どうも。
今回のジュエルシードが絡んだ暴走事件のおおとり、時の庭園の決戦でのMVP間違い無しの橘禅です。
全員の先頭に立ち、迫る傀儡兵を悉く粉砕し敵である女を命を賭けて救い出すといった、俺の雄々しい活躍を見ていた女性職員の方々はアースラに帰還するなり、俺を囲んで頬ずりしたりホッペにキスをしてくださる等、
キャッキャウフフな『甘ーい時間』というご褒美をくれました。
…ワケも無く……
「あ痛ででででででででッ!!」
「男なら我慢せんかッ!!」
医務室にてオッサンに体の治療をされてます。可愛いナースさんではなくオッサンです←(ここ重要)
畜生ッ!!命張ったご褒美がこれって…いくらなんでもあんまりじゃ…っ痛でででででッ!?
そ、そこは…ダメェッ!?もっと優しくしてえぇぇッ!!感じちゃううぅぅぅぅぅッ!!?
「やかましいッ!!…これでよしッ!!…まぁったく、若いからって無茶苦茶しよるわ」
オッサンが最後に治療してくれたのは、『クレイジーダイヤモンド』でぶん殴った腹の部分だ。
俺はアースラに戻ってきて早々フェイト達に有無を言わさず医務室まで連行された。
体の傷は治療魔法と普通の治療を施されてほぼ、完治したんだが腹のダメージだけは思いのほか深くて完全には治りきらなかった。
ベテランのはずの医務のオッサンも傷を見て顔を青くしていたぜ。
治療が終わってからそのままベットに寝かされて1時間ほど安静にと言われたんだが…
暇すぎて死にそうだよ……
他のやつ等は皆、別室だし……
フェイト達は今は別室にいる…今後のことについての話し合いがあるからだ。
リンディさんに別室へ促された時はプレシアもかなり苦い顔をしていた。
まぁ、クロノの話じゃロストロギアの違法所持はかなりの重罪らしいからな。
プレシアもそれは覚悟してたんだろう。
しかしソレについて俺は微塵も心配していない。
クロノとエイミィさんが予想してたプレシアの違法研究の仮説についての証拠が挙がったからだ。
プレシアの違法研究は管理局のクソッタレた人間によってやらされたものと言う仮説は当たっていて、特に罪にはならない方向にするとリンディさんとクロノが決定していた。
むしろその証拠と被害にあったプレシアの証言だけで腐った部分を取り除けるとリンディさんは黒い、黒い笑みを浮かべていたぜ…そして、プレシアの無実を晴れて証明し、普通に生活ができるようになる。
リンディさんも同じ様に子供がいる母親として、管理局の人間としてもこのままプレシアを逮捕しただけではハッピーエンドにはならないと思っていたんだと。
この作戦が上にバレるとマズイから秘密裏にクロノとリンディさん、エイミィさんで事を進めていた。
圧力かかっちゃ動けなくなるしな。だからなのはとユーノも当然知らない。
俺は作戦の最後の確認が終わった辺りでクロノが教えてくれたので知っていたが。
クロノがあえて『逮捕』という言葉を使ったのは、表向きの動く理由がいるからだ。
実は逮捕してみると、こんな裏があって、管理局に利用されたことをふまえて裁判にかければいい。
そのプレシアの証言とクロノが集めた証拠で上の馬鹿を一掃する。
ちなみに時の庭園でもそう言ったのは、フェイト達に感謝されるのが恥ずかしいというところだ。
自分は別にフェイト達のためにやったんじゃない。
あくまで管理局員として当然のことをした。とそういう風にしようとしたんだ。
まぁ俺がバラしたけどねッ!!
今頃フェイト達に感謝されて顔を赤くしてエイミィさんにからかわれてんだろな…ヘッへッへ!!
