・・・世界は崩壊の危機を迎えていた。
蒼い宝石の魔力によって、跡形もなく消え去るはずだった。
しかし世界はいまだ存在し続けている。
変わらない日常を迎えている。
何故か?
その理由を知る者は少ない。
わずか20名ほどの集団が、この世界を救った事など誰も知らない。
それどころか、自分達が最後の時を迎えかけていた事さえ気づかないままだ。
ましてや、その中心にいたのがわずか8歳の女の子だったなどと・・・誰も思うまい。
「う~ん、う~ん」
そんな誰にも知られず英雄的偉業を成し遂げた少女は現在、自分の部屋で唸っていた。
―――――――――――――――――――――――――――――
その日、なのはの部屋には一匹のUMAが出没していた。
その生き物の名前はタレなのは、スライムのように造形を崩してだれているなのはだ。
見ようによっては実に可愛いが、本人は全く嬉しくないだろう。
世界を救った英雄どころか、女の子としてそれはどうよ?な有様だ。
当然だが、本人も別に望んでだらしなくしているわけではない。
「大丈夫、なのは?」
「ありがとうユーノ君、おみじゅ~」
「ああ、はいはい」
二日酔いの酔っぱらいに見えなくもないが、今の彼女の状態は、医学的に言えば全身筋肉痛と診断される症状だ。
ちなみに、いまのなのはは8歳児でありながら全身に湿布薬を装着している。
筋肉痛の治療など、ほかに方法がないので仕方がないのだが、おかげで臭いが凄い。
部屋に臭いがこもる。
「うう、目にしみるの~」
『筋肉痛って、その時よりも後で症状が出てきますからね~』
「こんなにきついなんて知らなかったなの~」
8歳児で筋肉痛の経験があったらそっちの方が問題だろう。
一体何やらかしたのだと言う話だが、それに対しては世界を救ったからだと誰にも言えない理由がある。
なのはがこんな状態になった原因は、魔法使いとしての力を行使したからだ。
過ぎた力は身を滅ぼすとはよく言ったもので、魔法使いとしての力の反動がなのはの体に筋肉痛として返ってきていたのだ。
事件から数日が過ぎてもまだ復活できない。
『なのはちゃん?何時も教えていますが、魔術師の魔術は等価交換が基本なんです』
まあ確かに、魔術師の中には魔術回路を構築する段階で死んでしまう者もいるし、世界を救うなどといった偉業の代償と考えれば破格もいい所だろう。
ここ数日はニュースが全部特番になって延々と災害ニュース三昧だった。
ジュエルシードが発動していた時、地球は地震と嵐がセットで荒れ狂ってまさに末世状態だったらしい。
場合によってはリアルに北斗の拳の世紀末な世界になりかねなかった。
一家総出にすずかまで加えてアースラにいた間、誰とも連絡が取れなかったアリサとハヤテに電話で怒鳴り倒されたのを鎮めるのが、実は一番骨を折った。
「うう、ルビーちゃんがまともな事言っているの、もう終わりなのかもしれない」
『あはぁ~結構ひどい事言ってますよねーなのはちゃーん』
「なのは、安静にしてなくちゃ駄目だよ」
なのはの看病を率先してやってくれるユーノには頭が下がりっぱなしである。
更に小学三年生とはいえ、自分のダメダメな部分を見られて女の子のプライドがボロボロと削られている。
家族は心配してくれるのだが、それぞれ仕事や学校という如何ともしがたいものがあり、それならここは居候の出番とユーノが名乗りを上げてくれた。
ところでフェレット姿でちょこちょこ頑張ってくれるのは見ていて微笑ましいのだが、なんで人間に戻らないのだろうか?
彼なりに、なのはの退屈を紛らわそうとしてくれているのか?
