●月村家の和メイド06
管理局と契約してから十日目。以前平和な時間が続いていますが、どうやら向こうは進展がない様ですね。幾つか解った事はありましたが、こちらが気にするような事はジュエルシードの残りが海にあるかもしれないと言う事でしょうか? それを聞いたカグヤは、少し一つの不安を胸に抱いています。
フェイト・テスタロッサはジュエルシード発見に、魔力流を打ち込んで強制発動させる事で発見した事があります。残りのジュエルシードは全て海だとすれば、海中にも長時間潜れでもしない限り回収は困難。ならば、今回も魔力流を撃ち込み、暴走したところを鎮圧、回収した方が手間が省けると言うモノでしょう。
「しかし、そうなるとジュエルシード六個分を一度に相手にする事となるでしょうし、そもそも一度に見つけようとすればかなりの魔力を広範囲に放つ必要が出てきます。そんな披露した状態ではまず封印は不可能でしょう。……やはり考え過ぎですかねぇ?」
カグヤならどうするでしょう?
まず、水中に潜れる力はないと考えましょう。魔力の出力は土地から得られ、なおかつ被害は気にしなかったとすれば……、そうですねぇ~、何か魔力を蓄えられる爆弾みたいなモノを作り、それを海域で爆発。恐らく海で発動したジュエルシードは十中八九『水』もしくは『海に生息する生物』になるはずです。可能性としては『水』が一番でしょうから、それに対抗できる専用の霊装を準備し、暴走したジュエルシードを短時間で鎮圧、回収。もちろん、管理局がこれに気付かないはずがありませんし、それに対する逃走経路も準備しておく必要がありますね。
「海にある事を考えると、管理局も多少手を焼くでしょうし、タイムリミットは二日と言ったところでしょうか? 他に最速最善の方法もないでしょうし、それがベストですね」
だとすれば、少なくとも今日一日は東雲に暇があると考えてみいいかもしれない。せっかくなので、すずか様と一緒にいつも誘われていた『ゲーム』なる物に興じてみるのも一興かもしれません。遊戯はあまりした事の無いのが魔術師童の共通ですから、ちょっと楽しみですね。遊ぶ事を目的とされた玩具とはどういった物なのでしょう?
カグヤはそんな風に思いをはぜながら、お庭で猫達にブラシをかけていたりします。
言い忘れましたが、今は猫達の世話の時間です。昨夜、すずか様がまた捨て猫を拾ってきたので新人猫が増えています。
「ちゃんと先輩として後輩を躾けてくれなければいけませんよ? そうでなかったら……」
「「「「ニャニャニャ、ニャ~~~ッ!?」」」」
「はい、皆様良い御返事でございます」
「……、カグヤちゃん、猫さん達に好かれてるのに、躾けの話になると猫さん達がすごく怯えるんです。どうしてでしょうねお姉さま?」
「一瞬、あの背中から黒いオーラが見えた気がします。こちらからは見えない表情はどんな物になっているのでしょう?」
先輩方、聞こえていますよ?
猫達へのブラシ掛けを終え、そろそろすずか様を起こしに行こうかと思ったのですが、
「にゃ」
「……ブラシを終えても膝の上に乗りますか?」
「にゃ」
「おや? こっちは身体をすりよせて……?」
「にゃ」「にゃ」
「あ、これっ! 人の肩に勝手に―――」
「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」
「え? あ? え?」
「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「にゃ」「何事~~~~!?」
カグヤ、動けぬ内に猫達に集られています。まるで冬場に湯たんぽを求めて集まってきた猫が如しです。
「おや? 怯えた猫がもう懐いています?」
「やっぱりカグヤちゃん、基本的に動物さんに好かれるんですよ~~♪」
「いえ御二人とも、感心していないでなんとかしてくださりませんか? これではすずか様を起こしに行けません」
「でしたら私が起こしに行きましょう。ファリン、カメラ撮っておいてください。私はすずか様と忍様をお呼びしてきます」
「はい♪ 既にスタンバイできています!」
「何故忍お嬢様まで御呼びに!? ―――ってカメラを御構えになっている理由はなんです!? そしてすごい勢いで激写!? フラッシュが既に明りと化していませんか!?」
カグヤ、しばらく猫達に乗られて動けず写真を取られまくりました。
その後ノエル先輩から何を言われたのか、すごい勢いで現れた月村姉妹の御二人に、しばらく鑑賞動物扱いされる事となりました。
まあ、今日も今日とて平和な一日が始まるという証なのでしょうね……。
などと思っていたカグヤの考えが甘(あも)ぅございました。
「すずか様! 忍お嬢様! 緊急事態に付き、勝手ながら暇を貰います!!」
月村姉妹のお二人と、さあゲームを始めようとした矢先の事。巨大な魔力を海岸方面に感じたカグヤは、返事も聞かずに飛び出しました。何処の誰がこんなタイミングで魔力を高めているかなど、想像するまでもありません。現状でそれをするのはフェイト以外にカグヤは知らないのですから。
「これで別勢力でしたらカグヤは管理局に八つ当たりしてしまいそうですね……」
太平の世でもあるまいし、土地守がこんなに忙しいのは現代で珍しいのではないでしょうか? なんでよりによってカグヤ達の世代でぶつかるのでしょうね? すずか様とのゲーム、やりたかったです……。
海岸に辿り着いたカグヤは、呆然実施と言いますか、色々悩まされて頭痛くなってきました。
「あの金髪黒女……、何の準備も無しにジュエルシードを暴走させましたね……、よりによって全部」
結界魔法と言うのが発動しているのか、カグヤの周囲に人の気配はありません。海の上ではまるで大蛇となった巨大な水の尾が、螺旋を渦巻き黒い少女と争っています。しかし、その巨大な水の質量は、どう足掻いても疲弊しきった彼女が使い魔との二人がかりで勝てる様なレベルではありません。いえ、万全であったとしても、二人では出力不足であったかもしれませんね。
