No.449647

STAY HEROES! 第二話

拙作のSFミリタリーライトノベル、第二話となります。
まだ一話をお読みで無い方は説明文のリンクから一話へジャンプしてご覧ください。
挿絵は素人のものですので過度な期待はご法度。

※ご要望がございましたので、ここに今登場している人物の名前の読みを記します。

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2012-07-09 02:12:41 投稿 / 全4ページ    総閲覧数:472   閲覧ユーザー数:467

 

 

僕と櫛江さんは学校の倉庫から見つけ出したサイドカーを使って、なんとか機装の回収に成功した。

あれだけ派手な事故にもかかわらず、パイロットと機装ともに無事である。

やはり機動装甲の頑丈さは折り紙つきだ。

流体減衰素材とハニカムパッドの威力は半端ない。

 

さて、高校をぐるりと囲む林の一角。

そこに教育隊格納庫はある。そこで機装の整備を行うのだ。

といっても格納庫というより襤褸小屋だが。錆ついた鉄扉と剥がれかけの天井が哀愁を誘う。

天下の教育隊がこんなんでええんか?

 

 

 

格納庫内の専用ハンガーにつるされた機装『ファントムコメット』。

それを前にして、僕はやる気に発破を入れる。

さて、ここからが本番だ。

 

作業着の僕が胸部装甲を覗きこんでいると、櫛江さんも顔を寄せてきた。

整った横顔がすぐ近くへと迫ってきたせいで、やたらと妹が多い僕でもすこしまごつく。

 

「どうですか?」

「よく動いた、と褒めてやりたいぐらいだね」

 

気休め程度の手直しは加えられている。

が、人工筋肉と疑似神経ケーブルはズタズタ。燃料電池の放電バクテリアも元気が無い。

冷却液の循環も毛細パイプの破損でうまく行っていないし。

多分、パイロットは蒸し風呂状態だったに違いない。ゆでダコやがな。

ちなみにそのパイロット吉岡由常というと、シャワーを浴びに校舎へと出向いたっきり帰ってこない。

 

「ごめんなさい。私は電子演算担当なので、機装自体の修理は素人同然なんです」

「いやいや、謝ることないよ。プログラムの調整は櫛江さんがやったんだろう?」

 

僕は胸部の背面ハッチからパンチカードの入ったとても小さな箱を引き抜く。

極薄合金のパンチカードに記されたプログラム配列は、美しいほどに完璧だった。

 

「逆に言えばこんな機体をプログラムの力で動かしたんだ。大したものだよ」

 

と、僕が言うと櫛江さんのおぼこい表情が照れでふやける。

 

「そんなことないです。この子がいないと私一人では無理でした」

 

櫛江さんは三脚の上にカマドを乗っけたような機械に手を当てた。

そういや、その三脚はずっと僕達の後をついてきている。一体なんだ?

すると。

 

『はじめまして。自分はエリス・トリポッドと申します。櫛江家に20年仕えているモノです』

 

いきなりその三脚は凛とした女性の声で喋り出したのだ。

僕はファーストコンタクトを前にして、返す言葉を失った。

これは、もしかしてロボットという奴ではなかろうか。

 

「あ、ども」

 

なんとか返事を喉から絞りだす。

この時、僕の意識はこのロボットの内部構造に夢中だった。

機械屋の一端としては、ぜひ解体して中身を存分に拝見したいものだが……

 

『ミスターアガタ、心ここにあらずといった感じですがどうしました?言っておきますが解体なんてさせませんよ』

 

ロボットに内心を見透かされて僕は面喰った。

会話できるような電子演算機は相当昔のものだ。

もしかして戦前か?

 

『さあ、何年モノでしょうね?』

 

彼女はそう言うと含み笑いのようなビープ音を奏で出す。

ロボットの反応に釣られてか、櫛江さんまでくすくす笑う。

恥ずかしさで今度は僕がゆでダコになる番だった。

 

 

 

 

その後、修理片手に僕は櫛江さんから色んな話を聞いた。

聞くと、櫛江さんは遠州市が地元だという。

父親が教育隊出身で、その後を追いかけて入隊の勧誘を承諾したそうだ。

他にも、隊に残された機装の数々についての逸話も面白かった。

そちらの方も、いずれは手入したいものだな。

しっかし、吉岡由常はまだ帰ってこないまま時は過ぎていった。

一体どこでなにやってんだ?せめて手伝ってくれ。

 

 

ヘルメットの部品換装が終わった昼下がりの頃だったと思う。

鈍い音を立てて格納庫の鉄扉が開いた。

 

「あ、おかえりなさい」

 

椅子に座り、設計図とにらめっこしていた櫛江さんが音の方向に身体を向けてお辞儀する。

そこには取っつき難い雰囲気の少年が紙袋を抱えて立っていた。

救助した時の汗まみれだった顔はどこへやら、今は涼しげだ。

だから少し文句も言いたくなるわけで。

 

「吉岡君、今までどこ行って……」

「呼び捨てでいい。それより飯だ、食えよ」

 

僕の憎まれ口を遮った由常は、紙袋から缶づめと竹の皮で包まれた握り飯を取り出した。

僕のもやもやは晴れ上がる。なるほど、飯を買いに行ってくれたんか。ええ奴やん。

 

「おお、たすかるわ」

「わあ、ありがとうございます」

「代金は払えよ」

 