「ユーノ君?」
「ん?何?」
「えへへ~ありがとうね」
「う、うん」
なのはに微笑まれたユーノが真っ赤になる。
『ぴらりーん!なのはちゃんがニコポのスキルをゲットしました~これは逆ハールートのフラグ?』
「え?そうなの?」
『何でそこに食いつくんですかこのイタチは?まさかなのはーれむに参加したいとかぬかすんじゃないでしょうね?』
「作りませんから、なのは~れむなんて作りませんから!!残念!!」
視界の隅で、本当に残念そうにしているユーノなど見えないし知らない。
「ってあいたた!!」
なのはが痛みにうめいた。
ぴくぴく痙攣している。
『そりゃあ、身動きも出来ない癖に叫び倒せばそうなりますよね~?』
「ルビーちゃんのせいなの!!」
誰が、彼等がこの世界を救った英雄達だと言って信じるだろうか?
「・・・フェイトちゃん達、どうしているかな?」
あの後、なのは達は簡単な健康診断の後で家に帰ってくる事が出来たが、テスタロッサ親子は、未だアースラの中で事情聴取を受けているだろう。
プレシアのやった事は、理由が理由だけに同情の余地はある。
しかし、事が世界崩壊に発展しかねなかっただけに、情状酌量にも限界があるだろうとリンディとクロノは言っていた。
なのはもそれに関しては仕方がないと思う。
やはり罪は罪だ。
しかも、世界という絶対に取り返しのつかない物を失うかもしれなかった罪となれば、子供であるなのはにも、簡単に許されるものではない事くらいは理解できる。
それでも、出来るだけ軽い刑で済むといいなとなのはは思うのだ。
『・・・なのはさま?』
「レイジングハート?」
名前を呼ばれた事で、なのはが思考の海から帰還する。
騒がしい部屋の中で、唯一静かに黙っていたレイジングハートだ。
『時空管理局、アースラからの通信が届いています』
―――――――――――――――――――――――――
「か、帰って来た!海鳴臨海公園よ!!なのはは帰って来たなの!!」
何かをやり遂げた達成感を得ながら、なのはは宣言した。
連絡を受けたなのはがやってきたのは、海鳴の臨海公園である。
先日、ジュエルシードがとりついた木とやりあった所なので、帰ってきたと言うのもすべて間違いというわけでもないだろう。
未だに筋肉痛が治っていないなのはにとっては、近所の公園に行く事さえまさに冒険でっしょでっしょだったわけだが、やり遂げたなのははどや顔だ。
キランと輝く歯が芸能人並に白い。
ともかく、そんな無茶を押して出てきたのは、レイジングハートが受けた通信の内容が、無理を押してまでやってくるに足るものだったからだ。
事情聴取が終わったアースラが、この世界を離れると聞けば無理をしてでもお別れを告げに来ないわけにはいかない。
本当なら、バリアジャケットを展開して飛んでくるのが一番早く、無理も少なかったのだが、空を飛んでいるところを見られたらUMA(未確認生物)からUFO(未確認飛行物体)にクラスチェンジしてしまうので自重するしかなかった事情もある。
なのはが魔術師で、強化の魔術を使えなかったら途中で行き倒れていたかもしれない。
筋肉痛と魔術行使のおかげでなのはのHPはそろそろ0である。
「もう、ゴールしてもいいよね?」
「いやいやなのは、待って待ぁーって!!ここから、ここから始まるんだよ!!」
AIR風にゴールしそうになっていたなのはを、ユーノが引きとめる。
ちなみに、ユーノの他にはルビーとレイジングハートも一緒だ。
本当ならみんなも連れて来たかったが、何やら時間もないらしいのでなのはだけで来たと言うわけだ。
『結界が張ってありますね』
「うん、リンディさん達が張ったのかな?」
公園の敷地に、薄い壁のようなものがあるのを魔術師としての感覚がとらえる。
おそらくは、認識阻害か人払いの結界だろう。
