No.450252

Nobody is in my heart without you. (仮)Ep1

投稿89作品目になりました。
なんか書きたくなって勢いに任せてが~っと書いてみた。

早い話、俺こと現『峠崎丈二』の管理者として過去SS。身内ネタ多めなので、そこらへん宜しくです。一応、知らなくても恋姫が解れば読めるようにはしてる積りですが。
んでは、本編をどうぞ。

2012-07-10 02:30:03 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:5423   閲覧ユーザー数:4807

戦争。溺水。落雷。火事。世界で最も強い絆。

これらは全て『とある事柄』の例えによく用いられる言葉です。多くの人々がその絆を得んが為に為に争い、溺れ、雷に打たれ、その身を焦がします。

そしてそれを、あの頃の『彼』は自分にはほとほと縁遠いものだと思っていました。

それはある意味で当然のことだったのですが、彼はあの頃の自分を恥ずかしいと何度も思ったそうです。しかしそれも、いよいよこれほどの月日が経つと笑い話にも出来るというのだから不思議なものですね。

さて、前置きはこの辺にして、そろそろ始めましょうか。

 

これは、世界の次元すら越えて出会った、とある二人の男女の、物語です。

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

―――ヒーローが好きだった。

 

大した理由なんてない。ただただ、悪を倒すその姿に、幼心に憧憬を抱いた。

俺の両親は共働きで帰りも遅く、二世帯住宅であった事も手伝って、俺は主に祖父母に面倒を見てもらっていた。

周囲の皆がアンパンの頭を持つ人助けのハードパンチャーや未来の道具を異次元のポケットから引っ張り出す猫型ロボットに夢中になる頃、俺は爺ちゃんの膝の上で暴れん坊の上様やら、桜吹雪の遊び人やら、水戸の副将軍やらを眺めて幼少期を過ごしていた。当然、大して内容など理解していなかった。漠然と理解していたのは、勧善懲悪の概念。つまり、この人たちは悪い人たちを懲らしめているんだ、その程度だった。その姿に酷く惹かれるのには、それだけで充分だった。

 

やがてそのまま月日は流れ、とある週末。父親に手を引かれ向かった映画館で、俺は俺にとって『至高のヒーロー』に出会った。

 

決して正義の味方には見えない、非人道的な改造を施された異形の姿。風よりも早く翔ける鉄の馬に跨り、己が肉体一つで巨悪に立ち向かう背中。そして何より惹かれたのは、空高く舞い上がり繰り出す、その必殺の蹴り。仮面ライダーZO。Z(最後)にしてO(起源)の名を冠したその戦士の有り方に、恐怖と同時にどうしようもなく惹かれる自分がいた。

そしてその日を境に、父親はまるで教育でも施さんばかりに、俺にその正義の系譜と歴史を叩きこみ始めた。ありったけの録画されたVHSに毎週末、父親の膝の上で一緒に夢中になっていた。悪に屈することなく、何度膝をつこうとも決して倒れることのない雄姿に、俺は気づけばどっぷりと嵌まり込んでいた。そして平日は相変わらずの時代劇三昧の日々。やがてその興味は更に遥か彼方の星雲より飛来する光の巨人やその絆と宿命を糧に悪の組織へ立ち向かう5人の超人戦隊へも派生。俺の思考回路が勧善懲悪に染められるのも時間の問題だった。

そして、次の願望が生まれた。憧れから目標に。いつしか眺めているだけに飽き足らず近づこうと、そしていつかは彼らの力になるのだと、彼らの仲間になるのだと、本気で信じていた。彼らが虚構の存在と知るその日まで、俺は『いつか自分も』と心に刻み込んでいたのだ。

明けない夜はないように、止まない雨はないように、覚めない夢もまた、ない。我ながら早熟だと思うが、心身の成長に伴い、現実という大きな壁が立ちはだかるのに、さしたる時間は必要なかった。そして、それでも心のどこかで未練がましく諦めきれずにいる自分がいることに、他ならぬ自分が最も苛立っていた。

思い返せば、俺が『創作』という趣味に目覚めたのもそこに起因しているのだろう。現実で叶わないのならば、せめて俺の中でだけでもと、授業の合間を縫っては学習帳の片隅にちらほらと書き込まれる落書きの積み重ねが、今の俺を形作っているといっても、過言ではないかもしれない。

 

そして、今から十数年ほど前か。小学生生活も折り返し地点に差し掛かろうという頃。

 

