16話 魔性の手を防ぎたい・前編
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どうやら今日も朝がやってきたらしく、小さな訪問者が窓から部屋の中へと侵入してきた。チュンチュンッと鳴きながら突っついてくるのでさすがに寝ていられない。
むやみやたらと動物たちと戯れすぎたのはだめだったかもしれない……。と思いつつも可愛い動物見たら可愛がらずにはいられないよなーとも思ってしまう。
「こんなにいたのか……あれ? こいつ前の街でも見た気が……。いや、でも気のせいかな」
鳥は鳥だ。何処にでもいるしわざわざ追ってくるはずもないだろうと結論付け、手に乗せたり、頭にのせたりと戯れ始める。
そうこうしているうちに目は冴えわたり、小鳥は満足したのか窓から飛び去って行った。これが巣立ちを見届ける親鳥の気持ちだろうかとほんの少し寂しい思いをしながら見届けた。
小鳥を見送った後は日々の日課である鍛錬をやろうと調練場へと足を運ぶ、するとそこには予想外の人物が汗水たらして朝から頑張っていた。
「フンッ、ッハ!」
一刀は気合いの掛け声と共に刀の残像を残しながら、なかなかに速い速度で刀を上から下に何度も振り下ろしている。
「また随分と早いな」
一声かけて隣に並ぶとタオルを取って汗を拭きながら笑いかけてきた。もちろん水道水で水分補給する事も忘れていない。
「ああ、昨日時雨と話していてわかったんだ。このままのんびりとはしていられないってね」
「はは、いい心がけだな。よければ俺が稽古つけるか?」
「それは願ってもないけど武器はどうする?」
「真剣に決まってるだろ」
「わかった」
あまりにも普通に了承するので驚いてしまった。一昔の一刀ならこういう場合どういった返しをしただろうか? 少しずつだけれど一刀もこの世界に順応してってると思うと悲しいやら嬉しいやら。
「なんだか今日の一刀はやる気だな…。まあ、死ぬなよ?」
脅かすつもりで薄笑いを浮かべて言ったのがどうやらやる気の一刀にはあまり気にならない様だった。ちょっと格好つけたのに悲しい。
「それじゃあ、行くぞ!」
「応!」
まずは小手調べに懐に飛び込み小刀で一閃する。当たると思われたその攻撃は一刀の波紋刀の上を滑らされていく。そして時雨が微かに見せた隙を見逃さず果敢に打って出てくる。
「フンッ! ッハ!」
久々の刀だからなのかは分からないが打ち込みがいまいちなように感じる。剣に慣れ過ぎたのか、それとも単に実力なのか……。それを確かめるためにも紙一重で避けた後に小刀で斬りつける。
いやはやこれはすごいと言わざるをえない。試しとはいってもそれなりの速さで斬り込んだのだが、刀の柄で受け止められてしまった。さすがに舐めすぎていたかもしれないと反省しつつもう1つの小刀も鞘から出す。
「そんじゃそろそろ二刀同時で行くぞ!」
宣言と同時に2振りの刀を交差させる。
「っく!」
宣言があったおかげか、辛うじて2振りの刀を受け止める一刀。試してみて分かったが、張遼とかにはまだまだ及ばないものの、そこら辺の並みの武将クラス1人相手ならもう善戦できる所はまで来ているのではないだろうか。
しかし、いくら今まで容赦せずに鍛えたからと言って成長しすぎじゃないだろうか? 部隊を持ったことで意識改革されたのはなんとなく分かるが、武術の腕までここの所急成長している。
さすがに何かの作為、例えば自分にまつわる成長値MAXが何か関係しているのではと勘繰られずにはいられない。
起こっている事の異常性に考え巡らしながら一刀の相手をする。それでも2振りで攻め立てている為一刀は防戦一方になりつつある。辛うじて受け止めていられるのもひとえに時雨が考え事をしているのが大きい。
考えた所で検証しなければ分からないと結論を出した所で意識を一刀へと戻し、瞬間的に力を上乗せする。
「これでしまいっと!」
加速した2振りの小刀は容赦なく一刀の手の甲へと吸い込まれていく。対する一刀の反応は疲れのせいか鈍く、なすすべもなく手を刀の背で打ち据えられ、地面へと波紋刀を転がす。
「くっそ〜〜〜。やっぱ時雨は強いな」
本当に悔しそうに呟く一刀を見て精神的な変化が大いにあったであろう事はまず間違いないと確信する、部隊の隊長職のおかげというのも大きいだろうが、やはり深夜に話した“策”が関係あるのかもしれない。もしそうだとしたら本当にお人よししか言いようがないが。
