賈駆
「ちょっとアンタ!なに月を悩ませてるのよ!月の何が不満なわけ!?」
董卓
「詠ちゃん・・・私はいいから・・・」
陳宮
「おいお前!恋殿をたぶらかそうとしてもそうはいかないのです!」
呂布
「・・・・・・おはよー。徐栄」
徐栄
「・・・何がどうなっておいでで?」
徐栄
「これで部隊の鎧数の計算も終了。次は・・・張遼さんの酒の請求書?放置で。さて次は・・・」
こんな感じで朝食後の書類仕事は淡々と進んでいく。当然瓦版や董卓さんが各地にばらまいている密偵の情報も忘れずに確認。
徐栄
「しかしいいのかねぇ。一副官ごときに密偵の情報流して・・・お?これは・・・」
一枚の報告書に注目する。なんでも「天の御使い」を名乗るものが陳留に現れたらしい。
天の御遣いとは正確には覚えていないが確か占い師管路が予言したものでなんでも流星とともに現れて乱世を沈めるための存在だとか。
実在するのか・・・しかし御使いも大変なもんだ。わざわざ天から降りてきて腐った国の再生なんかに力を貸さなきゃいけないなんて。
そんなことを考えていたその時だ。
賈駆・陳宮
「「じょえーいっっっ!」」
という怒鳴り声とともに賈駆さんと陳宮さんが乱入してきたのは。
その後おずおずと入ってきた董卓さんと相変わらず表情の読めない呂布さんが入ってきて今に至る。
なんとか落ち着かせて一人一人話を聞くことにする。まずは賈駆さんだ。陳宮さんと比べて随分怒りの表情が激しい。
徐栄
「えーと・・・要するに賈駆さんの要件は私が董卓さんを避けているのはなぜか・・・と?」
賈駆
「そうよ!月がわざわざ声をかけてもすぐいっちゃうって言ってたわよ!」
ああそれのことか。でもソレは・・・
呂布
「・・・・・・徐栄。月のこと嫌い?」
賈駆
「なんですって!」
董卓
「・・・そうなんですか?徐栄さん?」
董卓さんが今にも泣きそうな顔でこっちを見てきた。このままでは良心とか賈駆さんの殺意とかがヤバイ。
徐栄
「いえいえそんなことはありませんよ・・・っていうか私が話しかけていいんですかね?」
賈駆
「どういう意味よ?」
賈駆さんはズズいっと顔を近づけてくる。
徐栄
「ええっと。私は確かこういわれたのですが・・・・・・・」
~回想~
董卓との顔合わせ時のこと
賈駆
「徐栄。彼女が私たちの主。董卓よ」
徐栄
「これはこれは・・・はじめまして。今日より張遼隊の副官となりました徐栄と申します。お見知りおきを」
董卓
「はい・・・私は董卓と申します。初めまして徐栄さん」
ニコっと笑いかけてくる。うむ、いい笑顔。
徐栄
「ここに来るまでにもお話ばかりお伺いしておりますよ。町の人からも好かれているようでしたが貴方が太守だというのならうなずけます。」
これは事実。民から聞く話は董卓さんを褒め称える言葉ばかりだった。
董卓
「そ・・・そうですか?でもそれはみんなが頑張ってくれているからですよ」
ちょっと照れくさそうに笑っている。
徐栄
「その頑張ってくれていることも貴方のお人柄がそうさせているのです。私もこのような可愛くて優しい主人をもてること。光栄に思います」
そう言ってニコリとこちらも微笑む。ちょっとくらいのお世辞は世渡りの常だろう。
董卓
「可愛いって・・・へぅ~///」
・・・あれ?すっごく照れてる。やりすぎたか?
賈駆
「ちょっと!僕の月になに色目使ってるのよ!変な気だしたら承知しないんだからね!」
その様子に少し困惑していたら賈駆さんが割り込んできた。なんか怒り心頭だ。しかし色目とな?
徐栄
「色目?いえいえそんなことはあり「「嘘!アンタ今月に色目に加えておべっかまでして取り入ろうとした!これだから男は!」」
ありませんよと告げる前に割り込まれた。・・・そんなに信用ないか?
