No.452620

Fate/anotherside saga~ドラゴンラージャ~ プロローグ

Fate/EXTRAとドラゴンラージャのクロスオーバー小説、Fate/anotherside saga~ドラゴンラージャ~のプロローグです。
……もっとも、今回の話ではドラゴンラージャの要素はまだないんですけどね(^^;)
あと二、三話したら出てきます。


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2012-07-14 11:21:50 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:2405   閲覧ユーザー数:2364

 

 

 

「これが……聖杯……」

 

 

……触れた瞬間、聖杯の中にいた。

聖杯に吸い込まれた、いや溶けこんだと言った方がいいだろう。

分解されるまでのわずかな時間――だけど、意識は確かにムーンセルに接続し、1つの存在となっていた。

ムーンセルのすべてに触れ、その蓄積のすべてを見た。

膨大な情報、人類とは異なる概念、紋様のように編まれた情報保管の工程は、人類が使う知識体系ではない。

しかし理解できなくても、感じることはできる。

確かにムーンセルの記録した人類史において、トワイスの言葉は間違っているとは言えない。

戦争は一方で発展を生んだ。

そして凛が何度も言ったように、現在はかりそめの平和の代償に底知れぬ停滞を抱えている。

 

 

 

 

けれど、ムーンセルは記録するだけだ。

 

 

 

 

 

観測し、計測し、記録する中で幾度か生まれかけた知性。

それを自ら解体し、観客であり続けた。

 

 

 

 

地上(そこ)は、人間(あなた)がたの住む世界だと。

 

 

 

 

どのような事態が人類に、地球(ほし)に起ころうとも、月は全てを受け入れて、ただ見守り続ける。

そんな強さ。

そんな在りように、トワイスは気付けなかった――。

 

 

「…………」

 

 

……だけど、感慨を抱く暇はない。

聖杯へ、願いを伝えなければ(インプットしなければ)ならない。

 

 

「…………よし」

 

 

―――入力完了。

一文字も歪むことなく伝わった……と、思う。

これで、後は分解の時を迎えるだけだ。

 

 

「…………あれ?」

 

 

……そのはずだが、その時が不思議となかなか来ない。

ムーンセルと一体になった事で、時間感覚はそちらに同調している。

1秒で膨大な計算を処理する演算機。

なので刹那の時間でも、体感では多少長くはなっている。

とはいえ、それにしても長すぎる気がするけど――?

 

 

「ふむ、話が違うな。あのトワイスとかいう男、勘違いをしていたか?」

「! セイバー!?」

 

 

セイバーの声が聞こえてきた。

すぐそばで、というより、同じ聖杯の中で。

いつの間にか彼女も一緒に聖杯の中に入り込んでいたらしい。

 

 

「……いま気付いたような反応をするな。そもそも余の存在は常に気にかけておくのが余の奏者(マスター)たる者の務めであろうに」

「そ、それはそうかもしれないけど…………」

 

 

しかし、少し意外だ。

聖杯戦争は終わり、もう戦闘もない。

…………つまり、すでにサーヴァントとしての彼女の役割は終わったのだ。

ならば寂しいけれど、彼女がここまでついてくる理由はないというのに。

 

 

「これがそなたの、マスターとしての最後の仕事なのだろう? ならば余が同席するのは当然だ。そなたが余の力を必要としているときならば特に、な」

「セイバー…………」

 

 

……そうか。

混入した異物が1つ多ければムーンセルの行う処理が増え、結果、分解までの時間が延びる。

彼女なりの不甲斐ないマスターに最後の助太刀をしに来てくれたという事か。

正直、彼女の気遣いはかなり嬉しい。

 

 

「でも……」

 

 

それだけでこれほどの遅延は生じない。

他にまだ何かあるはずだ。

ムーンセルと接続している今、原因を探るのはそれほど困難ではない。

意識は程なくして、1つのデータに行き当たった。

 

 

「――――っ!」

「? これは、そなたのようだな。……なんだ、この冷凍、睡眠と言うのは?」

 

