そして、一週間が過ぎた。俺と一夏は今、ＩＳ装着時に身に着けるスーツのようなものを着て、第三アリーナのピットにいる。

「にしても、結構大変だったな」

一夏が呟くと、一緒に来た箒がきつく言った。

「お前の体力の衰えにはさすがに呆れたぞ！」

俺が聞いた話では一夏は箒に剣道でしごかれ、基礎知識を頭に叩き込んで、という工程をあれから一週間やり続けたらしい。クラスの女子でも、一夏に知識を教えた人が数人いた。

「もう、ＩＳには慣れたか？」

俺が話しかけると、一夏はグッと親指を立てた。

「バッチリだ！そう簡単にはやられねえよ」

「しかし・・・さすがに打鉄では専用機には勝てないのではないか？」

箒の疑問ももっともだ。セシリアはイギリスの代表候補生。専用機を持っているに違いない。

「俺はこのＧ－ｓｏｕｌでいけるけど、一夏がな・・・・・」

ステータスをディスプレイで確認し、ふと見ると一夏に何か言おうとしているのか箒がモジモジとしていた。

「どうした箒？」

俺が声をかけると、箒は大きな声で言った。

「ちっ、違うぞ！これは断じて、その・・・・あの・・・」

箒の顔が真っ赤になっている。本当に火が出そうだ。

「あ、織斑くん織斑くん織斑くんっ！」

すると山田先生が息を切らしてピットに入ってきた。何故三回言った？

「ど、どうしたんですか？」

「届きましたよ！織斑君専用ＩＳが！」

「えっ？」

おお、遂に一夏に専用機が。まあでも、政府が見逃してるわけもないしな。この前のニュースで俺の事はもうＩＳ学園が保護済みだって報道してたしな。

「「「早く！」」」

一夏が自身のＩＳを受け取るために移動したので俺もそれについていく。

「・・・・・これが、俺の・・・・・」

「はい！織斑くん専用ＩＳ〈白式〉です！」

そこには純白のＩＳがあった。真っ白。穢れのない美しい白の光を放つＩＳだった。

「・・・目移りしちまうじゃねえかよ」

俺は不覚にもそんなことをつぶやいた。

「ぶっつけ本番で行く。後はシステムが最適化するから心配ない」

一夏は織斑先生のアドバイスに従い白式を装着する。

「さて、俺も行きますか」

俺は左腕のブレスレッドに意識を集中させる。

（行くぜ。Ｇ－ｓｏｕｌ！）

するとブレスレッドは温かい光を放ち、俺の体を包んだ。光が消えると、装着は完了した。右手にはビームガン、腰の装甲にはビームソードが一本ずつ、そしてヘッドギアにはバルカンが内蔵された、Ｇ－ｓｏｕｌノーマルモード。このＩＳの基本形態だ。

「準備はいいか一夏？」

俺の隣に無事ＩＳを装着した一夏が立つ。

「ああ」

「一夏！」

箒が一夏に声をかけた。

「そ、・・・その、あ、が、が、が・・・・・」

「が？」

「頑張れ！」

「ああ！まかせとけ！」

ゴゴゴ・・・・・と重い扉が開かれ、アリーナへと歩み出る。凄まじい観衆を背に、自信満々に立っているセシリアの姿もあった。データが表示される。

敵ＩＳ照合、確認。ＩＳネーム〈ブルー・ティアーズ〉。操縦者セシリア・オルコット。

「あら、逃げずに来ましたのね」

セシリアの顔に余裕の笑みが浮かぶ。どうやら俺たち二人を同時に相手にするつもりらしい。試合開始の合図が迫る。

ピィィィィィッ！

「行きますわよ！」

セシリアは手持ちのライフル《スターライトｍｋⅢ》のトリガーを引いた。ギュォン！と言う音と同時に俺は後ろへ飛び退く。すると俺の立っていた位置からは煙が上がっていた。流石は専用機の武装。威力が半端じゃない。