かまわず、むしろより問題である筋肉痛を押して公園の中に入って行くと、薄い膜を素通りする感覚と共に、公園の外から見た時には気がつかなかった人物が公園の中に現れた。
おそらく視覚阻害で、外からは見えなくなっていたのだろう。
「なのは!?」
内一人がなのはを見つけて声を上げると、全員の視線がなのはに集中した。
次いで、声の主である少女がなのはに向かって駆けてくる。
見覚えのある金髪の少女はフェイトだ。
「あ、あれ?な、何これ?何でフェイトちゃんからプレッシャーを感じるの?は、これはもしかしてニュータイプの目覚め?」
『いや~ただ単に本能が危険信号を発しているだけじゃないですか~?』
「危険信号?」
ルビーの言っている事の意味が分からず、なのはは首を傾げるしかなかった。
『フェイトちゃん、走り込んできて抱きつく気満々に見えますけど、今のなのはちゃんは全身筋肉痛だから生存本能が命の危機を訴えかけてきているんですよ』
なのはは血の気が下がる音を聞いた。
立っているだけで精一杯で避ける事も出来ないのに、このうえ飛び付かれた日には本当にゴールしかねない。
「フェ、フェイトちゃんちょっと待った!?」
残念、すでに阻止限界点は超えている。
フェイトはすでになのはに向かって最後の一歩を踏みこんでいた。
もはや止まる事は出来ない。
そして、くどいようだが全身筋肉痛のなのはに、人間ロケット・・・あくまでなのはの感覚で・・・を避けるような運動神経は残されていない。
現実は残酷である。
なのはは色々な物に別れを告げて目を閉じた。
次の瞬間、ドンとぶつかってきた物を受け止めたなのはは・・・。
「Nyaaaaaaaaaa!!」
自分でも驚くような怪獣的悲鳴は、結界に阻まれて公園の中だけにとどまった。
防音結界万歳と言う言葉と共に、なのはは意識を手放す。
―――――――――――――――――――――――
「う~ん、う~ん」
気がつけば、なのははベンチで唸っていた。
自分の部屋から公園のベンチに移動しただけで何も変わっていない。
むしろベッドから木のベンチに代わって寝ぐるしい分でマイナスだ。
「ご、ごめんなさいなのは」
「き、気にしないでなの~」
申し訳なさそうに、ベンチの横から覗き込んでくるフェイトに根性で笑みを返す。
「ごめんなさいね、そんな事になっているなんて知らなくって、言ってくれれば私達の方からお宅にお邪魔したのに」
「き、気にしないでください。ってだれ?」
紫の長髪をポニーテールにして、瓶底のような丸いレンズの眼鏡をかけている女性がいた。
しかも服装が・・・上下ジャージ?
あのポニーテールにしたって、おしゃれの為というよりは面倒くさいからひとまとめにしたと言う感じにも見える。
「えっと、多分プレシアさんだろうけれど、誰ですか?」
「プレ~シアよ」
「そんな、声まで変わってる!?」
『なのはちゃん、そのエステティックなネタが分かる貴女は一体いくつですか?』
魔法少女に年齢はNGだが、少なくとも精神年齢が8歳ではあるまい。
それはともかく、やはりプレシア本人ではあるらしいが、あの露出の高いドレスは?
女王様なプレシアは何処に行った?
ビフォーよりもアフターの方が見た目レベルが低くなるというのはどう言った理屈だ?
「この前はごめんなさい。貴方達には本当に迷惑をかけたわね」
深々と頭を下げる殊勝な彼女・・・なのはの知っているプレシアは娘命の唯我独尊女王様だったはずだが・・・本当に誰だこいつ?
プレシアに似た誰かほかの人間じゃないのか?
なのはがマジマジとプレシア(仮)を見ていると、隣に立っていたアルフがやれやれだぜな顔をした。
「なのはさん、混乱するのは分かりますけど、これがこの女の素の状態らしくって」
「なんですと?」
つまり、これが真というか素のプレシア・テスタロッサ?
むしろなのは達が知っているプレシアの方が偽物?
娘の死が彼女を変えてしまったのだろうが、その本性は研究以外は割とずぼらだったと言うオチか?
