第二十九話　全部まとめて吹き飛びやがれ！

　テスタロッサの気配が眼前から背後に感じ取った時。私は敗北を悟った。

　せめて、彼女の方にふり向こうとした。その時、

　―あまり手を煩わせないでくれ烈火の将―

　いつの間にかアサキムと名乗る黒い鎧がテスタロッサと私の間に割って入ってきた。

　テスタロッサの方も雷の大剣を振り下していてその動作を中断することも出来ずにいた。

　そして、

　ガギィイインッ。

　「くっ」

　雷の大剣を受け止めるには細すぎる赤黒い剣でテスタロッサの剣を受け止めていた。

　それを見たテスタロッサは私達から距離を取るようにその間合いを取る。

　「…どういうつもりだ貴様！どうしてテスタロッサとの戦いに手を出す！」

　「どうもこうもないさ。烈火の将。僕は僕のしたいようにやる。それに」

　私の言葉を真正面から受け止めるかのように私には一切の敵意を見せずに淡々と答える。

　「君はこんなところで倒れていてもいいのかい？成すべきことがあるのだろう？それを達成せずにここで彼女に捕まりたいのかい？」

　「貴様！それをどこで！…く」

　我々の目的をこいつは知っている。どこでどのように調べ上げたか分からないがこいつもこの場で…。

　「下手なことは考えない方がいい烈火の将。君ごとき。例え、何十人いようと僕には勝てない。わかるだろう？」

　私の敵意を感じたのか、それに呼応する形で奴から殺気が放たれると私だけではなくテスタロッサにまでそれは伝わった。

　「…っ」

　だが、私はこのような状況でテスタロッサから魔力を奪おうなど出来るはずが…。

　「…ふう、仕方ないね。…彼女の魔力は僕が狩る」

　アサキムは私の事を諦めたかのようにテスタロッサの方に視線を移す。

　「な、ま、待て…」

　「…転神」

　私が止める間もなくアサキムはその黒い鎧を鳥のように変形させるとテスタロッサに向かって突撃した。

　「く、バルディッシュ！」

　[ソニックムーブ]

　黒い鳥に変形したアサキムから吐き出される赤い軌跡とテスタロッサの放つ黄金の軌跡が何度も交わるかのような空中に描かれる。

　その軌跡を見てれば分かるように明らかにテスタロッサが押されている。

　「く、やめろ！レヴァンティ…」

　私がレヴァンティンに命じてアサキムを止めようとしたがその行動は遅すぎた。

　「…王手(チェック)だ」

　ズドオンッ。

　テスタロッサの放つ軌跡はアサキムの放つ赤黒い軌跡に吸い込まれるかのように地面に落ちた。

　「…う」

　地面に落とされたテスタロッサはあの数合の打ち合いでかなりのダメージを負っていた。

　「さて、後は彼女から魔力を奪うだけ」

　アサキムはテスタロッサを地面に突き落とした瞬間には鎧の姿に戻っていた。

　そして、地面に倒れ伏した彼女に向かってその赤黒い剣を向けながら彼女の肩を踏みつけていた。

　ジャキィン。

　「…何の真似だい、烈火の将？」

　「悪いが見ず知らずの輩の言うことを聞く耳を持たない性質でな」

　「そうかい。それなら…」

　アサキムは一度間を開けると、先程とは比べ物にならないほどの殺気を私に当ててきた。

　「君を殺して闇の書を奪い、僕が完成させるとしよう」

　アサキムが赤黒い剣を私に向けようとした瞬間だった。

　ガオオオオオオオオオッ。

　と、私の背中から獅子の咆哮が鳴り響く。

　次の瞬間には目の前にいたアサキムは黄色と黒。そして赤色の混ざった突風に飲み込まれた。

　「アサキム！てめぇ、他人(ひと)の妹に何してやがんだ！」

　(嫁入り前の妹に何すんだぁっ)

