No.450344

残留思念 蛇足編

第四次聖杯戦争が終わって数年後…死んだはずの男が地の底から戻って来た。そのおぞましきせいで求める物は…。 他のサイトにあったFateの逆行再構成物の外伝であり、時臣矢アイリスフィールなどが生きていて葵も健在です。他に第五次聖杯戦争のサーヴァントもいます。

2012-07-10 10:59:11 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:5657   閲覧ユーザー数:5515

 

…間桐雁夜は逝った。

全ての罪、シガラミ、毒と共に…月に看取られるようにして逝った。

 肌寒さを感じる冷気の中、心すら残さず静寂と共に逝った。

「ヴァアアアアアージャアアアアアアアーーーーー!!」

 そんな静謐な夜を、女の金切り声が切り裂く。

 怒れる獣の雄叫びにも似ていたかもしれない。

「な、何!?」

 先ほどまでの余韻は何処へやら、全員が思わず声の主を見て……真っ青になった。

「…そう言えば、忘れていたな…」

 シロウは冷たい汗が流れるのを自覚した。

 他の面子も似たようなものだろう。

 まったく姿を現さなかったために、関わらないつもりかと勝手な解釈をしてしまっていたのは…多分致命的だ。

「彼女が今夜のラスボスか?」

 人払いの結界など何それ知らないとばかりに侵入してきた“彼女”は、公園を睥睨する位置で空中浮遊をしている。

 背中には魔力で作られた翼が開き、周囲には儀式魔術レベルの魔法陣が無数に展開されている…一つ一つが魔術師数人分の魔力を内包した代物だ。

 しかも、いつもはかぶっているフードを外しているため、鬼女のような顔がはっきり見えるので、ただでさえ魔力に圧倒されている三人娘と時臣あたりがガタガタ震え出した。

 葵も一緒になって震えているが、彼女は魔術師では無いので単純に彼女…要するにキャスターのメディアの形相を怖がっているのだろう。

「ヴァアアアアアージャアアアアアアアーーーーー!!」

「…ひょっとして、私の事を呼んでいるのか?」

 かなり苦しいが、アーチャーと聞き取れなくもない。

 崩れた言葉と般若の顔と膨大な魔力…聖杯からのバックアップはなくなったはずなのに、一体何処からあれだけの魔力を引っ張って来たのやら…それらをひっくるめて見るまでもなく、彼女の心情は容易に知れる。

「ぞういじろうざまをぎずずげだぶじげらヴぁどごがじら!?」

「え〜っと、日本語かもしくは理解できる言葉で頼む」

 多分ではあるが、「宗一郎様を傷つけたムシケラは何処かしら!?」と言っているのだろう。

 あの嫉妬深い、葛木…っと言うか夫至上主義の女が、一番大事な物を傷つけられて泣き寝入りするなど…………………今更ながらあり得ない。

「あ〜どうするんだシロウ?」

 流石にこの状況で下手な事をするとまずい事は理解しているランサーが話しかけてきた。

 キャスターの機嫌を損ねたら、背後にある魔法陣が火を噴くのは明らかだ。

 その危険性を理解していない人間はここにはいない。

 ライダーはすでにペガサスを召喚して凛達を乗せ、緊急離脱の準備をしているし、時臣と葵はすでに距離を取っている。

 ランサーだってその気になれば足の速さに物を言わせて逃げるだろうし、シロウにしたっていよいよとなれば|遥か遠き理想郷(アヴァロン)という奥の手がある…セイバーとの絆をこんな理由で展開させる事に問題を感じないでもないが、背に腹は代えられない。

「かといって、このまま放ってもおけないしな…」

 身の安全が保障されているのだから、後はキャスターが落ち着くのをのんびり待てばいい…っと言うわけにもいかなかった。

 理由は、キャスターがこの場に現れた時、その余波だけで人払いの結界が破壊されたからだ。

 つまり、今のキャスターは一般人からも丸見え、神秘の秘匿もへったくれもない状況である。

 葛木の為ならばいくらでも我を忘れる女なのだ。

 魔力によって光っている魔法陣はネオンサインのように目立っている事だろう。

 幸い今は真夜中、良い子悪い子を問わず、老若男女のほとんどが夢の中にいる時間だが、何時までも幸運に頼ってもいられない。

 臓硯がこの世のものでないと知ったキャスターが、八つ当たりに魔力弾で派手な音の一つでも立てれば、たちまち注目の的になれるだろう…嫌な意味で…。

「ばやぐごだえなざい!!」

「くっ…」

 キャスターにせっつかれ、シロウはもはやこれまでと腹をくくった。

「ランサー、時間を稼げ」

「は?」

「何でもいいから時間を稼げと言っている。そう言うわけでキャスター、君の疑問にはランサーが答えるので宜しく…I am the bone of my sword.( 体は剣で出来ている)」