「だって、これが楽なんだもの~ジャージってきるのも脱ぐのも楽だし、所で何で駄犬はなのはちゃんの事をさんづけで呼んでいるのかしら?」
「駄犬言うなって、敬語なのは当り前だろう?誰だってあんな極太砲撃で躾られてたまるもんかい。普通に死ねるだろ?」
「そうなの?あのスターライトブレイカーって魔法にはおばさん驚いちゃったけど、あんなので躾るなんてなのはちゃん、怖い子!!」
「いや、いくらなんでも折檻でそんな事しませ・・・」
しませんとは言い切れなかった。
あの時はディバインバスターだったが思いっきり前例があるし、アルフはそれを見ていた。
フェイトなんか、何を思い出しているのかプルプル震え出している。
「「「あいた!!」」」
嫌な沈黙を打ち破ったのは、ほぼ同時に三つの軽快な音がした。
見れば三人が三人とも自分の頭を押さえている。
「母さんも姉さんもアルフも、病人を困らせるようなことしちゃダメ!!」
「「「はい、ごめんなさい」」」
三人がそろってなのはに頭を下げる。
犯人らしき人物は、片手に超特大ハリセンを軽々と持って構えている少女だ。
フェイトによく似た容姿と、共通する金髪でその正体がたやすく知れる。
「アリシアちゃん?」
「はい」
ぺこりとなのはに対して頭を下げる彼女は、間違いなく先日蘇りを果たした少女だ。
それに彼女は今・・・。
「フェイトちゃんをお姉ちゃんって・・・」
「はい、全部聞きました」
ずんとアリシアが沈む。
どうやら本当に嘘なく全部聞いたらしい。
「でも、それは全部私のせいだったんです。そして姉さんも、どんな生まれであってもフェイト・テスタロッサは私の妹でお姉ちゃんです」
・・・なんていい子なんだろう。
フェイトなんか涙目をウルウルさせているぞ。
「うう、ごめんなさいアリシア~!!」
・・・そしてこっちはなんてダメな大人なんだろう?
大人のマジ泣きしている姿なんて見たら、退く以外のリアクションがとれないんですけど?
「フェイトもごめんなさーい!!」
「か、母さん・・・」
「こんな私をまだ母さんなんて呼んでくれるのね」
フェイトに縋りついて泣いているのは本当に誰なんだろうか?
プレシアそっくりの別人という選択肢はないのか?
「ま、まあ・・・家族関係が順調に再構成されているって好意的に見るの」
そう言う事にしておこう。
そっちの方が誰にとっても幸せになれる冴えたやり方だ。
「これから姉共々もよろしくお願いしますねご主人様」
「はい、ちょっと待ったなの」
なのはがアリシアの言動に反応して待ったコールをかける。
反応せざるを得ない単語が混じっていた。
「ご主人・・・さま?」
「はい、なのはさまは私のマスターです。それはすなわちご主人様です」
忘れていたわけではないが、なのはの左手にはマスターの証である令呪が存在している。
つまり、どう言う紆余曲折を経たのか全く分からないが、なのはとアリシアの主従関係はいまだ継続中であり、二人のマスターとサーヴァントの関係も変わらない。
ちなみに、サーヴァントを直訳すると≪奴隷≫となると言う事を知っているだろうか?
「だから、なのはさまに一生ついていくんです!!」
「ええ!?」
「不束者ですけど、どうぞ末永くよろしくお願いしま~す」
にっこり笑うアリシアは可愛いが、思いっきり問題発言だった。
少なくとも女の子が女の子に対して笑顔込みで言う言葉じゃないだろう。
しかも三つ指ついて、誰が余計なことを教え込んだ?
「うう、よくできたわね、幸せになるのよ。アリシア?」
犯人は|お前(プレシア)だ!!
「ええー!?」
「・・・何かしらなのはちゃん?」
声の温度が冷えた。
眼鏡の奥の瞳は、ブラックプレシアに戻っている。
身動きのできないなのはがビビった。
「家の娘を使い魔にした挙句、責任もとらないつもり?なのはちゃんはそんなダメ男な事はしないわよね?」
「そ、そんな事を言われても!!」
人様の娘を、望んで使い魔にする外道扱いは嫌だ。
しかも後は知らないと放り出す無責任は人間のクズだ。
そんななのはを見たプレシアはふっと笑った。
「わかった。わかりました。も~なのはちゃんったらおねだり上手ね!!それならフェイトとアルフもつけるわ!!」
「何でそこでなのはが催促したみたいな方向になっているのか理解できないなの!!」
理解出来たらそれは鬼畜だろう。
明らかに人身売買っぽい物言いだからだ。
お前はたった今母親とか言っていたはずだろう?