 

――それは、ある難病患者のデータ。

記憶障害を引き起こし、最後は死に至る脳症の。

治療のための理論は示されていたが、技術的な問題と、理論の提唱者がテロ災害で死亡した為、手術は断念された。

技術の進歩と理論の完成を待つため、当時ようやく実用化された冷凍睡眠(コールドスリープ)装置で患者は保管され――

 

 

「そういう、ことか…………」

 

 

同じ個体情報を持つ生きた人間がいるのなら、不正なデータかどうかは即断出来ない。

データの照会が必要となる。

それが、分解がここまで引き伸ばされた理由。

とはいえ、そこに眠る彼が魔術師(ウィザード)として、この世界に来たわけではない。

俺はあくまで、その人生(データ)の再現体。

それが判明し次第、俺は分解される。

 

 

 

 

 

運命(フェイト)は変わらない。

 

 

 

 

 

時間もそれほど残ってはいないだろう。

 

 

「だけど…………」

 

 

メールを一通送る程度の、ささやかな余裕は、残されていた。

 

 

「―――――――――――よし」

 

 

送信、完了。

無事に凛のもとに届くと思う。

 

 

「これで……本当にやるべきことは全て終わった。後は、分解の時を待つだけ――」

 

 

目を瞑って、その時が来るのを静かに待とうとする。

……………その時だった。

 

 

 

 

 

「本当に、それでいいの?」

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

――誰だ?

突然、どこからか若い女性の声が聞こえてきた。

でも、セイバーの声じゃない。

ガラスのように透明で綺麗な声だが、綺麗すぎて現実味がまるで感じられない。

だけど、ここに俺とセイバー以外に人がいるはずがない。

では、この声は一体、誰が、どこから――?

 

 

「―――――っ!」

 

 

それは、本当に唐突の変化だった。

謎の女性の声に問いかけようとした瞬間、俺は聖杯の中から見知らぬ部屋に移動していた。

 

 

「こ、ここは…………?」

 

 

部屋は一面真っ白で家具も何も置かれておらず、ただ少し広い空間が広がっているだけだった。

……はっきり言って、最初の頃の俺のマイルームよりもさらに殺風景だ。

 

 

「むっ、どういうことだ? 余と奏者は確かに聖杯の中にいたというのに、いつの間にか別の空間に移動しておるとは…………」

 

 

振り返ると、驚いた表情をしたセイバーが立っていた。

それを見て、少しだけ安心する。

彼女もいっしょにこの部屋にいる――それだけでずいぶんと気持ちが楽になった。

それにしても、これは一体どういうことなんだ?

 

 

「まさか……罠か?」

 

 

ふと思い出したのはユリウスの閉鎖空間だった。

もしかしたら、誰かが俺を殺すためにこの空間に移動させたのかもしれない。

もちろん聖杯戦争が終わった以上、セラフに魔術師は俺以外に残ってはいない。

例外として、聖杯の外にいる凛や教会の蒼崎姉妹がいるが、あの三人がこんなことをするとは思えない。

だから、普通なら罠という可能性はほとんどない。

だが、俺はつい先程、ありえない例外(トワイス)を見ている。

彼のように以前の聖杯戦争で生き残ったマスターが、俺を利用しようとしたり、排除するためにこの空間を作ったのだとしたら―――?

 

 

「いや、奏者よ。そなたの考えていることはなんとなく分かるが、おそらくその可能性はないと思うぞ。たとえ、どのようにその者が優秀な魔術師だったとしても、セラフの中心たる聖杯にハッキングできるとは思えぬ。そもそも、そのようなことができるのならば、聖杯戦争などという回りくどいことは行われてはおるまい?」

「……確かにセイバーの言うとおりか。だとしたらこの部屋は一体…………?」

 

 

何か手がかりが無いかと部屋を見渡していたその時。

 

 

「ここはあなたの思考の中よ、近衛拓斗」

 

 