あの日の彼女との出会いが、その後の俺の人生を大きく変える事となったのは、まず間違いない。

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

ここ、どこだろう? 目を覚ますと僕は知らない場所にいた。

森の中、高い高い木に囲まれてて、何も解らない。夢かな、と思ってほっぺを抓ってみるけど、ちゃんと痛いから多分夢じゃない。

 

「う~ん」

 

どうしたものか、腕組みして考えてみる。確か昨日は父さんと一緒にヒーローショー見に行って、そのまま家で仮面ライダーBLACK RXのビデオ見て「やっぱりリボルケインつよいね~」「作ってみるか、蛍光灯で!!」「うんっ!!」って話してたら母さんに物凄く怒られて二人とも晩御飯抜きにされちゃって、二人で内緒でラーメン食べに行ったとこまでは覚えてる。

 

「……うん、そとでねたりしてないもんね」

 

そんなことしたら風邪ひいちゃうし。『健全な魂は健全な肉体に宿る』っていうし。

なんでこんな所にいるのか、暫く色々考えてみて、

 

「―――ま、いっか。とりあえず、たんけんしてみよ」

 

それは随分あっさりと中断された。ぐるりと回りを見渡して、

 

「なにかたべられるものないかな」

 

くぅ、と小さく鳴いたお腹を摩りながら、小さな影は近くの茂みの中へと入っていった。

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

「ふぅ、やっと休憩、か……」

 

脱力。両肩を吐息と共にふっと落とし、深く豊かな緑の中をゆったりと歩く。木々のさざめき、鳥のさえずり、風の声。深く呼吸を繰り返すだけで染み渡るきれいな空気が心身を緩やかに癒してゆく。

城壁の外、生い茂る森林。私は時折、何かに詰まったり悩んだりするとここに来て、何をするでもなくただただ練り歩く。無論一人でだ。そこらの獣風情に遅れをとるような実力ではないし、私だって年頃の女の子だ。いくら護衛とはいえ、四六時中兵士に付きっ切りでいられては、おちおち気も抜けないというものだ。

 

「偶には人目をはばからずゆっくりしたって、罰は当たらないでしょ」

 

誰に言うでもなく呟いて、いつもの河原を目指す。滅多に他人が来ているのを見たことのない、私だけの秘密の場所というやつだ。あそこで両足を流れに浸してぼうっとしているだけで、疲労や心の靄が晴れやかになっていくから、自然というのは不思議だ。

と、

 

「……あら?」

 

随分と香ばしい匂いが鼻孔を擽った。そう、まるで、

 

「魚の焼ける匂い?」

 

何を隠そう、自分もよくやるからすぐに分かった。下手に癖のないあそこの川魚は塩だけでも十二分に美味しく食べられる。が、今の懸念はそこではなく、

 

「誰か、いるの?」

 

全く人のこない森というわけではない。町の職人が木材を伐採に来ることも、好奇心旺盛な子供たちが探検に訪れることもある。が、それでもこの時間帯にあの河原で人を見たことは、今までに一度もなかった。

そっと、気配と足音を忍ばせながら近づく。ここまであからさまな隠密なんているはずもないだろうけど、養子とはいえ自分は『あの家』の人間だし、誘拐目的で敵方が来る可能性が皆無というわけではない。一応、念のため、慎重に茂みを掻き分け、向こうを覗いて、

 

「…………男の子?」

 

何とも拍子抜けな正体だった。年頃は8か9くらいだろうか、焚き火の横で焼き魚に美味しそうに齧り付いているその少年は、見たこともない意匠の、随分と動きやすそうな素手と裾の短い軽装に身を包んでいた。

 

「……? おねえちゃん、だれ?」

 

気付かれた。まぁ、間抜けに顔を出したまま呆けてたら当たり前か。

 

「こんにちは。(これ)、君が捕まえたの?」

 

「うん、そうだよ」

 

「よく捕まえられたね。大変じゃなかった?」

 

「ううん、べつに。あれつかったから」

 

「……あれ?」

 

少年が指差す先を見ると、川上に向かって口の開いたU字状の土手が、積み上げられた石で組み上げられていた。

 

「あそこにうえからおいこめば、ぼくでもつかまえられるもん。おとうさんがおしえてくれたんだよ?」

 

「へぇ……凄いね、ぼく」

 

「へへっ、そお?」

 

嬉しそうに微笑む少年にそう言いつつ、なんとも合理的な手段に驚嘆を隠しきれない。魚と言えば釣り上げるか網や罠を仕掛けるか直接突くかが定番なわけだが、この手段ならば手間もさほどかからないし、川上から追い込むだけなら時間や労力も多くは必要としない。

 

「じゃあ、この火も自分で?」

 

「うん。くつひもつかった」

 

「くつひも?」

 

言うや否や、少年は徐に片方の靴を脱いで、

 

(……何、この意匠は?)