「おいこらちょっと待て!!」

 言うべきことを言ったシロウは、ランサーの反論を待たずに呪文の詠唱に入った。

 固有結界、|無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)の呪文だ。

「そう、別にランサーでもかまわないわ」

「あ、こらシロウ!手前、完全に俺がロックオンされちまったじゃねえか!?」

「Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で 心は硝子)I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を越えて不敗)」

 シロウは答えず、呪文の詠唱に集中している。

 視野狭窄に陥っているキャスターの興味が自分からランサーに移ったのを幸いと…刺激しないように、気づかれないように身をかがめ、小声で呪文を唱えたりしている姿は英雄としてどうよ?っと思わないでもない。

 当然だがランサーも、シロウの意図は理解している。

 キャスターが暴発する前に、固有結界の中に取り込んでしまおうというのだろう。

 ランサーを睨んでいる絶賛暴走中のキャスターは隣にいるシロウの詠唱にすら気づいていないっぽいし、ランサーがうまく誘導して注意を惹きつければ問題はない。

 しかし…しかしである。

 いきなりタイマーの作動した時限爆弾の前に押し出され、なんとかして爆発を遅らせろなどと爆弾処理班のような事を押し付けられるのはあんまりと言えばあんまりだ。

 英雄にだってできることとできない事がある。

「ランサー!!答えなさい、蟲は何処!?」

「え、えっとだな…」

「Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく)Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)」

 あと三節…。

「む、蟲な…蟲爺は…」

「何所よ!?隠しても為にならないわよ!?」

「Have withstood pain to create many weapons.(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)」

「か、隠してるわけじゃねえよ…」

「はっきり言いなさいこの駄犬!!」

「犬って言うな!?」

 もう少し…後二節。

「お前の探している蟲爺はとっくに死んだよ…ってあ」

「「「「「ストレート過ぎる!!」」」」」

「Yet, those hands will never hold anything.(故に、生涯に意味はなく)」

 犬扱いに我を忘れ、自分の失言に気づいたランサーがはっとするが、すでに後の祭りである。

 ランサーの言葉は文字通り音速でキャスターに届いてしまった。

「な、なんですってーーーー!!?」

「So as I pray, unlimited blade works.(その体は、きっと剣で出来ていた)」

 キャスターが激高すると同時に、呪文が完成し…“三人”の姿がかき消えた。

 

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 何所までも続く果ての見えない荒野…。

 枯れた大地に突き立つ無限の剣…。

 空で回る錆ついた歯車が剣を打ち、鍛え続ける世界…。

 固有結界・|無限の剣製(アンリミテッド・ブレイド・ワークス)。

「って何で俺まで取り込んでいるんだよ!?」

 キャスターがいるのは当然だ。

 固有結界の主であるシロウがいるのは必然だ。

 しかし、何故そこにランサーまでがいるのか?

「この際、最後まで付き合って貰う。私だけではキャスターを押さえられない」

 勝てないという意味では無い。

 殺す事なら出来るが、どう考えても殺しまでする必要性がないし、こんな理由で殺しをするほど腐ってもいない。

 ならば無傷とはいかないまでも力ずくで拘束しなければならないのだが、放たれたが最後、慣性のままに飛んで行く投擲武器に手加減の概念はない。

 しかも、キャスターは魔力こそとんでもない物の、中身は華奢な女性である。

 手足を狙っても、当たればへし折るか最悪そのまま吹き飛ばしかねない。

 拘束用の宝具を思い浮かべても、いちばん身近なマグダラの聖骸布は相手が女なので意味がなく、|天の鎖(エルキドゥ)はキャスターに神性が無いのでただの鎖だ。

 それ以前に、アンリ・マユのバックアップが切れた今、魔力に物を言わせた無理やりな投影は出来ない。

 それ故にランサーなのだ。

 だからこそランサーなのだ。

 あの場において、時臣も含めて人間は最初から論外、ライダーの宝具はシロウと同じで手加減が出来る類の物では無い。

「その点、君は持ち前の足の速さに加えて対魔力Cと矢避けの加護を持っているからな、君しかいない」

「なるほど、確かに俺が適任だ…なんて言うと思ったかこの野郎?結局一番面倒な所を押し付けに来てるだけじゃねえか?」

「…そろそろいいかしら、お二人さん?」

 出来ればずっと気がつかないふりをしていたかった|相手(キャスター)からのご指名に、シロウとランサーが揃って嫌な顔をする。

「それで、蟲がもう死んでるって…ドウイウコトカシラ?」

 キャスターの顔が、解りやすく引き攣っている。

 美人の部類にはいるキャスターの本気の怒り顔は本当におっかない。

 おそらくは、葛木を傷つけた蟲共を一匹残らず引き裂いてやろうとして来た所、すでにその相手が死んだと聞いたら、この条件下でそのやるせなさがどこの誰に向けられるのかなんて分かり切っていても理解したくないものだ。

