No.451605

影は黄金の腹心で水銀の親友

BK201さん

この作品はにじファンからの移転作品であり、アットノベルスにも投稿しております。とりあえずこちらは予定が消化しきるまでゆっくり投稿していくつもりです。

2012-07-12 17:53:12 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1345   閲覧ユーザー数:1321

プロローグ ラインハルトの腹心(注:実在します)

 

 

―――1939年ドイツ―――

 

ラインハルトは詐欺師と出会い、その影は詐欺師との再開に喜んだ。

そしてその日の夜ラインハルトとその影であるアルフレートは酒場に来ていた。

 

「ライニ、彼のことをどう思っている?」

 

ライニ、ことラインハルトに詐欺師について尋ねる。ちなみにライニとは愛称で今は軍務ではないのでそう呼んでいる。

 

「フム、卿のほうこそどう思っているのだ?」

 

「楽しんでる。喜びに満ち溢れてる。感動している。ああ、言葉では表せれないよ。何せ本当に久しぶりの再開なんだから!!」

 

酒場とはいえ、僕のテンションはやや高すぎるようだ。周りからも少しばかり目を惹かれている。

 

「私はクラフトの言うとおり戦争を仕掛けようと思うよ」

 

ただ静かに突然とそれだけを告げる。だが、それを言うのを知っていたので賛同する。

 

「いいと思うよ。ヒムラもアドルフもそれを望んでる。まあ、どの道勝てないだろうけど、目的は果たせるよ。邪魔だったフォルミスも既に僕が殺してる。後は口実を作るだけさ」

 

「そう言われると卿はこの日のためにまるで今まで知っているかのように行動してきたな?」

 

「そうだよ、僕はこれを、この日を知っている。既知ではなく、確固たる事実として知っているのさ」

 

呟くように言う。酒場の喧騒によってその言葉はかき消されるが何の問題も無い。そして言葉を続ける。彼に対する忠義を記すために。

 

「僕は影だ。誰かに依存しなければ此処に居れない。そして君は太陽だ、ライニ。僕は君の後ろで居続けるよ」

 

その年の八月、ドイツは後にグライヴィッツ事件と呼ばれる事件を口実としポーランドに対し宣戦布告をした。

 

 

 

 

******

 

 

 

 

「やあ、カール!本当に久しぶりじゃないか!最後に会ったのは何時だっただろう。君の初恋は続いているかい?」

 

「相変わらず、騒がしいことだ。だが、質問には答えよう。私と君が最後に会ったのは前の世界の三千年頃だよ。全く、少しは座の方まで来てどうだい?そうすれば君とは頻繁に会えるだろうに。そして未だに私の恋は続いているさ」

 

相変わらず聞けばこちらが苛立たしくなりそうな言葉遣いで話してくる水銀…いや今はカール・クラフトか。それにしても初恋はまだ続いていたか。

 

「それは良かった。君の恋を僕は応援しているからね。今度その子、え~っと「マルグリットだよ」そう!そのマルグリットのためにプレゼントを用意するよ。君がいかに素晴しいという事を手紙に書いて」

 

「結構だよ。彼女に贈り物を渡すのは私だけで十分だよ」

 

「君も相変わらず過保護だね、カール」

 

そして相変わらず惚れた女性には甘い奴だ。まあ、後で彼女の気に入りそうな物をカール経由で渡せばいいか。

 

「そうかね、まあ別にいいではないか。所で、君は黒円卓には所属するのかね?今ならば二番、七番、十番が空いているが?」

 

「僕は入らないよ。影の魂は売れないからね。そうでなくとも二番は厄介事の請負になるだろうし、七番なんて天秤は僕には向かない。何せ確実に贔屓するだろうからね。十番は諜報役だ。そんなものはしたくも無いよ」

 

「やはりか、しかしそうなれば誰がいいと思うかね?」

 

「二番は傀儡でも用意しろ。七番はあれだ、地獄(ヴァルハラ)で生き残った奴にすればいい。十番は適当で良いだろ」

 