 

厚い靴底は何やら弾力性の強い黒い塊。見るからに丈夫そうな生地は、やはり太く丈夫そうな紐できっちりと結ばれている。その紐を外し、拾い上げた木の枝を弓なりにしならせると、弦のようにその紐を結びつける。それを更に枝に絡め、凹んだ石で片方を抑えると、もう片方を先端を予め拾い集めておいたのだろう木片にあて、

 

「こうやったんだ。これもおとうさんがおしえてくれた」

 

「…………」

 

俗にいう『弓錐式』という着火法だが、それを彼女が知るはずもなく、手製の小さな弓を前後に動かすだけで細い煙が徐々に燻りはじめている事実に、茫然とする他になかった。

 

(この子、一体何者なの……?)

 

小さな火種に乾いた草や木の葉をかけ、小さな口を窄めながら何度も息を吹き込ませて徐々に燃え上がらせているその表情は一生懸命そのもので、

 

(これが、この子にとっての当たり前なんだ)

 

興味深い。この子の知識にも、この子自身にも。

 

「君、どこの子なの? どこから来たの?」

 

「ん、どこだろ。わかんないや」

 

「……どういうこと?」

 

「なんかね、きがついたらここにいたから。おねえちゃん、ここどこかわかる?」

 

一瞬、誘拐という単語が脳裏を過ったが、どうやらそうではないらしい。靴紐をもう一度靴に付け直している彼には拘束されていたような怪我や跡は残っていないし、何より逃げているののならこんなところで魚を焼いてのんびり食べている暇はないだろう。どうやら迷い込んだ可能性が高そうだ。

 

「ここは徐州の北東、瑯邪郡よ。君の家はどこなの?」

 

「じょしゅう? ろう、じゃぐん?」

 

どうやら聞き覚えがないらしい。まぁ、このくらいの年頃なら自分の住んでいる地名を覚えていなくてもまぁ無理はないかもしれない。

そう、思っていたのだが、

 

「ここって、ほっかいどうじゃないの?」

 

「……ほっかいどう?」

 

聞き覚えのない単語だ。話の流れからいって地名なのは間違いないだろうが。

 

「そ。おっきいしまなんだ」

 

「島?」

 

となると南方、江東方面だろうか。だとしてもここからは相当遠方だ。彼が一人でここにいる説明がつかない。何がどうなったら幼い少年が森の奥で一人こうして佇むことになるのだろうか。

 

「それで、おねえちゃんはだれなの?」

 

「えっ? あぁ、そうね。私は曹真。この森の近くのお城に住んでるの」

 

「わ、じゃあえらいひとだ」

 

「そう、ね。これから、そうなるかもしれないわね」

 

「? いまはちがうの?」

 

「くすっ。えぇ、今はその為に勉強中なの」

 

無邪気に首を傾げる少年の顔に、思わず少し吹き出してしまう。

 

「今の私じゃ、まだまだ無理よ。あの子の方が、私よりよっぽど相応しいわ」

 

「あのこって、だれ?」

 

「……そうね。それじゃちょっとだけお話、聞いてもらえる?」

 

「うん。あ、おねえちゃんもさかなたべる」

 

「あら、ありがと」

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

私はね、養子なの。小さい頃に両親を亡くして……離れ離れになっちゃってね、そのお城に住んでる偉い人に拾われて育ったの。

 

―――ほんとのおとうさんとおかあさんじゃないってこと?

 

そうね、そういうこと。だからね、その人に恩返ししようと思って、ずっと頑張ってきた。たくさん勉強して、剣も覚えて、少しでも役に立とうって。

 

―――うん。

 

でもね、その家の子は皆凄いんだ。私より賢い子も、私より強い子もたくさんいるの。

 

―――そうなの?

