2月15日
魏の事務次官会議で仲徳様より、仲徳様と華陀殿、そして一刀様共同で「馬鹿には利かない向精神薬」の開発に成功したとの発表があった。
なんでも精神疲労を軽減又は解消する薬であるが、不可思議なことに馬鹿には効かないという。
但し一時的に人格が変化しその最中の記憶を失ってしまう為一刀様の立会いの下服用されたい、曹操様にお勧めする前に被験者を募集するとの事だ。
「馬鹿には利かない」という但し書きに皆一様に首を捻っていたが、妙才様が成る程と呟いて被験者を申し出た。妙才様が『最近仕事の疲れが抜けなくてな。服用は一般に沐浴、夕食後が良いのだろう?』と聞いて仲徳様が『そうですね~、秋蘭ちゃんは理解が早くて助かります~』と答えると、『あ、そういうっ…』という声が上がった。
その方は詠様で、顔を紅くしてらしたが暫く逡巡した後『ボ、ボクも被験者になるわ!秋蘭の次の日でいいから!』とこれまた申し出られた。
その後稟様も立候補されたあと、妙才様が『流琉、飲んでみたらどうだ』と仰り、典韋殿も何故か頬を染めて迷っていたようだが『わ、わたし、馬鹿かもしれませんけど』と言いながら被験者となることを承諾された。
会議後、私も被験者となったほうが良かったでしょうかと子丹御嬢様に伺ったところ、
『何いってるの、仲達は馬鹿だから駄目に決まってるじゃない』と真顔で言われた。
少しだけ傷ついた。
少しだけ、傷ついた。
2月16日
最近始めた料理でいまいちこつが掴めないところを教授して貰う為、厨房へ典韋殿を訪ねた。
快く教えて頂いた後に、厨房の隅に置いてあった甕は何かとふと気になったので聞くと、『味噌』というものらしい。曰く、これを湯で溶き出汁を加えて具を煮たものを天の国で一刀様が日常的に食していらしたという。もう一刀様へお出しされたのですかと聞くと、華琳様のあとにお出ししたいのでまだ出していないとのことだ。
これは内緒なんですけどと前置きをされて伺った話では、以前曹操様は料理大会で一刀様の故郷の料理である『ぷりん』を一刀様の為に作ったところ、南蛮娘達に食べられてしまった。その場では一刀様が南蛮娘を許された為曹操様も怒るに怒れず、大会終了後に密かに一人で泣かれていたのだという。でもようやく再び作れるだけの材料がそろいそうなので、今度こそ華琳様がお作りになって兄様がお食べになったら、私も『味噌汁』を作って兄様にお出ししたいと典韋殿は語った。
いたく感心し、『ぷりん』も『味噌汁』も一刀様が喜んで下さると良いですね、と言ったところで
最近妙に聞き慣れたどたどたという足音に二人揃って眉間に皺が寄る。
「蜀の劉封と!」
「関平です!典韋様!典韋様がしばしばしゃぶっておられるという一刀様の使用後のお箸を一膳で良いので私共にもぐえっ!?」
と言い掛けた二人の阿呆娘に、真っ赤な顔をした典韋殿が投げつけた中華鍋が乾いたいい音を立てて命中した。昏倒した蜀の金枝玉葉を引きずって此奴等は蜀に引き渡しておきますが、と言い掛けると
「してません!してませんよ!?本当に、極稀にちょっと残って勿体無いなって時だけですから!」
と言いながら押し出されてしまった。
私も欲しいという考えが頭を掠めたが言えなかった自分に安心もし不安にもなった。
2月19日
天の語録の参考書を借りに叔達の書斎に訪れたが不在のため勝手に探させてもらっていたところ、『三国志 魏志』という書物がふと目についた。著者の欄を見ると陳琳とある。
そういえば叔達が亞莎の依頼の小説を陳琳のものかと言っていたのを思い出し、なんとなく手に取ってみると初頁に『これに書かれた曹操という人物に私自身も嫉妬と羨望と心身の高揚を覚える 曹操孟徳』とある。
読んでみると物語は大分に脚色されているようで、一刀様が御降臨当初は曹操に出会われ部下となり、戦に政治に御活躍なさっていき諸将との信頼を深めてゆく。次第に現重臣の方々との愛情が育まれてゆき、初めに凪との愛を確かめあう描写が妙に妖艶なと思ったところでこれは官能小説だと気づいた。
以降は物凄い、寵姫の方々との濃密な愛の交歓を中心に物語は進む。警備隊の部下や軍師達と心身共に深く通じ合ってくなかで、後ろで初めて致したのは曼成殿ということになっており、文若様に至ってはその内心を見透かし半ば犯すようにして愛を注ぎ、その結果文若様は二人きりの時のみ被虐趣味を一刀様の前で露わにするようになったとしている。
そして董卓軍を壊滅させ袁紹と険悪になりかかっていくくだりで、後ろから『仲達姉様?』と声をかけられて口から心臓が飛び出すほど驚いた。
にやにやしながら『ちょっとは勉強して頂きたいですし、現在三巻までありますからお貸ししてもいいですよ?汚しさえしないで頂ければ』と言う叔達の表情は腹立たしいものだった。
2月21日
来年度予算の原案が集まった。一刀様の御意向を受けて上下水道、治水、街道整備の予算が今年度も増えている。
そう言えば軍が工事部隊に流用されているせいもあるのか工事に詳しい武官が増えたようだ。
子敬が『うちから治水技術指導で派遣されてきた連中が一刀様のお部屋に入り浸りで困ってるのよ、貴女達は指導に来たんであって一刀様にあんたの谷を治水して貰いに来たんじゃ無いってのに…』とぼやいていた。建業、寿春付近は比較的平地が多いと聞いていたが、与えられる土地には山岳部も多いのだろうか?
3月1日
三国競技会の新人戦が開催された。
士季の言うとおり、剣技部門では姜維が優勝した。決勝では御嬢様と子孝様が目をかけていた王双が善戦したが、その美貌を羅刹の如き凄愴なものにして攻め寄せる姜維に押し切られたようだ。
試合後に、御嬢様と子孝様が憮然とした表情で
「やっぱあれですか、持つものと持たざるものの気迫の違いっていうんでしょうか?」
「見所あると思ってちょっと夜のお供させるの早すぎたかしらね。姜維みたいに乾く暇もないほど飢えさせないとやっぱここぞでね?」
とお話されていて、王双が顔を真っ赤にして面目無げにしていた。
一方市街戦部門では士季が優勝していた。
「あの女、本当に王族なんですかね!?あんな汚ねー手何でも使ってくる女私以外で初めてみましたよ、あの女やばい、知る限り一番やばい。今後、今の鼎立をひっくり返して自分ひとりヤれればいいみたいな事をするとしたらあの女ですね!本当、要注意ですよ!」
と事後に決勝で当たった孫尚香様の事を毒づいており、他国の王族をあの女呼ばわりはしないよう嗜めたが士季が他の者に対してこのような言い方をするのは初めて見た。
彼女なりの最大限の評価なのかもしれないと思い、いずれ私を超えて彼女と渡り合えと言ったところ『仲達様を超えて?プッ』と口の端を歪めて無性に腹立たしい表情を浮かべた為久々に吊るした。
『近々一刀様に御褒美を授かるんですからぁー!痕がつくのはやめて下さい、仲達様の変態趣味に付き合わされたって喋りますよー!?』
等と喚くので夕方には降ろした。
Tweet |
|
|
73
|
5
|
追加するフォルダを選択
その後の、とある文官の日記です。