No.453900

仮面ライダーエンズ  ヤプールの欲望 前編

RIDERさん

エンズ編です。お楽しみください。

2012-07-16 06:51:35 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:753   閲覧ユーザー数:745

河原。

いつもの鍛練に来ていた皇魔は、ゆっくり目を閉じて力を解放する。

 

周囲に満ち溢れる闇の力。これでも本来の力には遠く及ばないが、セルメダルを集める前に比べたら大違いだ。

(これだけ回復していれば、いけるかもしれんな…)

とある実験を行うべく、さらに力を解放していく皇魔。

 

その時、

 

 

 

 

「皇魔!」

 

 

 

 

レスティーが現れた。

「何の用だ。」

力の解放を続けながら、皇魔は尋ねる。

「何の用だ、じゃないわよ。もう登校の時間なんだけど?」

「…ちっ」

舌打ちしてから力の解放を中止した皇魔は、レスティーとともに帰っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロストグラウンド学園では三年生の卒業が近付き、二年生は卒業式の準備をする手筈となっている。

「だからなぜ余がこのような真似を…」

A組の生徒達も例外ではなく、今は体育館の掃除中。掃除を手伝わされている皇魔は、自分があまりにも皇帝らしくないことをしているのに落胆していた。

「とかなんとか言いながら、結局手伝ってくれるんだよな。」

「やっぱり根は真面目なんだね。」

同じく体育館掃除を手伝う日向とスザクは、皇魔を賞賛した。

「屈辱だ。」

しかし、皇魔はそう感じてしまう。以前にも記述したと思うが、彼は基本的に自分以外の存在全てを格下と見ている。皇魔にとって格上の存在である自分が格下の連中に認められるなどというのは、屈辱でしかないのだ。

「そんな顔をするな。ボランティアだと思って取り組めばいい」

今皇魔に話しかけてきたのは、皇魔と同じ、悪から転生した転生者の月影しおん。しかし彼女の場合、悪の心が完全に煮沸されてはいるが、皇魔の場合はそうではない。何せ、死ぬ時の心情が全く違うのだ。しおんは父に認めてもらいたいという悲願が達成されてから死亡したが、皇魔は光への恨みを残したまま死んでしまった。しおんは全てが変わったが、皇魔は全く変わっていないのである。

「そうそう。それに、誰かから頼られるのって楽しいわよ?」

よって、超能力を使って飾り付けなどを手伝っているレスティーを見ても、

「余は貴様らほど能天気にはなれん。」

という有り様なのだ。

 

 

 

皇魔は考える。

 

エンズが全てを終わらせるものだというのなら、こんなくだらない日常を終わらせることもできるのだろうか?だったら今すぐにでも終わらせて欲しい。

 

 

 

 

 

 

こんな世界で生きるのは、もうまっぴらごめんだ。と

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卒業式まで偶然土日の休みが重なった。これを機に研究を進めようと決意した海馬は、インテグラやウォルター、さらに科学者達の力を借りて、対デザイアの研究を新たなる段階へと昇華させようとしていた。インテグラは研究のテーマを言う。

「メダルを利用したヒューマノイドを作成し、エンズとビーツのサポートをさせる。この実験が成功すれば、大きな戦力アップが計れます。」

今回の実験は、メダルを使ってヒューマノイド、すなわち疑似デザイアを産み出し、エンズとビーツのサポートに当たらせるというもの。まずはセルメダルでヒューマノイドの基本となる肉体を構成し、次に新たに作成したコアメダルを注入して思考を作成する。

「では、始めてください。」

ウォルターが科学者達に命じ、装置の中に必要な量のセルメダルを投入させる。数分後、肉体の構成が終了した。あとはコアメダルを投入し、思考を作成するだけだ。投入するコアメダルは、今回の実験専用に製造されたニクタイコアメダル、セイシンコアメダル、エネルギーコアメダルの三枚。ニクタイコアで肉体を安定させ、セイシンコアで思考を構成し、エネルギーコアで活動と戦闘に必要なエネルギーを生み出す。