「ともかく、海とは言え土地の一部。龍脈への影響が酷い……、なんとか抑えなくては……」
白木の弓に、持続時間の延びた『矢鳴り』を番え、周囲の龍脈の流れを緩慢にし、被害進行時間を遅らせます。しかし、そこで手が止まってしまいます。
「弱りましたね……」
龍脈の流れを細かく確認しようと、集中してたところで、まずい事に気付きました。
現在、龍脈を歪める原因となっている中心は、言わずもがなジュエルシード六個分の猛威です。さすがは、一つだけで龍斗の御姉様の力を借りなければならなかった程の危険物。六つも集まったその脅威は、いくら外側から鎮静化しようとしても、まったく効果が見込めません。これは、歪みの原因を直接取り除かなければ話が始まらない状況です。
「っとはいえ、カグヤにそんな力はありませんし……」
残る可能性は龍斗と管理局。しかし、管理局は判断的に頼りになりません。龍斗がこの危険性に気付き、提案してくださればいいのですが……。
「どちらにしろ、今のカグヤにできる事は、龍斗を信じ、そのための準備ですね」
龍斗 view
アースラ館内に鳴り響くアラートに気付き、廊下を走りだして少しになる。時空巡洋艦と言うのが珍しくて、つい歩きまわっていたらブリッジに一番遠い所に来てしまっていたらしい。フェイトが無茶をしたらしい事は放送で聞いてなんとなく分かったけど、詳しい状況が解らないのは困る。
俺も、カグヤちゃんに頼まれてやっているとは言え、東雲として土地守をしているのだから。
「ってあっ、またカグヤ『ちゃん』って言っちゃった……」
頭の中だけだから良い気もするけど、ちゃん付けより呼び捨ての方が喜んでくれるんだよね。……でもやっぱり『カグヤ』より『カグヤちゃん』の方がしっくりくるんだよね。なんと言うか、童話に出てくるお姫様見たいで? 確か竹取物語のヒロインも同じ名前だったし、やっぱりカグヤちゃんの方が良いよ。
「じゃなかった! 今は状況を!」
やっとブリッジに着いた。既になのはとユーノが来ている。
「あの! 私急いで現場に―――!」
「その必要はないよ」
なのはの発言にクロノがすぐさま答える。どうやら、二人も今来たところみたいだけど、『必要ない』とはどういう意味だ?
「放っておけばあの子は自滅する」
「!?」
ああ、そう言う事か。組織としての判断は間違っていない。そう思う。
「仮に自滅しなかったとしても、力を使い果たしたところで叩けばいい」
「でも……」
「今の内に捕獲の準備を」
「了解」
なのはがまだ何か言おうとしたけど、クロノはそれを遮って指示を出す。
表示されている画面を見ると、フェイトの相棒をやっていた使い魔、確かアルフって言ったかな? 彼女が人型状態になって必死にサポートしていたが、巨大な水の尾に捉えられ、身動きが取れなくなっているようだ。フェイト自身も、よく使っていた魔力の鎌が平時より小さくなっている。見るからに限界だ。疲弊とか言うレベルじゃないかもしれない。もし自滅になったら……命が危ないかもしれない。
なのはの横顔を見つめると、とても不安そうで、だけどそれ以上に心配そうな表情をしている。
そんな彼女に、緊急と言う事で神社から呼び戻されているリンディさん、は大人として、組織の長としての意見を述べる。
「私達は常に最善の選択をしないといけないわ。残酷に見えるかもしれないけど、これが現実……」
「でも……」
なのはの反論は反論になる前に止まってしまう。それだけに、彼女はどうしようもない思いを持て余してるんだって事は解る
リンディさんの言う事は正しい。それが組織で、それが目的として一番正しい事なんだって。だけどなんでだろう……、俺はそれがどうしようもなく『嫌だ』と感じた。なのはの辛そうな表情を見る度に、どうにかしてあげたいって、強く思うんだ。
彼女に初めて会った時もそうだった。
最初は、土地守の務めとして、龍脈の中心でいきなり魔法戦闘をされたんだから身柄を拘束するつもりだった。だけど、戦おうとする俺に、きっと、一度も目にした事がないだろう本物の武器(日本刀)に怯えながら、それでも彼女は必死に『話』をしようとした。刀で戦おうとした俺に、言葉で戦おうとしたんだ。
その一途な必死さが、とても不思議に思えて……、同時に、彼女は俺の『答え』その物の様な気がしたんだ。
刹菜姉さんが俺に教えようとしてくれていた『疑問の答え』。
ずっと解らなかったんだ。俺は親の言う事をずっと聞いて、その言う通りにして、それが正しくて、当たり前だと思ったから、それがどんな事でもやってきた。でも、周りの人達はそんな俺を見て、悲しんだり怒ったりするんだ。それが俺には解らなくて、両親は『力のない弱い人間だから、必要ないものをいくらでも持ってる。気にする必要はない』としか答えてくれず、それがなんなのかは教えてくれなかった。
刹菜姉さんは、俺を町に連れ出してまで何かを教えようとしてくれたけど、それでもうまく解らなくて……、だけど自分が悪い事をしているって言うのは解った。それがとても辛くて、どうして良いのか解らなかった。信じていた物に裏切られた様な気がした。そうやって迷っている内、カグヤちゃんに出会って言ってもらった。
『悪い事だったからなんだと言うのです? 悪い事をした人間は全てが悪ですか? だから殺すのですか? しかしそれこそ悪の所業と言えるではないですか。悪だから殺す。異論は認めない。……ほら、これほど理不尽な回答はないと存じます。この世にはとても便利な言葉がありまして「必要悪」と言うモノがあるそうです。善だけで世界は成り立たない。故に適度な悪がこの世の中に必要と言う事らしいですよ。……さて、質問ですが? あなたは同じ悪ならどちらの悪になりたいですか? それともやはり欺瞞と栄光に満ちた正義ですか? 今まで通りの罵声と罪悪の悪ですか? カグヤですか? どちらもお断りします。カグヤは善悪どちらもあって当然の「人間」ですから、適度に善をなして傷つき、悪をなしてせせら笑う事にしますよ。……あなたも、そうであるべきなのでは?』
