No.450400

【ST2】新刊「星屑ミルキーウェイ」本文サンプル【緑高】

アキさん

7/15のオンリーイベント、ShadowTrickster2(スペースno.K34)にて頒布予定の新刊「星屑ミルキーウェイ」(A5/52P/300円)緑高本の本文サンプルです。ちょっぴり切なめなほのぼのラブストーリー……のはず。七夕祭りへと出掛けた緑間&高尾の秀徳コンビが途中ではぐれたらしい黒子を発見して……というお話。表紙は相方である凌氏より寄稿頂きました。当日は既刊残部も持っていく予定です。

2012-07-10 15:10:49 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1102   閲覧ユーザー数:1094

「お。飾りはここまでで、こっからは夜店中心かー」

「そのようだな」

 暫く続いた飾りがメインのエリアを抜けると、今度は夜店がぎっちり所狭しと並んでいた。

 それまでも飲食系の店は点在していたが、ここからはしっかりと列になっている。

 道の両端、本来商店街になっているところでは近隣の飲食店がだしているような出店が点々とし、道の中央には祭りならではのテキ屋が綺麗に二列で並び、白熱灯が夜空に明るく灯り、良い匂いがあちらこちらから漂ってくる。

 射的や金魚すくいなど夏祭りの代名詞といえる屋台もちらほら見えるが、時刻も丁度夕食時を少し過ぎた辺りで、やはり食べ物系の屋台に人気が集中しているようだ。

 ソースの焼け焦げた食欲をそそる匂いに、胃がきゅるると鳴って空腹を訴えた。

 考えてみれば部活が終わってから何も食べていないのだから、腹が減って当然だ。

 テキ屋の相場を考えて買わねばあっという間に財布が寂しいことになるが、先ずは育ち盛りの鳴いている胃を満たす必要がありそうだった。

「真ちゃん、何食いたい?」

「お前の好きにすれば良いのだよ。二人して好きな物を買っていたら確実に購入し過ぎるだろうからな」

「オッケー。んじゃチョイスは任せて貰いますか」 

 頷いた高尾は緑間と共に一通り店を見回ってから、値段と盛り具合、サービス内容を把握してから買う店を選んだ。

 くだらないと言うなかれ。価格差は五十円から百円単位とはいえ塵も積もればなかなか大きいし、山盛りにしてくれるかどうかや美味しそうかは勿論のこと、中身にプラスアルファがあるならあった方が良いに決まっているのだ。

 お好み焼きは中身が山盛りで餅とチーズ入り、たこ焼きは大ダコのうえにうずらの卵入り。焼きそばは具がたっぷりでパックからはみ出るくらいの大盛りと、屋台の食べ物三大代表選手をゲットした。加えてバター盛放題のじゃがバターは、甘い衣をつけて揚げたタイプだ。

 厳選した結果、最上の戦果を得られた高尾は満足げな笑みを浮かべた。

 まだまだ買い足したい物はあったが、流石にこれ以上は持ちきれないのでとりあえず一旦打ち止めし、落ち着いて食べられる場所を探す。

 ふと目についた通路の箸に並べられているベンチには先客が居たが、気配から空きそうなのを察した高尾は「真ちゃん、あそこな」と目配せしてから早足でベンチへ駆け寄り、予想通りに空いた瞬間へ席を確保する。

 並んで腰を下ろし、膝の上に戦利品を並べた。ふわあっと湯気が立ち上り、美味しそうな匂いが鼻腔を抜けていく。

「はー、やっと座れた。さー食おうぜ」

「それにしても、よくこのベンチが空くと判ったな」

「観察力のたまものって奴?」

「相変わらず抜け目がないのだよ」

「なあ真ちゃん、それって褒めてくれてる?」

「そのつもりだが」

 相変わらず言い方で損をしている、と高尾は内心苦笑した。

 言葉が足りないのは大前提なのだが、どこか上から目線に感じさせる物言いがいかにも緑間らしい。

 自分はとっくに慣れきってしまったが、こういうのは、特に年上からしたら大いに気に入らないだろう。本人に煽っているつもりが全くないというのがまた問題だ。

 部での態度もこんな調子だから先輩と衝突するのだ――クッション役の仕事が増えて良い、と思ってしまう自分の独占欲にも呆れてしまうが。

「ま、それも真ちゃんらしーよな」

「お前の言葉は時折意味が判らないのだよ」

 軽く首を傾げながらたこ焼きを口にしている緑間に顔を向け「世の中判らないことが沢山ある方が面白いって」と笑いかけた高尾は、湯気を燻らせる熱々のじゃがバターを割り箸で器用に崩し、バターの染みた美味しい部分をはくっと口に放り込む。

