No.450813

万華鏡と魔法少女、第十七話、幻想と忍

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2012-07-11 00:19:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5454   閲覧ユーザー数:5084

 

 

時の庭園の内部

 

 

そこは、一人の忍と金髪の魔法少女により戦場にへと変わり果てていた

 

 

幾つもの光が交差し、放たれる凶器が宙を舞い地面にへと突き刺さる

 

そして、声高に魔法を叫び放つ少女は憎しみを込めた一撃一撃を放つ

 

 

「…サンダースマッシャァァァァァ!!」

 

 

雷撃に近い破壊力を思わせるその攻撃、

 

 

イタチはすかさず身を返し、それをギリギリの所でかわす

 

 

だが、彼女の追撃は終わらない…間髪入れずに身を返し攻撃をかわしたイタチにへと間合いを詰める

 

 

再び、バルディッシュを突き出し零距離に近い状態で彼女は攻撃を繰り出そうとする

 

 

「プラズマスマッシャー!!」

 

 

「…ふっ!」

 

 

だが、フェイトのそれは無駄に終ってしまった

 

 

何故なら、魔法を放ったと同時に目の前にいた筈のイタチの姿が烏になり霧散してしまったからだ

 

 

彼女はすぐさま、イタチを捉える為に必死に辺りを見渡し探索する

 

 

…だが、その時だった

 

 

「何をそんなに必死で探している?」

 

 

「…後ろ!」

 

 

唐突に声が聞こえた方にへと振り返り、デバイスを構えるフェイト

 

 

しかし、その時は既に遅かった、彼女の視界に入ってきたイタチは既に手を組み印を結び終えている

 

 

「…火遁、豪火球の術!」

 

 

「!!」

 

 

印を結び終えてたイタチが繰り出す火遁の術に表情が驚愕に変わるフェイト

 

 

それはそうだ、口から火を吹き出して攻撃を仕掛けてくる人間など初めて見たのだから

 

 

忍術など知らないフェイトからして見れば当然の反応と言ってもよかった

 

 

彼女は咄嗟に持ち前の瞬発力で火遁の術を見極めイタチの懐にへと飛び込む

 

 

フェイトは速い機動性のある動きと洞察力がいままでのジュエルシードを回収していた為かピカイチの物により磨き上げられていた

 

 

この動きはイタチの写輪眼である程度見切れるのだが、全てとは、やはりいかない

 

 

休息ない連戦や万華鏡写輪眼を使ったせいかここの所、チャクラの消費が多く、食事もとっていなかった為かあまり体調も良くない

 

 

いつもよりも集中力が半減していると言う訳だ

 

 

一番大きいのはやはり連戦と最近頻繁に万華鏡写輪眼の使用した事だろう

 

 

あれは予想よりもチャクラを多く使う

 

 

だが、イタチにとっては取るに足らない事、これ以上に過酷な環境の中に身を置いた事など幾らでもある

 

 

イタチはすぐさま、バルディッシュを構えて間合いを詰めて来たフェイトの頭部に下から突き上げる様なケリを写輪眼によりタイミングを測って放つ

 

 

「…ぐぅ!」

 

 

しかし、フェイトは戦闘の勘からか構えていたバルディッシュを下にさげて防御する形でイタチの放った蹴りを防ぐ

 

 

一進一退の攻防、

 

 

蹴りの衝撃で弾け飛ばされそうなバルディッシュを必死になって堪えるフェイト

 

 

彼女はそんな中、疑問に抱いていた事を口にする

 

 

「…貴方は一体何者だ!なんで炎や奇妙な技が出来るの!」

 

 

「…それは俺が忍だからだ」

 

 

イタチはそう返すと一旦、蹴りを防いだフェイトとの間合いを後退し大きく開く

 

 

フェイトは未だに答えたイタチの言葉の意味が分からない

 

 

そんな彼女にイタチは分かりやすく簡潔に説明する

 

 

「…君たちが魔法少女が魔法を使える様に忍者の俺は忍術が扱える…それだけの話だ」

 

 

「…忍…者?」

 

 

フェイトはイタチが出すその名前に違和感を感じながらもその言葉を口に出し復唱する

 

 

忍者…確か戦国時代や安土桃山時代に活躍した諜報を行った人達

 