カグヤちゃんが俺を『人間』だと言ってくれたから、ずっと辛いままでも考え続けられた。考えて考えて、そして、見つけたかも知れないんだ。自分が傷つけられてもなお、他人を案じる白い少女。高町なのは。俺は知りたいんだ。彼女が選んだ先を……、そしてその答えを。それがきっと、俺の求める答えと同じだから。
だから―――、
(「ユーノ」)
俺はアースラに居る内に教えてもらった念話を使い、隣でなのはを見ていたもう一人の少年、彼女の相棒たるユーノに話しかける。
(「なのはの事?」)
(「話が早いな。転送頼めるか?」)
(「もう準備はできてるよ」)
どうやらユーノも行かせる気でいてくれたようだ。
何だか嬉しいな、まるで友達が出来たみたいだ……。
(「なのは、行って」)
俺とユーノが同時になのはへと念話を飛ばす。
驚いて振り返ったなのはに、俺達は自然と笑っていた。
(「僕がゲートを開くから、行ってあの子を……」)
(「ここは俺がなんとかする。心配するな」)
(「でも、二人とも……、私があの子と……フェイトちゃんと話をしたいのは二人とは……っ!」)
自分の勝手で巻き込みたくない。なのはの言葉が言外にそう語っているんだと解る。どうしてそう思えるのか、俺には解らない。解らないから彼女を行かせたい。でも、それでは彼女を説得する理由にはならないのかもしれない。
(「関係ないかもしれない」)
一瞬躊躇った俺より早く、ユーノは言葉を返した。
(「だけど僕は、なのはが困っているなら力になりたい」)
ユーノの言葉が、俺の背中も押してくれる。だから俺もユーノに続いて伝える事が出来た。
(「俺も、なのはが助けたいって思うなら、力を貸すよ」)
だって君は、ずっと―――、
(「なのはが俺(僕)に、そうしてくれたみたいに」)
―――ずっと自分の行動でそれを伝えてきてくれていたから、俺達も同じように思えたんだ。
ユーノの背後で、ゲートポートが光り輝く。転送魔法が発動した証拠だ。
それを見て、なのはが驚いたように瞳を開く。
「君はっ!!」
気付いたクロノが叫び―――、
「動くな―――」
「なっ!?」
背後に回った俺の刀が、彼の首に突きつけられる。
クイック・ムーブ。俺の家系が古く使ってきた初歩中の初歩魔法で、瞬間加速が出来る。
おまけに今は、魔術師龍斗としての本気モード。疑問を抱かなかった時の自分を敢えて表に出している。今なら人を殺す事だって簡単にできる。そこに殺気はない。『殺す』と言う言葉も存在しない。ただ役目と目的と判断と手段しかない。だから、それなりに経験を積んでいるクロノでも、いや、経験を積んだ者だからこそ、この独特の覇気に晒されて動けるはずがない。これにはカグヤちゃんのお墨付きだ。
視線をなのはに送る。
なのはユーノと俺に、交互に視線を交わして、ゲートポートに入ると。振り返り、強い意志の込められた瞳を向ける。
一瞬、リンディさんが動こうとするが、ユーノが手を広げてそれを制する。クロノは俺に張り付け状態。誰も彼女を止められない。
「ごめんなさい。高町なのは、指示を無視して勝手な行動をとります」
なのはの言葉に合わせ、ユーノが両手で印を組む。
「あの子の結界内へ、転送―――!」
なのはが消える。転移魔法で目的の場所に向かったようだ。
(「ユーノ、お前もだ。後は俺に任せてくれ。一応考えがある」)
(「解った。僕はなのはのサポートに行くよ。君も後で……」)
続いて少し遅れてユーノが転移する。残るは俺達だけだ。
「君は……、何をしているのか解っているのか?」
俺はとりあえず刀を引いて、刀室に収める。一度目を瞑って普段の自分を強く意識する。深・魔術師モードは使い過ぎると、内側の何かがざわめいて嫌なんだよな。
元の自分に戻った事を意識してから目を開き、目の前のクロノを、そしてリンディさんを見る。
さあて、カグヤちゃんの言うところの『必要悪』ってのしてみるか?
「俺が行かせたのは単純な理由だ。なのはを行かせたかったから」
「そんな理由でこんな事を―――」
「それともう一つ、土地守として当然の判断だ」
「―――なに?」
「現在発動しているジュエルシード六つ。いくら海上に在るとは言え、一つで龍脈に多大な影響を与える危険物が六つも暴走していれば、龍脈への影響は既に多大な物となっている。これは見過ごすわけにはいかない。よって、土地守の判断として、この危険極まりない状況を早急に鎮静する事を提案する。……まあ、管理局の本性が偽善の塊で、この世界の土地一つがどうなろうが知ったこっちゃないって言うなら、話は変わってくるけど?」
そう言いながら、俺は殺気を周囲の人間に放つ。っと言ってもクロノやリンディさんはこう言ったのに慣れてるだろうから、子供の俺が放つ殺気でどの程度脅せているかは解らないけどね。っていうか自覚はあるつもりだけど、俺のやってること本当に悪役っぽいなぁ~~。
「うぅ……」
殺気に耐えられなかったのか、エイミィさんがちょっと気持ち悪そうだ。強く出し過ぎたかな?
「その殺気を抑えてくれないかしら? そう言う事情なら話は別よ。近隣に被害が出る可能性があるなら、私達も現状鎮圧に賛成します」
「解ってくれた様で良かったです。それじゃ、俺も龍脈安定のために現場に向かいます」
殺気を仕舞いながら、俺もゲートポートに向かう。今度はユーノにじゃなくてアースラのメンバーに送ってもらう。
視界が変わり、眼下に海の広がる中空に飛ばされる。
「わっとと……っ!? まだ浮遊は慣れてないんだから、いきなりは止めろよな!?」
慌てて、暇をしていたクロノに教わった浮遊魔法を発動。これ意外とバランスとるのが難しいんだよ!