 塩がふりかかったことで甘味を引き立てている表面は、揚げたてというのも手伝ってカリっと香ばしく、中身はほっくりとしていてバターが染み、それが口内で絶妙なバランスで混ざるのだからたまらない。

「……」

「ん? なに真ちゃん」

「本当に美味そうに食べるな、お前は」

「真ちゃんも食う? ほい」

 箸で摘んだ欠片を緑間の口元へと運んだ高尾に、豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした緑間がたじろぐ。

 じゃがバターを買うとき一緒に並んでいた緑間の顔は、別に嫌そうではなかったと思うのだが――まさか高尾が気付かなかっただけで、実はじゃがバターを嫌いだったのだろうか。

「食わねえの? もしかして、じゃがバタ嫌いとか? あ、猫舌……じゃねえよな、確か」

「……そうは言っていないのだよ」

 微妙な顔をしながら箸に口を近づけてじゃがバターを食べた緑間が、どこか不服そうに咀嚼する。

「美味いな」

「そーいうのはもう少し美味そうな顔して言うモンだぜ」

 もう一口いくかと高尾はジャガイモの欠片を摘むが「食べたければ自分で取る」と当の緑間に首をゆっくり横に振られてしまった。

 憮然とした表情の緑間が手にしているたこ焼きをひょいっと口に放り、高尾は「これも美味いなー」とうんうんと頷いた。

「しっかしあれだ。美味いんだけど、味の濃いモンばっか食ってるとちょい喉渇くな。ペットボトルかなんか買ってくりゃよかったか」

「そうだな」 

「お兄ちゃん達、喉渇いたんならビールどうだい! さっき注いだばっかでまだキンキンに冷たいし、なんだったら枝豆とセットで安くしとくよ!」

 後ろから聞こえた威勢の良いかけ声に思わず振り返ると、何処かの店から出張してきているのか、なみなみ注がれたビールと紙コップに詰まった枝豆が並んだ箱を首から提げていた。

 確かに今飲み物はありがたい。

 だがまさかアルコールを勧められるとは思わなかった二人は、売り子の男性を前にして目を見合わせる。

「どーする真ちゃん。セットで割安だってさ」

「良いわけがないのだよ」

「えー、でも俺ちょっと飲んでみたい気分」

「馬鹿め。――すみません、まだ未成年なもので。遠慮します」

 目を丸くして驚いている売り子の男性に軽く頭を下げる緑間に倣い、高尾も「そーいうわけなんで」と愛想良く返した。

 どこか狐につままれたような顔をした売り子の男性が去って行くのを見て、高尾が「ちょい勿体なかったかもな」と茶目っ気たっぷりに笑うと、じろりと窘めるような視線が返ってきた。

「俺達大学生に見えたのかもなー」

「高尾。お前は酒を飲んだことがあるのか?」

「んーまあちょっとだけなら。一応、親がいるとこで味見程度にだけどな」

 それなら許容の範囲内だろう、と緑間はお好み焼きを器用に割り箸で切り分けながら口へと運ぶ。

「監督役に保護者が居る席で少量嗜む程度ならばまだ良いが、流石に今日は不味いだろう。自宅ならまだしも、外出先で万が一何かあった場合、俺達だけの責任では済まされなくなるのだよ」

「そういう真ちゃんは飲んだことあるわけ?」

「元旦に、おとそを舐める程度ならな」

「高一で飲酒経験がマジで正月だけって、どこまでも真ちゃんらしーわ」

「それが当然なのだよ。ある方が問題だ」

 まーな、と高尾は肩をすくめる。少なくともこの件に関して緑間の言は全て正しく、反論する気もなかった。名門運動部員の不祥事などと三面記事を飾ってしまったら洒落にならないのは高尾もよく判っている。