 

だが、そうなってくるとイタチが自分やアルフの事をいままで騙して来た事も頷ける

 

 

忍者とはスパイと同義と考えていい、

 

情報を得る為なら人を騙し、目的の為ならば持ち前の能力で相手を抹殺し情報を隠蔽したり奪い取る

 

 

イタチにはそういった事をいままでやってきたキャリアという物がその落ち着いた冷徹な表情からフェイトには感じられた

 

 

だからか、気付けば次には納得した様に自己完結した答えをイタチにへと口走っていた

 

 

「成る程、外道な貴方は忍者でいままで私達の事を騙していたスパイと言う事ですか…」

 

 

「………そうだな」

 

 

彼女の言葉に否定を見せずに静かにそれを肯定するイタチ

 

その言葉に彼女の中にある怒り、憎しみが膨れ上がる様に増大する

 

 

優しく笑いかけたあの顔も嘘、忍だから殺す事もなんでもなく行える

 

そんな人間が眼の前で掛け替えのないパートナーを奪った

 

 

挙句にはあれだけ酷い拷問に等しい扱いを行った母親まで殺そうと…

 

 

許せない、殺してやる

 

 

こんな残虐で残忍な人間が生きている事が許せない、自分の様な人間を出さない為にここで息の根を止める

 

 

そんな一方的な正義感と憎しみが混ざり合った思いを内に秘めフェイトはバルディッシュを握り締める

 

 

「…貴方は私が止める!この場で!」

 

 

「…随分な自信だな、その言葉…ひとまず受け取っておくとしよう」

 

 

彼女とイタチはこうして再びぶつかり合い火花を散らす

 

 

憎しみが支配する玉座の間

 

 

そこには、魔法少女と赤い雲の忍による未だかつてない戦いが繰り広げられていた

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

広くどこまでも続いている様な綺麗な花々が彩る花畑

 

 

そんな場所に彼女は一人倒れていた

 

 

風が吹くと共に揺らめく綺麗な花々

 

 

吹いてきたそれに咲いていた花々は流れる様な花弁を散らせる

 

 

その一枚がゆっくりと彼女の鼻にへと張り付く様に優しく落ちる

 

 

「…ん、んー…」

 

 

鼻に張り付いた花弁のせいか、眠りから覚めて重い瞼をゆっくりと開ける彼女

 

 

そして、瞼を開いた彼女は身の回りの異変に気付く

 

 

(…花…弁…?)

 

 

鼻の先に張り付いた花弁を見て首を傾げる彼女

 

 

そして、それにより彼女の頭は一気に覚醒する

 

 

「…え!ここどこ!」

 

 

頭を覚醒させ、飛び起きて辺りを見渡した彼女の第一声がそれだった

 

いままで自分はうちはイタチを止める為にデバイスを片手に時の庭園という場所にへと乗り込んだ筈だった

 

 

…だが、現実に眼を開けて見れば全く違う場所に立っている

 

 

これを驚かずにいられる訳がない

 

 

彼女はその場に立ち上がると辺りを確認するようにしきりに首を振り辺りを見渡す

 

 

しかし、そんな彼女の耳に聞き覚えのある優しい透き通った声が聞こえてくる

 

 

「…気がついたか」

 

 

ハッとした様子で声の聞こえた方に勢い良く振りかえるなのは

 

 

そして、彼女の視線の先そこに立っていたのは…

 

 

「…イタチ…さん?」

 

 

自分が救いたいと望んだ人物の姿だった

 

 

敵対したと告げられ絶望した自分がもう一度会って話がしたいと思っていた人

 

 

彼は自分の姿を見た途端に唖然とした様な表情を見せるなのはに口を開き話をし始める

 

 

「…安心しろ、君は今俺の幻術の中にいるだけだ…」

 

 

「…幻…術…?」

 

 

彼女はイタチが話す言葉に疑問を抱き、デバイスを強く握り締めながら思わず呟く様に彼に聞き返す

 

 

そんな身構える彼女の反応にイタチは何処か警戒心が強く見えた

 

 

だからか、彼は彼女のそれを解く様に優しい口調でこう付け足す

 

 

「そう、幻術だ…今の俺は君と争うつもりは無い…少しだけ話をしたいだけだ」

 