突然、俺の名前を呼ばれた。

先程と同じ女性の声で、ただしさっきとは違い今度は前方からはっきりと聞こえてきた。

 

 

「――――っ!」

「何者だ!」

 

 

俺とセイバーはすぐさま戦闘体制を取り、前を睨みつける。

 

 

「………………」

 

 

そこには、先程から聞こえてきた声の主だと思われる若い女性がいた。

年齢は二十代前半頃で、この部屋と同じ真っ白なワンピースを着ている。

絹のような金髪を背中に垂らし、目は深い海のような綺麗なブルーをしていた。

顔には柔らかい笑みを浮かべており、敵意など微塵も感じさせない。

それでも俺は警戒を解くことができなかった。

その理由の一つは、聖杯戦争の経験から、たとえ相手が笑っていたとしても、本当にこちらへの殺意がないとは限らないということを知っていたからだ。

……だが、本当の理由はこの女性の気配だった。

さっき彼女の声を聞いたときも思ったのだが、彼女の微笑みも、柔らかそうな髪も、綺麗な目も、彼女の全てがなんだかひどく現実味がないのだ。

 

 

 

慎二よりも普通なのに。

ダンよりも静かで。

アリスよりも生気がなく。

ランルーくんよりも異常で。

ユリウスよりも冷たく。

ラニよりも人間らしくなく。

レオよりも不自然だ。

 

 

 

今まで出会ったどの人物とも、彼女はまるで違う。

少しだけでも似ているとしたら、最後にアリーナで会ったあのサーヴァント殺しの女性ぐらいだろうか?

……あくまで、無理にでも似ている人を挙げるとすれば、だけど。

 

 

「……もう一度だけ問う。貴様は、何者だ?」

 

 

セイバーも俺と同じように感じているのか、硬い表情のまま静かに女性に問いかけていた。

 

 

「安心して、セイバー。私はあなた達の敵ではないわ」

「…………そのような言葉で余が安心するとでも思っておるのか?」

「いいえ、しないでしょうね。だからあなた達に信用してもらうために、私のことや、この空間のこと、そして私の目的とか、拓斗とセイバーが聞きたいことは全部教えてあげるわ」

 

 

女性は微笑みを浮かべたまま、静かに答えた。

…………彼女の言葉が本当かどうかはまだ分からないが、とりあえずすぐに戦う気はないということだけは分かった。

ならば、このまま彼女の話を聞いてもいいだろう。

 

 

「分かった、とりあえず話を聞こう」

「むう、仕方あるまいか。確かになんの情報もない相手と戦う事ほど危険なことはないのだしな」

 

 

俺の言葉を聞き、セイバーもしぶしぶと剣を引く。

 

 

「ありがとう、拓斗、セイバー。それじゃ、まずはこの空間のことから話すわね。さっき私はこの空間のことを拓斗の思考の中って言ったけど、それは言葉遊びでも何でもなく言葉通りの意味よ」

「どういうことだ?」

「そうね。言葉にするのはとても難しいんだけど、簡単に言えばここはあなたの頭の中ってことになるの」

「……?」

「うーん、つまりね。あなた達は聖杯からこの空間に移ったって思っているけど、実際は移動なんてしてないの。あなた達の本体(からだ)は相変わらず聖杯にあって、あなた達はこの光景を夢のように見ているのよ。そう、ちょうど魔術師(ウィザード)が霊子ハッキングを使って体を置いて魂だけセラフにアクセスするように、ね」

「………………ちょっと待ってくれ。言いたいことは分かったけど、それはおかしいんじゃないか? もしその話が本当だとしても、俺は既に魂だけの存在だ。魂だけの存在がさらに魂そのものを置いて別のところにいけるはずがない」

 

 

……厳密には魂どころか、ただのデータに過ぎないんだが、今はどっちでも同じことだろう。

 

 