 

そうなの。私よりも小さいのに、全然適わないの。本当、参っちゃうわ。私が頑張って、頑張って、やっとできるようになったことを、あの子たちはあっという間にできるようになっちゃうんだ。丁度、君と同い年くらいかな。

 

―――へぇ……なんか、すごいね。

 

うん、すごいよね。

 

―――じゃあ、そのこたちもえらいひとになるの?

 

そ。皆が笑顔になれる世の中にするために、色んなお勉強の真っ最中なの。勿論、私もね。

 

―――すごい、それじゃおねえちゃんたちって『ヒーロー』なんだ!!

 

ひいろお? なに、それ?

 

―――みんなをまもる、すごいつよいひとたち!! わるいやつらをやっつけるんだ!!

 

……そう。そうね、皆その『ひいろお』になるために頑張ってるのよ。

 

―――?

 

……でもね、私はどうなのかな。

 

―――おねえちゃん?

 

時々ね、思うんだ。私なんかが、皆の役に立てるのかな、って。

 

―――どういうこと?

 

私よりもずっと相応しい子たちがいるのに、私がいる意味があるのかなってね、思っちゃったりするのよ。力も、頭も、あの子たちに及ばない私に、何ができるのかなって、ね。

 

―――…………

 

あははっ、君にはちょっと難しかったかな。ごめんね、こんな話しちゃって。

 

―――…………おねえちゃん。

 

ん? なに?

 

―――それって、だれかにそういわれたの? いらないって、いわれたの?

 

……え?

 

―――だったらぼく、そいつのことぶんなぐってくる。

 

ど、どうして君が?

 

―――だって、こんなにきれいなおねえちゃんいらないなんて、そいつばかだよ!! それにっ、ぼくしってるよ!!

 

っ!? な、君、何をいきなり、

 

 

 

 

 

いらないひとなんて、ひとりもいないもんっ!!

 

 

 

 

 

「おねえちゃん、いらないっていわれたの?」

 

「う、ううん、言われたことは、ない、けど」

 

周囲の言葉が、そう聞こえてたまらない時はあった。

周囲の視線が、そう見えてたまらない時もあった。

だって私は余所者だから。私に流れる血は、皆とは違うから。

 

「じゃあ、なにかおっきなしっぱいしたの?」

 

「え、えっと……」

 

私だって人間だ、失敗の一つや二つ経験はあるが、

 

「取り返しのつかないとかは、ない、かな」

 

「じゃあ、しっぱいするのがこわいの?」

 

「っ……そう、ね」

 

人の上に立つ以上、その言動全てに責任が付きまとう。時には、部下たちの命すら天秤にかけなければならないだろう。情けないことに、そうなってしまうのが怖い自分がいる。

 

「だったら、だいじょうぶだよ」

 

なのに、この子の目はあまりに真っ直ぐで、

 

「おねえちゃん、こわがりでしょ」

 

いつの間にか、座っている私が立っている彼を見上げていて、

 

「おとうさんいってたんだ。こわがりなひとは、しっぱいしないようにがんばるひとだから、しんじられるひとだって」

 

ぽふっ。

頭の上に乗せられた小さな掌。髪型も崩されないほど、小さな小さな掌。

 

「しっぱいしたら『ごめんなさい』でいいんだよ」

 

なのに、どうしてこうも心が凪ぎ、安らぎ、晴れ渡るのか。

 

「それでもだめなら、ぼくがおねえちゃんまもってあげる!!」

 

「あ…………」

 

こんな無邪気な笑顔に、どうしてこうも惹かれてしまうのか。何故か、徐々に高鳴る心臓は自分の意志でどうにかなるようなものではなくて、

 

「……おねえちゃん?」

 

「えっ……あっ、嘘っ」

 

気が付いたら、涙があふれていた。こんな幼い少年の―――いや、幼い少年だからこそ、これほど真っ直ぐで暖かな言葉なんだろう。

泣かされるとは、泣いてしまうとは思わなかった。そこまで自分は追い詰められ、思い詰めていたのか。まさか、

 

「えっと、んと、」

 

(こんな小さな男の子に、なんてね……)

 

私が泣いてしまうのは流石に予想外だったんだろう、慌てて頭を掻いたり無意味に両腕が虚空を彷徨ったり、頭の中の混乱が意味のない動作に如実に表れている。

すると、

 

「あっ、そうだ!!」

 

何やら少年はお尻の方にあるポケットから何かを取り出して、

 

(わっ、綺麗)

 

