No.450831

万華鏡と魔法少女、第十九話、優しい忍

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2012-07-11 00:40:55 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:7857   閲覧ユーザー数:7173

かつて、その男は大罪を犯した

 

 

仲間を裏切り、自らを真っ赤に染めた男は誰にも理解されないままただただ、犯罪者としての汚名を着せられ、死戦の中で生き抜く毎日

 

 

赤い…赤い…

 

 

目の前が自分の殺めた人間によって、真っ赤に染まる

 

 

命の重さと…その代償

 

 

俺はあまりに…それを奪い過ぎ、払いきれない代償を背負ってしまった

 

 

しかし…こんな俺にもまた大切にしたいと思う人間が出来た

 

 

歳は少しだけ離れているが自分の義理の妹ーーーー

 

 

自分の事を兄さん、兄さんと嬉しそうに呼んで後を着いて来る可愛い妹

 

 

サスケが見たらなんと言うだろうと内心で少しだけ俺はそんな彼女との毎日を過ごすのが楽しくなっていた

 

 

しかし、眼の前の幸せは繰り返し、幻想の様に霧散する

 

 

俺はどの様になっても後悔はしない…

 

 

だけど、自分の事を再び兄と呼んで尊敬してくれた彼女だけは…自分のこの身が朽ち果てても守り抜きたいと思ったんだ…

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

自分の身体を真っ直ぐに貫く雷の槍

 

 

意識が微かに飛び散っていたイタチは引き戻される様に眼が覚めた

 

 

身体中が痺れ言う事を聞かない

 

 

まともにあの一撃を急所にモロに受けたのだ当然と言えるだろう

 

 

息苦しく、槍に貫かれた所からは真っ赤な血がイタチの身体から噴き出す

 

 

壁に叩きつけられたイタチは口から異常な量の血液を吐き出す

 

 

その血はイタチの懐にバルディッシュを突き刺したフェイトの顔に掛かり、真っ赤に染める

 

 

「…え?」

 

 

彼女はようやく、自分が今やった事が鮮明に頭の中で整理され、間の抜けた声を溢す

 

 

フェイトはバルディッシュを握る自分の手へと視線を落とす

 

 

そこには、身体を貫かれ大量に血が付着した自分の手があった

 

 

彼女はこうして始めてわかったこの時、自分が彼を死の淵に追いやっていると…

 

 

彼女の手には自然とイタチを貫いているバルディッシュに力が入る…そして、その手は震えていた

 

 

口元から血を流すイタチはそんなフェイトと逆に笑みを浮かべていた

 

 

バルディッシュを握る彼女はそのイタチの笑みにゾクリと身が凍る

 

 

あれだけ、自分の全開の攻撃を急所に受けて何故笑っていられるのか

 

 

もしかして、未だに余力が…

 

 

そう考えると血に塗れた彼女はバルディッシュをイタチに突き刺したままその場から後退る

 

 

自分には最早、力が残っていない

 

 

これ以上、フェイトが戦える筈もなかった

 

 

そうして、身体が硬直している彼女にイタチは呟くようにこう言った

 

 

「…俺の…願いだ…」

 

 

そう呟くイタチは深々と自身の身体を貫いているバルディッシュに手を掛ける

 

 

ーーーーそして

 

 

彼は何を思ったのか、その自身に突き刺さっているバルディッシュを更に自ら奥の方にへと突き刺した

 

 

その異常なイタチの行動に眼を見開くフェイト

 

 

それと、同時に辺りで激しい爆発音が彼女の耳にへと入り込んで来る

 

 

どうやら、先程のフェイトとイタチとの戦闘、そして、フェイトが放った渾身の一撃が恐らく原因だろう

 

 

天井から瓦礫が落ち初め、時の庭園が崩壊しはじめている

 

 

そんな中、イタチのとった信じられない行動にフェイトは唖然とし、身体が硬直する

 

 

それはまさしく、異常な行動だった…

 

 

フェイトが突き刺していたバルディッシュを思いっきりねじ込む様にイタチが自身の身体に食い込ませはじめているのだ

 

 

彼のバルディッシュが突き刺さった傷口からは血が滲み出し、赤雲の衣類を紅に染め始める

 

 

「…ぐぁ…はぁ…」

 

 

苦痛からか、自身の身体に突き刺ささるバルディッシュを奥にへと入れ込むごとに血を口元から流し、声を溢す

 

 

身体を貫くバルディッシュを奥にへと更に突き刺すイタチはそんな彼女との距離を確実に近づけていた

 

 

自分の息の根を止める為に自身の身体をここまでしてトドメを刺しにくるなど普通するだろうか…

 

 

彼の信念、そしてその執念にバルディッシュを突き刺していたフェイトは愕然とさせられ、同時に戦慄した

 

 

…動かない…殺られる…

 

 

彼女の頭の中にふと、閃く様にそんな考えが過る

 

 

だが、彼女によりバルディッシュに貫かれたイタチも重傷…

 

 

彼はフェイトとの距離を詰める為にバルディッシュを奥にへと自身の身体にねじ込む度

 

吐き散らす様に口元から大量の血で床を真っ赤に染めていた

 

 

彼がゆっくりと伸ばす右手

 

 

フェイトはその瞬間、もう諦めるしかなかった

 

 

力が出し切り魔力のひとかけらも無い自分にはもうなす術が無い、大人しく彼に殺られるのを待つだけ

 

 

彼女は迫り来るイタチの右手に覚悟を決めた様に両目を必死に瞑りその時を待つ

 

 

ーーーーーーそして…

 