「ただほら、酒飲んだら疲れとか吹っ飛ぶっていうじゃん」

「疲れていたのか? そうは見えなかったが」

「ちょっとだけな。つってもたいしたことないんだけど、この草履今日おろしたばっかだから、足が本当にちょぴっとばかし」

「見せるのだよ」

「は?」

 空になった容器を膝上から退かせた緑間がおもむろに立ち上がり、その場に片膝を着いてしゃがみ込む。

 一体何をするつもりだと緑間の頭を眺めながら思ったその時、不意に足を掴まれた感覚に、高尾は反射的に「ひゃっ」と叫んでしまう。

 幸いそこまで大きな声にはならなかったので目立たずに済んだが、こちらを見上げる緑間の眉間に皺が寄っていた。

「突然変な声を出すな、高尾」

「なこと言われたって、いきなりしゃがんで何するかと思ったら足掴むとか、普通ビックリするっつーの」

「見せろと先に言っただろう」

「や、そーだけどね確かに聞かれたけど、お願い真ちゃんもうちょっと言葉足して!」

「……足が疲れているのは草履の所為かもしれないから、見せてみるのだよ」

「最初っからそう言ってくれりゃ判んのに」

「通じていると思ったのだよ」

 やれやれとため息を吐く緑間に、いやそれ俺こそため息吐きたいんだけどと、高尾としては心から突っ込みを入れたい。

 だが自分の足を心配しているという善意からの行動に文句を言うのは躊躇いがあるし、心配してくれるのは嬉しいし、何より好きな相手に足を触れられているというこの状況が何ともこそばゆいのだ。

「きちんと履けていないな。これでは足が疲れて当然なのだよ」

「マジで? 普通に履いたつもりなんだけどなー」

「履き慣れていないのだから、仕方ない――いいな、高尾。脱がせるぞ」

「へっ?」

「このままでは余計な疲れを溜めるだけだろう」

 目をぱちくりさせている高尾が返事を伝える前に、緑間の手が足にかかり――『草履』を脱がされた。

(あ、そう。うん、そうだね草履のことですよねー!)