娘を押し付けようとする母親はダメ女では無いのか?
「なのは?」
「フェイトちゃん助けて!プレシアさんが壊れてる!!」
「これからよろしくね」
「なんでこの展開に対してその台詞が出てくるの!?」
なのは突っ込みまくり・・・病人なのに・・・。
「え?これってオンガエシって言うんじゃないの?なのはには母さんを助けてもらったし、ほかにも・・・そんな人にはちゃんと全身全霊で恩返しをしなさいって・・・」
「誰がそんな事を!?」
「よくできたわね、フェイト?」
やっぱり犯人は|お前(プレシア)だ!?
「今までごめんなさいフェイト、私は悪い母・・・いえ、母親なんて言えないわね・・・」
「母さん・・・そんな・・・」
「あっれー?心の壁が展開されているなの?」
絶対家族領域(A・Tフィールド)を張られてしまっては、他人であるなのはは立ち入れない。
「今さらだけど、アリシアだけでなく貴女とアルフの幸せも願っているわ」
「そんな、母さん!!」
「ママ!!」
しかもアリシアまで参加して、絶対領域がさらに強固になった。
あの母子の会話を止めようとすれば、その前になのはの心が折れるだろう。
なのははNOと言えない日本人。
「うう、テスタロッサ一家総出で追い込まれている気がするなの~」
プレシアもフェイトもこんな性格じゃなかったはずだろう?
たかが数日、されど数日、それは人格を豹変させるには十分な時間なのか?
どうやら、なのはがタレなのに退化している間に、彼女達の関係はカオスに突入していたようだ。
「なのはさん・・・」
「アルフさん」
ポンと肩に手を乗せて慰めてくれる忠犬の優しさが暖かかった。
「なのはーれむ・・・これがなのはーれむか・・・女の子同士なんて・・・不純だけどそれが・・・いい」
「ユーノ君、何を想像しているなの!?」
真っ赤になって不埒な想像をしている(断定)ユーノに、八つ当たり気味のガンドがたたき込まれる。
「はは、見て見てなのはー!飛んでる、僕飛んでるよ!!I Can Fly!!」
空を木の葉のように飛んでゆくフェレットは輝いて見えた。
何時も自力で飛んでいるくせに・・・。
――――――――――――――――――――――
『あはぁ~楽しそうですね~』
身動きも出来ないのにわたわたしているなのはを、ルビーはちょっと離れた場所から見ていた。
『自分でひっかきまわすのもいいけれど、たまにはこうやってなのはちゃんを愛でるのもなかなか乙なものですね~』
何所までも根性が腐っている物言いだった。
本当にこいつはなのはの礼装なのだろうか?
『それにしても・・・アリシアちゃんは一体何なんでしょう?』
正直、彼女が今どう言う存在かは、ルビーを持ってしても測りかねている。
本人やプレシアには絶対言わないが、おそらくまともな人間ではあるまい。
アースラの身体検査においては特に問題なしと診断された。
唯一、生前にはなかった魔力資質が確認されたが、ジュエルシードの魔力が彼女に流れ込んだはずだから、ある意味でそれも当然と言えば当然だろう。
しかもアリシアはなのはをマスターと呼んだことからサーヴァントではあるらしいし、本人にも自覚はあるらしい。
・・・彼女は一体、どんな存在になってしまったのだろうか?
「・・・ルビーちゃん?」
『はい?』
アリシアの事を考えていたルビーに声をかけたのはリンディだ。
隣にはクロノもいる。
「ごめんなさいね、わざわざ来てもらって」
『いえいえ~それよりも結局どうなったんですか?』
「今回の事件は、すべてプレシアさんが一人で首謀し、計画した事になっているわ」
ジュエルシードを運搬していた次元航行艦の事故から、ジュエルシードの同時発動まで、フェイトとアルフはあくまで何も知らずに、母であるプレシアの言う事に従っていたと言う事になっている。
報告書の上では、フェイトもアルフも被害者の一人として扱われている。
つまり罪を裁かれるのはプレシア一人・・・全てはプレシアの願いだ。
『だから、フェイトちゃんとアルフさん、アリシアちゃんをなのはちゃんに任せたいと?むしろすがりたいと言うのが本音ですか?』
かなり遊びが入っているのは確かだが、大元の部分はそんな所だろう。
犯罪者として見られている今の彼女にとって、知人は頼れまい。
迷惑がかかるし、フェイト達もどんな目で見られるか知れないからだ。
ならば、この世界にいた方が彼女達の為にもいいのではないか?