 

 

トン…とフェイトの額に弱々しく何かが触れた

 

 

彼女は意味が分からないまま、閉じた瞳をゆっくりと開く

 

 

「…なんで…」

 

 

瞳を開いた彼女の始めの第一声がそれだった

 

 

自身の額に何かが触れる感触…

 

 

それは、自分にトドメを刺すだろうと思っていたうちはイタチの手だった

 

 

フェイトは異常なイタチの行動にただただ眼を見開くだけ

 

 

イタチは血を流しながらそんな彼女にゆっくりと弱りきった身体に鞭を打ち何かを告げる

 

 

「ーーーーーーーー」

 

 

「……え?」

 

 

イタチの告げたその言葉に某然と立ち尽くし声を溢すフェイト

 

 

イタチはそんな彼女の反応に口元を微かに綻ばせていた

 

 

そうして、彼女に話を終えたイタチは自身に突き刺さるバルディッシュを改めて握り直し残っている力を込める

 

 

ブシュリ! と肉が削れる嫌な音が時の庭園の玉座の間に響く

 

 

勿論、バルディッシュを身体から抜き出したイタチの身体からは血が留まる事無く流れ出る

 

 

彼はヨロヨロとよろめきながら、自身の身体から取り出したバルディッシュを地面へと投げ捨てる

 

 

…鳴り止まぬ地響きとひび割れた瓦礫がとめどなく落下し、その場を包む

 

 

イタチは血が流れ出る腹部を抑えながら、ゆっくりとその足を重く進め出す

 

 

まるで、その場に降り注ぐ瓦礫や地響きと対峙する様に…

 

 

途端、凄まじい爆発音がフェイトの耳にへと入り込んでくる

 

 

そうして、イタチの姿はそこから崩れ落ち始めた瓦礫の山にへと消えていってしまった

 

 

彼女は突然の爆発音と瓦礫により引き起こされた土煙を手で塞ぎながらイタチの身体が瓦礫に飲まれてゆく様子を唖然と見ていた

 

 

そんな、イタチを見ていた彼女はハッとある事を思い出した様に彼から視点を変える

 

 

そう…この場所が崩れ出しているという事は今、磔になっているプレシアが危ない事を指す

 

 

彼女は急いで気を失い磔になっているプレシアにへと近づくと彼女の手を貫いている苦無を取り除き、すぐさま背負う様な形をとる

 

 

目指すは出口、辺りに構ってはいられない

 

 

そんな時だった…

 

 

彼女の耳に再び、あの凄まじい爆発音が入り込んでくる

 

 

急いでその場からプレシアを担いだまま、スピードを上げ始めるフェイト

 

 

…だが、少しだけそのタイミングが遅かった…

 

 

プレシアを背負う彼女の頭上には巨大な瓦礫が音を立てて落下しはじめている

 

 

迫り来る巨大な瓦礫に眼を思わず見開くフェイト

 

 

彼女は反射的に自身の両眼を閉じて、直後、自分の死を覚悟する

 

 

…せっかく、頑張って母を助ける事が出来たのにここまでか…

 

 

イタチとの死闘の末に掴んだ勝利、だがもう先はなくなった

 

 

そう、彼女が自己完結に終わりを悟ったその時だった

 

 

 

ーーー凄まじい勢いで頭上に現れた瓦礫を何かが粉砕した

 

 

彼女はその光景を目の当たりにして呆気にとられる

 

 

…何か怪しいオーラに包まれた瓦礫を破壊したそれ

 

 

「…腕…?」

 

 

それはまさしく、巨大な剛腕、

 

 

赤い衣の様なオーラに包まれたそれは大きな拳を作り彼女を護る様に頭上に出現していた

 

 

彼女は眼の前で起こった信じられない光景に自身の眼を疑う

 

 

しかし、のんびりしている暇は無い

 

 

呆気にとられていた彼女はすぐさま崩れ出した時の庭園を脱出すべく、巨大な剛腕に破壊された瓦礫をよけながら再び、移動の速度を早めはじめる

 

 

彼女は自分の持てる精一杯の速さを保ち、ひたすら出口を目指した

 

 

…ここを乗り切れば、助かる

 

 

彼女は血塗れになっているバルディッシュに力を込め、ゴールに向かいラストスパートを掛ける

 

 

そうして、建物の出口が見えたその時、

 

 

凄まじい速さで飛行していた彼女の横目にある者が飛び込んできた

 

 

 

…赤い雲、三つ巴に輝く眼

 

 

 

速度を限界まで上げていた彼女と、出口の側にいたその人物はギリギリの所ですれ違う

 

 

…その時間が彼女にはとても遅く感じられた

 

 

彼女の視界に入ってきたその人物、

 

 

 

フェイトがすれ違った彼は…口元を血で飾りながらも、確かにその時、満足そうに笑っていた

 

 

眼からは血の涙…、身体からは痛々しく血が流れ落ちている

 

 

 

それでも、フェイトの前に現れた彼は確かに笑っていたのだ

 

 

それは、最後に彼女が見た幻影だったのかもしれない

 

 

脆くも崩れ落ちる…時の庭園

 

 

その出口を飛び出る様に脱出した彼女はハッと後ろにへと振り返る

 

 

音を立てで瓦礫が崩れゆく中、彼女が最後に見た光景は…

 

 

 

 

虚空の中に崩れゆく地面の上で、

 

 

ーーーーーーー瓦礫と共に微笑み落ちてゆく…その者の嬉しそうに微笑む優しい笑顔だった

 

 

 


 
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