「だから。あなたはどこにも移動していないって言ったでしょ。ここはあなたの思考――あなたは私達と話しているように感じているだけ。……そうね。あなたは七回戦のときユリウスの記憶を見たでしょ? あれと同じよ。あなた自身はどこにも行っていないのに意識は別のところにある、そういう感じよ」

 

 

これ以上は説明の仕様がないわ――そう言って彼女は口を閉じた。

なるほど。

なんとなく、漠然とだがどういうことかは分かった。

彼女の言葉通りここが俺の思考だとすれば、おそらく自分はこの光景を頭の中で思い浮かべているだけにすぎないのだろう。

それこそ、本当に夢のように。

そしてもう一つわかったことがある。

この女性は間違いなく俺の今までのことを知っている。

俺が聖杯戦争に出ていることも、七回戦でユリウスと戦ったことも調べればわかることだ。

だけど、俺がユリウスの記憶をのぞいたことは調べられるはずがない。

あのときいっしょにいたセイバーですら、このことには気づいていなかったんだから。

なら、どうしてこの女性はそのことを知っている?

俺が頭の中で見ただけの幻のような光景を、一体どうすれば知ることができるというのか?

やっぱり、まだ油断はできない。

 

 

「でも、だったらどうしてここにセイバーがいるんだ? お前の言い方だとここは俺の頭の中らしいけど、それならここにセイバーがいるはずがない。それも言葉のあやなのか? それともこのセイバーは本物じゃないのか?」

「あら、どちらも違うわよ。セイバーはただ単に巻き込まれただけ」

「? どういうことだ?」

「彼女はあなたのサーヴァントでしょ? だからあなたの思考に私が進入(アクセス)したときに、パスを通じて彼女もあなたの思考に繋がっ(リンクし)ちゃったのよ」

「ほう、それは興味深いな。ならば、今この状況では余が奏者の考えていることを知ることもできるのか?」

「うーん、ちょっとそれは難しいと思うわよ。魔術師(キャスター)ならばともかく、あなたは剣士(セイバー)でしょ? そんな細かいことができるとは思えないわ」

「うーむ、それは残念だ。奏者がどれほど余のことを想ってくれているのかを知る、チャンスであったというのに」

 

 

……ちょっと待ってくれ。

セイバー、そんなことを考えていたのか?

 

 

「話が進まないからそろそろ次に行くわよ。次は私のこと。そうね、まず私の名前は『根尾丘めがみ』……もっともこれは偽名だけどね」

「偽名かよ!」

 

 

自己紹介で偽名を言って、おまけにそれを自分からバラすなんて……。

めがみって得体は知れないけど、案外おもしろい性格なのかもしれない。

隣のセイバーもすっかり呆れている。

 

 

「そして、私がわざわざこんなことをした目的は…………………拓斗、あなたを救うことよ」

「はっ?」

 

 

思いがけないめがみの言葉に思わず声を上げてしまう。

一体、どういうことだ……?

 

 

「むっ、そなたそれはどういうことだ?」

「どうしたも何も、言葉通りの意味だけど?」

 

 

驚いたようなセイバーの問いかけにも、めがみは普通に答える。

 

 

「助けるって…………」

「ええ、私は聖杯に不正なデータとして分解される運命(さだめ)のあなたを助けに来たの」

「っ!」

 

 

やっぱり、そのことまで知っているのか――!?

 

 

「私は何でも知っている――そう言っておくわ。もちろん、あなたが助かる方法も、ね」

「そなた、それは本当か! 本当にマスターを救う手段があるのか!」

 

 

めがみの言葉にセイバーが身を乗り出して叫ぶ。

その顔はどこまでも真剣そのものだった。

 

 

「ええ、あるわ」

「マスター、良かったではないか! そなたはまだ眠りに尽く必要なぞないらしいぞ!」

 

 

めがみの言葉にセイバーは本当に嬉しそうに俺に笑いかける。

でも、俺はまだめがみの言った言葉をうまく飲み込めていなかった。

 

 

助かる? 

本当に?

 

 

「……? どうしたのだ、奏者よ。嬉しくないのか?」

「…………」

 

 

でも、それでいいのか?

