No.450146

インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#26

高郷葱さん

#26:Come back

2012-07-10 00:03:39 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1703   閲覧ユーザー数:1639

[side:簪]

 

「全身に打撲。まあ、大した事がなくて良かったな。」

 

「うん。ISはだいぶ損傷が酷いけど…これだったら予備パーツで組み直した方が早いかも…」

 

私と箒でセシリアさんと鈴さんに声かけをしていた。

と言っても二人は完全に落ち込んでいて、中々効果が見えてこない。

 

やっぱり、織斑くんが居ないと駄目か………

 

 

と、思ったとほぼ同時。

 

コンコン、とノックの後に

 

「鈴、セシリア、大丈夫か?」

 

「とりあえず、二人が無事で良かったよ。」

 

織斑くんとシャルルくんが保健室にやって来た。

 

二人にもコレと言って怪我はないみたい。

 

「それにしても、本当に危ないところだったな。」

 

「別に助けてくれなくても良かったのに。」

鈴さんがぷい、とそっぽを向きセシリアさんは俯く。

 

「お前なぁ………でもまあ、怪我が大した事なくて良かったぜ。」

 

「こんなの怪我の内に入らな―――いたたたた!」

 

無理に動こうとした鈴さんが激痛に襲われた。

 

「はいはい。今は体を休めないとね。」

 

私が触らないようにしながら寝るように促す。

 

まあ、本当に寝なくてもいいけど横になって体を休めておかないと、すぐ治るものも治らないし。

 

「で、セシリアはまだ落ち込んでるのか?」

 

「落ち込んでなどいませんわ。先ほどの一戦を顧みていたのですわ。どうすれば、勝てるのか。」

 

「で、結果は?」

 

「今のわたくしでは、勝てませんわ。」

 

セシリアさんはため息とともにやけにあっさりと、敗北を認めた

 

「ですが、必ず食らい付いて、撃墜(おと)して見せますわ。」

 

ぐっ、と握りこぶしを振り上げるセシリアさん。

 

ああッ、そんなことしたら…

 

「―――ッうぅ!」

 

痛みに襲われて固まるセシリアさん。

 

「だ、大丈夫か?」

 

「こ、この程度の痛みにまけてられませんわ。」

 

「そ、そうか。無理するなよ。」

 

 

「………なんだ、この音は。」

 

箒が何かに気付いて、私や織斑くん、シャルルくんも耳を澄ませてみる。

 

………確かに『ドドドド………』という感じの音がしてる。

 

「……地鳴り?」

 

その音はだんだんと大きくなってくる。

 

 

「何か近づいて来てるのかな。」

 

バッファローの群れ?

それとも一四個の眼を持った巨大な団子虫の親戚みたいのでも居るのかな?

 

その音は廊下の方から聞こえてきていて………

 

『ぎゃぁッ!?』

どだぁッ!

 

物凄い音と悲鳴を境にまったく聞こえなくなった。

 

 

「………何だったのだ?」

 

「………さあ。」

 

箒と織斑くんのやり取りがこの場に居た私たち全員の心を代弁していた。

 

 

コンコン、とノックされて不可解な状況に困惑していた私たちが現実に引き摺り戻された。

 

ガラっ、

 

ドアが開いてやって来た人物は私の予想外で…

 

「―――ッ!」

 

思わず、駆け寄って思いっきり抱きついてしまった。

 

 

「―――空くんっ!」

 

他の皆が唖然とする中で私は空くんをぎゅぅっ、と抱きしめる。

 

クラス対抗戦の時に大怪我して、入院してるって聞いていたからこんなに早くに再会出来(あえ)るだんて思っていなかったから。

 

「久しぶりだな、空。」

 

「お久しぶりですわ、空さん。」

 

「久しぶりじゃない。」

 

皆も再会に笑顔が戻ってくる。

 

 

そんな中で…

 

「あれ?なんで皆、千凪先生の事を名前で呼んで、そんなに親しげにしてるの?」

 

シャルルくん、ただ一人が『訳が判らない』と言わんばかりに困惑していた。

 

「ああ、空はクラスメイトで五月に行われたクラス対抗戦の時に大怪我を―――って、先生!?」

 

箒が説明しようとして、素っ頓狂な声を上げた。

 

私も抱いてる空くんから少し離れてみる。

 

空くんの格好は、織斑くんと同じIS学園の男子用制服―――じゃなくてダークブルーのスーツだった。

ネクタイピンがIS学園の校章と言うところが芸が細かい。

 

………………あれ?