 

「話…ですか」

 

 

イタチのその提案になのはは握り締めたデバイスからゆっくりと力を抜く

 

 

なのは自身も何故イタチが裏切ったと言われたか疑問に抱いていた為にその提案は思ったより最良と言っても過言では無い事だった

 

 

すぐさま、彼女はイタチに対して抱いていた疑問をぶつける

 

 

「…なんで、フェイトちゃんや私達と敵対したんですか」

 

 

「……そうする必要があった…」

 

 

彼女の質問にイタチは何も躊躇いもなく即答で答える

 

 

しかし、なのははそれだけでは納得出来る訳も無い

 

 

何故、フェイトや自分ががあれ程衝撃を受けたのにそんな簡単な返答で済ませる事が許せなかった

 

 

彼女は強気な口調で問い詰める様にイタチに声を上げる

 

 

「…納得出来ません!ちゃんと説明してください」

 

 

「悪いが…それは出来ない」

 

 

イタチははっきりと問い詰めてきたなのはに断る形でそう返した

 

 

なのははその返答の意味がわからなかった上に怒りを感じた

 

 

自分達を裏切るその意味も意図も話さなければ分かり合う事が出来ない当たり前の事だ

 

 

彼女はそうして、何故自分が訪ねた事に答えないのかイタチに向かい怒鳴ろうとした

 

 

その時だったーーーー

 

 

彼女は怒鳴ろうとして開こうとした口の動きがピタリと止まってしまった

 

 

それは、口を動かそうとした彼女の視線の先…

 

 

そこには、なんとも儚げで哀しそうな眼をしたうちはイタチの姿があった

 

 

その姿が不満に怒鳴ろうとしたなのはを制してしまった

 

 

そんな彼女に綺麗な花々が舞う中、イタチはゆっくりと語り始める

 

 

「…君達が俺と話し合って分かり合いたいと言うのは知っていた

 

だが、現実はそうはいかない、話し合いで全て解決するならそもそもこの世に戦争など起きる訳が無い」

 

 

「!?」

 

 

なのははこの時、時の庭園にやってきたフェイトや自分の思惑をイタチに言い当てられ驚愕の表情を浮かべる

 

確かに自分やフェイトは誰も傷つかない様に話し合いで解決したいと思っていた

 

 

眼の前に立つイタチが指摘した通りである

 

 

一人、花畑の中で淡々と語るイタチは三つ巴の眼を展開させ、口を閉じ黙ったなのはに更に話を続ける

 

 

「…最悪、君は自分の持つその力で俺を屈服させ、無理やり自分の話(正義)を押し付けるつもりじゃなかったのか?」

 

 

「…ち、違う!私はただ!」

 

 

三つ巴の視線を向ける鋭いイタチの指摘、なのはは慌てたようにそれを否定する

 

 

だが、イタチは動揺を見せる彼女に容赦なく言葉を投げ掛ける

 

 

「…違う?なら手に持ったそれは何の為にある? 飾りか違うだろ、相手を制する為の抑止力では無いのか?」

 

 

「……………」

 

 

イタチの語るそれに否定の言葉が見つからず静かに押し黙るなのは

 

 

彼が指摘するそれは言われて見ればそういった風に捉えられてもおかしくは無い

 

 

正義感が強い彼女にとってイタチの言葉は何処か重苦しく感じられた

 

 

…しかし、それでも彼女は諦めたく無かった

 

 

確かに押し付けるそれは話し合うとは言わないが分かり合いたいというのは本当の事だ

 

 

いつものように優しいイタチさんに戻って欲しい…ただそれだけ

 

 

押し黙っていた彼女は決意した様に真っ直ぐな眼差しをイタチにへと向ける

 

 

「…それでも!」

 

 

決意が込められた彼女の強く輝かしいその眼差し

 

 

イタチはこの時、ある少年の姿がなのはにへと重なった

 

 

それは、真っ直ぐに木の葉の火の意志を受け継いだ少年

 

 

『…自分の言葉は曲げねぇ、それが!俺の忍道だ!』

 

 

うずまきナルト…

 

 

自分の意志を確かに受け取ってくれた少年

 

 

生き方をかえずに真っ直ぐな彼の姿は自分の弟を闇の中から助け出してくれると信じ、後を託す事が出来た

 

 

彼女にもまた、そんな真っ直ぐな意志をその決意が込もった眼差しからイタチは肌で感じとることが出来た

 

 

なのはははっきりとした言葉でイタチにこう告げる

 

 

「…私は諦めません!