それは、金属製の小さな箱だった。鮮やかに彩られたそれはさながら芸術品のようにも見えて、

 

「おねえちゃん、て、だして」

 

私の右腕をつかんだと思うと、

 

「これ、あげるね」

 

箱の中から、何かが2、3個出てきて、

 

「っ!? 宝石!?」

 

それは半透明の赤、白、緑、黄。指でつまめる小石のようなそれは、実に精密な彫刻が施されていて、

 

「おねえちゃん、ドロップははじめて?」

 

「どろっぷ、っていうの?」

 

「そうだよ。ほら」

 

そういうと、少年は一つを摘み上げて、

 

「……えっ!?」

 

すぐさま、口に放り込んだ。

 

「おねえちゃんもたべなよ。あまくておいしいよ?」

 

「……これ、食べ物なの?」

 

「うん」

 

平然と頷く彼の表情からして、どうやら無理をして嘘を言っているようではなさそうだ。

大丈夫そうなので一つ、丁度一番手前にあった赤いそれを摘み上げて、

 

「……はむっ」

 

口に放り込んだと同時、噛める堅さではなかったので最初は驚いたが、どうやら目の前の少年が噛まずにころころと舌で転がしているようだったので、それに倣ってみると、

 

「わ、甘い……」

 

舌の上にじんわりと広がる甘味はどうやら果物のそれのようだが、私にとっては未知のものだった。甘さだけでなく、程よい酸味が後味をすっと洗い流すようで、

 

「それ、イチゴあじだね」

 

「いちご?」

 

初めて聞く名前だ。そして、『それ』と言うには、他の色は違う味ということなのか。

 

「これは?」

 

「それはメロンだね。そっちはパインで、白いのは『はっか』」

 

「はっか?」

 

「そ、はっか。それはすごくスースーするよ?」

 

放り込むたびに違う味に包まれる口の中。最後の白は未知の感覚に吐き出しかけたが、暫く続けているとこれも中々に癖があって、結局最後まで舐めていた。

 

「おいしかったでしょ? ぼくのとっておきなんだ」

 

「よかったの? あんなに貰っちゃって」

 

「いいよ。おねえちゃんなかせちゃったの、ぼくだし」

 

「でも、どうして?」

 

「だって、あまいものたべていやなきもちになるおんなのひとって、いないんでしょ? おかあさん、そういってたよ?」

 

「……ふふっ、そうね」

 

仄かに早まる動悸。そもそもどうしてこんな幼い相手にあんな愚痴めいた話までしてしまったのか。

この子の纏う何かがそうさせたのか、それとも、

 

(私、そういう趣味だったのかしら……)

 

不思議だった。なんとも心地よい浮遊感。軽く火照ってもいるようで、お風呂上がりのように身体が暖かい。

 

「ありがとね」

 

微笑んでみせたら、歯を剥き出しにして笑い返してくれた。……うん、どうも私はそういう趣味らしい。

 

だから、だろうか、

 

 

 

 

 

 

ちゅっ

 

 

 

 

 

 

「……へ?」

 

自然と、こんなことをしてしまうのは。

一瞬、0になる距離。触れた場所こそ額だけれど、

 

「初めて、だったんだからね?」

 

「……~~っ!!」

 

「あははっ」

 

どうやら、こういう耐性は皆無らしい。真っ赤な顔は完熟した果実のようで、とても可愛らしかった。

今までこういった感情と自分は無縁だと思っていたけれど、

 

(成程、世の皆が夢中になるわけね)

 

硬直してしまった少年に微笑みながら、ゆっくりと立ち上がって、

 

「また、会いましょう。じゃあね」

 

そろそろ、戻らなければならない。鍛錬の途中で気分転換に、と出てきただけだから。そして、その成果は予想以上だった。ある程度は元々期待してたけれど、ここまで洗い流されるとは。

 

「ふふっ」

 

自然と零れる笑み。多分、この後も何度も繰り返すだろう。それも、まぁ悪くはない。

 

「―――あ」

 

そういえば、

 

「あの子の名前、聞きそびれちゃったな……」

 

そもそもまた会えるかどうか、解らない。どうしよう、一度戻ろうか。

 

「ん~……ま、いっか」

 

なんとなく、あの子とはまた会える気がする。そして、その時は、

 

「名前、聞いておかなきゃね」

 

足取りは、とても軽やかだった。

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

同刻。件の河原。

 

「あ、いたいた。君、大丈夫ですか?」

 

