いが起こる事なんて

 

 

平和な世界で…皆が笑顔に満ちていたら…きっと…

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

うちはイタチは今、クロノに頼みある人物との面会を行おうとしていた

 

 

病院にはやてが運び込まれて、数日

 

 

安静を取り戻したと連絡があった彼女の見舞いにもこの数日間全く行っていない

 

 

彼はただ明確なこれから起きる事への警戒としての行動へと走ろうと決意していた

 

 

彼女の身体は幼く、これから先もこの状態なら闇の書から身体を蝕まれていく事だろう

 

 

分かり切っている事、そんなものは

 

 

だから、自分は抗うために動かなければならない、最悪の結果を起こらない様にするために

 

そうして、それからイタチは虚しく何もしないまま椅子に座り一時間程の時間が経過した

 

 

彼はただひたすら待つ、その時が来るまで

 

 

ふと、俯いたまま沈黙し下を向いていた彼が不意にゆっくりと顔を上げたその時だった

 

 

こちらにへと向かってくる足音が二つ、カツンカツンと響く様に感覚を研ぎ澄ましていたイタチの耳に聞こえてきた

 

「…来たか…」

 

 

イタチは何かを察した様にその場からスッと立ち上がり、足音の聞こえた方へ視線を向ける

 

 

一人は知人、いつも自分の事を助けてくれている親友クロノハラオウン

 

 

そうして、彼の連れて来たイタチが面会したいと望んだ人物

 

 

クロノハラオウンの恩師であり、また時空管理局の提督ギルグレアムの姿であった

 

 

すかさず、クロノが引き連れて来た彼にイタチは礼儀正しく立ち上がり頭を下げる

 

「…この度は忙しい中、私の為に時間を割いていただきありがとうございました」

 

 

「いや…こちらこそだそれにしても君があのうちはイタチ君か、クロノの話には聞いているよ…」

 

時空管理局提督ギルグレアムはそう言って寛容な態度でそっと頭を下げてお礼を述べるイタチの肩に手を置いて微笑む

 

 

イタチにとって初対面の相手だが、どうやら悪い人柄の人間では無いらしい

 

 

まぁ、仮にもあのクロノの恩師である当然といえば当然だが…

 

 

イタチは静かに下げていた頭を上げて、ゆっくりと本来の視線に顔を戻す

 

 

其の間に彼はこのギルグレアムという人間に対し色々な考えを模索していた

 

 

問題はこの人の人柄という事では無い

 

 

闇の書についての情報をどれだけ、彼の口から聞き出せるかそれが今イタチに課せられている最重要事項、

 

 

恐らく、イタチの推測が正しければ彼は今回のはやての件に深く関わっている可能性がある

 

 

それも濃厚、かなり高い確立でだ

 

 

イタチは一目だけ、グレアムを連れて来たクロノに軽くアイコンタクトを送る

 

 

クロノは静かに彼が送って来たそれに対して静かに頷いた

 

 

この場から少しだけ、外して二人で話をさして欲しいと、恐らくそういう事だろう

 

 

クロノは何も告げないまま、グレアムに一礼だけすると踵を返してその場からスッと消える様に立ち去る

 

 

その後ろ姿を静かに見送るイタチ

 

 

彼が完全に見えなくなったところでイタチは再びグレアムに向き直る

 

 

真っ直ぐグレアムを見据えたまま、こうしてイタチは彼に今回の闇の書について語り始める

 

「…貴方に今回、クロノを通してこうやって接触した理由は他でも無い、ロストロギアと呼ばれる闇の書について…だ」

 

 

「…!?…」

 

 

その時、微かに闇の書という言葉にグレアムの表情が動いたのをイタチは見逃さなかった

 

 

どうだろう、何かしらのカマを掛けてみるか?

 

 

イタチは驚いている彼の表情を伺いながら、静かに思案を巡らせる

 

 

心理戦は駆け引きが大事

 

 

どんな質問を次に彼に向かい投げかけるか、それが重要だ

 

 

イタチは静かに懐からある物を取り出す

 

 

それは綿密に調べた集めた資料の束、何枚も重ねてあり、イタチが念密に調べた情報またはクロノが調べた情報を元に纏めたものである

 

 

彼は落ち着いた物腰で取り出したそれをグレアムに突き出しこう述べ始める

 

 

「…貴方は十一年前の事件をご存知ですね?」

 

 

イタチから差し出され束ねられた資料を静かに受け取るグレアム、

 

 