「さすがに三刀使わなかったけど、二刀使わせたじゃないか。十分凄いよ」
自分で言いながら俺ナルシストみたいだなと思いながらも事実を告げていく。実際一刀相手なら手加減していても1振りで十分だと思っていたのだ。それを2振り使わせたのだから十分だと思う。
「いや、時雨全然手加減してたろ? それに二刀使う時言ってくれなかったら止めきれたかどうか……」
「へぇ、そこまでわかるならだいぶ進歩したんじゃないか? やっぱ昨日のスパルタが効いたのか?」
あれが分かったという事は不利な立場にいた上で冷静に判断できたという事だ。これは大きな一歩と言えるだろう。
「確かにあれは死ぬかと思った」
「そりゃそうだろ、なんたってあの呂布が稽古つけてくれたんだからな」
「いや、時雨とかごめもだったろ」
「昔のことは忘れたさ」
わざと恍け、肩を上げて困ったやつだとジェスチャーしてみせる。それを見て一刀が声を上げて勢いよく飛び掛かってくる。
「お前っ!」
結局ふざけ合ってるだけなので、なんだかんだとじゃれながら鍛錬をする時雨と一刀。圧倒的に実力は違うもののなかなか楽しいひと時と言える。時雨にとって一刀は初めての男友達と言う事もあるので、楽しくて当たり前かもしれない。
しばらくは一刀の鍛錬に付き合い、適度に一刀の限界を見極めながら追い詰めるといった行動を繰り返す。一刀が両手を上げて降参を示した後は、罰として今度は俺の鍛錬に付き合ってもらうことにした。
「動くなよー?」
遠くにいる一刀に聞こえるよう声を張り上げて注意を促す。そして弓で狙いを一刀の頭の上にあるリンゴに定める。
そして放った矢は時雨が懸命に狙ったのにも関わらず、無残な結果になるとは誰も予想できなかった……。なんてね。
「今不吉なこと考えなかったか?」
「いや気のせい」
ふざけた思考はやめて改めて狙いを定める。風の向き、強さ、目標との距離、すべてを測り終え、この程度なら当てるのは雑作も無い事だけれど、それを道中の訓練で行った事はないので一刀は知る由もない。
ガタガタブルブルと真っ青になって震えているのは情けなくもあったが標的にされているのだから仕方ないかと納得する。
「あんまり震えるなよ。狙いをはずしかねん」
「え、ちょっと待て」
一刀が喋ろうとした時を見計らって打つ。今の一刀は魚の卸売りで売られている活きのいい青いマグロのように口をパクパクさせている。
「どう? すこしは戦場の気分味わえた?」
「いや…すこしどころじゃない………」
「それは良かった」
未だ震えの収まらない一刀に対して時雨は笑顔で軽く言ってのける。こういう事平気で言える自分に時雨は少しSな要素があるかもしれないなと思う。
「時雨って結構Sだったんだな」
けれど自分で思うのと他人に言われるのとでは全く違うもので、納得がいかない。理不尽かもしれないがそういう事ってあると思うんだ…と自分に言い訳をしながらSと言われたとおり一刀を苛め抜く決意をする。
「じゃぁ次は槍、その次は鈍器、そのまた次は木の枝、そもまたまた次は……」
「ちょっと待て」
「ん? 何?」
「それ全部俺が手伝うの? というか変なものが混じっていたきがするけど」
「もちろん」
木の枝をどう使うかは本番でのお楽しみだと笑顔で話しながら準備をしていく。そして準備された武器をどのように使うかを一刀が聞くたびに一刀の顔が青ざめていく。
全く…、口は災いの元だよ……。前も言わなかったっけ? 心の中でだけど。
時雨の怒りを買ったその朝は一刀の悲鳴が城内に響き渡ったとか
◇◇◇◇
一刀とを苛…、鍛錬を終えて後何をやるべきかが分からなかった為、賈駆の所へ出向こうと思ったのだ時雨だったが、また迷っていた。
最初は自分で解決しようと歩き回っていたが、同じところをぐるぐる回っている様に重い、仕方なしに近くの人に聞こうと思って辺りに目を向ける。すると視界の端にだれかがいるのが見え、とりあえずその人の元へと足を向ける。
あれ? あれは董卓殿ではありませんか。まさか迷子? と自分の事を棚上げしつつ考える。
「おーい、董卓殿!」
「あぅ……紀霊さん、何か御用ですか?」
「聞きたいことがあるんだけど、その、董卓殿はもしかして迷子という奴じゃ?」
「はぅ……違いますよ!」
ちょっと怒った様に頬を膨らませる董卓殿からは全く威圧感を感じない。怒る事が出来ないのか、それともこれが怒っているのか、どちらにしても……なんだこの可愛さは!