「そうかね。君の予想は当たるから頼りにしているよ」

 

そりゃカールとは違って起こりえた未来の一部を知ってるからね。ほとんどが虫食いの記憶になってるとはいえ。僕の起源は喰らう事だから都合の悪い未来や平行世界の可能性を喰らって過去にその記憶を持ち込んでるようなものだからね。ある意味ではカールと逆のことをしているようなものだ。

 

「では、次また会うとしよう」

 

「ああ、我らの栄誉の為に。そして」

 

「「君の(私の)愛する女性の為に」」

 

 

 

 

******

 

 

 

 

 

―――1944年 ドイツ首都ベルリン―――

 

 

「クソッ!」

 

SSの部隊一人は蹂躙されていく都市を見ながら走り続けていた。

 

「隊長、他の奴らはどうなりましたかね?」

 

そのすぐ後ろを同じように走っている二人の若い下士官の内一人がそう呟く。

 

「知るかッ!他の奴らより自分のことだけ考えてろ!」

 

そう言いながら隊長と呼ばれた士官は壁まで走りぬけ、特注のMP44(Stg44)を構えて壁越しに撃ちまくる。

 

「パンツァーを構えろ!あの赤軍の戦車(イヌ)にぶちかましてやれ!!」

 

そう部下に指示するとすぐさまパンツァーファウストを構えて敵である赤軍の戦車に撃ち込む。

パンツァーは見事に戦車に当たり戦車は物言わぬ鉄屑へと変貌した。

 

「よーし!やったぜ!」

 

部下の一人がその場を立ち戦車を倒した喜びを噛み締める。

 

「オイ、バカッ!?」

 

その瞬間一発の銃弾が彼を襲い、それに続くかのように大量に銃弾を撃ち込まれる。

彼が肉片になるまで一秒も掛からなかった。

 

「クソ、クルツ!ここから離れるぞ。走って付いて来い!」

 

クルツと呼ばれた下士官は仲間がやられたことに恐怖しながら隊長に従って走り抜ける。しかし、

 

「ウアァッ!?」

 

目の前に居た隊長は砲弾に巻き込まれ吹き飛ばされる。クルツも隊長も直撃ではなかったものの隊長の方は吹き飛ばされ既に事切れていた。

クルツは思う。どうしてこうなったのだと。元々彼は軍人ではない。徴兵によって仕立て上げられ、銃を人に向けて撃った経験も無い人間だ。自分よりも成績の良かった同じ部隊の仲間達は目の前で撃たれて死んだ。唯一戦場での経験のあった隊長も砲弾に巻き込まれ死んだ。残っているのは自分だけ。その現実に恐怖する。

 

《ならどうするんだ?君は特別でも何でもないだろ?》

 

決まってる。此処から逃げたい。生き延びたい。もうこんな所から一刻も早くこんな現実から逃げ出したい。

 

《いいだろう。その願いを叶えてあげるよ。凡そ最悪の形で》

 

その瞬間クルツは疑問に思う。一体誰が話しかけてるのかと。そして悪寒を感じ後ろを振り向くと……そこには得体の知れない|影《闇》がいた。

 

「う、うああぁぁー!」

 

言われもないその影に恐怖し此処が戦場であることにも関わらず走り出す。

 

 

 

何時まで走り続けただろうか?億劫になりながらも、ふと回りを見渡してみると気付いた。静か過ぎる、と。いくら彼が恐怖を感じ現実から逃避したからといっても現実がなくなるわけではないのだ。なのに何も見えず、何も聞こえなかった。いやそもそも此処は何処だ?俺は何のために生きてるんだ?そもそもオレハナンナンダ……

 

「あ、ああ、ああああぁあぁぁああ!!!???」

「わああぁぁあぁ!」

「おい馬鹿!撃つな!?味方だぞ!?」

 

その戦場は唯でさえなかった秩序を狂わし混沌と化していた。

 

 

 

******

 