 だから頼むから言葉を足してくれ、と心の中で高尾は絶叫する。

 シチュエーション的にあり得ないと判っていても、そのキーワードが高尾にとってどれだけ破壊力を持っているか、もう少しで良いから自覚して貰わないと心臓が保たない。

 勘違いした気恥ずかしさも手伝って、高尾は緑間の頭頂部を恨めしげに睨んだ。まったく、わざとやってるんじゃなかろうかと疑いたくなる。

「このメーカーならば足はそんなに疲れないはずなのだよ。正しく履いてさえいればな」

「そいや、出掛けに親がそんなこと言ってたっけな」

「まったく」

 呆れた声が聞こえたと同時に、足裏へ程よい痛みに似た刺激が加えられ、高尾は思わず腰を浮かせた。

「ちょ、ちょ真ちゃん?」

「良いから少し大人しくしているのだよ」 

 シューティングの肝と言って良い緑間の大事な指が、自分の足裏を丁寧に解してくれている。

 繊細な指先が生み出す力加減が心地良く、足だけでなく全身の疲労が癒えていくようだった。

 両足裏のマッサージを施してくれた緑間の手によって草履も正しく履かされ、「これでだいぶマシになったろう」と仕事を終えた緑間に立ってみるよう促される。

「うわ本当だ。全然違え」

 どうやら足の厚みによって紐の部分を調整可能な機構にもかかわらず、それを怠っていたため逆に足を疲れさせていたらしい。

 先程までと段違いの履き易さに感動すら覚える。

「サンキュ真ちゃん、マジ助かったわ。酒飲むより、真ちゃんの手のが効果は抜群だったな」

「それならば良かったのだよ」

 ふっと瞳に優しさを滲ませた視線で見つめられ、高尾の心臓がどきんと跳ねる。

 無自覚なのだろうが、不意打ちにそんな瞳をするなんて反則だ。普段見せる真面目顔とのギャップがあるので、威力は抜群だった。

 空になった四つの容器を一つにまとめながら高尾は、へへっと照れ隠しに笑った。

「さってと。全部食っちまったけど、まだ物足んねーよな」

 幾分腹はふくれたが、美味しそうな匂いにまだまだ惹かれる程度には食欲は満たされていない。

「真ちゃんは? まだ何か食えそう?」

「……黒子」

「は?」

 唐突に緑間の口からこぼれた名前に、聞き違いではなかろうかと首をひねりつつも緑間の視線を追うように屋台の一つへと泳がせれば、そこには確かに誠凛の黒子が居た。

 誰か連れが居る様子もない。近所というわけでもあるまいし、まさか一人で祭りに来ということもないだろうが。

「まったく、またか」

「またって?」

「恐らく誰かと来てはぐれたのだよ。中学時代、俺達と出かけたときも日常茶飯事だった。まあ、大抵は鼻の利く番犬二匹が見つけ出すがな」

「あー……想像つくわ、それ」

 異様に影が薄い体質を利用して行われる試合中のミスディレクションは強力な武器だが、日常生活、とくに集団行動においてはハッキリ言って傍迷惑としか言いようがないのだと、高尾は改めて思った。

 自分は気付けるから良いものの、誠凛の人達は大変だろうなーと、そこまで考えて、はた、と高尾の心に疑問が浮かぶ。

 視野の広い自分ならともかく、ホークアイを持たない緑間が、何故黒子の存在に気がついたのか。

 しかも、これだけの人混みの中で黒子を見つけるのは高尾とて至難の技だろう。鷲の目を持つ誠凛のポイントガード、伊月でもおそらく結果は同じはず。

 なのに、何故――。

「どうした、高尾」

「え? ああ、いや何でもない。つーかあれ、放っとかない方が良いんじゃねえの」

「……確かにな。連れの人間が誰かは知らないが、携帯で連絡を取り合っていたとしても、この混雑の中待ち合わせ場所で黒子を簡単に見つけるのは厳しいだろう。黒子が向こうを見つけられれば良いが、そうでなければ合流は難しいかもしれないな」

「んじゃ、声かけてやって、俺らでマーカー代わりになってやればいいんじゃねえの?」

「良いのか?」

 目を伏せ気味に問いかけてくる緑間の真意は掴めないが、自分の希望的観測で良いなら、二人の時間に誰かを入れることを気にしているのだろうか。

 そうならいい、それなら黒子の存在を心から歓迎できる。

 だがわざわざ緑間がそうやって伝えてくるということ自体に引っかかりを覚えてしまう自分もいた。

 直接話を聞いたわけではないが、帝光時代、緑間が好きだった相手は黒子なのだろうと、高尾は勝手に推測している。そしてその推測はかなりの確率で間違っていないだろうとも。

 今だってそうだ。自分も含め、秀徳の人間が居る前では決して見せない態度。顔をしかめていてどこまでも呆れたような口調は同じだが、その裏には限りなく不器用な優しさが同居しているのが判る。

 そんな相手を初デートで構ってやるのは、正直に言えばあまり嬉しくはない。

(っつっても、この状況見捨てたいわけじゃないんだよねー俺だって)

 嫌っている相手ならばともかく、知人が目の前で何か困っているかもしれないのに、知らんぷり出来るほど高尾は冷血漢ではない。

 むしろ何かと世話を焼く、お節介と呼ばれることの方が多い性分なのだ。

 遠目に見える黒子が途方に暮れている様には見えないが、かといってこの場から黙って立ち去るという選択肢は、前述の複雑な感情があるにせよ、心の底から選び辛かった。

「真ちゃんだって気になるっしょ。それに、迷子の黒子を放っとくとか危なっかしくて、俺にも無理だし」

「すまないのだよ、高尾」

「真ちゃんが謝るこっちゃないだろ」

 気にすんなって、と高尾は笑みを浮かべ、空の容器類を手早く一つにまとめて立ち上がり「ほら、見失わないうちに行こーぜ」と緑間の背中を思い切り叩く。

 意図的に持ち上げた口角がやけに重く感じた。


 
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