その面持ちは何処か重苦しく、後ろめたい何かを感じる

 

 

「………、あぁ…知っている」

 

 

彼の問いかけにどうにも歯切れの悪い返事を帰すグレアム、

 

 

まぁ、当然といえば当然だろう

 

 

恐らく、イタチの推測が正しければ黒幕は間違いなく彼

 

 

十一年前の事件を知っているクロノの恩師であり…恐らくは闇の書に何らかの恨みのある人物

 

 

偶然かもしれないがクロノの父、クライドハラオウンと何かしらの接点がある

 

かつて、管理局で上司と部下という関係だという事だ、勿論、これはクロノが提供してくれた貴重な情報である

 

イタチはそれらの情報を元に彼に対する疑惑、もしくは予想を推測して挙げ始める

 

 

「…成る程、闇の書を彼女の所へ来る様にし向けたのは貴方でしたか…」

 

「…!?…」

 

 

自分の放った言葉に身体を反応させるこのギルグレアムの姿を彼は見逃さなかった

 

 

普段から真面目な人物に限り後ろめたい何かを隠している時は尚更顔色、その行動一つ一つに出る

 

 

自分の放った言葉に身体を反応させ振る舞う彼の行動は実に分かりやすかった

 

成る程そういう訳か…

 

 

イタチは静かに瞼を閉じ、この時推測が確信に変わった事を心の中で感じ取った

 

 

一人の少女を犠牲にしてまで、それ程成し遂げたい事なのか?

 

 

孤独に身を置いていた彼女の幸せを奪いこれ以上苦しめる権利が何処にある

 

浮かぶ不満、疑問はたくさんある、だが、それを問いた所で恐らくたかがしれているだろう

 

 

彼は既にその事を心の内で悟っていた

 

 

すると、イタチはグレアムを見据えたまま静かに自身の懐にそっと手を伸ばす

 

 

そして、刹那

 

 

風を切るような音と共に、瞬く間に彼の首元に冷たい何かが押し付けられていた

 

 

イタチと対峙していたグレアムはその一瞬の出来事に戦慄する

 

 

夜の闇の中にあってもなお月明かりにより、反射しキラリと鋭い光を放つそれ

 

 

イタチはで三つ巴の眼光を光らせてその煌めく鉄の刃を彼の首元に押し付けながら真っ直ぐに見据える

 

 

そうして、殺気立った低い声色で彼にこう語り出した

 

 

「…貴方は彼女を己のエゴを通す為に利用しようとしているんですね?」

 

 

「…一体何を根拠に…」

 

 

そんな事を言っているのか?

 

 

だが、言葉を紡ごうとしたグレアムはイタチの問いかけに答える事は出来なかった

 

イタチの三つ巴に妖しく輝く目がそれを許さない

 

 

それは、自らを血に染めても人を顧みる事のない殺め、葬り去る時の目だ

 

 

殺ろうと思えば今この場で喉笛を切り裂き、息の根を止めてやる

 

 

それは、実に分かりやすく、明確に間違いなく本気のものだった

 

 

グレアムは目の前に死に直面し硬直した身体を振り絞る様に声を溢す

 

 

「…君は、自分がしている事が分かっているのか?」

 

 

「…あぁ、それぐらい分かっている…家族を利用しようとした不届き者に刃を突きつけているだけだ」

 

 

実に短く簡単な返答

 

 

彼の首元に押し付けられた刃は力を加えられ皮膚からは薄っすらと血まで流れ出ている

 

 

殺される…グレアムはそう確信した

 

 

だが、彼は迫り来る死に覚悟を纏め、変わらぬまま刃を突きつけてくるイタチの目を真っ直ぐに見据えている

 

 

そうして、グレアムは静かな声色でイタチにゆっくりとある事を語り出す

 

 

「…残念だが少しばかり、君の予測は外れている…闇の書は私が彼女の元にやった訳ではない…」

 

 

「それは言い訳か?」

 

 

直後、彼の自白に近い言葉を聞いたイタチは首を傾げてそう問いかける

 

 

もしそうだとするなら見苦しいにも程がある

 

 

自然と刃を握る彼は自身の手に力が入ってくるのを感じた

 

 

だが、グレアムは首に押し付けられた刃を顧みる事なく彼に言葉を紡ぎ始める

 

 

「…私は闇の書に恨みがある、クロノの父、クライドを奪い部下を奪ったあのロストロギアに…、だが、アレはなんの因果か、八神はやて、彼女の元に現れたのだ」

 

 

「………」

 

 