 

 

「Mit schwarzer Mtze, Totenkopf (黒い帽子に髑髏と)

und silberweien Schnren, (白銀の飾り紐。)

so sieht man heut landauf, landab (今日人々は各地で見る、)

die braune Front marschieren; (褐色の前線が行進するを。)

wir sind der Freiheit letzter Hort, (我等は自由の最終保護者、)

sind mutig, sturmerfahren, (雄々しく前衛にたち、)

verlachen trotzig feigen Mord. (臆病な殺戮に抗して笑う。)

Wir sind die schwarzen Scharen. (我等は黒い小隊。)

Valleri, vallera, valleri, vallera, (ヴァレリ・ヴァレラ)

Wir sind die schwarzen Scharen. (我等は黒い小隊だ。)」

 

独り軍歌を歌い酔いしれながら戦場で歩く。傍から見れば自殺行為だろう。しかし誰も気に止めない。気にすることが出来ない。彼の周りの人は全て狂ったように叫ぶだけだった。

この場にいて狂わないのは黒円卓に連ねる者達だけだった。SSも連合軍も赤軍であろうとも彼の周りは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。

 

「君達の魂は無駄にはならないよ。皆ライニの地獄(ヴァルハラ)で永遠に生きるだけだから」

 

そう呟き彼は戦場を歌いながら歩き続ける。

 

「Auf! auf! Ihr Kmpfer, Mann fr Mann, (起て起て闘士よ、残らず起て、)

hoch flattern unsre Fahnen, (我等の旗をひらめかせ。)

tragt sie zum letzten Sturm voran, (闘士らが最後の前進をする時、)

sie sollen euch gemahnen: (必ず諸君らを思い出す。)

SS marschiert! Die Strae frei! (親衛隊よ行進、街路を開け!)

Die Sturmkolonnen stehen! (突撃縦隊ここにあり!)

Sie werden aus der Tyrannei (闘士らは圧制から自由の道へ)

den Weg zur Freiheit gehen! (進んでいるのだ。)

Valleri, vallera, valleri, vallera, (ヴァレリ・ヴァレラ)

den Weg zur Freiheit gehen! (そう、自由の道へと。)

 

Wir kmpfen um der Freiheit Recht (我等は自由の権利を求め、)

fr Volk und Heimaterde. (民族と国土の為闘う。)

Wir wollen sein ein frei Geschlecht (我等は自由の民、)

am eig'nen, freien Herde. (自存と自由の集団とならん。)

Drum auf! Bereit zum letzten Sto! (だから起て、最後の突撃へ!)

Wie's unsre Vter waren! (祖先が為した如くに起て!)

Der Tod sei unser Kampfgenoss' ! (死が我等の戦友ぞ、)

Wir sind die schwarzen Scharen. (我等は黒い小隊、)

Valleri, vallera, valleri, vallera, (ヴァレリ・ヴァレラ)

Wir sind die schwarzen Scharen. (我等は黒い小隊だ。)」

 

「ライニ。残念ながら影である僕は君に魂を売ることは出来ないが、君が再び現れることを期待してるよ。それまでしばらくは眠るから。カール、聞こえてるだろう。そう伝えてくれ。勝利万歳(ジーク・ハイル・ヴィクトーリア)」

 

そうして彼は戦場を離れる。

 

その後、歴史は史実通り連合軍が勝利を収め、彼アルフレート・ナウヨックスは捕まり裁判を受けるが1960年にて行方不明となる。しかし事実が公表されることは無く、彼は裁判にかけられることなく死去したという事になった。

 

 

 

******

 

 

 

「それで、暇だから私のところに来たと?」

 

「そうだよ。だって君が言ったじゃないか、たまには座に来いと。十六年も待ってやったのに何も出来ないんだから、期待はずれもいい所だよ。スワスチカが開くまで此処で待たせてもらうよ」

 

「まあ良いが、君はこれからどうなると思っているのだ」

 