 

そして、科学者の一人が今、装置に三枚のコアメダルを投入した。

「支障はないな?」

「はい。セルメダル、コアメダル、ともに安定しています。」

「よし。実験は成功だ」

科学者の一人に確認を取り、満足そうに頷く海馬。完成したヒューマノイドは、しばらく装置に入れたまま調整を行う。装置の構造上中のヒューマノイドの容姿を見ることはできないが、コンピューターの方で全身の状態をしっかり把握できているので、何の問題もない。これが完成すれば、エンズとビーツの大幅な戦力増強ができる。

 

 

 

 

 

 

 

そう思っていた時だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何もない空間が突然ひび割れ、中から黒いエネルギーが飛び出してきたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何!?」

全く予想できなかった事態に驚く海馬。エネルギーはそのままヒューマノイドを収容してある装置をすり抜けて、ヒューマノイドに宿った。

「社長!ヒューマノイドに異常が発生しました!これは…コアメダルの一枚が変化していきます!」

コンピューターでヒューマノイドの状態を監視していた科学者の一人が、異常を告げる。変化を始めたのは、エネルギーコア。やがてコアの性質は完全に変わり、コンピューター上におけるコアの表示が、マイナスエネルギーコアへと変化する。と、ヒューマノイドが装置を破壊して飛び出してきた。その姿は何かの昆虫を彷彿とさせ、さらに右手が鎌になっているという、当初とは全く異なるものに変化している。

「ふははははは!!!」

ヒューマノイドは笑いながら、研究室から逃げていく。

「何をしている!捕縛しろ!ウォルターはアーカードに連絡を!」

「はっ!」

状況にいち早く対応したインテグラは、周囲の人間に命令する。一方海馬は、ヒューマノイドの憑依したと思われる謎のエネルギーが現れた空間を見ていた。今はもう空間は修復されているが、こんなことは初めてだ。

「一体…何が起ころうとしている…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

皇魔はレスティーと一緒に街を歩いていた。目的は、無論デザイアの捜索である。そこへ、

「皇魔!」

音無、日向、直井、ゆりの四人が来た。

「デザイア、捜してるんだろ?」

「俺達も手伝うぜ。」

「僕に手伝ってもらえるんだ。感謝したまえ」

「かなでちゃんはいないけどね。」

デザイア捜索に協力を申し出る四人。ちなみにかなでがいないのは、生徒会の仕事があるからだ。しかし、

「帰れ。」

皇魔は四人を門前払いする。

「何でだよ!大人数でやった方が効率いいだろ!?」

日向は異議を申し立てるが、

「貴様らのような何の力もない雑魚の力をいくら借りたところで無駄だ。状況によっては邪魔にしかならん」

皇魔は考えを変えない。それを聞いてレスティーは、

「日向くんと直井くんはともかく、音無くんはビーツになれるし、ゆりちゃんはアルター能力が使えるわ。この二人だけはあなたと対等なんじゃない?」

あまりフォローになっていないフォローを入れる。

「あの程度の力で余と対等だと?笑い話にもならんわ!」

どうやら皇魔にとっては音無とゆりは対等ではないらしい。

「とにかく、余は貴様らと馴れ合うつもりはない。余の暗黒四天王ならまだしもな」

「暗黒四天王?何だそれは?」

聞き慣れない単語が飛び出し、直井が反応した。

「まだ貴様らには話していなかったな。」

皇魔は、暗黒四天王について説明する。

 

 

 

 

暗黒四天王とは、皇魔が転生する前に従えていた、四人の宇宙人のことだ。

 

冷凍星人グローザム、策謀宇宙人デスレム、悪質宇宙人メフィラス星人、そして異次元人ヤプール。いずれもが強大な力を持ち、皇魔の絶対支配を支えていた。

 