なんとか体勢を立て直して状況に目を向けると、かなりヤバい事になっている。
なのははフェイトに魔力の半分を分け与えて、いつでも二人同時砲撃できる様に構えている。二人の砲撃チャンスを作るためユーノとアルフがなんとかサポートしているようだが……、
「ジュエルシード六つ分融合しちゃってるよ!?」
いや、半融合か? まだ完全じゃない。と思う。
六つの水の尾は、螺旋を巻きながらそれぞれが絡み合おうと、一つの束になっているが、ユーノ、アルフの捕縛魔法が間に挟まっている感じになってて、なんとか完全融合は間逃れているようだ。
「でも、あの状態じゃ完全に抑え込むのは難しそうだな……」
土地の力を借りられれば俺が三つまでには分散できるだろうけど、残り三つに分ける手段が―――、
「お?」
悩んでいると龍脈の方から俺に向かって霊力が流れ込んで来るのを感じる。空中な分、得られる力が少ないが、それは時間と共に蓄積されていく。問題ない。
でもなんで? 俺はまだ龍脈に何の働きもかけて……、
「カグヤちゃん!」
『また「ちゃん」に戻ってます!?』
「あ、久しぶりの霊鳥」
この状況を肯定できる相手と言えば彼女しかいないと思って、思わず名前を呼んだら、すぐ近くから彼女の声が霊鳥越しに送られてきた。しかも結構鮮明。少し見ない内にまた腕を上げたみたい?
『龍斗、カグヤが分けられるのは三つまでです。残りは任せます』
「そのつもりだったよ。先に頼む」
そう言って俺は草薙レプリカを抜き、龍脈から集めた魔力を全部剣に籠める。
「魔剣(ブレイド)―――重装装填(フラクタルイグニッション)―――術式・ヤサカニノマガタマ」
『火叢御(かむらみ)の火矢。術式・八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)』
八つの赤閃が疾しる。その赤閃は、あっと言う間に半融合水柱を幾度と射抜き、三つ分の大蛇が剥がれ落ちる。
合わせて、俺も斬激を放つ。
「|刃悉く全てを裂く(デストロイ・ギガレイズ)!!」
アースラ内で、クロノ相手に特訓中に思いついた、黒刃斬夢剣を更に昇華した技を、今初めて放つ。それは思った以上に上手く行き、残り三つの螺旋を分散させ、更に全てを叩き伏せて、一時沈静状態にまで落とした。悉く降り注ぐ魔力刃の嵐は、ジュエルシードの暴走力にまで影響を与えられたらしいな。
「今だ!! なのは! フェイト!」
声を張り上げ二人に合図する。
「ディバイィーーーン……バスターーーーッ!!」
「サンダーーーー……レイジーーーー!!」
金色と桜色の魔力光が重なり、たった一発でジュエルシード六つを鎮静化してしまう。まさかこれほどすごいとは……。
あ、感心しといてなんだが、今の衝撃海岸にも届いてたけど、カグヤちゃん大丈夫かな?
『……きゅうぅ~~~っ』
「え? あれ? もしかして地味に喰らってた?」
霊鳥から聞こえた声に驚きながらも、俺は笑ってしまった。
宙に舞うジュエルシード六つ。それを前になのはとフェイトが向かい合っている。
胸に手を当てたなのはが、何かすっきりした表情でフェイトを見て、告げた。
「友達に……、なりたいんだ」
「!?」
ああ、そっか……、だからなのはに……、そしてたぶん、これが俺の答えなんだ。
「他人を好きになる事、求める事……、それが、俺の知りたかった答え……」
俺はこの日、『感情』を理解した。
カグヤ view
し、死ぬかと思いました……。いくらジュエルシード鎮静のためとは言え、なんですか今の大質量魔法攻撃は? 軽く霊力クラスの魔力量でしたよ。純度が高ければ充分同列のエネルギーですね。
まあ良いでしょう。龍脈には結構な被害が来ているようですが、離れていたのと前もって海岸沿いの龍脈を一時閉鎖していたおかげで被害最小です。これ以上されたら『物の怪』が発生している所でした。衝撃の余波でカグヤがとばっちりを受けた甲斐もあったと言う事です。
「さて、今の内に龍脈の歪みを直しますか。それで今回は何事も丸く―――!?」
え? なんですこの魔力? ちょっと、これは洒落にならない大魔力……しかも歪みの真上!?
「龍斗! 大質量の魔力接近! それを落してはいけない―――っ!!」
霊鳥で連絡をとった時、既に全てが遅かったのです。天から貫かれた幾重もの雷撃が、黒の少女を撃ち貫き、歪んだ霊脈を完全に捻じ曲げてしまったのです。
「……、冗談ではありませんっ!!」
完全に歪み切った龍脈部から、恐ろしい気配が渦潮となって出現。放っておけば、それは渦潮から別のモノへと変わるのでしょうね。災害級なら津波、天災級なら地震が付属、災厄級なら……水中火山、ですかね。考えたくはないですが……。
「カグヤ!」
「うおっ!? 龍斗単独で飛べるんですか!? ……っと、そんな事で驚いている暇はありませんね」
「ああ、こっちも色々あったけど、まずは龍脈をなんとかしないと!」
「ちょうどいいです龍斗! カグヤを担いで八束神社に連れて行って下さい! 実は今日は神社に御姉様がいらっしゃらないのです!」
「え!? なんで!?」
「道中説明します! 飛んだ方が早いでしょうから担いで行って下さい!」
「解った!」
龍斗は真直ぐカグヤに突っ込み、カグヤもタイミングを計ってジャンプ、空中で抱きとめてもらい一切の停止無く移動します。
「しかし、抱えてくれとは言いましたが、何故お姫様だっこ? 確かに『抱きかかえる』ではありますが……」
「え? いや、この方がしっかり抱えられるからで、他意はないんだけど?」
「まあ、緊急ですし文句言いませんが……」
そこはかとなく屈辱ですねぇ。いいですけど。
「それで? どうして姉さんがいないの?」
「本職の方でお呼びがかかったらしいですよ。何でも緊急だったとか」
「ああ、姉さん戦巫女してるから……」
「戦巫女って……、確か『人災』級の『物の怪』、通称『妖怪』を相手にしている武道派退魔師ですよね?」
『人災』とは他の自然災害と違って大規模な被害はもたらしませんが、学校の怪談などで呼ばれる超常現象を起こされ、小規模ながらも確実に被害を受け、しかも対処が難しいとされる『物の怪』の事です。中には漫画みたいな『天狗』や『鬼』などが出てくる事もあって、通称『妖怪』と言われる危険な存在です。『物の怪』は龍脈の影響から起きる災害なので、龍脈を正せば終わりですが、『妖怪』は一か所に溜まった妖気や瘴気と言った物が突然変異の動物みたいなモノになって襲うそうです。なので元を正しても『妖怪』は残ってしまうわけです。