所詮一刀と話し合う為に俺が描いた絵等ゴミクズの価値しかなかったっていうのか……と1人うなだれながらも返事をしないと不味いので、意識する事無く思ったままの事を口にする。
「ああ、それはすまない。それにしても董卓殿は可愛いな」
「へぅ……」
可愛いという言葉にモロに反応して赤くなってうつむく董卓殿を見て自分が口走ってしまった事を思い返し、雇い主になんて事を! と後悔しながらも可愛いので別にいいかとすぐに流し、終いには可愛すぎていつもの癖で撫でて始めてしまう。
ッハ! これはもしかして董卓殿が怒って俺がクビになるのでは? と気づいたのは撫でて数分たった後である。いつもながら時雨の撫でるという行為に関してのうっかりは直る兆しがない。
恐る恐る改めて董卓殿を見るとさっきより顔を赤くしていた。……な、なんて野郎だ。さすが恋姫でも画面越しで少なくない人々を萌え殺してきた猛者だけのことはある。と馬鹿な事を考えつつ手を止める事はしない。
そうしているとドドドドドドッと通路から埃を空気中に舞わせながら突っ込んでくる人影を見た。
「月にーーーーーーさーーーーーわーーーーるーーーーーなーーーーーー」
野生の賈駆殿が現れた。と脳内でわざわざポ○モン風に作り変えて現状を把握する。そして先ほどまで賈駆を探していたことを思い出し声をかける事にした。
「丁度いいところに……実は賈駆殿にきき」
時雨の声が耳に入らないのかビューーーーンと凄まじい速度を維持したまま、董卓を拉致して賈駆は走り去ってしまった。
萌え死にそうな俺を助けてくれたのかな? などというネジの外れた考えは相変わらずの時雨だが、賈駆の凄まじい走り込みを見たおかげで当面のやる事を自分で思いついた。
「部隊でも集めて調練しよう」
寂しさを紛らわせるように1人呟き、フラフラとあっちを見たりこっちを見たりしながら演習場を求めてさ迷いだした。
◇◇◇◇
「おーい、董卓殿!」
誰かが呼んだ声がしたので振り向いてみると紀霊さんが走ってやってきたのが見えた。
「あぅ……紀霊さん、何か御用ですか?」
「聞きたいことがあるんだけど、その、董卓殿はもしかして迷子という奴じゃ?」
「はぅ……違いますよ!」
何故か子ども扱いされてる気がしてならない。というよりこんな所に居る紀霊さんが迷子なんじゃないだろうかと思いつつも、とりあえず失礼なことを言われたので怒ってみることにしたのだが……紀霊さんはしょんぼりする事無く何かを耐える様に悶え始めただけだった。
そしてやっと悶え終わったと思ったらとってもすがすがしい笑顔を向けてきて
「ああ、それはすまない。それにしても董卓殿は可愛いな」
「へぅ……」
なんて事を言ってきたので顔がほのかに熱くなってしまうのは避けられなかった。
恥ずかしいですと声にならない声で訴える。けれどそれが紀霊に届くわけも無く、顔を見られない様せめて俯いている事しか出来ずにいた。
すると頭の上に優しく手を置いて紀霊が撫で始め、そう気づいた時には既に遅く、自分から何か言い出す事も出来ないまま耐える事しか出来なくなっていた。
紀霊が撫でるたびに董卓は暖かくて、優しい気持ちにさせてくれるような。それでいて胸の奥が暑くなるような気がしていた。
あ……私今恥ずかしいことをされてるんじゃ、そう思うともっと顔が熱くなって止まらなくなってしまう。
どうしようかと考えているうちにふと紀霊さんの手が離れ、やっと解放されたと思った次の瞬間には誰かに腕を捕まれた。掴んだ人物を見て見るとそこにはなじみの人物がすごい形相で、腕を引っ張り走っていた。
「え? あれ? 詠ちゃん?」
