No.450020

IS『に』転生ってふざけんな! 最終話

ヒビトさん

これは、米国の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』に憑依転生してしまった少年と、その操縦者であるナターシャ・ファイルスの噺である。

2012-07-09 21:46:45 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:6012   閲覧ユーザー数:5729

 あれから数ヶ月の月日が流れた――――。

 

 場所は福音が凍結されている、地図にない島(イレイズド)。

 

 そこには屈強な男達がAR(アサルトライフル)を携え、たった1人の女の子を相手に闘っている。

 

 

 だがその少女は、傷1つない。悲鳴も上げない。男達に怖れもしなければ銃に恐がりもしない。

 

 代わりに聞こえるのは銃声と、男達の断末魔。そして軍靴の音のみ。

 

 

 少女の名は織斑マドカ。またの名をエム。彼女はイギリスから強奪したBT2号機《サイレント・ゼフィルス》を纏い、鍛え抜かれた軍人らを圧倒的に斃していった。

 

 まだ闘える男らの中には、ISを装着したマドカに恐れながら震えている者もいる。

 

 

 だがそんな些細な事を気にするマドカではない。あっという間に福音が凍結されている格納庫の前へと辿りついてしまった。

 

 

 だがそこには……福音の操縦者、ナターシャがいた。

 

 

 

 彼女は査問委員会にかけられたが、今では以前のようにここにいる。このような緊急事態にも、きちんと武装して福音を守ろうとマドカの前に立ち塞がる。

 

 

「あの子は渡さないッ!」

 

 

 

 ドドドドドドドドォン!!

 

 

 《銀の鐘(シルバー・ベル)》試作壱号機・腕部装備砲(ハンドカノン)バージョンを生身で扱う彼女の姿は、何よりも勇ましく、そして美しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――だが

 

 

 

 

 ズドンッ!

 

 

 

「かはぁ……ッ!」

 

「雑魚が」

 

 

 所詮は生身。ISを装着しているマドカには、それは決定打とまでは至らなかった。

 

 

「フ、フフフ……」

 右腕で薙ぎ払われ、福音が凍結されている格納庫の分厚い扉に叩きつけられたナターシャは……全身を何か所も骨折しながら、それでも笑うのだった。

 

 

 

 時間は稼いだ。後は最強の援軍が来るのを待つだけ。ナターシャは初めから、自分だけでマドカを食い止めようとは考えてなかった。

 

 

 だが同時に、これは自嘲の笑いでもある。自らを守るために孤軍奮闘した福音に対し、自分は何も大したことをしてやれない。そんな惨めさが今まで彼女の心を傷つけてきていた。

 

 

 

「……気でもやったのか? 安心しろ。殺しはしないが楽にはしてやる」

ナターシャの眼前に突き付けられる凶刃(ナイフ)。異変が起きたのはまさにその時だった。

 

 

 

 

 

 

 扉の隙間から眩い閃光が射し、マドカは思わず目を隠して後退した。

 

 

 

 

 

「……――――きて、くれたの――――?」

 

 

 

 

 

 驚愕を隠せないのは、この場にいる全員だった。マドカも、そしてナターシャも。

 

 

 

 

 

 

 

 なぜなら――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは突然の事だった。

 

 

 真っ暗な中で自分がどうなっているのかも解らなかった俺に、何かが起こった(・・・・・・・)

 

 

 

 俺を覆っていたどこまでも続く闇は掻き消され、その代わりに光り輝く光景が押し寄せてきた。

 

 

 

 

 

(な、何が起こってる………!?)

 

 

 戸惑っている俺の視界が徐々に広がり、暗い屋内に深い青のISを纏った誰かがこちらを見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああ………思い出してきた、この感覚だ。この懐かしく心地いい、世界がどこまでも広がっていくような――――。

 

 

 

(最高だ……――――!)

 

 躍動する心と共に、外の世界が徐々に流れ込んでくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 そう。俺は今まさに、《銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)》として起動している!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 マドカは驚愕し、思わず後ろに下がった。

 

 

 さっきまで瀕死だったナターシャに、一瞬にしてISが装着されたからだ。そのISとは―――――自分が奪いに来た、銀の福音。

 

 剥離剤(リムーバー)を使ってもいないのに、ISが遠隔で装備できるだなんて、誰も予想していなかっただろう。

 

 

 …………たった1人の男を除いて。

 

 

 

 

 

 以前、初老の男が福音に組み込んだプログラムこそがこの演出のカラクリだった。

 

 本来は保管してある武装を転送するという、拡張領域を不要にさせる装置とプログラムをアメリカは研究・開発していたのだが、その最中に偶然完成したのが“ISを遠隔操作で呼び出す”プログラムだった。

 

 もちろんこれは失敗作で、装置の方も中々開発が進まずにいるのが現状だ。さらにこの失敗作は効果範囲が3メートルと非常に狭く、成功率も決して高くはなかった。

 

 

 

 だが福音はそれを成功させた。彼の強い、『想い』によって………!

 

 

 

 

 

「――――さぁ、あなたが奪いに来たのはこの子でしょ? 奪えるものなら奪ってみなさい」

 

 挑発するナターシャ。それに対してマドカは

 

 

「……扉を破壊する手間が省けたと言うものだ!!」

 

「残念だけど、あの頑丈な扉を壊す方が楽だったわよ」

 

 

 

 

 

 ―――キィィィィン―――

 

 

 

 

 福音とナターシャが動いた刹那、甲高い音が響き渡った。だが、マドカの背後に背を向ける福音が佇んでいること以外は先程と何も変化はない。

 

 

「(―――超高速移動に反応しきれず、攻撃をし損ねたな……!)」

 

 マドカは福音の機動性に驚きながらも、それを扱えていない操縦者(ナターシャ)に安堵した。

 

 

 そして無防備に背中を見せる相手に、主武装である《スターブレイカー》の銃口を向けようとした!