「期待はするさ。ラインハルト達もこれで準備が整った。後は人形の出来と君の女神がそれを喜ぶかどうかしだいだよ」

 

これより、史実と異なる一つの物語が始まる。彼は影であり決して舞台で頂点に立つことはないが、それゆえになかなか興味深い。では一つ死と呪いを持つ『交響曲第九番』における最初にして最悪の序曲を御覧あれ。

 

 

 

名前:アルフレート・ヘルムート・ナウヨックス(偽名)

大アルカナ:吊られた男(犠牲による更なる高みを表す)

ルーン:運命(ブランク又はウィアド)

占星術:海王星(見えない物を記す象徴)

形態:特殊発現型

位階:活動~流出

聖遺物:影或いは闇

称号:水騎士(アグレド)

身長:178cm 体重:69kg

見た目:煤けた灰色と言える様な髪色で肩まで届く程度の長さ。容姿は十代後半から二十代前半。顔立ちは平均よりは上。

性格:自由奔放に近くどんな事でも必要ならする主義。約束や契約は確実に守る主義で相手から裏切ってきても、約束や契約は果たしきる程。

味方と認知している人には忠告したり、恋を応援したりと優しいが、一度敵と認識したら容赦情けは掛けない。自己犠牲精神が若干強い。

 

 

異世界、別次元で生まれた存在。しかしそのことを現時点で彼本人はおろか誰も知らない。なぜならそこは未来という記号で表す世界だから。

一番最初に水銀と出会い、陰ながら彼の恋を応援している人物。水銀の既知の世界から有一外れてる存在。そのため一度も生まれ変わったことは無い。存在自体が影であり、誰かに依存するということをしなければ世界に存在することが出来ない。

仮名のアルフレート・ナウヨックスはラインハルトの腹心であり、この存在である限り彼に忠義立てし、依存していることになる。ついでにアルフレート・ナウヨックスの階級は少佐。

 

彼の存在について

他者に依存しなければそもそもその世界に来ることが出来ないため常に誰かに依存している。

彼の流出は喰らってかき消すと言う物なので話の中で場面が一々変わるのは有り得た未来を喰らって過去にあるいは平行世界に移動している。つまりその世界の可能性は潰えるということになり最終的には一つしか可能性のなくなった未来で過ごすと言うことになる。

 

聖遺物:彼の存在そのもの。あるいはその影。彼は水銀並に存在しているので彼自身が聖遺物となる事となった。

 

位階

活動:その身を影にするという単純な物。ただし比重、総質量、その他諸々として大きく変化することは無い。自在に変化させれるのは体積と密度のみ。

 

形成:その身が影ではなく闇というものになるもの。ただしそれは力の一端でしかなく、正確には物質のある現象を喰らって消し去っていると言うもの。この闇の場合は光という粒子の光の部分だけ喰らう事によって粒子だけが残りそれが名称的に闇となっているだけで本来の闇とは違う。活動はそれが御し切れてないだけの状態である。

 

創造:自分だけでなく周囲の環境をも喰らうということ。これによって周囲の人間は何かを失うことになる。それは五感の一部であったり、記憶であったり精神の根幹となる物であったりする。

ただしこれに関しては相手の魂の総量が大きければ大きいほど失う物が小さくなる。大隊長クラスならばせいぜいが視力を失うかどうかといったところ。ただしそれはスワスチカの開いた数に左右される。

 

流出:本来は不可能であるが依存する対象が流出を使えるものである。と言う条件の下でならば使えるという例外的なもの。その流出は喰らう事をある方向性で限定させることによって攻撃にも防御にも使えると言うもの。条件次第では相手の流出すらも喰らうことが出来る。基本的には相手の攻撃を喰らうことで自分の力にしてそれを攻撃に使うと言うもの。問題は許容量を超える攻撃に対しては超過ダメージを受けてしまうと言うこと。