となれば残りはフェイトの問題だ。
フェイトの場合は違法なジュエルシードの無断所持という罪がある。
コレについても俺とクロノで意見を出し合って吟味したが、途中クロノから意外な意見が上がった。
「…実際フェイトと交戦したのはなのはだけだ。
アースラの武装局員はプレシアの所に行っただけだしね。それに、許可も無く時の庭園というプレシアの『家』に突入した管理局も強くは言えない。」
「……つまり?」
「フェイトとなのはは偶然・・ジュエルシードの近くで喧嘩していただけ、ということだ…実際のところ、局員はフェイトがジュエルシードを違法所持していた『現場』は見ていない。『現場』を抑えていないのに、犯人を割り出すことはできないってことさ…」
…いや、たしかにそうだろうけどよ……
「……そんなのあり?」
「普通は無しだろう。
けれど今回の事件は内容が内容だ。普通の枠にはおさまらないし、最終的にはフェイトもプレシアの説得に向かってくれたしね。法律で守れないなら、法律なんか必要ないだろう?」
……堅物かと思ったが…中々に強かじゃん?クロノさんよぉ…
と、そんな会話を思い返していると、医務室の扉が開いてクロノとアルフがやってきた。
「ゼ~ンッ!!邪魔するよ!!」
「病室では静かにしないか、アルフ…調子はどうだ?」
笑顔のアルフとやや疲れ気味なクロノという実に対照的な二人がベットの傍まできた。
クロノ、髪が所々跳ねてるけど、何があったんだ?
そんな疑問を抱えつつ、俺はベットから起き上がって二人に片手を挙げる。
「お~す、体の方は問題ねーよ。さっきまではヤバかったけど、今はそこまで痛くねぇ」
さっきから波紋エネルギーの治療も同時進行してたからな。
「まったく…プレシアの電撃、体に入った建物の破片、おまけに『クレイジーダイヤモンド』のパンチ…それだけ食らってもう痛みが引き始めるとは…呆れた頑丈さだな…」
「さすがゼンだよッ!!男はそうでなくっちゃッ!!」
呆れないで、クロノ君。んでアルフはなんでそんなに嬉しそうなんだよ?
やっべぇ。受け答えまで対照的です。ハイ。
「まぁ、タフガイを自称する俺だからな……フェイト達のほうの話し合いは終わったのか?」
「あぁ、今は艦長もエイミィも書類作成でいないから二人で食堂にいるよ…それと、プレシアは時の庭園を放棄するそうだ」
「あん?じゃあどこに住むんだ?」
「地球だ。あそこは管理局からすれば管理外世界だからな。さすがにゼロじゃないがそこまで管理局に干渉されずに済む。」
「そりゃ結構だが、戸籍とかはどうすんだ?」
テスタロッサ家の戸籍などを手に入れると言う問題については誰かが管理局の嘱託魔導師になれば何とか出来るらしい。そこはリンディさんが、取り計らうとの事。
管理局は万年人手不足、戸籍を渡す代わりのGIVE&TAKEで嘱託という形でも確保したいらしい。
それについてはフェイトが立候補したそうだ。なのはと同じように困っている人の役に立ちたいらしい。
「そぉか。まぁ、難しい話は終わりにして飯を食いに行きますか」
結構腹が空いてきたし、食えばエネルギーもみなぎってくるだろう。
「そうだな。僕もお腹が空いたし」
「アタシもドッグフードが食べたいッ!!」
「「え?」」
あんの?ドッグフード?そんな疑問をよそに、アルフは鼻唄を歌いながら先を歩いていった。
食堂までクロノと一緒に向かったんだが、なぜか入り口に先に向かったアルフ、エイミィさん、リンディさん、なのは、ユーノが陣取っている。中を覗き見ているようだ。
「どうしたんだ?エイミィ」
クロノがエイミィさんに声をかけるとエイミィさんは苦笑いを浮かべている。
「う~んなんというか……実際、見たほうが早いかも」
「「?」」
そういって皆が入り口の隙間を見せてくれたので俺たちは中を覗いたんだが………
「………」モジモジ
「………」モジモジ
「………」モジモジ
「………」モジモジ
そこには互いに向かい合って、食堂の一角に座るフェイトとプレシアがいた。二人して、目が合えば下を向き、もう一度目を合わせる。また俯く……同じ感覚でそれが繰り返されている。
「「………」」
俺とクロノはゆっくりと隙間から目を離す。
「なんぞ?あれ?」
「知らん」
本当にどうなってんの?何やってんのあの二人?