「現代でまだ『妖怪』、……出るんですか?」
ちょっと答えが怖いです。聞いておいて今更後悔しました。
「出るみたいだよ。父さんと母さんは巫女職が嫌いみたいだけど」
「ああ……、出るんですか……」
カグヤは一生お目にかかれない事を切に願いますよ。何しろ人災級はピンからキリまでありますしね……。
「ところで、姉さんがいないならどうやって龍脈を正すの!? 俺達だけでなんとなるのか!?」
「正直に言いますよ。七割方無理です!」
「カグヤ~~~~!?」
「当然でしょう! 災害嘗めんなですよ!? 子供二人が龍脈の中心で騒いだところで何になりますか!?」
「解ってたけど! 知ってたけど!? ……でも、三割可能なんだよね?」
「……賭けですよ?」
「この際いいよ」
「助かります。……ところで今更ですがなのは達はどうしました?」
「カグヤが仮面付けてなかったから、魔術師の秘匿性だ~~、って言って置いてきた」
「助かりましたが、それ嘘ですよね?」
「魔術師に秘匿性はあると思うよ……?」
「義姉さんはポンポン使っていましたがね……」
「ああ、これもピンキリなんだね」
「みたいです」
などと脱線し始めたところで目的の八束神社へと到達しました。境内に直接降りもらい、地面を転がる勢いで着地しながら、勢い殺さず祭壇まで走ります。
「念のため準備はしておきました! ((疾|と))く着替えてください!」
「え? ここで一緒に? それは……」
「ああ~~っ! もう面倒臭いですねっ!? 背中合わせにすればいいでしょう!? 緊急なんですよ!」
「ご、ごめん……!」
カグヤ達は急いで巫女様の緋袴と男性用の白袴に着替えます。大変遺憾ながら、カグヤが緋袴です。
更に神楽鈴と冠を装着、千早を纏い急ぎ祭壇に陣を張ります。
龍斗には((小鼓|こつづみ))という、肩に担げる程度の小さな太鼓を持たせます。
「御神楽を舞うの? でも、あれってちゃんとした儀式だから、他に最低でも笛と琴、万全を期すなら琵琶もいるんじゃ?」
「準備不足は承知です。カグヤだって神楽鈴でなく、榊があれば一番だと思っていましたよ。しかしこう言った儀式霊装は―――ともかく半端なく高いんです!」
「うん、そうだね。カグヤちゃん、何だかんだ言いつつ、月村のお給料でこう言った霊装買ってるんだもんね……。無理言ってごめん」
月村のお給料は決して安くはないのですが、どうしてこうもお金がかかるんでしょうね? おかげで大ピンチですよ。
「龍斗、小鼓お願いします。舞はカグヤがなんとかしてみます!」
いえ、正直全然自信ないんですけどね……。
龍脈の霊力を陣の内に集中させ、祭壇の前で御神楽を舞い、神への祈りを捧げる。
和楽器の調べに合わせ、朗々と紡ぐ祝詞に神楽鈴の音を響かせ、術式と言う名の神事を始める。
動きを滑らかに、慌てることなく自然に、且つ大胆であり調べとの調和を乱さない。
儀式と言うだけの事はあり、これも魔術―――いや、更に上位の『神術』、神様の力をお借りする御技にございます。故あって、これ全てが術式。舞っているカグヤはもちろん、小鼓を叩いているだけの龍斗も、大量の魔力を時間に比例して奪われていきます。
カグヤには魔力が常人以下です。よってあっさり魔力の残量は零になりました。身体が重いです。なので足りない分は全て龍斗が補っているのですが、だからと言ってカグヤが楽になっている訳ではありません。魔力不足の代償として、今度は精神力と体力を持って行かれます。まだ一節も舞っていないと言うのに汗が体中から噴き出し、視界も霞んでさえいます。
一瞬、足の動きが雑になってしまうのを気合だけでなんとか立て直します。
僅か一テンポ、龍斗の音が外れ、それを修正するために舞の動きを不自然にならない程度に緩慢にします。
互いに技術が不足している上に精神力だのなんだのを枯渇していく御神楽をしているのです。これ全てに意識を集中しているため、龍脈が安定し始めているかどうかも確かめられません。
一節舞切る。ただそれだけに全力を振り絞り、ただの気合だけで舞、奏で、そして―――、舞の途中で限界が訪れ、カグヤは意識を保てませんでした。
龍斗 view
「はあーーー、はあーーー、」
息を吸っているのか吐いているのか、その感覚さえ曖昧になっている。
儀式系の魔術を経験した事がないわけじゃない。でも、それはあくまで知っておくための訓練で、実際に魔力を消費しながら行った事はない。それをまさか二人だけで無理矢理発動させる事になるとは思いもしなかった。
別の神社では、土地神様がいるらしくて、その人達が直接舞う事で力を行使している所もあるらしい。そう言う所ならかなり楽何だろうな、なんせ神様が直接力を使って下さるんだから……。
思考が、楽な方楽な方へと向かって言っている事に気づいて、頭を振る。いや、振ったつもりだったんだけど、殆ど首が動かなかった。だけど頭から流れてきた大量の汗がバラバラと落ちて行く。既に着替えたばかりの服は汗で完全に湿ってしまっているのに、今気付いた。
この疲労の中、カグヤちゃんは更に待ってもいるのかと思うと恐ろしくなる。こんな状態で身体を動かす事が出来るだろうか? 俺には無理だ。なら、カグヤちゃんは? そこまで考えて視線が落ちていた事にやっと気付き、カグヤちゃんの方へと向けて―――そこに巫女がいた。神に祈りを捧げる神聖な巫女が、振袖を靡かせながら、俺の下手な小鼓に合わせて神楽鈴を鳴らし、祝詞を紡ぎ続ける。長い髪が動きの後を追ってたゆたい、飛び散る汗さえも彼女を幻想的に魅力付ける。
綺麗だとか、可愛いだとか、そんな感情は抱かなかった。それはとても神聖で、羨望はできても近づく事は許されない―――いや、近づくのは違うような、意味の根本から別次元に存在しているように思えた。
何を言っているのか自分でも解らない。解らないけど、ただ言える事は、彼女の姿に目を奪われている内に、御神楽が終わったと言う事だ。
「………」
最後にシャン……ッ、と、神楽鈴を鳴らしたカグヤちゃんは、そのままじっと停止して、数瞬後、糸が切れた操り人形の様に床に倒れた。
ドタッ! などと言う重い音はしなかった。むしろベチャッ! と言う水音がしたくらいだ。彼女もこの儀式で相当の汗をかいている。これはちょっと危ないんじゃないのか!?