 

「少なくとも、あやつらほどの実力を身に付けねば、今の余と対等にはならん。」

「いや無理だろ!!」

「無理だから!!」

音無とゆりは否定した。

「情けない話だな。この程度にも合わせられんとは…」

「星間戦争レベルに話を広げるなよ。」

皇魔の発言にツッコミを入れる日向。と、直井はあることに気付く。

「待て。貴様は弱体化しているのだろう?ということは、今の貴様はその四天王にも劣るのではないか?」

「…そういやそうだな。」

力を取り戻しつつあるとはいえ、今の皇魔の力は本来の数万分の一。これでは確かに、暗黒四天王より下だろう。日向は納得した。

「貴様らの目にはそうとしか映らんか…ならば見せてやろう。」

言われて、皇魔は力を解放する。と、皇魔の目が一瞬青く輝き、全身が赤黒い炎に包まれた。

「皇魔!?」

レスティーは突然の事態に驚く。

 

 

 

 

しかし、皇魔は何かの気配を感じて力の解放をやめ、全身の炎を消した。そして、自分に向かってくる何者かに向き直る。

 

 

 

 

 

やがて現れたのは、黒衣に身を包んだ男性だ。男性は皇魔に言う。

「この力…間違いありませぬ。捜しましたぞ、皇帝。」

言ってから、男性は皇魔の前にひざまずいた。

「…誰?皇魔くんの知り合い?」

いきなり現れたわけのわからない男性と皇魔を交互に見ながら、ゆりは皇魔に尋ねる。皇魔はそれを無視して、男性に言った。

 

 

 

「このマイナスエネルギー…貴様…ヤプールだな?」

 

 

 

その発言には全員が驚きを禁じ得なかった。何せ今目の前にいるこの男性の正体は、暗黒四天王の一人だというのだから。

「お久し振りでございます。私、突如として行方不明となられた皇帝を捜索し、お連れするべく参りました。」

「おお、そうか!」

さらに頭を下げるヤプール。皇魔もまさかヤプールが捜しに来るとは思っていなかったが、ヤプールは様々な異次元科学に精通している。その気になれば、いかに平行世界であるこの世界であっても、来ることができるだろう。

 

 

 

だが、皇魔にはわからないことがあった。

 

 

 

「貴様、どうやって復活したのだ?」

ヤプールは幾度となく行われたウルトラマンとの戦いに数回敗れ、滅ぼされた。しかし、ヤプールはウルトラマンへの怨念によって蘇ることができ、その怨念がある限りは何度でも復活できるのだ。

 

そう、怨念があれば復活できる。

 

だが、皇魔が元々いた世界は、ウルトラマンが滅んだ世界。ウルトラマンがいなければ、ウルトラマンへの怨念が生まれない。恨む対象がいなければ、恨めないのだ。ウルトラマンが滅んだ時はちょうどヤプールがまだ復活していなかったこともあり、怨念がなくなってしまったヤプールは復活できず、そのまま完全に滅んでしまった。

 

しかし、ヤプールは確かに、皇魔の眼前に存在している。ヤプールはそのことについて説明した。

「それは、私が別の感情によって蘇ったからでございます。そしてその感情とは、あなたへの忠誠心。もう一度あなたに遣えたいと心から願った時、私は復活することができたのです。」

「…そうか…よくぞ戻ってきた。貴様こそ、まことの臣下よ。」

「ありがたき幸せ。」

あまりの忠誠心に感服する皇魔。

「さぁ皇帝。今こそ、我々の世界へお戻りください。再び、あなた様の栄華を築き上げる時が来たのです!」

「うむ!」

ヤプールが手をかざすと空間がひび割れ、その奥には真っ赤な異次元空間が広がっていた。ここへ入れば帰れるのだろう。

 

 

「ちょっと待てよ!」

 

 