例、ラインハルトの全力によるロンギヌスは受け止めきれずに貫通してダメージを受ける。ただし、刺さったままなら其処から力を喰らって回復に当てれる。最終的に放置したままならロンギヌス自体が消滅するまで喰らい続けるが、途中で何らかの形で喰らいきれなくなった力を何処かに放出しなければならない。

 

ちなみに彼の魂の総量はラインハルトに依存している間はスワスチカの開いた数によって変わり、二つの段階でシュピーネ以下、三つで形成が整い、四つで螢、ルサルカ並、五つで創造、六つ以降で大隊長並になり、八つ全てそろってラインハルトがいれば流出が可能となる。

相性的にはスワスチカの開いてる数にもよるが螢、ベアトリス、シュライバーとは互角。

カイン、トリファとはラインハルトと言う依存対象に近い存在であるため不利。

司狼、マキナ、ラインハルトとは絶望的に不利。

蓮、ヴィルヘルム、ザミエルとは有利。その他は状況により変化と言う関係。

蓮に対して有利な理由は時間という概念を流出で蓮が止めている間は時間を喰らいやすくなるため有利になると言うこと。しかし、結果として長期戦では有利だが短期戦に持ち込まれると互角になる。

 

依存対象が変化した場合の有利、不利は依存対象によって変化し、

ラインハルトの場合、蓮に有利(15%)、水銀(3%)には若干不利。

水銀の場合、ラインハルトに若干有利(13%)、蓮はある意味近い存在のため不利(5%)。

蓮の場合、ラインハルトに普通(10%)、水銀はある意味もっとも遠くなるので有利(10%)。

マリィの場合、蓮には絶望的に不利(0%)、ラインハルトは普通(10%)、水銀には有利(13%)。となる。()内はそれぞれに対する勝率。ついでに言っておくとこれはあくまでもアルフレートとしての勝率に過ぎない。

 

決して弱くは無いんだ!ただ他の流出組がチート過ぎるんだ!!

 

 

 

第一話 黒円卓の望みは知ってますが、何か?

 

 

 

―――諏訪原市海浜公園―――

 

「クソッ、クソッ、あの糞餓鬼ガァ……」

 

そこには今にも死んでしまいそうな程の重症を負っていた男がいた。彼の名はロート・シュピーネ。黒円卓第十位にして表の世界に最も通じていた諜報を中心に活動していた人物だった。

 

「だがこの傷もバビロンならまだ治せるはずだ。ククク、いけませんねぇ、油断しては。きちんと最後まで止めを刺したか確認すべきだったのですよ」

 

致命傷にも思える傷を負いながらも彼は生きてはいた。彼の傷は先ほど彼が公園に携帯電話を使い呼び出した藤井蓮によって負わされたものだった。圧倒的に優位だった筈の彼は手を組まないかと誘いかけたのだが三下呼ばわりされ、いきなり強くなったかと思えば、形成を行い彼自身の聖遺物である糸を斬られたのであった。

 

(おまけに私が負けた理由が顔の差だと!ふざけるのも大概にしろ!)

 

聖遺物は破壊されればそれを持っていた者は死ぬ(それが基本であるがゆえに聖遺物は強力でもあるのだが)。しかし彼はぎりぎりの所で聖遺物の破壊を免れていた。これに関しては経験の差ともいえるであろう。

 

「ヒヒヒ、次に会うときが楽しみですよ。次はこうは行きいませんよ。散々ばらしていたぶりつくして上げますからね」

 

そうしてあれこれと殺す方法を考えていると目の前に金髪に眼鏡を掛けた長身の神父が現れた。

 

「これはこれは手ひどくやられましたね、シュピーネ?」

 

「クリストフですか。いったい何のようです?私はここまでの傷を負ったのだ。早くバビロンの所に行かねば・・・」

 

クリストフと呼ばれた長身の神父はその言葉に対して答える。

 

「その必要はありませんよ。何故なら貴方はここで贄となってもらうのですから」

 

ズドン!とそうクリストフが言った瞬間シュピーネの腹がクリストフの腕によって貫かれる。

 