 

例え、この場で魔法が使えなくなったとしても貴方と話し合いで分かり合いたいんです!それが私の意志なんです!」

 

 

頑固な意志を持った彼女の言葉

 

 

確かに、温い…戦争を目の当たりにした事が無い彼女の言葉には何処か説得力が足りない

 

 

しかし、彼女のあの眼頑固なまでに固い意志を持つ正義感溢れる彼女の眼差し

 

 

それは、幼いながらも彼女の持つその眼差しにイタチは気付けば口元が綻び自然と微かに笑みを溢してしまっていた

 

笑みを溢したイタチはゆっくりとなのはにへと近づいてゆく

 

 

そうして、笑みを溢しているイタチは最後に彼女にこう訪ねた

 

 

「…君はその意志を通し切れると思うか?」

 

 

「…できます!」

 

 

即答だった、迷いもなく例え自分が傷ついたとしてもそれを決して諦めないという覚悟

 

 

イタチは彼女のそんな姿勢に何かを悟った様にゆっくりと三つ巴の瞳を閉じた

 

 

なのはに側に寄った彼はその手を優しく彼女の頭の上にポンと置いた

 

 

その時のイタチの表情は穏やかでいつもと同じあの優しい笑顔だ

 

 

なのははイタチの浮かべるその表情に思わず眼を見開く

 

 

その笑顔は一体何なのか…

 

なのははそのイタチの行動に疑問しか浮かばない

 

 

そんな彼女にイタチは優しく微笑んだまま話をし始める

 

 

この時、彼の話が別れの言葉になるとは彼女は思ってもみなかっただろう

 

 

「…なのは…君は頑張り屋で頑固だ…それが原因でなにか大切な物を見失うかもしれない…」

 

 

それは、いままで彼女を見てきたイタチが感じた事であった

 

 

頑張り屋で頑固、なにかを背負い込み周りから見ても良い子でいようとする彼女の傾向…

 

 

それはいずれ、何かしらの壁となって彼女の前に立ちふさがる事になるだろう

 

 

それは、決意が強いなのはを改めて見て、イタチが感じた事だった

 

 

イタチは優しくなのはの頭を撫でながら言葉を紡ぐ

 

 

「…俺に今、話した決意…絶対に忘れてはいけない、どんな時でも自分が正しいと思い込んではいけない…その事を心の内において置け…」

 

 

「…イ…タチ…さん?」

 

 

なのはは優しく微笑んでいるイタチの顔が霞んで見えていた

 

 

それは何故か…

 

 

彼女の瞳から流れて滴り落ちる雫がそれの原因だった

 

 

いつもと同じあの優しいイタチの表情を見て安心したのか、

 

 

気がついた時には既に涙がなのはの頬を伝って流れ落ちていたのだ

 

 

「…イタ…チさん…私…」

 

 

沢山、話したい事があった

 

 

学校での事、お母さんやお父さんの事、恭也兄さんの事、

 

そして、友達のアリサちゃんやすずかちゃんの事

 

 

なのははいつも自分の話を楽しそうに聞いてくれるイタチに伝えたい事が山ほどあった

 

 

イタチは彼女の頬から流れ落ちる涙を指でそっと拭ってやる

 

 

そして、彼は涙を流していたなのはに最後にこう言い残した

 

 

「…フェイトをよろしく頼む…」

 

 

イタチはにっこりと優しい笑顔を見せて、柔らかな口調でなのはにそう告げた

 

 

次の瞬間、彼の姿が漆黒の烏の群れにへと変わってゆく

 

 

その光景に思わず眼を瞑るなのは…

 

 

花畑の花々が同時に綺麗な渦を巻いて、宙にへと舞い上がる

 

 

それは鮮やかでなんとも綺麗な光景だった…

 

 

 

 

忍が託した、その言葉と一人の魔法少女の決意と覚悟

 

 

 

こうして話は終焉にへと向かってゆく

 

 

その結末は…だれにも分からない


 
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