しかし、今まさに元の世界に帰還しようとする二人を、ひき止める者がいた。音無だ。

「本当に帰るのか!?お前…まだ力だって完全に取り戻してないだろ!?」

「何!?お力が弱まっているのですか!?」

音無の言葉を聞いて、ヤプールは皇魔に訊いた。

「…うむ。かなりな」

「やはり…ですがご安心を。私の異次元科学の全てを使えば、皇帝のお力を回復できるだけでなく、さらなる強化もできましょう。」

「…苦労をかけるな…」

「もったいなきお言葉でございます。」

「…やっぱり…帰るのか…?」

音無は信じられなかった。まさか皇魔との別れがこうも早く、また突然訪れるとは思ってもみなかったからだ。

「音無くん。」

ゆりは音無の目を見る。音無はそれだけで、ゆりが伝えようとしていることがわかった。ゆりは音無に、これは仕方ないことだと言おうとしているのだ。確かに皇魔は転生者であり、元々この世界の住人ではない。ならば、本来いた世界に帰るのは当然のこと。

「…そうだよな…引き止めちゃ…いけないよな…」

「去る者は追わず。神としてそれは当然のことだ」

日向と直井も理解する。レスティーは皇魔に言った。

「あなたが決めたことなら、私は止めない。元の世界に帰るのは、あなたが前々から望んでいたことだもの。だから………元気でね」

「…ふん。」

レスティーからの別れの言葉に、鼻を鳴らして返す皇魔。

「では、参りましょう。こちらです」

「うむ。」

ヤプールを先頭に、皇魔は次元の裂け目へ歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし次の瞬間、皇魔はヤプールに向けてレゾリューム光線を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐわあああああああ!!!」

ヤプールは次元の裂け目へ押し込まれ、裂け目は消える。

「皇魔!?」

皇魔の行動が理解できない音無。対する皇魔は、無言。新たな裂け目はすぐに現れ、ヤプールが飛び出してくる。

「皇帝!何をなさるのです!?」

「余が気付かんと思っておったか?貴様は余に忠誠を誓ってなどおらん。」

「は!?」

「貴様、別の感情によって蘇ったと言ったな?貴様がいずれ余を倒し、宇宙を我が物にしようと考えておったのは既に承知済み!ならば貴様の復活に手を貸したのは余への忠誠心ではなく、貴様の欲望だ!」

「…さすがにそこまで馬鹿ではない、か…」

皇魔の言ったことは、真実だった。ヤプールは皇魔に忠誠を違ってなどいない。どころか、隙あらば皇魔を倒し、代わりに自分が宇宙を支配しようと考えていた。ならヤプールが復活に利用した感情は、宇宙を手に入れようと願う欲望だと推測するのが妥当だ。

「その通り!私は欲望によって復活した!全ては貴様を倒すためだ!」

「やはりな…レスティー!」

「は、はい!」

ようやく事態を理解したレスティーは、ベルトとメダルを渡す。

「変身!」

 

〈クレアボヤンス!ヤリ!ホノオ!ク・ヤ・ホ♪クヤホク・ヤ・ホ♪〉

 

皇魔はエンズに変身し、メダジャベリンを構える。

「宇宙は私がもらう!!」

ヤプールは一瞬自身を大量のセルメダルに分解し、昆虫のような本来の姿へと変身。右手の鎌を振りかざして、エンズに襲いかかった。エンズはそれを巧みにいなして、メダジャベリンで迎撃する。

「皇魔!」

我に返った音無もビーツドライバーを装着し、ヘンシンコアメダルを装填。

「変身!」

 

〈Music Start!〉

 

ビーツに変身して、ビーツソードでヤプールに斬りかかる。

「音無!皇魔!」

「音無さん!」

「あたしも戦うわ!援護をお願い!」

サイレントアサシンを発動して加勢するゆりと、互いに銃を抜いて三人を援護する日向と直井。数の利、実力差で、ヤプールは簡単に追い詰められていく。

 

だが、

 