「が、あ…な、にを…?」

 

疑問を投げかけるシュピーネに対してクリストフは答えない。いや既に答えている。贄になって貰うと。そうしてシュピーネは死に、第二のスワスチカが開いた。そしてそれと同時に影が揺らめく。

 

「久しぶりだね。ヴァレリア?」

 

「二つ開いた時点で貴方が現れるとは…意外ですね、ナウヨックスさん」

 

クリストフのすぐ側に居たのはアルフレート・ナウヨックスだった。彼は久しぶりの世界に慣れる為に体を伸ばす。

 

「まあ、全然力はないけどね、活動しかできないし。それにしても相変わらずだね、ヴァレリアは。アルフと気軽に呼んでくれても良いのに」

 

「いえいえ、貴方と私はそのような間柄でもないでしょう?」

 

「そりゃそうか。じゃあ今度、教会でミサと市をしよう。そうすれば意外と人が集まってスワスチカが開けるかも知れないし。ああ、いや無理か。そんな急には出来ないだろうし」

 

彼から提案してきたことなのに寧ろ呆気らかんと彼はそう言う。クリストフはいつものことだと思い少しばかりため息を吐く。

 

「まあ、これから先会うとも限らないし一つだけ忠告してあげるよ」

 

突然話題が変わりクリストフは訝しげに思うが、六十年前もそんなことが多々あったと思い彼の忠告とやらを聞くことにする。

 

「忠告ですか?それはそれは、ありがたいことです。それでどのような内容で?」

 

「テレジアちゃんを助けたいならメッキに喰われて自分を失うなよ。聖餐杯?」

 

それを聞いた瞬間、言葉を失う。こいつは何故知っているのだ、と。

 

「ああ、警戒しなくていいよ。僕は知っていた、それだけさ。他意はないよ」

 

それを聞いてもなおクリストフは警戒を解くことはしない。当たり前だ。いくら弱体化しているとは言え彼はラインハルトの影であり下手をすれば大隊長すら歯牙に掛けないのだから。

 

「何故、貴方が知っているのですかね?誰にも話したことは無い筈なんですが?」

 

「どうでもいい事だ。このことはラインハルト殿も知らんだろうし、気にすることは無い。大体、僕は君とは比較的相性が悪いから今の僕じゃ絶対勝てないよ」

 

クリストフ自身は信じられないが彼は嘘を付いていないと理解する。記憶でも彼の精神や心でもなく、彼の身体がそう告げている。

 

「取り敢えず信じましょう。貴方の忠告は外れたこともありませんし。それでこれから何どうするのですか?」

 

最低限の警戒は解かないが先程よりも割と気楽に話しかける。アルフレートはどうしようかと悩み答える。

 

「取り敢えず、観光でもしましょうか」

 

少々肩透かしをくらうクリストフであった。

 

 

 

******

 

 

 

 

―――翌日・昼・諏訪原タワー―――

 

アルフレートは一人の女性を隣に付き従ってこの町を観光していた。隣に居る女性はクリストフに何か言われたのか、若干、警戒しながらも彼の要望に答えながら付き従う。

 

「それで、ご満足いただけましたか、少佐殿?」

 

「堅いね~螢ちゃんは。もうちょっと気楽にしてくれないかな?アルフとでも呼んでよ」

 

「いえ、お気になさらず、少佐殿。それが嫌と言うのならナウヨックス殿とお呼びいたしますが?」

 

隣に居るのは櫻井螢(さくらい けい)、一族が関係者であり十一年前に死んだ団員の穴埋めの為に入った人物である。その為、幹部面々やアルフレートとの面識は無かった。その故かかなり警戒しているようにも見える。

 

(これはヴァレリアに何か言われたかな?兄の為とはいえ健気な事で・・・)

 

警戒され続ける様子にアルフレートは若干憐れみの目線を向けながら彼は観光を続けることにする。彼の目的はそもそも地理の把握であり、あくまでも観光と言うのは口実でしかない。それでも美人と言える女性と一緒に観光できるのだから言ってみるものである、と思っていたが。