　「ははは、ようやく獅子の力を使ってくれたね。『傷だらけの獅子』！」

　先程まで炎の烏に襲撃を受けていた機械人形だったが、アサキムがフェイトを剣を突きつけながら踏みつけられていたところを見て飛び出してきた。と、思う。

　確信できないのは先程の機械人形とは思えない異形の姿。それは悪魔といっても過言ではない。その凶悪な姿を見てアサキムは嘲笑う。

　そうしている間にもテスタロッサは手にした愛機を持って立ち上がる。

　「…だけど、遅い。遅すぎるよ、『傷だらけの獅子』」

　「…何を？」

　アサキムがまるで人形だけではなく私やテスタロッサすらも馬鹿にするかのように言い放つ。

　その言葉は私には届かなかった。

　だが、機械人形の方には聞こえたようだ。

　「襲撃者は僕だけじゃない。ということさ」

　…ズッ。

　「…う、あ？」

　テスタロッサが私にむかって魔力弾を作り上げようとした瞬間に彼女の胸から手袋をはめた手が突き出ていた。

　その手の中には黄金に輝くフェイトのリンカーコアがあった。

　「な？！」

　(フェイトッ！？)

　「くそっ！まだいたのか！」

　その異常事態に気が付いたシグナムとアリシア。そして、高志。

　その異常事態に集中力を乱したアリシアと高志は起動していたマグナモードを保てるほどの集中力を失ったためマグナモードも解けた。

　「…ここまでか。ラスターエッジ」

　ズドンッ。

　アサキムはその様子に呆れたかのか、先程まで高ぶらせていた感情も沈下したようにも見えた。

　「がぁ！」

　(うあああっ)

　空中で、しかもマグナモードという推進力を失った状態でガンレオンがその爆発の勢いを殺すことは不可能だった。

　アサキムから放たれた光線による爆発でガンレオンはフェイトのすぐそばに落ちた。

　「…さあ、奪え」

　「…テスタロッサ、すまない！」

　シグナムは何かを諦めたかのように仮面の男からフェイトのリンカーコアをひったくるように受け取る。と、同時にフェイトのバリアジャケットが解け、意識を失いながらうつぶせに砂漠に倒れた。

　そして、次は仮面の男とシグナムはガンレオンから奪おうと行動を移そうとした。次の瞬間。

　「…せよ」

　「…なに？」

　ガァアアアアアアアアアアア！！

　ガンレオンが再度マグナモードを発動させた。

　と、同時にガンレオンから莫大な魔力が溢れ出す。

　「な、んだ？なんなんだこの魔力の量は？！」

　「フェイトを返せよぉおおお！」

　ガンレオンの咆哮が再び砂漠の世界に鳴り響く。

　(…っ！)

　その様子を見たアサキムは仮面の男とシグナム。そして、起き上がりながらマグナモードを発動させたガンレオンの間に割って入る。

　「二人ともここは退いた方がいい」

　「…」

　「…くそ」

　アサキムの言葉とガンレオンの咆哮に気圧されたのか二人はすぐにその場から離れようとしたが先にガンレオンの咆哮が鳴り響く。

　「全部まとめて…」

　ガンレオンのマグナモードで装甲の開けた部分から莫大かつ凶悪な魔力が放たれる。

　「吹き飛びやがれぇええええええええええ！」

　そして、三度目の獅子の咆哮が鳴り響いた。

　「フェイト！」

　ザフィーラが撤退したので一番近くにいたアルフが砂漠で倒れたフェイトを見つけると彼女を抱き上げた。息はある様なので最悪の状態は免れた。

　「…一体何があったっていうんだい」

　フェイトを抱えながらアルフは目の前の光景に唖然とするしかなかった。

　フェイトのすぐそばで倒れている少年とフェイトにとてもよく似た少女。

　そして、

　底なしと思わせる扇形のクレータが目の前に広がっていた。