「…蟲は全部駆除した。その…遅かったな…」

「お前も大概ストレートに言うよな?」

 ブツンと、決定的な何かが切れる音が聞こえた気がする。

「■■■■—————!!」

 案の定、|爆弾(キャスター)は当然の如く爆発し、八つ当たりと言う名の対軍勢用大規模殲滅型高速真言魔術が破壊の嵐となって吹き荒れる。

「くっそ!やっぱこうなるのかよ!?」

「言ってる場合かランサー!!全力で避けろ!!」

「ちくしょうがぁーーーー!!」

 無限の剣製内で行われた乱闘は、キャスターの魔力が尽きるまで終わる事が無く、固有結界を解除して現われた三人は本当にボロボロの状態だったらしい。

 

—————————————————————————

 

 ズリ…ズリ…と暗い空間に物を引きずる音が反響する。

 ここは光の下に出来た影…人目にさらされぬ裏の聖堂…。

「あ、あの〜カレンさん?」

 引きずられている荷物…もとい、ギルガメッシュ(小)が引きずっている相手…カレンに声をかける。

「なんですかギルガメッシュ?」

「ここは何所なんでしょうか?」

「見て分からないならば聞いても分からないでしょう?」

「あ、いえ…ここが教会の地下だってのは分かってますけど…」

 意識が飛んでいたわけでもない。

 聖堂にあった隠し扉にはいるところから見ていたのでそれは知っている。

「その通りです。なんで知っている事を聞くのですか?ぽるかみぜーりあ」

「ええっと…」

 ギルガメッシュが聞きたいのはもっと突っ込んだことなのだが…。

 凛達が雁夜を追って教会を出て行った直後、もはや不意打ちの勢いで放たれたマグダラの聖骸布に拘束され、そのままに今に至る。

 現在進行形で拘束されているため、男であるギルガメッシュには何も出来ない…っと言うかそろそろ引きずられている状況をどうにかしたいとは思う。

「そうですね、あえて言うのならこの場所は、私の工房と言ったところでしょうか?」

「こ、工房?」

 カレンは生粋のエクソシストだ。

 魔術師でもない彼女が工房を持って何をしようと言うのか?

「そ、そう言えばここって言峰が工房にしていた場所ですよね〜」

 本来たどるはずだった歴史においては、火事の生き残り達が集められ、生気を吸収されながら生かさず殺さずの状態で十年を過ごすはずだった場所である。

 この歴史の中では、当然そんな事は行われていない。

 なので、この場所には何もなく、無人のはずなのに、いつの間にカレンは工房など作ったのだろうか?

 言峰とは違うが、何か嫌な予感がしてしょうがない。

「つきましたよ。ようこそ私の工房へ」

「どれどれ…ってげ」

 カレンが壁に備え付けてある燭に火をともせば、室内の様子がぼんやり浮かび上がって来た…のだが、それを見たギルガメッシュが思いっきり呻いた。

 そこにあったのはある意味、犠牲者の子供達よりショッキングなものだったからだ。

「な、何ですかこれは?」

 やたら毒々しい物から用途の分からない物まで色々と、品揃えが良いというくらいしか分からないが、|鋼鉄の処女(アイアンメイデン)なんてマニアックなものまである。

 要するに…拷問器具と言う奴だ。

 こびりついた汚れは本物の血だろうか?

「変な事を聞きますね、私の本業をお忘れですか?」

「エ、エクソシストです。正確には助手ですが」

 そう、エクソシストの助手である。

 彼女はエクソシストにつき従い、悪魔の傍に寄ると被害者と同じ霊症を発症する特異体質で悪魔の有無を見極める試金石、それが彼女の本業…決して魔女裁判の異端審問官では無い…はずだ。

 なのでこんな拷問器具など必要ないはず……なのに何で教会の地下に、しかもカレンが工房と呼ぶ場所にこんなものがあるのか?