「さあ、踊りなさい！わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲で！」

セシリアは二射目を俺に放った。

「そいつは・・・・」

俺は右腕を前に突きだした。腕の装甲が開き、ウィィィンと駆動音を放つ。

「御免こうむる！」

バチィィィィ！と突きだした俺の腕の数十センチ前でｍｋⅢのビームは消滅した。

「なっ！？」

セシリアは驚きを隠せない。

「すげえ・・・・・瑛斗、それは？」

一夏が俺の腕を指差しながら聞いてきた。

「ＢＲＦ発生装置。それが俺のＧ－ｓｏｕｌには内蔵されてる。ＢＲＦっていうのは特殊な粒子を高密度散布することで発生するビームを偏光、屈折、消滅させる力場のことだ」

「ええっと？つまり？」

一夏はいまいち分かっていないようだった。首を捻っている。

「ぶっちゃけた話、こいつが展開している間はビームは一切効かないってことだよ」

「おお！そりゃ凄いな！」

分かってくれたようだ。よかったよかった。

「いつまで余所見してらっしゃるの！？私の攻撃はまだ終わってませんわ！」

置いてけぼりを食らったセシリアのブルー・ティアーズからビットのような物が四機出てきた。不規則な動きをしたそれは俺の背後を取ると、ビームを撃ってきた。

「自動操縦（オールレンジ）攻撃！？」

俺は背中に攻撃を食らったが、操縦者保護のためのバリアのおかげで直接のダメージは無いが、シールドエネルギーが減ってしまった。シールドのエネルギーが０になった時点で敗北となる。

「あら？その妙なバリアはお使いにならないんですのね・・・あ、ふふ、そういうことでしたの」

セシリアはニィと笑った。そして俺に怒涛の攻撃を浴びせる。

「瑛斗！」

雨のようなビットからのビームが俺に襲い掛かる。

「う、うおぉぉぉぉ！！」

俺はＢＲＦでそれを防御するがアラームが鳴り、ウインドウに表示が出る。

ＢＲＦ発生装置、機動限界域に到達。排熱を開始します。

プシュウゥゥ・・・・・という排気音が出たと同時にビームの雨は止んだ。

「思ったとおりですわ。あなたのそのＢＲＦ発生装置はシールドのエネルギーとは別の動力で動いている。なら話は簡単ですわ。そのエネルギーの底を突かせればいいだけ！」

ブルー・ティアーズの容赦ない攻撃がＢＲＦを失った俺に襲い掛かる。

「チッ！」

それを躱し続けるが、捌き切れずに攻撃がヒットしてしまう。気が付けばセシリアがいない。辺りを見回すが全く姿を捉えられない。するとけたたましいアラームが鳴った。これは・・・ロックオン警報！

「どこを見ていらっしゃいますの？」

ズドォッ！と頭上からセシリアの銃撃がヒットした。ヤバい。今ので結構エネルギー持ってかれた。横に表示されているＢＲＦ発生装置の冷却所要時間を確認するが、まだ冷却完了には時間がかかるようだ。

「さあどうします？今ならまだ許して差し上げますわよ？」

浮遊したセシリアが余裕の表情を見せる。どうやら一夏は俺を倒してから相手をしようと考えてるようだ。当の一夏も攻撃のタイミングを掴めないでいる。仕方ない。もう少し後にとっておきたかったが。

「フゥー・・・・・」

俺はゆっくり息を吐き、心を落ち着かせて、認証コードを口にする。

「Ｇメモリー！セレクトモード！」

するとウインドウに様々な画像が表示される。

「セレクト！アトラス！」

コード確認しました。アトラス発動許可します。

Ｇ－ｓｏｕｌの姿が変わった。、腕と一体になったような大型実体剣を右腕に装備し、装甲も形状が変わり、人のそれに近いフォルムになり、腰にはダガーが二本ずつ、背中には四本のビームソードを装備している近接戦闘重視型になったのだ。

「な・・・、一次移行！？あなた、今まで初期設定で戦っていたんですの！？」

セシリアが驚愕の声をあげる。

「残念だが、そいつはちょっと違う。これは俺のＧ－ｓｏｕｌに内蔵されたコンピュータで『Ｇメモリー』って言ってな。何パターンもある戦闘状況から最適の状態の装備を選んで装着できる」