気づけば怒らせていたというこの状況に少し困惑しながらも何故怒っているのか考えてみる。先ほどの紀霊の撫で撫でと、これまでに紀霊が示してきた実力、時たま垣間見る子供っぽい仕草。考えてみればこういう男の人は今まで傍にいなかったタイプである。
そして前を走る詠の顔は今まで見たことがなく、そんな詠を見れたことが董卓はちょっぴり嬉しくてちょっぴり悔しかった。
でも、そっか……詠ちゃんはやっぱり………。
◇◇◇◇
「早速で悪いんだけどこれより第二回魔手防衛作戦会議を開催します!」
半ば投げやりに会議開催の宣言をする賈駆に集まったメンバーは何処かどうでも良さそうに頷きを返す。
「ああ、そんな名前やったんやな」
「どうでもいいけどどうしてまた急に?」
心底どうでも良さそうな顔をしている綾と張遼は早く話を進めたいのかいきなり確信をついてくる。
「そ……それは」
言いよどみながら賈駆はは董卓を見やる。すると董卓は思い出したのか赤くなって俯いてしまい、賈駆もあの時の光景をありありと思い出して不機嫌になってしまう。
「へぅ……」
「あいつがボクの月に手を出したからよ!」
ドンッ!と拳が痛いのも構わずに思い切り机を叩きつけ、声高に叫びを上げる。
「あちゃー、ついにあれを月も撫でられてしもたんかー」
「そういえば張遼さんは昨日結局時雨に撫でられたんですか?」
綾がピンポイントに結果を聞くと張遼も董卓と同じように赤くなって俯いてしまう。それだけで他のメンバーは悟った。
「間違いないな」
「まちが、い……ない」
「な、なんやねん! 自分らも紀霊にやられてるんやろ?」
ジト目で見つめる綾とかごめに対して誤魔化そうと声を張り上げ、問いかける。それに比べその問いに対して2人は赤くなるでもなく普通に対応する。
「ふふん、私はしたくてしてもらってるからいいの」
けれど普通の対応がまずい場合もあると知るべきだった。
「ッハ! 異端者よ! 誰かこいつを運んで」
「またなのーーーーーーー」
叫びながら綾がまた兵士に引きずられて会議室を後にする。今回もかごめは言いそびれたおかげで助かったりしている。
綾が連れて行かれたことにより先ほどまでの何処か微妙な空気は消し飛んでいる。そこで改めて賈駆が仕切りだす。
「さて、異端者は去ったは……今日はゲストを呼んでるの。恐らく紀霊に唯一撫でられていない人! その名も華雄!」
「ん? なんだか知らんがなにが撫でられてないんだ?」
突然連れてこられたらしい華雄は先ほどまで鍛錬していたのかほんのり汗を額に浮かべながら1人困惑していた。
「ボクは手の早いあいつが唯一手を出していない華雄にはなにかあると思う!」
「それは紀霊は華雄が苦手っちゅうことか?」
「たぶんそうだと思う。ただそれが何なのかわかれば対策も立てられるはずよ!」
「紀霊とはだ」
「なるほどな! それならさっそく華雄を紀霊の前までつれてってみようや!」
「そうね! よし、行くわよ華雄!」
華雄は2人の会話に全く混ざる事も出来ず、ただただ成り行きに従って連れていかれるしかなかった。実は華雄は紀霊に一度も会っていないのだが、それは二人が知る由はない。
「詠ちゃん……」
部屋を出ていく3人を見る董卓の瞳には不安の色が浮かんでいおり、これから何が起こるのかなんとなく予測しながらも見送った。
「時雨……」
そして2人を見送るかごめは時雨になでなでされたいのでとりあえずついて行くことにしたようだった。
◇◇◇◇
「やっと、やっとついた……」
と呟きつつも1人では結局たどりつけないという結論に至った後、道端に居る侍女に聞いて回ったのだが、その反応が前よりも積極的に教えてくれた様に思えて今現在も何だか嬉しい時雨である。
そしてここで時雨にとってもうひとつの嬉しい誤算があった。ここについてから呼ぼうと思っていた新兵が既に来ていたのだ。正直どうやって呼び出そうか道すがら真剣に考えて答えが出ていなかった為かなり助かった形だ。