 

 

 

 ―――スゥゥ……ガァァンッ!!―――

 

 

「…――!!?」

 

 銃口を福音に向けた瞬間、スターブレイカーの銃身に切れ目が入り、3つに斬られた銃身は重厚な音を基地内に響かせながら床に吸い込まれた。

 

 マドカは驚きを隠せない。目をまん丸に見開いたまま、斬り落とされた装備を見つめるだけだった。

 

 

 

 

 一体ナターシャと福音は何をやったのか。その答えは、なんてことない。

 

 

 

 ただ単に、“目にも止まらぬ速さで動き、一瞬で2度の斬撃を武器に当てただけ”だ。

 

 

 

 

 

 

 これだけでマドカの不利は決定的となったのだが、さらに追討ちを仕掛ける様に足下から(・・・・)声が轟いた。

 

 

 

「――――そろそろいいか!?」

 

 

 ドガァァァン!!

 

 

 突如として床が崩れ、そこからタイガーストライプのISが上がってきた。

 

 

 

「イーリ……ちょっと遅すぎるわよ」

 

 

「悪ィ悪ィ……おいそこの三下! そのイギリスからパクったその機体、まだ実験機だろ。そんなんじゃどう足掻いたって私らには勝てねえぞ!!」

 

 

 実験機云々はともかく、主武装を失った状態で2機のISを同時に相手取るのは実質不可能に近い。それどころか下手をすれば一瞬で勝負が着いてしまう。

 

 だがマドカの瞳はまだ死んではいなかった。

 

 

 

 

『エム、聞こえるわね。現地点からの撤退を最優先にしなさい。あなたとその機体を回収されるわけにはいかないわ』

 

「……ッチ」

 このままでは危険と判断したスコールの命令に従い、マドカはビットを放出して後退の瞬時加速を実行。この場からの逃走を決断した。

 

 

 

 

「逃がすわけ―――っつ……!」

 

 全身の骨に入ったヒビが、ナターシャの動きを止めてしまう。生身でISの攻撃を受けたダメージが、今頃になって響いてきたのだ。

 

 

 

「ナタル!? 待ってろ、今からアイツボコってくる!!」

 

 マドカを追うイーリス。そこにはナターシャだけが残された。

 

 

「……行くなって言うの? でも、今行かないと――――」

 

 ナターシャは誰かと話をしている。その誰かとは一見しては分からないが、もちろんのことながら福音である。

 

 

「――――ええ、そうね。イーリを信じましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――亡国機業(ファントムタスク)の襲撃から一夜明けた日の昼下がり。

 

 

 凍結処理のはずの福音を使用したナターシャは、本来ならば軍事裁判にかけられてもおかしくはなかった。

 

 だが、誰がどう手を回したのか……彼女にお咎めはなかった。

 

 

 

 ―――――そして……。

 

 

 

 

「嘘………」

 

 米軍の中佐から渡されたメッセージは、ナターシャにとって以外過ぎる内容だった。

 

 

《研究データにより福音は、かなり特殊な単一使用能力(ワンオフ・アビリティ)と酷似した能力が発生したと証明され、当局では福音を再度研究することが決定された。(以下略)》

 

 

 

「今まで通り実験後のデータ収集の時を除いて、福音を警備(・・)してもらう。待機状態のISを守るのは、操縦者が持っていることが最も効果的だからな。代わりに行動には制限が付くが、福音は君の専用機と言ってもいいだろう」

 

 そう言って渡されたのは待機状態の《銀の福音》。こうして晴れて福音は、ナターシャに最も近い場所にいるISとなったのだ。

 

 

「そいつには全ての機能にリミッターが設けられているそうだ。だから以前のような火力や速さはないぞ」

 

「構いません。この子なら―――――」

 

 

 

 

 

 

 待機状態の福音を受け取った彼女は部屋を出て、扉に背中を向けながら嬉しさのあまり福音を胸の前で強く握った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は教会の様な精神空間へと移り変わる。そこにはナターシャと、福音が2人だけが立っている。

 

 

「えっと……俺の処遇って、どうなりましたか?」

 

「スクラップよ」

 

「ええええっ!!?」

 

 せっかく甦ったのに廃棄処分されると言われた福音は、絶叫した後で床に膝をついてむせび泣きを始めた。

 

 

「ひっく……カッコいい見せ場があったからもしやと思ったのに………」

 

「っぷ。冗談よ、真に受けないで」

 口元を手で隠しつつ顔を横に背けながら、ナターシャは笑いを堪えていた。

 

 

「あなたは私の専用機の様な物になることが正式に決まったわ。だからあなたの最後のお願い、ちゃんと叶えてあげられるわよ」

 

「???」

 ナターシャの言う事に、福音は首を傾げた。

 

 

「―――“あなたが消えるその時まで、一緒に居てあげるわよ”――――」

 

「っ……!?」

 

 

 福音は自分が言ったことを思い出し、今思えばあの時の全ての言動と仕草が恥ずかしくなってきてしまった。

 

 だが、ナターシャがさっき言った言葉を思い返した途端、その恥ずかしさはどこかへ消え去ってしまった。

 

 

「ちょ、まっ………それってどういう……―――」

 

「そのままの意味よ。さ、今度もまた頼むわね」

 

 

 

 

 ―――Chu!―――

 

 

 

 福音の頬に、ナターシャの唇が優しくつけられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

お わ り


 
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