「カグ、ヤ―――ちゃん……」
駆け寄ろうとして、膝が上がらない。
ダメだ、俺も相当持っていかれた。今日はもう動けそうにない。
だけど、このまま彼女を放っておく事もできない。どうすれば……!?
「心配して戻って来てみれば……、随分と無茶を成し遂げたのね」
突然聞こえた声に視線を向けると、誰かが祭壇の入口に立っているのが見えた。逆光になっている所為か、目が霞んでいる所為か、女性だと言うシルエットしか解らないけど、それが誰なのかは直ぐに解った。
解った途端、安心してしまい、意識がゆっくりと落ちて行くのを感じた。
「いいよ。お休み龍斗。お疲れ様カグヤちゃん。今日は二人ともよく頑張ったよ」
最後に褒め言葉を聞いて、俺は自然と顔がニヤケ、満足感を満たして眠りに付いた。
今日はもう一つ、『満足感』を知った。
カグヤ view
何処からか記憶がありません。どうやら舞っている最中に気を失ったようです。後に龍斗に話を聞いたところ、神楽を舞いきってから倒れたらしいので、本能だけで舞っていたようですね。義姉さんの地獄訓練、無駄ではなかったようで何よりです。
しかし、龍脈を正常に戻す御神楽、をたった二人で実行したのです。カグヤは熱を出して寝込む事になりました。なのに、携帯で連絡した龍斗は平然としていたのは何だか不公平な気分です。やはり龍斗は潜在的に強大な魔力を秘めていると存じます。
夜中、すずか様がなのはからメールが来たとかで、存外喜んでいらっしゃいました。
カグヤは月村ので療養させてもらっているのですが、すずか様は、ずっとカグヤの看病をしてくださっているのです。感謝の念が拭えませんね。
「急に飛び出したと思ったら、死んじゃったみたいにぐったりして戻ってくるんだもん。すごくびっくりしたんだから」
と御叱りの言葉をかけられもしましたが、今回ばかりはそうしない訳にはいかなかったと一言告げると、許して下さりました。本当にお優しい方です。
さて、話を戻しますが、どうやらなのはは海鳴に戻ってきているようですね。それはつまり、放置されている分のジュエルシードをすべて回収したと言う事の様です。っとなると管理局と話を付けなければならないのですが……、しばらく無理ですね。明日中に熱を治して早急に話し合いの場を持ちましょう。
土地への脅威がなくなった以上、彼らにはこれ以上ここに滞在してもらう必要はないのですから。
「敢えてこう言う言い方をしますよ? もう一度言って見やがれ?」
「……、土地内でなのはとフェイトを一騎打ちさせたいんだ。だから協力してくれ」
カグヤが寝込んだ次の日の夕方。つまり合計二十四時間きっかりが経ったわけですが、龍斗に緊急との連絡があったので、霊鳥を使って会話をしています。カグヤはまだベットから出られませんから。
通信用に飛ばした霊鳥は、龍斗が管理局に居る間に習ったと言う念話の術式を組み込む事で、彼との会話間でのみ、かなり鮮明な声と画像を交換できるようになりました。こう少し発展すれば、疑似仮想空間を作ってそこで直接会話できるようになるかもしれませんね~~。
ちなみに今はすずか様は御家にいらっしゃいません。アリサの家で、久々に帰ってこられているなのはと遊んでから帰っていらっしゃるようです。っというかカグヤがそうするように言いました。放っておくとすずか様、ずっとカグヤの看病を続けてしまいますからね。
さて、そんな事は果てしなくどうでもいいのです。問題は土地守の役目を担っているはずの龍斗が、土地内部で魔法決闘させようと言う危険性についてです。
「そんな事をしたらどうなるか、理解していないあなたではないでしょう?」
ベットから上体だけ起こしたカグヤは、霊鳥が作り出した画面に向かって睨みます。常時の五割減の迫力しかないでしょうが。
「土地の外であったとしても、彼らをこれ以上滞在させるのは政治的にも問題があります。信用問題ならなおの事です。土地守として、東雲として契約した以上、これ以上は協力できません。そもそも管理局側へのミスが多すぎですから」
「いや、それじゃダメなんだ。いっぱい考えたけどこれしか方法がないんだ」
「聞きましょう」
「調査した結果、フェイトはどうやらお母さんに頼まれてジュエルシードを探していたみたいなんだ。だけど昨日のあの雷撃、あれもその母親の仕業だったみたいなんだ」
確かあの雷はフェイトを撃ち抜いていましたね? 娘事攻撃したのですか。
「あの場で娘を撃ち抜く意味はありましたか? ジュエルシードを欲するなら周囲の敵に打ち込んだ方が回収できる可能性は高かったでしょう?」
「それが、その人が娘をどう思っているかに係わってくるんじゃないかと思うんだ」
つまり道具扱いですか? しかし、まさかそんな理由で助けたいとか言うのではないでしょうね?