「ウオアアアアアアアアアアアア!!!」

ヤプールは咆哮とともに戦闘力を上昇させ、反撃してきた。ヤプールはこの世界で活動するための依代として、海馬達が開発したヒューマノイドに目をつけ、憑依しのである。今のヤプールは疑似デザイアでもあるため、セルメダルの自己増殖ができるのだ。そしてセルメダルが多ければ多いほど、ヤプールは強くなる。

「うあっ!!」

ヤプールはゆりを殴り飛ばした。

「ゆり!」

それに気を取られてしまったビーツはヤプールに鎌で滅多斬りにされ、さらに蹴り飛ばされる。

「ぐああっ!!」

奇しくもゆりの側まで飛ばされたビーツは、ダメージによって変身が強制解除された。

「まず貴様らだ!」

ヤプールは鎌にエネルギーを集束し、

「死ぬがいい!!」

破壊光線を撃った。音無とゆりはダメージで身体が動かず、よけられない。

 

 

 

 

 

 

しかし、

 

 

 

 

 

 

 

二人に光線は当たらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エンズが二人を庇ったからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあっ!!」

自分の背中をヤプールに向け、二人を守ったエンズは崩れ落ちる。

「皇魔!」

「皇魔くん!」

エンズを支える二人。

「皇魔…どうして俺達を…」

音無にとって、それはあまりにも衝撃的な光景だった。あの皇魔が、誰かを守るという行為から誰よりも遠い性格の皇魔が、身を挺して自分達を守ったのだ。

「黙れ…!!」

エンズは自分を支える二人の手を振り払い、ヤプールに突撃してメダジャベリンを振り下ろす。しかし、いかにかの皇帝とはいえ手負いの相手の攻撃など、ヤプールは容易く止められる。今のエンズの状態は、エンペラ星人を倒して新たな宇宙皇帝になるという欲望を持つヤプールにとって、またとないチャンス。そしてその勝機を確実なものとするため、ヤプールは次の一手を打つことにした。

「今お前は何をした?」

「!?」

ヤプールはエンズに語りかける。

「他人を庇って仲間気取りか?そんなことをして何になる?お前を信じてくれる者など、誰もいないというのに…」

「黙れッ!!」

エンズはメダジャベリンを振るが、ヤプールはそれをかわす。今の攻撃はかなり大振りだったので反撃もできたのだが、ヤプールは現在回避に重点を置いて戦っているため、下手な反撃はしない。いや、する必要がない。なぜならヤプールは、ずっと攻撃をしているからだ。

「そうだ。お前を信じる者など、誰もいない。それは、お前が誰も信じようとしないからだ。しかし、私はそれを責めているわけではない。お前が常に周囲を疑っていたからこそ、私の企みに気付くことができたのだから…」

読者の方はもう気付いておられるだろう。

「だが、お前が疑い続ける限り、誰もお前を信じはしない。それでもお前は疑うのだろうな?」

ヤプールの攻撃とは、

「仕方ないさ。いつか必ず、お前を裏切る者が現れる。」

勝機を確実なものにするための一手とは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私のようにな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

言葉攻めによる心理攻撃なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「黙らんかぁぁぁぁァァァァァ!!!!」

怒りに任せてレゾリューム光線を撃つエンズ。ヤプールはそれをかわして、言葉を紡ぐ。

「いくら信じたところで、裏切られては意味がない。だからこそ、お前は誰も信じないことにした。お前に反逆する者は大勢いたからな、当然だろう。」

元いた世界での皇魔は、宇宙皇帝として君臨してからも、反逆の刃に晒され続けていた。寝首をかかれそうになったのも、一度や二度ではない。

「お前は気丈に振る舞いながらも、ずっと怯えていたな?今度もきっと裏切られる。次はいつ裏切られるのか、と。お前の姿は何よりも滑稽だったぞ!」

「くっ…!」

エンズは仮面の下で苦い顔をした。ヤプールは手口が陰湿なことで知られていたが、まさかそれが自分にとってここまで効果のあるものだとは思っていなかったからだ。以前の自分ならこの程度の言葉攻め、笑い飛ばすことができていたはず。しかし、

(なぜだ…なぜ余は奴の言葉に、こうも心を揺さぶられる!?)