董卓
「詠ちゃん・・・ダメだよ。ほら、徐栄さんだってそんな気があって言ったわけじゃないって」
ぉぉ・・・初対面なのにかばってくれたぞこの人。今まであまり見たことないくらい人がいい。
賈駆
「月!騙されちゃダメ!男なんてみんなケダモノなんだから!」
なんだか興奮している。しかしこのままでは話が進まない。
徐栄
「え~と・・・まぁ初対面ですし。これから信用されていくよう頑張るのでよろしくお願い致しますね」
とりあえず挨拶をして締めておこう。騒ぎを起こす気はないし。
董卓
「あ・・・はい。こちらこそよろしくお願いします」
董卓さんもペコリと頭を下げ返してきた。
賈駆
「ちょっと徐栄!ボクのいない時に月といるのを見たら承知しないわよ!」
む・・・話を禁じられたか。機会があれば太守の仕事やどういう問題が起きるのかなどを聞きたかったのだがしかたない。
徐栄
「わかりました。ご命令とアレば従いましょう」
問題を起こしてまでやりたいことでもなし・・・だ。
賈駆
「・・・ふんだ」
そうして賈駆さんは不機嫌そうに鼻を鳴らして面会は終了したのであった。
~回想終了~
徐栄
「・・・・・・とのことだったので賈駆さんのいないときは極力話さぬように心がけてはいましたよ。確かに」
董卓
「詠ちゃ~ん・・・」
賈駆
「う・・・だってあんな命令律儀に守るとは思わないじゃない・・・」
董卓さんがジト目で賈駆さんをみている。賈駆さんもタジタジだ。
しばらくして董卓さん。賈駆さんがクルリとこちらに向き直し
賈駆
「え~と・・・ゴメン徐栄。これからは月と話してもいいわよ。」
董卓
「ごめんなさい徐栄さん。詠ちゃんも悪気があって言ったわけじゃないんです」
徐栄
「よくわかりませんが・・・よろしいので?」
何故か知らないが話す許可が出た。なんか信頼を得るようなことやったか?
賈駆
「ええ、あんな主君に嫌われるかも知れないような命令でも律儀に守るんだもん。アンタが真面目だっていうのはよくわかったわ。」
あ~・・・そういや傍からみたら反骨の意志ありと見えるじゃん。彼女たちの雰囲気的に全く気が向いてなかったわ。
徐栄
「わかりました。では改めてよろしくお願いしますということで・・・」
董卓
「はい・・・あらためてよろしくお願いします。徐栄さん」
お互いに再び挨拶を交わす。うん、これでこっちは問題なさそうだ。
さて次はと・・・
徐栄
「それで、陳宮さん。あなたはどのような用事で?」
陳宮
「そうです!おまえが最近恋殿と夜食を食べているというのを聞いたのです!!」
徐栄
「夜食・・・ああ。はい。一緒に食べてますね。それが何か・・・?」
正確には「作らされている」が正しい。
どうやらいたく私の食事が気に入ったらしくよく寝る直前にいきなり来て
「お腹すいた・・・」と触覚を下げながら言いに来るのだ。
言われた側としては作るしかない。
そして目の前で食べている側としてはもう一人が食べてなかったら気を使うだろう。
だから申し訳程度で付き合ってはいる。
ちなみにこの夜食とは別にときおり張遼さんにツマミを頼まれたりもする。
陳宮
「認めましたね!そうやって恋殿を餌付けしてなにをするつもりなのですか!」
徐栄
「いえそんなつもりは・・・まぁそう受け取ったのなら申し訳ありません。で、どうすればよろしいので?」
呂布さんに勝手に食事を与えるなということだろうか。そんな飼い犬じゃないんだからねぇ・・・
陳宮
「ねねを仲間はずれにするななのです!」
ああ・・・怒っている理由はそっちか。別にのけものにしていたわけではなくちゃんと理由がある。
徐栄
「基本お誘いしてますよ。ただ・・・大抵寝てません?」
呼びに行くと寝てるのだ。流石に起こすのも気が引ける。
