「それでは、拙者は消えるゆえ・・・」
「待った。」
現状を話し合い、織田家に士官することで意見を一致させた後、再び身を隠そうとする五右衛門に良晴は待ったをかけた。
「まだ何かあるのでござるか?」
「ああ、織田軍の足軽の遺体から鎧を剥ぎ取るのを手伝ってくれないか?ついでにその手甲の予備があるなら貰いたい。」
「わかったでござる。」
手分けして鎧を剥ぎ取り、軽く血を拭うと次々と身につけていく。
安物で装甲の薄い鎧は鎧を二重にし、胸当ての部分を紐で縛り付けることで無理矢理強度を増した。
両手は手甲の上から籠手(剣道で使用するものに近いもの)を身に着ける。
最後に先ほど手に入れた太刀をベルトの左腰に差し、最も傷んでいない槍を選ぶと、残りの槍を刃の鍔元から拳一個分くらい離した木製の部分目がけて辺りに落ちていた石で割っていく。
「何をしているでござるか?」
「投擲武器を作ってるんだ。できたものから矢筒に入れてくれ。そのまま使うと丈が長いと思うから、すぐ掴んで投げられるくらいまで切り取ってくれよ。」
「分かったでござる。」
そうして出来上がった即席の投げナイフを30本ほど矢筒で右腰に括り付けると、今度こそ良晴は旗竿を背中に差しながら織田の本陣目がけ走り出し、五右衛門は援護すべく姿を消した。
たどり着いた本陣では、今川軍と織田軍が一進一退の攻防を繰り広げていた。
その戦いを横目に見ながら、彼は前回同様、がら空きになっている本陣で見事な兜を身に着けて、椅子に座っている者の前まで走りこむと、腹の底から声を張り上げた。
「素浪人、相良良晴!ここに推参!」
本陣の中心に座し、総大将として指揮を執っていた『織田信奈』は、十数分の間に自身の目の前で繰り広げられた戦いに目を捕らわれた。
南蛮の衣服とも違う、見たこともない衣装を着た青年が名乗りを上げたと同時に四方八方から近づいてくる敵兵。
少数ではあるものの士気が高く、今川軍の決死隊と思われる彼らに近づかれながら、彼は慌てるそぶりも見せず、矢筒から何かを掴み投擲する。
喉笛から槍の穂先のようなものを生やし、もんどりうって倒れる先頭の兵士に動揺した後続の兵たちに次々に突き立つ刃。
気づけば彼女の前に立っているのは、『相良良晴』と名乗る男一人となった。
辺りを見回し、後続の敵兵がいないことを確認すると、ゆっくりと振り向き、臣下の礼を取る彼の顔を見つめる。
別段不細工でも無ければ美形でもない彼の顔を見ながら、信奈は久しぶりに面白そうな者を見つけた喜びに笑みを浮かべた。
「御主君!戦は御味方の大勝利・・・ってなんだ貴様は?」
軍を率いていた女武将『柴田勝家』が報告に行くと、自分の主君と楽しげに談笑している男が一人。
織田の旗を担いでいるので味方ではあるのだろうが、衣装も顔も見覚えのない男にやや乱暴に問いかけると、彼はこちらに顔を向け、答えた。
「初めまして、柴田勝家殿。御高名はかねがね承っております。実は故あって故郷を失いまして、剣の腕以外取り柄がなく途方に暮れていたところ・・・」
「拾ってくれた恩人から、身分に関係なく実力で評価してくれる見目麗しい織田家の姫『織田信奈』に士官すればいいって勧められたんだって。初めてあったのに一発で私をその姫と言い当てる鑑定眼も、弱卒で知られている上に、今川家と戦闘中の織田軍に単騎で自分を売り込む度胸も気に入ったわ。」
「ですが、姫様、それならば他の者たちと同様足軽から・・・」
「私を殺そうと本陣に入り込んだ決死隊を全員始末してくれた腕を持つ者を、ただの足軽にするほど織田軍の人材は豊富ではないわ。聞けば算術にも長けているともいうし・・・私の目で見極めるに足る人材よ。」
「ですが・・・了解しました。」
これ以上言葉を重ねても主君の意見を翻せないと分かった勝家は、しぶしぶそれに従った。
勝家との問答が終わると、信奈は良晴に自分についてくるよう命じた。
頷き返し、乗馬した信奈と勝家に並走していく良晴。
しばらく走ると、木々の間から見える池。
そのほとりで馬を止めると、信奈は勝家とその部下に周辺の警護を命じ、彼に向き直ると、端的に命じた。
「この池の水を全部出したいんだけど、相良一人で出来るかしら。」
「良晴で構わないよ。後、それをするなら、皆でやったほうが早く終わると思うが。」
「・・・ああ、良晴はこの近くの出身ではないから知らないのね。ここには代々龍神様が住み着いてるという話があってね、毎年生贄として人を沈めてるの。」
「迷信による無駄な犠牲だな。」
「私も同感よ。だからそれを証明するために池の水を全部汲み出したいの。でもこの近辺出身のものは祟りが怖くてやりたがらないのよ。」
ため息をつき、頼む信奈に良晴は頷き返す。
「了解した。まあ、時間がかかるが、やって出来ないことは無いな。それに・・・」
一旦言葉を切ると、信奈に顔を向ける。
「期待されたからには、応えなきゃな。」
笑顔を向け、池に向かった。
一切の反論をせず、自らの願いのため行動するその背中を見つめた信奈の頬は、ほんの少し赤らんでいた。
5時間後・・・
池から外側に向かって溝を掘り、残りの水は桶で掻き出すことを繰り返し、池の水を無くした結果・・・
池に居たのは一匹の鯉であり、生贄を求める龍神など居ないことを証明した。
この結果をもって、信奈は以後、迷信による犠牲をを出さぬよう求め、村人はこれに応じた。
そしてその功労者である相良良晴は、その功績により、織田信奈直属の足軽大将に命ぜられた。
(第三話 了)
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織田信奈の野望の二次創作です。素人サラリーマンが書いた拙作ですがよろしければお読み下さい。注意;この作品は原作主人公ハーレムものです。又、ご都合主義、ちょっぴりエッチな表現を含みます。
そのような作品を好まれない読者様にはおすすめ出来ません。
追記:仕事の合間の執筆のため遅筆はお許し下さい。