今の彼は、激しく動揺していた。

「なぜ自分がここまで動揺しているのか、と思っているだろう?」

「!!」

まるで心を読むかのようなヤプールの発言。

「それはお前が無意識のうちに、この世界の住人達を信じていたからだ。そこへ私が、お前がかつて味わっていた苦痛を思い出させた。今のお前は疑念に駆られ始めている。また裏切られるのではないか、とな。」

「う…」

エンズは言葉に詰まる。確かに、そうかもしれない。音無やゆり達と様々な事件に巻き込まれ、それを解決し、戦い抜いていく中で、いつの間にかよくわからない感情が生まれていた。思えば、それは恐らく彼らとの絆。団結して立ち向かうという、仲間意識。しかし、もしそれを裏切られるとしたら?今ある絆が、偽りのものだとしたら?裏切られる可能性は、ないとは言えない。今の自分の肉体が地球人のものとはいえ、心はエンペラ星人のまま。どちらもの性質を持つ自分は、一体どっちの存在なのか。それは自分でもわからないが、とにかく異質な存在だというのは確実だ。前にセフィロスに向かって、お前はお前と言ったが、皇魔の場合は自分で自分がわからなくなっている。自分という存在が信じられないのだ。そんな存在を、一体誰が信じてくれるだろう?かつてと同じように、彼は何も信じられなくなっていた。いや、自分すら信じられないのだ。前よりもっと悪い。

「皇魔!そんなやつの言葉に耳を貸しちゃ駄目!!」

ヤプールの意図に気付いたレスティーが叫ぶが、

「無駄だ、お前は裏切られる。必ずな」

ヤプールの言葉を聞いて、エンズはかつて倒した敵の言っていた言葉を思い出してしまう。レスティーは自分が快楽を得るために、多くの国を滅ぼしてきた。彼女の口車に乗った者の運命は、破滅だと。ということは、自分は利用されているだけで、いつか裏切られるということ。

(余は…余は…)

もはや協力者も信じられなくなり、完全に疑念に駆られてしまったエンズ。

(…頃合いだな)

そんな彼の隙を、ヤプールは見逃さなかった。素早く接近し、

「っ!!しまっ」

「ハアッ!!」

反応が遅れたエンズを斬る。

「ぐわっ!!」

「お前は誰も信じられないまま、永遠に他者に怯え続ける!!」

そのまま連続斬りで畳み掛け、

「孤独の中で!!」

蹴り飛ばし、

「死に絶えるのだ!!」

破壊光線を放つ。

「ぬああああああああああああああ!!!」

遂にエンズは変身を解除され、倒れた。

「「皇魔!」」

「皇魔くん!」

「「!!」」

倒れた彼の名を呼ぶレスティー、音無、ゆり、日向、直井。

「さぁ、死ね!」

ヤプールは皇魔にとどめを刺すべく、近寄っていく。

 

 

 

 

その時、

 

 

 

 