イタチは静かに彼の語り出す言葉に耳を傾ける

 

 

それは、突きつけられた死を恐れずに自分に何かを伝えようとする彼の意思に感化させられたのかもしれない

 

 

「…偶然だが、私は彼女の元に転生機能によって現れた事を知る事が出来た、…一人の可憐な少女の元に転生した闇の書の事を知った…それが、偶然、生活保護の為に財政管理を負担していた八神はやてだったのだ…」

 

 

イタチの顔色が途端に挙げられ出てきた彼女の名前で変わる

 

 

前々からおかしいとは思っていた、

 

両親も居ないはずの独り身の身体が不自由だった彼女が今まで生活で来ていた疑問

 

 

それがこの時、目の前で語る男の話によって解消された

 

 

イタチは冷たい声色で一言だけ、続けろとグレアムに告げ促す

 

 

彼は静かに頷き再び語り始めた

 

 

「…同時にこれは闇の書を封印出来るチャンスだと私は感じた…例え違法行為であってもやる価値はあるのではないかと、…あの悲劇を繰り返さない為にも誰かがやらなければいけないとそんな義務感に押される様に…、」

 

 

グレアムはただ、イタチとの緊迫した空気の中で悲しげな表情を浮かべていた

 

 

何度、あの悲劇によって失った部下達の家族に頭を下げた事だろうか

 

 

悲しい報せをリンディに告げた時の彼女の顔が今でもはっきりと覚えている

 

 

己の過ちだったのだ、だからせめて次の悲劇は起こしたくは無い

 

 

彼の語るそれは重く、そしてこれまで苦しんで来た事を刃を突きつけていたイタチにも感じられた

 

 

だが、彼は同時に迷っていた一人の少女を利用し闇の書を封じようとした事に…

 

 

グレアムは付け加える様にイタチにはやてについて語り始めた

 

 

「八神はやて、彼女の身体の異常は闇の書が彼女のリンカーコアを侵食しているからだ…」

 

 

「…なんだと?」

 

 

イタチは彼が放ったそのとんでもない言葉に身体を反応させる

 

 

ならば、この男は支援しつづけてきた一人の少女が苦しむ事を分かっていた上で、彼女になにも忠告しないまま今まで黙っていたのか

 

 

それで…迷っていたのか、こんな風な状態に彼女が陥るまで

 

 

そう考えると普通ならば理不尽にも苦しむ状況に彼女を追いやった彼に対して抑えていた怒りが湧いてくるはずだっただろう

 

 

しかし、この時の刃を彼に突きつけていたイタチは違っていた

 

 

彼のやった事は酷い事に変わりは無いのだろう

 

 

だが、果たして自分はそんな事を彼に言える権利はあるのか?

 

 

全を救う為に一を切り捨てる考え

 

 

理不尽にも世界は、真理はそういう風に成っている

 

 

自分もまたその一人であり、そうして何かを護ってきた

 

 

自身が生き延びる為に戦場で人を殺し、また平和を護る為に身内を恋人を上司を友を殺した

 

 

彼も彼女を巻き混んだ自身を責め、だがそれでも民衆の為、悲劇を起こさない為にロストロギアを封じたいと望んでいる

 

 

そこに、自分がやってきた事と大差があるかと問われればそれは間違いなく否である

 

 

イタチは真っ直ぐに彼の喉笛に苦無を押し当てたまま硬直する

 

 

だが、それは考え込むだけで時間の無駄だと悟ったイタチは再びグレアムを真っ直ぐに見据え直す

 

 

そうして、次に口を開いた彼が口にしたのは闇の書について、はやてに及ぼすその異常を解消する術だ

 

 

リンカーコアは確か聞いた事はある

 

 

確かフェイトやなのはも持っている所謂、資質の様な物だとクロノから前に聞いた

 

 

「…グレアム、そのリンカーコアを蝕む闇の書を止める術はあるのか…」

 

 

「…勿論だ、闇の書を封印すれさえできればその影響も無くなる筈だ」

 

 

イタチはそっと手に持っていた苦無を下げて懐にへと戻す

 

 

そうして、その彼の話を更に詳しく言及する為に静かにこう要求した

 

 

「…もっと詳しく、その話を聞かせてもらおうか…」

 

 

闇の書を巡る奇妙な因果と少女の運命

 

 

果たして、一人の忍が取る選択は過ちなのか幸せなのか…

 

 

ただ、月明かりだけがイタチとグレアムが対峙しているその場を妖しく照らしていた

 


 
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