予想外の光景に頭を捻る俺たちの疑問にリンディさんとアルフが答えてくる。
「多分、長い間親子として接していなかったから接し方がわからないんじゃないかしら?」
「リンディので多分合ってるよ…フェイトとの精神リンクで困ってるって感覚が伝わってくるからね…」
……確かに、入りづらいわなぁ、こりゃ。
実際は当人達の問題なわけだし、下手に声をかけにくいってわけだ……
でもこのまんまじゃあ、腹へって仕方ないんだけど?
「やれやれ…どうしたものか…」
クロノもお手上げみたいだ。
他の皆も困った顔で首を捻っている。
まぁ、単純に武力じゃどおしよぉもねぇからなぁ。コレばっかりはさすがに……
「大丈夫ッ!!ゼンがなんとかしてくれるよッ!!」
「まてぃ。何故俺に振ったし」
アルフさんや?何その無茶振り?俺にどうしろと?
いきなりの無茶振りに巻き込まれた俺を見ながらアルフはニッコリと笑って続きを話す。
「ゼンはいつもどんなときでも絶対にあたし達を助けてくれたからねッ!だからゼンだったらなんとかしてくれるさ!……あたしはゼンを信じてるからッ!!」
「やめてっ!!そんな純粋な目で見るのやめてっ!!」
すっごいキラキラした目で俺を見てくるアルフ。その目はまるで無垢な子供のような目だ…アルフに触発されたのか、なのはとユーノも期待の目で見てくる。お前もかブルータ…ゲフン!ゲフン!
残りのエイミィさんとリンディさんはニヤニヤと面白がっている。その目もやめろって。
くそッ!!ここは空腹を我慢して戦略的撤退を……
「ゼン」
ポンッと俺の肩に手が置かれる。俺はゆぅっくりと後ろを振り返る。
そこには………
「女の子にココまで期待されて逃げるなんて…男のすることじゃないよな?」
ニヤリ、と笑うクロノがそこにはいた。oh………絶対にバラしたこと根に持ってるよ、この人。
前門の
なんてこったい。
…いや、でも実際…どうしようかねぇ?あのギクシャクしたのってどうしたらいいんだよ?マジで。
中々アイディアが浮かばないので俺は視線をいろんなとこに彷徨わせてみる。
すると………目に付いたのは『食堂』と書かれたプレート。
……『食堂』?……『食事』?……ッ!?閃いた!!?これで勝つr…ゲフン!ゲフン!
一つの妙案が浮かんだ俺はすぐにリンディさんに話しかける。
「リンディさん。食堂の設備、借りてもいいッスか?」
「え?え、ええ。大丈夫だけど?」
いきなり話を振られて困惑しているリンディさんに俺は続けて質問する。
「材料は地球のモンってあります?」
そこが一番重要なんだよなあ、このアイディア…なかったらどぉしましょ?
「それはあるわ。お肉は確か豚肉があったし、野菜と調味料もひととおりあるはずだけど…」
よし、第一段階はクリアーだな。そんだけありゃ充分だろ。
フム……後は、『アレ』でいくか?……うしッ!!