「あ、紀霊隊長!」
時雨の姿を認めたあっちゃんが時雨に走りより、挨拶を交わす。そこでやっとある可能性に気づき、問いかける。
「これはもしかしたあっちゃんが?」
「っは! 隊長ならもしやと思い、先駆けて集まっておりました!」
「それは嬉しいな、ありがと」
感謝の意を述べながら頭を撫でてやると頬を赤らめてぽわーとなりつつも何処か物足りなさそうなあっちゃん。なんだか新鮮な反応である、まあ普段ビシッとしてるのにそういう顔をされるから違和感を感じるのかもしれない、ギャップ萌えで俺得なのであまり気にしない。
「っ! 隊長、それでは調練をお願いしても?」
手をのけた後何事もなかったかのような態度を取るあっちゃん。やはり今までにない反応だ。……なんか凄いと思いつつ頷きを返す。
「わかった、それじゃ今回は隠密の歩法から気配の消し方を教える。俺が宣言した通りお前らには何でも出来るようになって貰う。昨日の戦闘はまだまだ序の口だ、だがあれを乗り切ったお前らならついて来れると信じている! 生き残るために今日も俺について来い!」
「ぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」
歓声が上がる、なんとも熱い奴らだ。そこまで思って自分も熱く語っているなと苦笑しながら未だに叫びを上げる面々を見る。
「まずは基本だが足音を出さないようにする。まずは俺がやるから俺の足の動きを見てそれを盗め。俺に一から十まで教えてもらえるなんて思うなよ?」
言葉の終わりに合わせて一瞬だけ殺気を放つ。やっぱり新兵だからだろう微弱ながらも殺気をぶつけられてびびっている。
前回は殺気を出さないで戦ったので今回は殺気に慣れてもらう面も大きい。なので脅しついでにこういった事も必要なのだ。
「それじゃみんなの周りでやるからちゃんと見ておけよ?」
言い終わると同時に足音を完全に消す。そして足の音の消し方がちゃんと見えるように、兵たちの前を回っていく。
「じゃあ今見せたものをイメージしながらそれぞれ二人一組になって足音が出てないか確認しながらやるんだぞ。出来たと思ったものは見せに来い、半端なことしてる奴は俺が半殺しにするから」
そういいながらまた言葉の終わりに一瞬殺気を飛ばす。相変わらずビクビクしているが、これぐらいの殺気で参っているようなら戦場で武将相手に簡単に殺されてしまうので早く慣れてもらいたい所である。
各自で練習を始めたので1人のんびり雲を眺めながら報告を待つ。暫くして新兵から声がかかり、時間がたつにつれ合格者がまた一人また一人と出始める。最後に残っていたのもまた歩法を見せてやったらなんとかクリアしてみせた。
なんだかんだいって最後の奴の面倒まで見る俺は甘いんだろうなと苦笑しつつも全員に教えきる。
そうして思っていたより早く全員がクリアし、このペースで行こうとさっさと次の段階へと移る準備に取り掛かる。
「お前ら優秀だな……俺は嬉しいぜ」
お世辞にもイケメンではないがとびきりの笑顔を新兵に向ける。いつもはスパルタ押しだけれど、きっとあめと鞭が重要だと思う。
「気配を消すのはさすがに1日で覚えることは出来ない。俺がまたまずやってみてそれから皆にコツを教えるからそれを練習してくること」
時雨が褒めてくれたことに気をよくしたのだろう、兵士たちから元気よく返事が返ってくる。
「それじゃあ行くぞ。よく見ておけ」
言い終わると同時に気配を一気に消す。もう俺に焦点があってる者はいなかった。それを確認できた時点で気配を戻す。
「どうだ?」
突然聞こえた声に兵は驚いたようにこちらを見てくる。兵からしたら突然人間が何もない空間から出て来たに等しい。