多くの人の命を奪ってきた、ただのデータなんかである自分が?

 

 

「っ! 奏者よ、まさかとは思うが、この期に及んでまだ自分は生きていいのか、などと考えているのではないのだろうな?」

「………………」

 

 

セイバーの言葉に答えられない。

このまま生きていく価値が、本当に俺なんかにあるのか?

たとえ、ここで俺が消えたとしても地上には本当の『俺』がいる。

まがい物(データ)なんかじゃない、本物(にんげん)の。

それなのに、俺がいる意味なんかあるのか? 

こんなにも多くの人を殺した自分が?

セイバーはそんな俺の様子を見て、信じられないと言いたそうな表情を浮かべた後、顔を真っ赤にした。

そして――

 

 

「この…………たわけっ!」

「っ!」

 

 

突然、頬がひどく熱くなって前にいたはずのセイバーが視界から消えた。

それが、セイバーに平手打ちを食らったせいだと理解するのとほとんど同時に、今度は胸倉を掴まれた。

 

 

「セイ、バー……」

「ばかもの! この大ばかもの! そなたは一体この聖杯戦争で何を学んだのだ! まさか、今更そんなことを言うとは思わなかったぞ!」

 

 

セイバーの顔を見て何も言えなくなる。

彼女は顔を真っ赤にして、そして……………泣きながら叫んでいた。

 

 

「あのダンという老人も言っていたであろう! 『どんな結果でも受け入れてほしい』と! 今のそなたの態度は、そなたが今まで倒してきた全ての者に対する冒涜だぞ!」

「…………っ!」

「それに、そなたが死んだら余は悲しむぞ! わんわんと幼女のように泣くぞ! そなたは余にそのような醜態をさらさせたいのか!?」

「セイバー……」

「余はこんなにもそなたに生きてほしいと願っているのだぞ! それなのに、それなのに…………そなたは……まだ、生きたいとは思えぬのか?」

 

 

セイバーの腕から力が抜けていく。

呆然とする俺をよそに、彼女はうつむきながら小さな声で話し続けた。

 

 

「余が……私が生きてほしいと思っているだけでは、そなたが生きていく理由には、ならぬのか…………?」

 

 

最後はもう涙声になりながらも彼女はそう懇願した。

それを見て、俺は理解した。

 

 

 

 

 

……そうか、ようやく分かった。

俺の本当の願いは――

 

 

 

 

 

「マスター…………?」

 

 

泣きじゃくるセイバーを抱きしめて、俺はじっとこちらを見たままのめがみに話しかけた。

めがみはまだ信用できない。

でも、その言葉を信じる価値はあるかもしれない。

 

 

「めがみ……さっき俺の命を救うことができるって言ったよな。それは本当か?」

「ええ、本当よ。あなたは消えずに生き残ることができるわ」

「なら……セイバーも一緒に俺と生き残させることはできるか?」

「っ! マスター……」

「ええ、できるわ」

「そうか……」

 

 

あっさりと答えためがみの言葉を何度も反芻する。

めがみはそんな俺を見て、にっこりと笑いながら俺に問いかけてきた。

 

 

「それじゃあ、近衛拓斗。質問するわ。あなたはこれからどうしたい?」

 

 

答えは決まっている。

 

 

 

 

 

「俺は、俺は生きたい。もっとセイバーと一緒に生きていたい!」

 

 

 

 

「奏者よ……」

「そう―」

 

 

俺の出した答えを聞いて、セイバーは顔を赤くし、めがみは満足そうに微笑んだ。

 

 

「なら、私がその願いをかなえてあげるわ」

 

 

めがみは微笑みを消して、真剣な顔つきになった。

 

 

「それじゃ、あなたを助ける具体的な方法を説明するわね。拓斗、あなたはこのままいけば聖杯によって不正なデータとして分解されて消えてしまう。だから私が聖杯の外から力を使って、一時的な孔を作るわ。でも、私の力じゃそのままでは聖杯に孔を開けるのは難しい……いえ、はっきり言って不可能だわ。だから、拓斗とセイバーは向こうに戻ったら聖杯に願いを入力(インプット)して」