・・・まぁ作り手の側は情け容赦なく起こされるというのは言っちゃいけないのだろう。
陳宮
「ならねねの起きている時に作ればいいのです!」
徐栄
「それは呂布さんに言ってくださいよ・・・」
呂布
「・・・・・・・・・ねね。がんばって起きる」
「れ・・・恋殿ぉ~、」
・・・これはどうしろという話なのだろうか。
董卓
「徐栄さんは料理ができるんですか?」
先程から話に入れなかった董卓さんが入ってきた。
徐栄
「ええ、姉によく作れ作れと言われていましたからひと通りは。腕のほうは食べた側が決めることですので言いませんがね。」
呂布
「・・・・・・徐栄の料理、美味しい」
賈駆
「へぇ~恋が気に入ってるって言ってたもんね。ちょっと食べてみたいかも」
賈駆さんも興味を持ったようだ。
呂布
「・・・・・・じゃあ、今から作ればいい」
徐栄
「そういえば丁度昼ですしね。じゃあみなさんで食堂に行きますか。」
そうして皆で昼食をとったのであった。
ちなみに董卓さん、賈駆さんにも料理は好評であり最近では朝食を共にすることが多く、負担が軽く増えたというのは余談。
~賈駆side~
徐栄が霞の副官をやってもう一月は経過したと思う。
最初は「男ながらに霞とそれなり戦えるヤツ」程度の認識で迎え入れたのだが今はソレをすごく後悔している。
何故かというと彼、徐栄はーーーーー
徐栄
「失敬、賈駆さん。頼まれていた台帳の計算、終わりましたよ。」
かなり文官として優秀だったからだ。
賈駆
「ありがと。あとで確認するからそこに置いてちょうだい。」
徐栄
「了解。」
こうは言っているがおそらく確認せずとも問題はないだろう。とにかく計算に関しては速度、正確性ともにあきらかにボクを上回っている。
ソレに気づいたのは本当に少し前だ。今まで滞り気味だった霞の部隊の予算案と経費の計算がやけに早く正確になっているのに気づいて霞に聞いたのだ。
賈駆
「ねぇ、霞の部隊の報告書、最近やけに提出が早いけどどうしたの?」
張遼
「それがな・・・徐栄に備品の確認と補充に関しての書類を任せてみたんや。そしたらえらい早く終わらせてなぁ。ついでにと思うて他の書類も全部丸投げしてみたんや。
あいつどうしたと思う?「了解」と一言だけいうて全部片付けてくれたんや。賈駆っちにそのまま渡したら全部通るものをな。いや~ホンマ、ええ拾いもんしたわ。強いし頭もいい。ウチ目に狂いはなかったで。」
その言葉を聞いた次の日、私は霞に頼んで滞り気味だった恋や華雄の所の書類を持って行ってもらい、彼に渡して見ることにした。
彼は「・・・?なんかおかしくないですかね?まぁいいですけど。」といいつつもその日の夕方には全部終わらせて持ってきてくれたのだ。
それ以降はボクの仕事を少し回している。「いや・・・自分張遼さんの副将なんですけど」とゴネたので本当に少しの「面倒な計算」の仕事のみだけど。
賈駆
「全く・・・ここまでできるんなら最初から文官としてきなさいよね」
そしたら絶対にボクの補佐にしていたのに。あれから月とも話すことがそれなりに増えたとのことだが基本的に月の話を聞くか月が旅の話を聞きたいといった時だけ。
油断はできないけど先の問題の時のこともかんがえて信用ができる人だと思う。
徐栄
「いやいや・・・もともとは普通の兵として入るつもりだったんですよ?今現在の私の仕事量を考えれば十二分でしょうに。」
そういって苦笑した。まぁ・・・確かに霞が見つけなかったらここにすらいない。そう、だからこその疑問が残る。
賈駆
「ねぇ・・・なんでアンタ最初は兵卒なんかではいろうとしたの?」
これだけの力を持っているのに上を目指さないこの男の目的。何故ココにきたのか。いったい何が目的なのか。
徐栄
「なんで・・・ですか。ココに来る前には幽州にいたんですよ。ただちょっと問題を起こしてしまいましてね。」