「これをお前たちにも最終的にやってもらう。コツを教えてやるから一人ずつ俺の元に来い。まずはあっちゃんからな」
「っは!」
勢いよく返事をして出てきたあっちゃんの手をとる。それに対して驚きの声を上げるあっちゃんを優しくなだめる。
「っな…!」
「驚かないで目を閉じて……意識を手に集中して」
未だ驚きの抜けないあっちゃんをゆっくりゆっくりと意識を体の内部に誘導していく。
「今からあっちゃんの気を引き出すからそれを感じてくれ」
気を教えるのは初めてとあって自分でも少し緊張してしまうが、なるべく慎重にあっちゃんから気を俺の気で引きずり出す。
引き出されると同時にあっちゃんがびっくりして気が霧散してしまう。気を意識させるだけなので最初はこんなものだろうと手を離しあっちゃんの目を覗き込む。
「とまぁわかったか? 今のが気、これを空気に溶け込ませるか、気を抑えるかで気配が消せるんだが……まずは気を意識してくれ、それが出来るようになったら気配を自分のできる方で消してみて」
「はっ……はい!」
緊張が微かに残っていられる様子は見られるものの、相変わらずの元気良さで返事をして隊列に戻っていく。
この後も同じような作業を行ったのだが、さすがにこの行為を千人全員にするのはさすがに骨が折れた。なんで皆頬を染めるかわからなかったが、手を取っているからだと気づき途中から自分も意識してしまい、咳払いをして兵と自分に気を引き締める様促したのはいい思い出になった。
とりあえずそんなこんなで気を教え終わった後は千人組み手をやる事になった。
今回は小刀一本で殺気も出していく事にし、綺麗隊1000人と相対する。
「俺を殺すぐらいの気概でこなきゃけがも負わせられないぞ? さっさとかかってこい」
こうしてまた千人みんなぶっ飛ばしていく、何度も何度も挑戦してくる綺麗隊の面々に容赦なく殺気を当てて怯ませ、叩き潰し、蹴り上げる。
相手の動きは鈍くなるものの、コツや対処法を身につけて襲いかかって来るので俺にとってもいい鍛錬になるのでこれは嬉しかったりする。
何時間もそうしていたら、いつの間にか日も傾いてきたので皆を集め、褒めた後に気の練習を課題として出して解散させた。
さて…俺も寝ようかな、と思ったら一人の女の人が目の前に立ちはだかった。今まで見たこともない人物だったが、はて誰だったか。微かに記憶に引っ掛かるその人物を懸命に思い出そうと頭をひねる。
「我が名は華雄! お手合わせ願いたい!」
そうそう確か華雄だよ。って何でいきなりそんなことを言ってきたのか理解できずに固まる。初対面でこんなことを言われる理由がなかんか思い浮かばない。
やっと、もしかして実力が知りたいとかそういう事だろうか? とあたりをつける。けれどもしそうなら先ほどの気の誘導やら千人組み手やらを見ているはずである。華雄であればまた後にしてもよさそうなものだけど……闘争心むき出しにしているので恐らく後では許されないだろう。
そういえば華雄って一方通行な人だったっけと思い出しながら、仕方ないかと思って小刀を一振り構えた。
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■後書き■
この話前後は作品として道に迷っていた時期ですね。懐かしい……。
仕事が忙しく更新出来なてないですが、休日に時間をあけて2話投稿する事で挽回しようかと思います。
幸い私の休み平日ですし、恐らく問題ないと思いたい……。さすがに3話投稿するつもりはないのでー。
これは7/17分です。
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