 

「でもまあそれなりに満足かな、うん。美人さんとも一緒に歩けた事だし。ああ、あそこに店があるね、一緒に行かない?奢るからさ」

 

なんと言うかそこらに居そうなナンパ並のノリだが実際に笑顔を浮かべながら尋ねる彼はそれなりに様になっていた。要するに雰囲気が違う。

本人は隠していないからなのだろうが空恐ろしい程の存在感、だが畏怖する類ではなく怖い者見たさに近づきたくなるような感覚。それに戦々恐々としながらも出来る限り警戒を解かずに螢は受け答えする。クリストフに言われた通り、対応さえ間違えなければ何もしない人物なのだろうから。

 

「奢って頂けるというなら私に拒否する権利はありません。どうぞお構いなく」

 

「だから堅いって。もうちょっと楽にしてよ。折角の美人が台無しだよ」

 

そんな褒め言葉を言われなれてないのか若干頬を赤く染める螢を見ながら笑みを浮かべる彼には邪気というものは無かった。

 

 

 

******

 

 

 

(何でこんなことになってんだよ!)

 

現在、俺こと藤井蓮(ふじい れん)は現状に苦しまざるを得なかった。

事の顛末にいたるまで遡ると昨夜、香純の無事を知って疲れが出てきて気を失ったら、起きたときに何故かマリィが実体化して香純に問い詰められ、マリィにこの町を案内することになって展望タワーまで来て見れば櫻井が誰かを連れてタワーまで来ていた。

ここで何かするつもりなのかと思い、すぐさま俺は構えたのだが、

 

「今は如何こうする気もないわよ。藤井君」

 

やや疲れ気味の櫻井はそんな事を呟きながら溜息をついていた。疲れてるのだろうか。そんな感じで近くの飲食店まで行き香純が勝手に話を進めていると、

 

「始めまして、螢ちゃんの親戚のアルフレートと言います。以後、お見知りおきを」

 

隣に居た男性がそうやって話しかけてくる。何かをするつもりはなさそうだが油断するわけにもいかないので曖昧に返すと、

 

「いや~螢ちゃんにこんな両手に花な彼氏が出来るとはね、これは苦労しそうだよね、螢ちゃん?」

 

俺と櫻井は同時に飲んでいた飲み物を盛大に吹いた。

いきなり爆弾投下してきやがった。と言うか櫻井ですら知らない事実を何で知ってるんだ!こいつは!?櫻井が何のことだと睨んでくるがそんなの俺のほうが知りたい!!

 

「何であんたが知ってるんだ!?」

 

とりあえず話を進めねばと思い話しかけると、

 

「その前にどういう事かしら?藤井君?」

 

後ろに灼熱地獄が見え今答えを間違えれば確実に色々とやばい事になるとわかってしまう。

 

「螢ちゃん、向こうでちょっと話してきなよ。恋人同士だけで色々と話したいこともあるだろうしさ」

 

「ええ、すいませんが少し席を外します。いきましょう藤井君」

 

付いていかなければ殺されそうな雰囲気に耐えれずとりあえず付いて行くことにする。

 

「あ、ちょっと!」

 

「恋人同士の話なんですから少しぐらい待ってあげましょう。それが男性から見たいい女の条件ですよ」

 

香純が喚き立てようとするがアルフレートと名乗った男が止める。それにしぶしぶと腰を下ろす香純。助かったと言うべきか。

 

「ええそれじゃあ、どう言う事かじっくりと聞かせてもらおうじゃない?」

 

どうやら大変なのはここからのようだ。

 

 

 

******

 

 

 

「それじゃあ、ここはお兄さんが奢ってあげるよ。何がいい?」

 

螢が蓮を連れて行き残った二人に尋ねるアルフレート。

 

「え、いやいいですよ。そんなの奢らせるなんて悪いですし」

 