今からやることが決まった俺は未だに俺に期待の眼差しを向けてくるなのは達に声をかける。
「なのは。ちょいとフェイトを連れて食堂から離れてくれ。俺はその間に『仕掛け』をやっからよ」
「…ふぇ?ちょっちょっと、禅君ッ!?」
俺はテンパッているなのはを無視して食堂に入る。
扉を開けた俺を席から視線を移して見つけたテスタロッサ親子は驚いている。
特にフェイトは泣きそうな顔になってら。
「ゼンッ!!」
「ゼン君ッ!?怪我は大丈夫なのッ!?」
二人は走って俺に駆け寄ってきたので俺は手を挙げる。
「あぁ、もう大丈…うおっ!?」ボフンッ
「…良かったッ……良かったッ………」
フェイトが走ってきた勢いのまま抱きついてきたので俺は右手で背中を撫でながら左手で頭を撫でてやる。
顔を俺の胸に埋めているので表情はわからないが心配かけちまったのは体の震えでよく判る……
「心配かけたな……俺はもう大丈夫だからよ。」
酷かったのは腹の怪我ぐらいだしな。実際。
安心させようと俺は未だに震えているフェイトに声をかけるが……
「………」
「…?フェイト?」
「………」ギュウッ
「…やれやれだぜ…」
フェイトは何も答えずそのまま俺にしがみついている。
しかも力を上げて離すまい、って具合に。
仕方ないのでその体勢のまま頭を撫でてやる。
そうしていると安心してきたのか、段々と体の震えが納まってきた。
「俺はもう大丈夫だからよ?なっ?」
「………うん…」
顔を埋めてるからくぐもった声になってけど、フェイトはちゃんと返事をしてくれた。
うん、返事してくれたのはいいんだけどよ……未だにフェイトさんは離れてくれまっせ~~ん。
あぁ、こう体全体に感じる柔らかくて心地いい暖かさがたまら……ゲフンッ!!ゲフンッ!!
や、やっべえ!!このままの体勢じゃ俺の猛るリビドゥオーーーっがハイになってまうやないのッ!?
す、すぐに離れn……胸の辺りにある綺麗な金色の髪から漂う甘い香りがなんとも誘ってくるじゃねえか…
……あぁ、是非ともクンカクンカしt…ゲフンッ!!ゲフンッ!!ゲフンッ!!ゲフンッ!!だ、誰か助けてェーーーーーーッ!!!
と、俺が理性をギリッギリまで保っていると、ようやくフェイトは離れてくれた。
もうちょっとでマジに狼になるとこだったぜ……まだ視線は俺に向いてるけどね。
俺を見詰める顔が真っ赤でディーーーーモルト(非っっっっ常に)!!!可愛いですッ!!
「ゼン君……ほ、本当に大丈夫?」
俺がフェイトの可愛さに悶えているとプレシアも声をかけてきた。
今のが終わるまで待っててくれたようだ。
プレシアが俺にかけてくるその声音は俺のことを本気で心配しているのが判るぐらい震えている。
……プレシアも……いや、プレシアさんもだいぶ柔らかくなったな…
なんとかしてこの二人を普通の親子に戻してやりてぇし……頑張らねえと…
俺はプレシアさんに声をかける。
「全然大丈夫ッスよ。それより腹が減ったから飯を作りに来たんですが……フェイト。さっきなのはが呼んでたから、ちょいと行ってきな。そこの入り口にいるからよ」
「?……うん、わかった。」
そのままフェイトはなのはの元に歩いていく。
少ししてクロノ達が食堂に入ってきた。クロノは俺に視線を送って頷く。
どうやらちゃんとフェイトは離れたようだな。
「さて……プレシアさん?ちょいと今から手伝ってもらいたいことがあんですが…」
「…?それは、構わないけど、一体何を?」
「まぁ、ついて来て下さいや。これがうまくいきゃ、フェイトとの気まずさもなくなるかもしれませんぜ?」
「さて、何をすればいいのかしら?早く教えて頂戴」
俺の一言でプレシアさんの顔付きが母親のソレに変わっていく。背中には何故か炎が見えた気がするっす。
…おおぅ……みなぎるオーラがハンパないっす。ホント短時間で変わったな。この人…
「ほんじゃま、着いてきてくださいなっと」
俺はそのまま踵を返して『厨房』に向かう。こっから先は戦場だッ!!派手にイクぜぇッ!!
「クロノ達は席についてな。美味いもん食わせてやっからよぉッ!!」
皆は疑問顔のまま席に着く。アルフは俺の料理を食ったことがあるからか、スッゴイはしゃいでいる。
俺はプレシアさんと一緒に『厨房』に入って腕を捲くる。さぁッ!!作りますか!!