茫然と立ち尽くす少年の傍ら、現れたのは法師のような衣服に身を包む、眼鏡をかけた痩身の青年であった。『現れる』といっても、歩いてやってきたのではなく、その場に直接降り立ったのである。さながらテレポーテーション。空間と空間を、見えない経路を伝って飛び越えたような、そんな現れ方であった。

名を、南華老仙。世に数多存在する外史の管理者、その一人である。

 

「少年? 聞いてますか?」

 

その少年、全く反応を見せない。真っ赤に染めた頬を隠そうともせず、棒立ちのまま微動だにしない。

 

「やれやれ。貂蝉、聞こえてますか? 今から連れて行きますよ?」

 

その少年の肩に手を当てて、

 

 

 

―――次の瞬間、再びその姿が掻き消えた。

 

 

 

 

 

 

 

…………

 

 

 

 

……………………

 

 

 

 

………………………………

 

 

 

 

 

「―――あれ?」

 

気が付いたら、僕は不思議なところにいた。さっきまで河原にいたはずなんだけど。

見回したら、何にもなかった。何もないというか、何なのか解らなかった。ただただ何も存在しない空間がずっとずっと続いていて、

 

「はぁじめましてぇ、可愛いボ・ク・ちゃん♪」

 

我らが貂蝉、降臨である。相変わらずのスキンヘッドに三つ編みもみあげ、ピンクのビキニパンツ一丁の(彼にとっての)正装。十中八九どころか十中十が悲鳴をあげるであろうその姿を見て、

 

「……わっ、おじちゃん、きんにくすっげぇ!!」

 

しかし、彼の感覚はやはり幼い頃からどこが人とずれているらしかった。

そして、そんな反応は当然ながら彼らにとっては新鮮そのもので、

 

「あらぁ、卑弥呼ぉ? この子、中々見どころあるわよん♥」

 

「の、ようであるな。実に先の楽しみな坊主よ!! して、老仙よ。こやつがここに迷い込んだ理由、突き止めたか?」

 

「えぇ。といっても、この世界に干渉できる時点で、候補はたかがしてれますがね」

 

外史の狭間。あちらこちらに浮かぶ光球の中、映す光景はそれぞれの『外史』である。世界を渡るも、世界を渡すも、その裁量次第。そういう人々を、管理者と呼ぶ。時に創世し、観測し、改変し、破壊する。彼らは、その一部であった。

 

「という事はこの坊主、ただお主の外史に迷いこんだだけではない、ということか」

 

「えぇ。どうやらこの子には素養があるようです。この歳にして、ね」

 

「大したものねん。ひょっとして、最年少じゃあないかしら?」

 

「かもしれませんね。兎に角、意志(ウィル)の元へ向かいましょう。どうするかは、その後です……君、名前はなんていうのかな?」

 

「なまえ? ぼくの? えっとね―――」

 

「っと、待ってください。流石に本名ですと後々面倒なことになりかねません。そうですね……学校でのあだ名とか、あったりしますか?」

 

「? えっと、よくゴリラって呼ばれるよ?」

 

「そりゃまたどうして……いや、それ以前に少々呼び名としては不適切ですね。もっとこう、名前らしいあだ名みたいなものは?」

 

「んっと……あっ!!」

 

「おや、ありますか」

 

「うんっ。えっとね」

 

 

 

 

 

 

―――――ジョージ!! ぼく、ジョージって呼ばれてるよ!!

 

物語は、動き出す。

 

 

 

 

(続?)

 

後書きです、はい。

なんか衝動的に書いちまったぜwww 続けるかどうかも未定。あくまで気分転換の作品なので、次もいつになるかな。取りあえず、暫くは『盲目』と『蒼穹』、あって『Just Walk』になると思うんで、そこんとこよろしく。

 

で、

 

早い話、俺の管理者としての過去SSです。捏造万歳ww

例によって、俺と付き合いの長い方々(『瑚裏拉麺』や『Just Walk』に出てるような方々)がちらほら登場予定でもあるので、そこらへんも楽しみにしてみるといい。

あぁ、事後承諾だけどこのSS、若干『狭乃狼』氏の外史概念を使わせてもらってる部分があります。そこんとこもよろしく。

 

んでは、次の更新で。

 

でわでわノシ

 

 

 

 

…………誰か俺に休息をくれ。(最近、平均睡眠時間が3時間以下)


 
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