「いやいや、ここは年長者の僕に奢らせて。その代わりと言っては何ですが、この町についてや螢ちゃんの学校の様子とか知りたいし」

 

そう言う事ならと言い、香純はオレンジジュースとチョコパフェをマリィはフルーツパフェの特盛りを注文した。

しばらくしてパフェが届き三人で話す。

 

「そういえば櫻井さんとは親戚だと言ってましたけど、どう言った関係で?」

 

「彼女の家は戦時中にドイツに居ましてね、その際に彼女の親類がそこで結婚しましてその結婚相手が僕の親戚だったらしいです。もっともそこまでいったら親戚と言えるかは怪しいですが(もちろん嘘だけど)」

 

「へえ~、じゃあじゃあ櫻井さんってハーフなんですか?」

 

詰め寄るように聞く香純に対してアルフレートはまあ、そんなところですね。と曖昧に答える。そして、ふとアルフレートが目をマリィに向けるとマリィも気付き話しかける。

 

「思い出した。カリオストロのそばに居た人だ」

 

「ええ!!マリィちゃんこの人と知り合いなの!?」

 

驚くように声を上げる香純。それに対して苦笑しながらアルフレートは答える。

 

「ああ、思い出てくれましたか?だいぶ昔のことなので忘れてるとばかり思ってたんですがね?」

 

笑顔で彼はそう言いながら、会った時の事を思い出していた。

 

 

 

******

 

 

 

水銀が一人の女性に恋をしたと話してからしばらくたった時、彼は僕を恋した女性に会わすと言った。正直に言えば興味はあるがめんどくさいと言うのが本音だ。確かに水銀の恋は応援しているがあくまでその程度だ。水銀を手伝うことはしても直接会うことに必要性を感じない。そう伝えると水銀は興味深げに嗤う。イラッときたぞ、その笑い方。

 

「君は他者との関わりをあまり望まない上に最低限のことしかしようとしないね。それは良くない事だよ。だから私はその切欠を作ってあげてるのだよ」

 

うるさいなー。どうせ片思いの相手見せて自慢したいだけだろお前は。そんなんだから嫌われるんだよ。

 

「否定はせんが流石にそれは酷すぎではないかね?」

 

お前に温情の余地など無いわ!大体僕は影なんだから一々移動するのも一苦労なんだぞ。

 

「そんな苦労、私の知ったことではない。マルグリットに会わすのだから何の問題も無いはずだ」

 

い、言い切りやがった、コイツ。こら!影ごと引っ張るな!?分かった、分かったから行きゃいいんだろ!行きゃあ!

 

 

女神と出会った。取り合えずそうとしか表現できない。水銀が恋をするのも納得だ。黄昏の浜辺に揺らめく金髪。座っているのは処刑に使うギロチン。首筋に痕が有るが、それがまた惹かれる要素となっている。唯、少しだけ寂しそうにしているのは気のせいじゃないだろう。

 

「マルグリット、今日は私の友を連れてきたよ」

 

「?」

 

言葉が通じないのか?いやそれは無い。何故なら、水銀が知らない言葉などこの世界・・・・には無い筈だろうから。なら彼女が言葉の意味を知らないのか。だけど、彼女は水銀が来たことが嬉しいのか微笑む。

納得した。こんなにも美しいのは穢されてないからなんだ。それがまた水銀には愛おしく思えるのだろう。水銀が恋をしてなければ僕が欲しいと思ったかもしれない。まあそれはおいといて。

 

『始めまして、お嬢さん。お名前は?』

 

全てはここから始まったのだろう。その後、彼女と水銀と共に過ごし、だからこそ思った。彼の恋を成就させてやりたいと。

それを切欠に世界に干渉し始めた。数多くの存在と出会い、何度も見る望まない結末を回避するために別の道を探し、ラインハルトと言う手段がもう一つの目的となったのは何時だったか。記憶が喰われ続けてもあの黄昏と水銀との日々だけは忘れることは無い。だからこそ……僕は……

 


 
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