前言撤回。

まあ、ここらへんで休憩にしよう。

由常は作業台近くの椅子に腰かけると、不機嫌そうに目を細めた。

「辺鄙な場所だ。スーパーマーケットもねえのか」

「この街にはいい所もたくさんありますよ。私は大好きです」

梅の握り飯を頬張りながら、僕は櫛江さんの言葉に頷いた。

僕もそこそこ新天地について好感を抱いていたのだ。

林の切れ目からは広い太平洋が顔をのぞかせる。

格納庫に吹き込む春の空っ風がとても気持ちいい。

 

 

 

 

さて、問題はここからである。

 

「ところでさ」

 

僕が口火を切ってしまった。

 

「教官さんと他の隊員はどこにいるのかな」

 

僕はずっと気になっていたことを櫛江さんに聞いてみたのだ。

だいたいの教育隊では高校の先輩に当たる軍人が指導すると聞く。

だが、その姿を僕は一度も見ていない。

 

「実は隊員はこの三人だけなんです。私も教官さんとは小学校の卒業式に顔を合わせてからお会いしてませんのでどこにいるのか……」

 

……。

 

今の答えは色々とおかしかったぞ?聞き間違いだろうか。

 

「教官殿なら機装の受領ともう一人のパイロットを探す旅に出たきり音信不通だ」

 

頬づえをかいた由常がつっけんどんに言う。

もう一人?はて。

 

「団体戦やるにはパイロットがあと二人足りないじゃないか」

 

機装競技は一対一の個人競技からなる団体戦だ。

ルールは格闘戦から銃撃戦まで幅があるけども、

三人一チームで先に二勝した方が勝ち点獲得となる。

東海管区リーグでは六チームが勝ち点を春秋の二回に分けて争うのだ。

僕が聞き返すと由常は大げさな溜め息を吐きだした。

 

「お前も何も知らないクチか。お前に俺の知ってる事を教えてやる」

 

なんだ、勿体ぶって。よし、何言われても驚かないぞ。

 

「まず、三人目のパイロットはお前だとよ、安形」

 

何とかー!

 

「ほんまにょん!ほんなん言うてもワイかて機装競技やんなんちゃできひん!」

「何語だよ。わかんね」

「『急なことなので機装競技のパイロットは難しい』、ですか?」

「櫛江さん!通訳はやめて!」

 

困った顔で首傾げるのもやめて。

標準語喋れるから、勉強したから。

 

「人選も目茶目茶だぞ。今年17のかっぺ整備員と13歳の飛び級隊長。マトモな奴がいねえじゃねえか」

 

僕と櫛江さんは弾き飛ばされるようにお互いの顔を見合わせた。

そう、僕は高校進学のために今まで働きながら金を溜めていた。

そんな折、突飛ない勧誘の電報が舞いこんできて僕は考えも無しに飛びついたのだ。

僕の年知らんかったんかい櫛江さん。

てかやっぱ櫛江さんめっちゃおぼこいやんけ!

 

「おまけに市議会で遠州教育隊の廃止が可決されかけてんだから世話ねえな」

 

由常の吐き捨てたその言葉を聞いた時、僕は斧で頭をカチ割られたかのような錯覚を覚えた。

 

 

 

 

おい待て。

ここまで来て廃止?

僕はどんな顔で村に戻ればいいんだ?

それに溜めた金はもう妹達の進学に回してしまっている。

もう手遅れだ。

うまい話には訳がある。

目の前がぐんにゃりと歪むような目眩が僕を襲う。

 

 

 

「だから俺たちは廃止案が否決されるよう、春季リーグで成果を出すしかねーんだ。議案通過までのタイムリミットはあと二カ月」

 

由常の言う二ヶ月後の五月の頭。

その日は春季リーグの第一戦があるはずだ。

 

「そして第一戦はあの装甲鉄騎軍が相手なんです……」

 

そう言って櫛江さんは俯いた。

『装甲鉄騎軍』

僕だってその名前くらいは知っている。

前の戦争を事実上終わらせた教育隊だ。

当然めっちゃ強い。

 

気不味い沈黙が格納庫を覆う。

いやいや、まだ廃止になったわけじゃない。これからだ。

 

「今から落ち込んでてもしょうがない。気楽にいこうよ」

「そ、そうですね、頑張りましょう」

 

やにわにカラ元気を見せ始める僕と櫛江さんである。

由常は苦い顔で天井から覗く青空を見上げていた。

 

 

 

 

櫛江さんはその後も格納庫に残り、整備を手伝ってくれた。

おかげで日付が切り替わる頃には、由常の担当機装『ファントムコメット』はそれなりに持ち直した。

その間、由常はどこからか掘り出したライフルをずっといじくり回していたけど。

……銃器を使用する競技があるので文句は言えん。

晩飯も買いに行ってくれたし。

 

が、アクシデントは次々に持ち上がるのが常で。

なんと、教育隊の寮は先に廃止されていたのだ。

櫛江さんはともかく僕と由常は宿無し状態である。

後悔先に立たず、後を絶たず。

ちくしょう。

てな訳で僕はシャワーを浴びて着替えた後、

行軍用の毛布にくるまって真っ暗な格納庫へ横たわる事になってしまった。

夜も遅いので櫛江さんもこの境遇につき合わせてしまっている。

櫛江さんの寝息を立てている真横では、エリスが一瞬の隙も無く周囲を警戒していた。

今も由常は作業台で小銃の整備にご執心だ。

人生山あり谷ありだな。でも谷から這い上がった時の気分は格別なのだ。

もう開き直るしかないわい。

二ヶ月後の試合に勝てばいいのだ、勝てば!

そう決心して、僕は寝るために瞼を閉じた。

 

 

 

さすがに最初の谷がこの数時間後にやってくるとはつゆに思っていない僕である。

 

 


 
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