 訳が分からない冷や汗が止まらない。

「貴方が先ほどから気にしているこれらの物品は、悪魔が取り付いていないかどうか調べてほしいと本部から送られてきたものです」

「あ、なるほど…」

 説明を聞いて納得した。

 エクソシストは悪魔を払うもの、そして悪魔には様々なケースが存在する。

 人間に取り付くのが一般的だとおもわれがちだが、稀に物につく場合があるらしい。

 |悪魔(グレムリン)に取り憑かれて調子が悪くなる機械、あるいは持ち主を不幸にする宝石などなど…ここにある物品もそう言った代物なのだろう。

 要するに呪われた道具と言う奴だ。

 その場合、とりついているのは悪魔ではなく怨霊の類のような気もするが…そういう経緯で鑑定を任されたのだろう。

 そして結果は白、カレンの特異体質が反応しているはずなのにそれが無いのが証明だ。

「さて、ギルガメッシュ?貴方に聞きたい事があります」

「は、はい…」

 ギルガメッシュの拘束は未だ解かれておらず、芋虫状態を継続中だ。

 この理不尽の理由はギルガメッシュも知りたいとおもう。

「何故貴方は間桐雁夜を連れてきたのです?」

「う、そ、それは…」

 地雷に引っ掛かった事は事故である。

 しかしその後、雁夜をわざわざここまで道案内してきた事にはいい訳のしようもない。

「し、知らなかったんですよ。ちょっと蟲臭い人だな〜って思いましたけど、これと言って危ない感じはしなかったですし」

 必死で自己弁護をするが、その様を見下ろすカレンは慈母の笑み…彼女の場合、この状態の方が危険なのを身にしみて知っているギルガメッシュが青くなる。

「ギルガメッシュ、貴方また自分を基準に判断しましたね?」

 サーヴァントと人間の実力には、当然だが大きな隔たりが存在する。

 人間が脅威と感じる事でさえ、サーヴァントにとっては大したことではないという場合などざらである。

 ましてや世界最古の英雄王、しかも慢心属性持ちの王に脅威を抱かせるのは相当な物だ。

 しかも狙いがギルガメッシュ本人では無かった事もあるだろう。

 ギルガメッシュに恐怖や直感を抱かせるためには、臓硯程度では力不足だったというわけだが、それが他の…カレン達にとっても脅威でないかと言うとそれは違う。

「なので、いい機会ですから相互理解の為にも、貴方がどのレベルで脅威と感じるのかを検証したいと思います。“幸い”色々な物が揃っていますので段階的に試していけますよ」

「え?ハア?何でそんな話に?って言うか何故修道服を脱ぎ捨ててエクソシスト服になるんです?しかもすごくごっつい突起付きの鞭なんて持って…その恰好とはすごくお似合いですけど。あれ、なんでだろ?この時点で既にビリビリ来るものがありますよ?」

「フフフ…」

「うわ〜今のカレンさんすっごく怖いです」

 つまり、今のカレンの脅威は少なくとも臓硯以上と言う事になる。

「では、神の名の下に検証を始めます」

「いやー!!神なんて大っきらいだーーーー!!」

 そこは大人バージョンも子供バージョンも共通らしい。

 石の聖堂の中では、哀れな被害者と言うか生贄と言うかのギルガメッシュの悲鳴は良く反響した。

「フィッシュフィッシュフィッシュ!」

「うぁーーー!!ひょっとしてあの男を拘束しそこねた八つ当たり込みですか!?もしかして逃げられたのは初めて!?男を縛りあげるのにプライド持ってやってたなんて何それイタイですよ!?」

「フィーッシュ!!」

「ノオオーーーー!?それダメ!!それは物理的に痛い!!」

 一言多い口は災いのもとである。

 

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 後日談…っと言うか翌日の話。

 流石にいろいろアレでアレなので、葛木の怪我の見舞いとお礼も兼ねてキャスターの様子を見に柳洞寺を訪ねたシロウ達は、ホクホク顔で上機嫌のキャスターに迎えられた。

 昨日のキジョは何処に行ったという話だが、いつも通り無表情ながらもどこか疲れている様子の葛木を見て納得がいった。

 二人で宜しくやったのだろう。

 キャスターが魔力不足になったのを補充したのだろうが…怪我人がナニしているのか、怪我人にナニをさせているかという話だ。

 人間、命の危機を感じると性欲が促進されるらしいが、いくらなんでもがんばりすぎだろうと思う。

 激しくじゃなく、優しくの方だとは思うが…態々聞くほどの事でもないので葛木の容体を確認したら早々に退散した。

 長居してまたキャスターの機嫌が悪くなるのはごめんだ。

 後日…この日の事が色々な意味で“当たり”だった事を知る事になり、キャスターが祝福される事になるのだが、まだそれは本人も含めて誰も知りようのない未来である。

 

 嬉しい事も、許せない事も、悲しい事も、楽しい事も…様々な事が起こるが、今日も無事に世界は回っている。

 

 

 

 


 
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