俺は親切に説明する。

「さあて、今度は俺の番だ！」

俺は大型実体剣、このメモリーの名前にもなっている〈アトラス〉を構えてセシリアに突進する。

「甘いですわ！自分からわたくしの射程に入ってくるなんて！」

セシリアは焦ったように言いながらビットを操作し、俺に攻撃しようとする。だが甘いのはそっちの方だぜ！

「うおぉぉぉ！」

「速いっ！？」

俺はビットのビーム攻撃を全て避け、無防備なセシリアに攻撃する。ズバッ！とスターライトｍｋⅢを両断すると俺はバーニアを吹かせて回し蹴りでセシリアを叩き落とす。

「くっ！」

セシリアが体勢を立て直すと、もう俺はセシリアの背後を取っていた。

「これで終わりにしてやるぜ！」

俺は猛攻を仕掛けてセシリアのエネルギー残量を着実に減らした。勝てる！と確信したとき、突然、回線が繋がった。山田先生からだった。

『た、たた、大変です！大変なんですよー！』

なんだよこんないい時に！と素で文句を言いそうになるがグッと堪えて落ち着いた口調で言う。

「どうしたんですか？山田先生」

「そうですわ！勝負の邪魔をしないでください！」

おいセシリア、俺は我慢したのに、なんでお前は普通に言っちゃうんだよ。

『え、と。その、あっと、あわわわわ』

『バスジャックが起きた』

あわあわと騒ぐだけの山田先生に変わって織斑先生が説明した。

「バスジャック？千冬ね・・・・・先生どういうことですか？」

『説明したとおりだ。都市部を自動走行中のバスが突然制御不能になり、中に乗客を乗せた状態で暴走を始めた。しかもその進行方向から考えるとこのまま放置すればここ、ＩＳ学園に突っ込んでくるだろう』

乗客を乗せたまま突っ込んでくるだって！？そんなの一刻も早く何とかしなくては！

「そのようなことは、警察に何とかさせればいいのではないでしょうか？」

セシリアがもっともらしいことを言うが、織斑先生はそれを一蹴した。

『ふん。この国の政府にはＩＳの事を良く思ってない要人も大勢いてな。進行方向がここと判明した途端にこの事件の処理はそちらに任せると言ってきた』

「「「な・・・・・！」」」

俺たちは絶句した。確かにＩＳの普及から男女のパワーバランスは変わった。それを面白く思っていない人もいるだろう。だがだからと言ってそんな理由でこんな大事の処理を丸投げにするなんて・・・！

「くそ！」

俺はＧ－ｓｏｕｌをノーマルモードに戻し、アリーナ上空に飛んだ。

「桐野さん！一体何をするつもりですの！？」

セシリアも俺を追って近づいてくる。

「決まってるだろ！止めに行くんだよ！」

「はぁ！？何をおっしゃってますの！？」

「その政府の連中の考えは気に食わないが、見殺しになんてできねえ！」

俺は背部スラスターと一緒に装備されているブースターを吹かせて、送られてきたマップの赤く点滅しているポイントに向かった。

「全く・・・・・本当に行ってしまいましたわ」

『どうした、オルコット。お前は行かないのか？』

「別にわたくしには関係ありませんわ」

『フッ、そうかな？』

「？」

『今送られてきたんだが、そのバスにはイギリスの政府の要人が孫を連れて乗っているそうだ。ここで助けて恩を売っておけば今後が楽になると思うが？』

「・・・・・ふぅ、そう言うことはもっと早くおっしゃってくださらないと！」

セシリアは瑛斗同様上空に舞った。

『お前もだぞ。織斑』

「え、でも俺飛び方わからないし・・・・・」

『さっさと行け！飛べると思えば飛べる！」

「は、はいぃ！」

一夏も少々ふらつきながらもセシリアの後を追うように浮上した。

「良かったんですか？織斑先生、三人とも行っちゃいましたよ？」

三人を見送った後、真耶は千冬に顔を向けて言った。しかし当の千冬は何も気にしてなどいないようだった。

「まあ、何とかなるだろ。それより気になるのは・・・・・」

「織斑君のＩＳ、ですか？」

「ああ。そろそろだと思うんだが・・・・・」

千冬は腕時計を確認した。

「お前の力、見せてみろ。一夏」

「・・・・・・」

その横で箒は何か嫌な予感を感じ、きゅっときつく腕を組んだ。