賈駆
「問題?」
徐栄
「ええ、まぁ些細なものですが・・・ちょっとあそこで食いつなぐのは難しくなったのですよ。だからなんとなくココにきた。そう、「たまたま」なんですよ。だから「兵卒」。路銀分を稼いだらまたどっかで放浪する予定だったので。」
まぁ今じゃあ無理でしょうかね、と小さく続ける徐栄。
・・・本当に霞が見つけてくれてよかった。目の前にいる大魚を釣り損ねるところだったんだ。
賈駆
「そ・・・そうなんだ。じゃあもうひとつ。アンタは霞にも真名を預けてないのよね?」
徐栄
「ええ、矜持がありますので」
賈駆
「うん、それも聞いてる。でね・・・良ければその矜持、教えてくれない?」
これは単なる好奇心。答えてくれなければそれでもいいかなっと思う程度のもの。
徐栄
「私の真名はね・・・姉が付けたものなんですよ。」
彼はしばらくの逡巡のあとポツリとつぶやいた。
賈駆
「お姉さんが?変わってるわね・・・」
普通真名というものは親がつけるものなんだけど・・・
徐栄
「ええ。込み入った事情がありましてね。預かったその時姉にこう言われたんです。
『アナタが真名を許すということは名付けた私にとっても大事なこと。だから真名を預けるということは私の大事な物を預けることだと意識しなさい』ってね。
そんなことを言われてしまってはそう簡単は預けられませんよ。だから自分なりに考えて真名を大事に扱ってるんです。」
賈駆
「・・・大事なお姉さんなのね。」
徐栄
「ええ。色々と手間のかかる姉ですがね。」
そういいながらもその顔は穏やかだ。本当に彼にとっては姉は大事な存在なのだろうということがよく分かる。
賈駆
「なるほどわかったわ。もともと無理強いをする気はないけどもう真名の話はしないことにする。」
徐栄
「ええ、そうしていただけると助かります。」
賈駆
「ねぇ、ボクが聞いておいてなんだけどさ・・・どうしてその話をしてくれたの?」
なんとなくだがこういう時に彼は適当にはぐらかすだろうと思っていた。
徐栄
「そうですね・・・アナタと私がよく似ている。そう感じたからですかね?」
賈駆
「ボクとアンタが?」
徐栄
「ええ。私も観察することは結構得意でしてね。ここにいる人たちの性格はおおよそ把握したつもりです。
賈駆さんは董卓さんのためならば例え全てをなげうってでも、いかなる犠牲を出そうとも行動できる人だと思っています。
ーーーーーーーーならば私と同類ですよ。私も大事な物のためにはソレ以外の全て・・・例え大陸全土を犠牲にすることすらためらうことがない自信がありますから。」
そういって彼はニッコリと笑った。
なるほど・・・彼はボクを同類と思っていたのね。ならばその考えは・・・
賈駆
「フン、よく見てるじゃない。そのとおりよ。ボクは月の幸せのためにならばどんな犠牲でもためらわないわ。」
ーーーーーーーーーーーーコレ以上無く正解よ。本当によく見ている。
徐栄
「ええ、ですので私はこう言いましょう。「私は大事な物が犠牲になら無いうちは決してあなた達を裏切らない」とね。」
ボクがコイツのことをどこかの間諜ではないか、と疑念を抱いていると感じての発言なのだろう。
話す前までは確かにその考えもあったが今ではそれもなくなった。彼は自分が言った通りに行動をするだろう。
賈駆
「ええ、ならばもっとこき使ってやるんだから覚悟しなさいよね。」
だって彼の同類であるボクがそう考えているのだから。
この日を境に賈駆が直接徐栄に仕事を依頼するようになり、彼の仕事が増加の一途をたどったというのは本当に余談である。
Tweet |
|
|
18
|
2
|
追加するフォルダを選択
日常その2、2話より視聴者の多い五話とはいったいどういうことなのだろうか・・・