 

「入院中に暇持てあまして技研のスタッフと一緒に辞書作ったら、なんか気に入られちゃってさ。補助教材として採用されたついでに僕自身も講師扱いで教職員にされちゃったんだよ。ちなみに正式の着任は明日から。」

 

ハハハと笑う空くん。

 

「辞書?」

 

「そ。『今更聞けないIS用語辞典』って奴。」

 

「成る程。ってことはアレは空が送ってくれたのか?」

 

「うん?ああ、そう言えば一夏には一冊送ったっけ。朴念神の項目を追加して。」

 

「やっぱり、空の仕業かっ!」

 

―――――――――――――――――

織斑くんは空くんの本を持っている

 

簪 選択肢

 『そう、良かったね』

 『頼む、譲ってくれ!』

 『メ几

=> 木又してでも奪い取る』

―――――――――――――――――

 

と、私がちょっと危ない事を考えていたら、

 

「近いうちに配られると思うよ。とりあえず一年生向けで。」

 

こうして、織斑くんは本人の預かり知らぬ場所で命を狙われ、そして救われた。

()ろうとした私の言えるセリフじゃないけど。

 

「ああ、忘れるところだった。」

 

と、空くんがなにやら一枚のプリントを差し出してきた。

 

「? ………なに、コレ。」

 

「学年別トーナメントのルール変更のお知らせ。例年と違って今年は二人一組(エレメント)形式に変わったからね。」

 

そのプリントは学年別トーナメントの申込書だった。

 

うんぬんかんぬんを置いておいて、二人組で申請をしなかった者はランダムで組まされるらしい。

 

「一夏!」

「一夏さん!」

「空くん!」

 

私は空くんに、箒とセシリアさんと鈴さんは織斑くんに詰め寄って行く。

 

「ああ、オルコットさんと鳳さんはISの損傷度(ダメージレベル)がCを超えていたから参加(エントリー)不許可。あと、僕も教職員だから出れないよ。」

 

ちぇ、

 

「うぐっ………仕方ないわね。」

「まあ、致し方ありませんわね。」

 

あの二人も大人しく引き下がる。

 

「では一夏、私と組もう。」

ずい、と前に出る箒

 

「あー。悪い、箒。俺はシャルルと組むつもりなんだ。」

 

「何故だ!―――そんなに私とが嫌なのか?」

 

「い、いや、そう言う訳じゃなくて……」

 

そのままの勢いで『シャルルくんと組む』と宣言した織斑くんに詰め寄って行く。

 

「えーと、ほら。俺と箒は戦闘スタイルが似てるだろ?」

 

「それがどうした。」

 

「コンビとしてはバランスが悪いと思うんだよ。箒、銃は使えないだろ?」

 

「うぐっ……」

 

うん、そうだね。

箒は私と練習してる間、ずっと(ブレード)だもんね。

 

「だから俺はシャルルと組む。判ってくれ、箒。」

 

「…仕方ないな。では、簪。」

 

「うん。いいよ。」

 

打鉄弐式はまだ第三世代型武装が完成してないけど、高機動誘導弾(ハイマニューバ・ミサイル)拡散弾頭弾(スプリット・ミサイル)、あとは小型弾散布弾(クラスターミサイル)などの面制圧武装で代用して『第二世代型IS』として完成させた。

今後は第三世代型武装の完成を目指すんだけど、その前に現段階での機体バランスの確認とかの戦闘も必要だし、何よりも私自身の経験になる。

 

 

「それじゃあ、申込書はここに置いておくからあとで職員室に提出に来るように。」

 

そう言って、二枚の申込書を置いてから保健室を出てゆく空くん。

 

「ああ、空。」

 

そこを織斑くんが呼び止めた。

 

「明日からは『千凪先生』と呼ぶように。で、何?」

 

「ちょっと相談したい事があるんだが……」

 

真剣な顔になる織斑くん。

 

その表情に箒とセシリアさんと鈴さんの顔がちょっと赤くなる。

 

「判った。二十時以降は一年寮の副寮監室に居るから、その時に。」

 

「ああ、頼む。」

 

………何の相談なんだろ。

不安そうな顔してたからデュノアくん絡みなのかな。

 

まあ、私も今度打鉄弐式の事で相談―――って名目で遊びに行こっと。


 
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