「それがどうかしましたか?」
「なのははフェイトを助けたいって思ってる。そのためにはぶつかり合うしかないと俺は思うんだ。お互いの全部をぶつけないと納得できない。それが……人の心ってやつだと思う」
「知りませんね、それは。比喩でなく、純粋に解らないと言う意味で、ですけど」
「だったら協力してくれないか? カグヤちゃんも見てくれれば何か分かるかもしれないし!?」
「また『ちゃん』に戻ってます! いえ、そうでなくて、そもそもなんで土地内で戦う必要があるんですか?」
「なのはとフェイトがぶつかり合って、もしなのはが勝ったとしたら、……たぶんフェイトのお母さん、プレシアは、またあれを撃つような気がするんだ」
「ならなおのこと、龍脈への影響を考え、土地内での戦闘は避けるべきです。それに、管理局はジュエルシードを回収する目的がありますが、カグヤ達にはもう役目はないのですよ? なぜこれ以上付き合わねばならないのですか?」
「プレシアを放っておく事はできないでしょう? もしかしたら、ジュエルシードの力を使って、こっちの世界が影響を受けるかもしれないし?」
「彼女に対する対処まで制限しませんよ。そんな事より分かっているのですか? カグヤ達はなのはやフェイトの様な者とは違い、土地の外に出れば個人の魔力で戦わなければなりません。あなたのムラの大きい力が、土地の外で活用できると思いますか?」
「解ってるよ! だから土地の内側でないと、力を貸す事が―――!」
「龍脈は個人の所有物ではありませんよ」
「!? ……そんなつもりで言ってるんじゃないんだ」
「フェイトを助けたいなのはに協力したい。しかし、このままでは後手に回ってばかり、結果としてフェイトに危険が及ぶ可能性がある。ならば自分にできる事は何か? そこまで考えて霊力と言う反則を使用したいのは解りますが……、龍斗、これは魔術師として違憲ではなく、((その世界にいる者|・・・・・・・・))の常識として言わせてもらいます。((神に嫌われますよ|・・・・・・・・))?」
「……!?」
本来神社には土地神と言う神様が存在しています。残念ながら八束神社には土地神はいません。昔は八神という神様が居たらしいですが、役目を終えたとかで、残りの生涯を人として過ごしたと云われています。
龍脈にはそう言った八百万の神々がこの世界に吹き出るための重要な力。つまり神様の力と言ってもいいでしょう。故に龍脈の力を個人の私利私欲で使うと、神様に嫌われ、霊力は妖力へと変わり、逆に食い殺される事になると言われているのです。
「今までの我儘には龍斗にも一理ありました。ですから納得しないまでも許してきたつもりです。しかし、これは違うのではないですか?」
「そう、かな……?」
「プレシアを止めなければ安全とは言い切れません。ですからこの件に最後までお付き合いするもいいでしょう。乗りかかった船とも言いますし。高町なのはの切望に応えたい。それもいいでしょう。龍斗が龍斗としての責任までなら問題ありません。しかし、これ以上土地を巻き込み、龍脈まで利用して、龍斗が手に入れたい物とはなんですか? それはこの土地にとって必要な事なのですか?」
今まで龍脈の力を借りてきた時、それは土地に危害を加える可能性のある物への対処だった。しかし、今龍斗が言っているのは土地に危険を持ちこみ、あまつさえ龍脈の力を利用しているだけに過ぎないのです。
もし、これがプレシアをおびき寄せ、ここで決着を付けると言うのであれば、カグヤは形だけは否定しましたが、きっと今まで通り龍斗の勝手を許していたと思います。それが土地にとっても必要な事であると考えられる以上は。
「もう一度、敢えて言葉を選んで言わせてもらいます。図に乗るなよ? 童風情が」
「……」
カグヤの言う、『言葉を選ぶ』と言うのはカグヤではなく、義姉さんが本気で相対した時の口調をまねた物です。つまり、それだけこの言葉には意味があり、土地守以上に大切な物を見た人の大切な言葉だと言う事です。龍斗がそれを知っているかどうかはまた別ですが、それはカグヤにとってだけの決まり事なので、伝える必要もないでしょう。
龍斗は黙ったきり何も返して来ません。しかしその俯いた険しい表情が、何か別の方法はないかと探っているようにも思えます。諦めない。そう言うのは大切なのかもしれませんが、往生際が悪いとも言えます。
「もうカードがないなら諦めてください。こればっかりは付き合いきれません」
「……」
「龍斗」
「………、代わり」
「はい?」
「龍脈の力を借りる代わりに、供物を捧げる。……確か、そう言った一時霊力補給儀式って言うのがあったよね!? それを使ったら―――!」
「無理ですよ」
「あ……っ」
「龍斗が言おうとしているので『対価(たいか)祭法(さいほう)』と呼ばれる術式はあります。しかし、龍斗はそれに必要な対価―――、供物がどんなものかを知っていますか?」
「それは……、今からカグヤちゃんに―――」
「確かにカグヤは知っていますが、知らないで提案するのはどうかと言っているのです」
「し、知らないから聞くしかないんだろ! 無理なのかどうかも解らないんだから!」
まあ、一理ありますが……。
「まさかと思いますが、お金や物で解決できるとは思っていないでしょうね? っと、聞きたかったのですよ」
「う……、」
「半分思ってやがりましたね」
「知らないんだから仕方ないじゃん……」
「別にいいですけどね。……龍脈が物理的なモノを欲しがるわけがないでしょう? ですから必要とされるのは霊力です。使用した分の霊力を返せばいいのです」
「え? でも霊力と魔力は違うんだよな? 霊力は生命のエネルギーに近くて、魔力は自然のエネルギーに近い……だっけ?」
「付け足すなら、純度としては霊力の方が高いと言ったところですね。魔力ではないので魔力で代替わりは効きませんよ。力としては同じなので、活用する分には問題ありませんが、逆となれば話は別です」
「じゃあ、何処から霊力を取ってくれば?」
「霊力を持つ人もいるそうですが、あいにくカグヤ達は使えません。そうなると儀式契約を行って作るしかないですね」
「え? 霊力って作れるの?」
「言っておきますが、力として行使できるほどの霊力は作れませんので、あしからず」