キング・クリムゾン!!
用意ができた頃にちょうど二人が帰ってきたので、俺は二人に席に座るよう促す。
ちなみにプレシアさんはすでに席についている。フェイトと向かい合いの席だ。
俺は全員の席の前に料理を並べていく。
「本日の定食はこちらになりますッ!!」
「うわぁ~~ッ!!」
「おいしそうだね」
「…相変わらず凄いな…」
「やったーッ!!またゼンの料理が食べられるッ!!」
「そうだね。アルフ。」
「小学生なのに凄いわねぇ…」
「うぅ…女として悔しい…」
「………」
上から順に俺、なのは、ユーノ、クロノ、アルフ、フェイト、リンディさん、エイミィさん、プレシアさんの順番でござぃ。
用意したのは『豚の生姜焼き』『ワカメの味噌汁』『肉じゃが』『白米』『緑茶』の定食だ。
和食オンリーで固めてみました。
「それではみなさん…」
「「「「「「「「「 いただきます(まーす)ッ!!」」」」」」」」」
みんなおもいおもいのおかずに手を伸ばす。
「うまっ!!うまっ!!ぅンまあ〜〜いッ!!!」
「うん…やっぱりゼンのご飯は美味しい…」
「おいし~~いッ!ご飯がとっても進むの!」
「…味噌汁ってなんかほっとするね…」
「…この生姜が癖になるな…白米と一緒だと箸が進んで止まらない…」
「あぁ…ッ!!これが本物の『和食』…素晴らしいわッ!」
「体重が気になるけど箸が止まらない…」
「…(チラッチラッ)」
皆ご満悦のようで重畳、重畳。
………さて、ここらで一丁『爆弾』を落としますか?ヘッへッへッ!!
皆が食べ終わりに近づいた時、俺はホクホク顔のフェイトに話しかける。
「どうよ?フェイト、美味いか?」
「うん。とっても美味しいよ、ゼン」
「そぉかそぉか……ちなみに、どれが一番美味しいよ?」
「え?……う~ん……この『ニクジャガ』かな?」
ピクンッ
「ほぉ~、ちなみになんでそぉ思ったんだ?」
「えっと…うまく、言えないんだけど……なんだかココに染み込んでくる…感じがするんだ…」
そう言ってフェイトは自分の胸の辺りをさわる。
「とっても……暖かい…っていうのかな?…私が一番美味しいって感じたのはこの『ニクジャガ』だよ?」
そう言ってフェイトは俺に笑顔を向けるが、その笑顔を見せる『相手』が違うんだよなぁ……
俺はニヤニヤとしながら、視線をその人に向ける。
「だってさ。『プレシア』さん?」
「………え?」
「…ヒグッ…グズッ……う、うぅ……」
そこには感極まって両手で涙が流れる顔を隠す『プレシア』さんがいた。
………そう、この『肉じゃが』は『プレシア』さんが『フェイト』のために作ったもんだ。
俺は、フェイトと二度目に会ったときのことを思い出して、プレシアさんに料理を作らせた。
いざ、やることを教えると、最初は、絶対に自分の料理を気に入ってはくれない。
と作ることを拒否してたから、頑張って説得した。俺にできるのはこれぐれえだしな…
「え?……か、母さんが?…」
フェイトはいきなりのことに思考が追いついていない。ちなみに周りもそうだ。俺が連れて行ったのは知ってるけど、雑用ぐらいをさせたんだと思ってたようだが、実際はみんなの分を作り終えた後、俺はプレシアさんの横で調理法をレクチャーしていたのさ。
「プレシアさんな……お前の喜ぶ顔が見たくてすっげえ頑張ったんだぜ?」
そう言って手に視線を向ければ、彼女の手にはたくさんの絆創膏がついている。
久しぶりの料理だったモンで手ぇ切るわ。火傷するわで大変だった。超大変だった。
それに気づいたフェイトはプレシアさんに駆け寄る。
「母さんッ!大丈夫?痛いの?」
フェイトはプレシアに聞くが、プレシアは泣いている。