「聖杯に?」

「そう。さっきの『セイバーと一緒に生きていたい』って感じで、自分の願いを聖杯に聞かせるの。そしたら聖杯自身の内側からの力と私の外側からの力が同時に働いて、なんとか小さな孔ぐらいだったら空けられるわ。そして、その孔からあなた達二人を脱出させるわ」

 

 

いや、それって簡単に言っているけどかなり難しいことなんじゃ……?

 

 

「ふむ、色々とツッコミたいところだが、今は良しとしよう。とにかく、余と奏者は聖杯に願えばいいのだな?」

「ええ。でも時間はあまり残ってはいないわ。ここでの時の流れはそれこそ現実世界では一瞬。でも、この空間に来た時点で拓斗に残された時間はほとんどなかったわ。だからあなた達二人はできるだけ早く、そして強く願って。チャンスは一度しかないわ」

「…………分かった」

 

 

できる、だろうか?

聖杯に願いを入力(インプット)する方法自体は、先ほどやったばかりだからわかっている。

だけど、今回の願いは先ほどの願いとは大きく違う。

もし、失敗したら俺は今度こそ消えるんだ。

 

 

「っ…………!」

 

 

怖い。

消える覚悟――死ぬ覚悟のできていた先ほどとは違う。

今度は、生き残ることができるかもしれないのだ。

それなのに……。

もし、願いを入力(インプット)するのが遅れたら?

もし、めがみの作戦がうまくいかなかったら?

そしたら、俺は今度こそ――――。

 

 

「どうした、不安か奏者よ? なに、安心せよ。これまでも散々奏者と余は無茶をしてきたが、それらは全て上手くいったではないか。ならば、今回もきっと上手くいくに違いない!」

 

 

先ほど涙を見せていたのと同じ人物だとは思えないほど、セイバーの言葉は力強かった。

そして、その言葉でこれまでの闘いを思い出す。

 

 

 

ライダーとのトレジャーハンティング。

アーチャーの遺物探し。

キャスターの固有結界の解除。

令呪を使っての凛とラニの戦いへの介入。

ランサーとのエネミーハンティング。

アサシンの圏境の解除。

礼装の承認を得るためのエネミーとの戦い。

ガウェインの能力を封じるための時間稼ぎ。

 

 

 

そのどれもが一歩間違えれば死に至るものだった。

それだけじゃない。

他のマスターとの戦いでだって、当然何度も死にそうになった。

でも、その全てを俺とセイバーは乗り越えてきたのだ。

……そうだ。

何を恐れる必要があるんだ。

これくらい、いつものことじゃないか――!

 

 

「ああ、そうだな。がんばろう、セイバー」

「うむ!」

 

 

めがみが悠然と微笑む。

その瞬間、また唐突に景色が変わった。

 

 

「――っ!」

 

 

そこはまた聖杯の中だった。

戻ってきた?

いや、夢から覚めたというべきか。

時間が惜しい。

すぐに思考を切り替えて、聖杯に願いを伝える。

 

 

「「聖杯よ、俺(余)の願いを聞いてくれ(聞くがよい)」」

 

 

セイバーと声が重なる。

 

 

 

 

 

「「俺とセイバー(余と奏者)をいっしょに生きさせてくれ(生きさせよ)!」」

 

 

 

 

 

次の瞬間、俺の視界の一面を光が覆って――――――――

あとがき

 

どうも、メガネオオカミです。

今回は『Fate/anotherside saga~ドラゴンラージャ~』のプロローグでした。

少しでも楽しんでいただければ、自分としては幸いです。

ちなみに、主人公『近衛拓斗』は基本、EXTRAの男主人公と同一人物だと思っていただいて結構です。

いずれ詳しい設定もだすつもりです。

それでは。

 


 
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