「ドラモンキラー!!」

デジモン形態のブラックが現れ、ドラモンキラーでヤプールを弾き飛ばした。

「ぐっ!邪魔を…」

「衝撃のぉぉぉ…!!」

「!!」

「ファーストブリットォォォォ!!!」

さらにカズマが割り込み、シェルブリットでヤプールを殴り飛ばす。

「絶影!!」

その先にいた劉鳳が、絶影の烈迅でさらにヤプールを弾く。

「おのれ…」

立ち上がろうとするヤプールだが、アーカードまでが現れて、ヤプールを銃撃する。

「無事かお前達!!」

次に来たのは、ダークプリキュアとブルーアイズを召喚した海馬。それからクラウドとザックス。

「大変なんだ!皇魔が!」

「よし、運ぶぞ!」

「ああ!」

音無に言われ、クラウドとザックスは皇魔に肩を貸す。

「逃がさんぞ!」

アーカードの弾幕を抜けようとするヤプール。しかし、

「プリキュア!ダークフォルテウェーブ!!」

「滅びのバーストストリーム!!」

「があああああ!!!」

ダークプリキュアのエネルギー弾とブルーアイズの光線を喰らい、吹き飛ばされる。音無達はその隙に離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遅れて連絡を受けたかなでが合流し、海馬は自分とアーカードがヒューマノイドを追ってきたことと途中でカズマ達に会ったことを、音無達はヤプールのことを互いに話しながら、レスティーが持っていたポーションで皇魔を回復させていた。

「触れるな!!」

回復して早々、音無達を遠ざける皇魔。

「貴様らもいずれ、余を裏切るのだろう!?ならば近付くな!余は貴様らと馴れ合うつもりはない!!」

皇魔は完全に人間不信に陥っていた。

「…あれだけのこと言われたんだから、当然だよな…」

日向は悲しそうにうつむく。すると、

「海馬。お前、ヤプールの居場所がわかるんだよな?」

音無が海馬に訊いた。

「ああ。ヒューマノイドに組み込んだコアメダルは、他のコアメダルにはない特殊な波長を出すようにしてある。それをこれで辿れば…」

海馬はヤプールのコアが発している波長をキャッチするためのレーダーを出す。

「それ、貸してくれないか?あいつを見つけるにはいりそうだから。」

「待ってください音無さん!まさかヤプールを倒すつもりですか!?」

直井は音無の正気を疑った。今負けたばかりなのに、音無は再びヤプールに挑もうとしているのである。

「倒せるかどうかはわからない。だが…」

音無は皇魔を見た。

「皇魔をあそこまで馬鹿にしたあいつを、俺は許せない。」

音無にとって皇魔は憧れの的。皇魔の傲慢なプライドさえ、彼は認めている。それをズタズタに傷付け、あまつさえ肉体までもボロボロにしたヤプールを、音無は許すことができなかった。

「なら、あたしも行くわ。」

進み出たのは、かなで。

「二人で挑めば、勝率も上がるはず。」

「二人より三人よ。借りは返さなくちゃね」

ゆりまでもが挙手をする。

「二人とも、すまない。みんなはここにいてくれ」

音無は残ったメンバーに皇魔の面倒を見るように言うと、海馬からレーダーを受け取り、ゆりとかなでを連れてヤプールを倒しに行った。アーカードは皇魔に尋ねる。

「お前は行かないのか?」

「…余計な世話だ。」

「…こりゃ相当な重症だな…」

ザックスは苦い顔をして頭を掻いていた。

「…どうやら、話すなら今みたいね。」

唐突に言葉を発したレスティー。

「何をだ?」

「先代のエンズのことよ。」

クラウドの問いに返されたのは、思いがけない答えだった。

「確かに気になる話ではあるが、それは今すべき話か?」

変身を解除して元に戻っているしおんは、今の状況と全く関係ない話をしようとしているレスティーに自重するよう言うが、

「今すべきだから話すのよ。」

どうやら必要な話らしい。

「実はね皇魔。先代のエンズもあなたと同じで、転生者だったの。多分、あなたも知っている人よ。」

「…?」

わずかに反応する皇魔。そしてレスティーは、先代のエンズの正体を言う。

 

 

 

 

 

 

「変身者の名前は、ケン。彼の本名にして、転生前の名前は、ウルトラマンケン。」

「!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これには皇魔も驚愕を禁じ得なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルトラマンケン。それは皇魔の心に最も強く残っているウルトラマンであり、正史におけるウルトラの父である。

 

 

 

 

 

 

 

 

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後編に続きます。


 
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