「はい……。でも、それはつまり、『対価祭法』……だっけ? それを使えるって事だよね!? どうやればいいのか教えてくれ!」
「なにゆえ?」
「え?」
カグヤの返しが意外だったのか、龍斗の表情が間抜けなモノへと変わります。
「いえ、ですから何故教えねばならないんです? ここまでの話で解決できたのは龍脈の力を使う事に対する許可だけです。誰が土地を危険に晒していいなどと言いました?」
そもそも土地内でいざこざを起こさなければ霊力を使う必要もないのですから。
「くぅ~~~……っ!」
「そんなに悔しがられても困りますね。龍斗の頼みその物がかなりイレギュラーなんですよ? 相手に恩でもない限り、こんな異例なんて認められるわけがありません」
「……抜け道とかあったりしない?」
「いい加減にしないとカグヤも怒りますよ?」
話の流れが堂々巡りになってきました。これではまともな会話とは言えません。
だけど、何故でしょうね? カグヤはちょっと残念に思っているのです。カグヤは心の何処かで龍斗に言い負かされる事を望んでいたのかもしれません。その理由は―――きっと、すずか様の所為かも知れませんね。
すずか様はいつも自分より他人の事を気にかけてくださいます。その姿は、高町なのはにも、そして最近の龍斗にも、わずかな違いはありますが皆に見られる物と存じます。
カグヤにはまだ得ていない『思いやり』。きっと今の龍斗の姿がそうなのだと思います。
ですが、だから龍斗の提案を許していいかとなれば、それはやはり違うのでしょう。もしここで許してしまえば、それは何か間違った物の様な気がしてならないのです。すずか様がいつもカグヤに見せてくださっている思いやりと、今ここで許容する事とは違う事のように思えます。
だからカグヤは事実で龍斗を跳ねのけ、拒絶しました。それが間違いにならないように……。
でも妥協はしていいのかもしれませんね?
龍斗を見ます。押し黙っていますが、その目はまだ諦めきれず必死に何かを探っているようではありました。
「……はあ、」
出来るだけ、出来るだけ自然に、仕方ないなぁ~~、という気持ちを装いながら溜息を吐いて見せます。龍斗の視線が上がるのと同時に、カグヤは視線を外し、外を眺めながら言います。
「しかし、もし高町なのはが土地守の個人的な間柄であれば話が微妙に変わってくるでしょうね。何せ、つい最近まで魔法の存在を知らなかった女の子が、土地守と接触するまでの間、一人で頑張って危険物を集めていたのですから、多少の我儘は聞いてあげてもいいかもしれません。……あくまで彼女との特別な繋がりが土地守との間にあればですが」
「土地守との間に……特別な関係……」
龍斗が少し考えています。しかし、彼の知識ではその答えに辿り着くのは難しいでしょう。何せカグヤもここから導き出せる選択肢を二つしか思いつきませんし。
「そう言えば龍斗はなのはと付き合っていないのですか?」
「―――」
おや、また温度差が……。
「いきなり何言ってんだよ!? つ、つ、つ、付き合ってないよ!?」
「そうでしたか? それは残念でしたね。付き合っていれば特別な間柄として言い分もたったでしょうに」
「は……っ!? いや待て今からでも……、いやいやこんな理由で告白なんて……! この場は形だけでもそう言う事にしておけば……!? でもそこに付け込む様な事は……!!」
ああもうっ!! 何かじれったいですね!? どっちなのか早く決めてくださいよ!
時間もないでしょうから、カグヤはもう一つの方法を提示して差し上げる事にしました。
「ところで話は変わるのですが」
「え? なに?」
「龍斗は『式神』を使えましたか?」
「あの、生物に最も近い魔力で構成された動物っていう?」
「はい、詳細には元となる神様の形を引用して創り出しているらしいですが……」
「えっと、それ東雲と八束の伝授でしょ? 俺は正統じゃないから使えないよ」
「そうでしたか。それならこれを機に式神を使えるようになってみませんか?」
「な、何を機に?」
今は突っ込んではいけないところですよ龍斗。
「おや? こんな所に式神契約の札が一枚?」
かなりワザとらしい事を承知で、カグヤは懐から一枚のお札を取り出します。そして、明らかに突っ込まれてしまいそうな説明口調で独り言を開始します。
「ええ、確かこの式神は『((天后|てんこう))』、契約した女性を己の式神として強化する特殊な式神でしたね~~。この契約をした女性との間には主従と言う((特別な絆|・・・・))が契約によって結ばれますから、きっと親密な関係として見られること請け合いでしょうね~~。しかし残念な事にカグヤ、霊鳥以外の式神は未だに使えないのです……。誰か代わりに使ってくださると言う方はいないのでしょうかねぇ~~~……?」
「……そうなの?」
……。
そうなの? っじゃないです!! 意図理解しておいでですか!? カグヤ今かなり妥協して差し上げましたよね!? バカでも解るようにちゃんと強調しましたよ!? それでもスルーすると!? いいですよ! だったか無視してしまいなさい! カグヤも臍を曲げてもう助けてやりませんから!!
「では、そう言う事なので通信斬ります」
「何か今、切るのニュアンスが違った様な……」
「そんなどうでもいい所に気付くくらいなら別の所に気付いてください」
「へ? ………………ああっ!?」
「それでは、さようなら。お休みなさい」
「ああ~~~っ!! ちょっと待って! カグヤちゃんその式神―――」
ブッツリと、霊鳥を消して通信強制終了です。
あんな鈍感男の事などもう知らないのです。カグヤは静養中なのですから他に身を裂いている時間などないのです。
カグヤ、今日は『拗ねる』を覚えました。くすんっ……。
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なんだ? 二次創作なのに原作との絡みがないのが不満か?
生憎、この話はカグヤとすずかの絡みが中心なんだよ………。
いや、誰も、全く関わらないとは言ってないし。
でも、むしろ思いっきり関わってるのもう一人のオリキャラだよね?
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