「ち…が、う……の…ぐずっ…フェイ、ト…ほん、ほんとうに、ごめんなさい……」
「母さん…?」
「ズズッ…ゼン君からあなたがどんな生活を送っていたか…さっき聞いたの…ごめんなさいね……。これ、からは…頑張って作るわ。……今日は久しぶりだったから、あまりうまく作れなかったけど、ち、ちゃんと練習するから……ね…もっと…いっぱい……お、いしいご飯………作って、あげれるように……あなたの喜ぶ顔が……もっと……もっと見られるようにッ!!……」
プレシアさんはそう言ってフェイトを抱きしめる。力強く、愛しさを込めて…
「ッ!!おいしかったッ!!おいしかったよぉッ!!」
フェイトも涙を流しながらプレシアさんと抱き合う。
今まで甘えられなかった分の涙を、今まで愛情を注いで上げなかった分の涙を流しながら二人は抱き合う。
「うえええええぇぇん……!! えええええぇぇん……!!」
「ごめんなさいねッ…フェイトッ……ごめんなさいッ………」
二人はそのまま抱き合って涙を流す……俺たちは、そっと食堂から離れていった………
・・・・・・・・・・・・・・
「………君は凄いな、ゼン」
「あぁ?」
食堂から出て皆が集まった時に唐突に、クロノは話しかけてくる。
俺たちは全員食堂の入り口の外にいる。
「なにがだ?」
「あの二人を…すれ違った親子を『料理』で仲を取り持った…本当に凄いと思うよ…」
周りの皆も頷いてるが、勘違いしてんじゃねぇよ……
「…地球じゃ、肉じゃがは『お袋の味』って言われてるんだ……そのまんまの意味で、プレシアさんの『思い』がフェイトに伝わったんだと俺は思ってる……『娘』のフェイトにな……」
「俺じゃあそれはできねぇ……『プレシア』さんが作ったから『フェイト』に伝わったんだよ…『心』がな…
『プレシア』さんの愛情ってもんが…」
親から子へ、繋がりがあるからこそ、伝わるもんがある。
例え俺がどれだけ頑張っても『母親』が『家族』のために作る料理には絶対に届かねえ。
「だから、あの二人が分かり合えたのは俺がやったんじゃねぇ……
「…手を『治さなかった』のはなぜだ?」
「……あんなに『娘』のために頑張った『証』……『治す』なんてできっかよ…」
「……そうだな…その通りだ…」
「『治さない』からイイ事もあるってだけさ…」
全部が全部、治せばいいってモンじゃない。俺は今回の傷は治せなかった。
そこに今まで黙って俺達の会話を聞くだけだったアルフが寄って来る。
「ゼン…ほんとうにありがとうね…」
「だから、俺は何もしてねぇって…」
実際頑張ったのはプレシアさんなんだし。俺は横でレクチャーしただけだ。
だがアルフは首を横に振って、俺の言葉を否定する。
「確かに、最後はプレシアの気持ちが伝わったからかもしれない…けどさ…切欠を作ったのはゼンだよ…ゼンがいなかったら、この切欠はずっと無かったかもしれない……ヤッパリ、あんたは『ヒーロー』だよ、ゼン…」
アルフはとてもいい笑顔で俺に言い切る。周りの皆もアルフに賛成なのか、しきりに頷いてる。
…『ヒーロー』って……ケツがむず痒いぜ、こぉゆうのはよぉ…
恥ずかしくなった俺はそのまま踵を返して部屋に向かう。
「どこへ行くんだい?」
ユーノが声を掛けてきたので俺は首だけ振り向いて答える。
「『家族』の触れ合いを覗き見すんのは趣味が悪いからな……橘禅はクールに去るぜ…」
俺はそれだけ言って部屋に戻っていく。
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第8話
~どの世界でもお袋の味はァァァァァァァアアア 世界一ィィィイイイイ
この作品にはご都合主義が多分に含まれています。