最も信頼できるのが一度は戦った相手というのは皮肉を感じざるをえないが・・・なのははこの97世界という管理外世界の人間で、時空管理法になじみがない上に、本人はフェイトと友達になりたがっていた。
彼女の両親も信頼が置ける。
フェイト達の保護者兼後ろ盾にはちょうどいい。
正直に話しても断られる可能性は低いと思うが、割と重い話をからかいのネタにするあたりでプレシアも只者では無いと思う。
本人は優秀らしいので、馬鹿と天才はのアレだろか?
『でもリンディさんはそんな事を話したかったわけじゃないんですよね~?』
「・・・・・・」
リンディとクロノが分かりやすく身を固くした。
クロノはともかく、リンディはその立場を考えれば少し素直すぎるかなーとも思う。
「今、この97世界は時空管理局に最も注目されている世界です」
世界意志と呼ぶべきものの存在が確認された。
そして世界意志の代行者である守護者と、その驚異的な戦闘力と、無から有を作り出す様な常識はずれの能力に、それと真っ向からガチな勝負が出来る“人間”と、奇跡としか思えないような死者蘇生。
「なんとか、アリシアさんに関しては誤魔化せたんだけど・・・」
死んだ人間が生き返ったと言う奇跡は、宗教的にも科学的にも問題がありまくる。
そんな事が知れ渡れば、アリシアはまともな生き方が出来なくなるだろう。
「・・・ルビーちゃんには・・・現在、ロストロギアの疑いが掛っています」
しかし、誤魔化せたのはアリシアに関してだけだった。
そもそもこれほどの大事、穏便に済ます為には、ジュエルシードが事故で散逸した事件からなかった事にするしかない。
『それはそれは~でもルビーちゃんは世界を滅ぼしたりできませんよ?』
「・・・ロストロギアと言っても、全てが危険な物ではないのよ」
『ああ、そうだったんですか?でも、そんな言い訳抜きにルビーちゃんが欲しいんでしょう?』
「それは・・・」
リンディが言い淀む。
時空管理局がルビーを欲しいと思う理由は簡単だ。
どうにか出来そうなのがルビーだけだからだろう。
世界意志と守護者はほぼセットになる。
その存在を確認し、守護者を顕現させる方法自体は簡単だ。
もう一度、世界が消え去るような事をやらかせばいい。
その場合もれなく守護者に世界の敵認定される上に、道義上も時空管理局の存在意義的にもそんな事は出来ないしするわけにもいかない。
そんな中で、ルビーだけは個人の所有物だ。
『あはぁ~ルビーちゃんモテモテですね~』
「・・・・・・」
コメントに困るが、ルビーが注目されているのは確かだ。
ロストロギアかどうかを判定するという名目通りの目的は確かにあるだろうが、持ち主の可能性を引きよせ、それしだいにおいては最強クラスの能力をほとんど無条件で与える事ができ、何より魔術という未知の技術によって作成されたデバイスよりも明確な人格を持つマジックアイテム・・・ルビーの人格はあれだが、その能力は誰も無視できない
人の善悪関係なく、ルビーの力は興味をひかずにはいられない代物だ。
『いいですよ』
「え?」
『だから時空管理局、行ってもいいですよ』
その答えはリンディにしてみれば意外だったらしく、しばらくその意味を理解できなかった。
「いいの?」
ルビーは愚かでは無い。
普段の言動があれだが、ルビー自身は決して暗愚では無い。
自分が何故ロストロギアとしてい疑われているのかの理由・・・その表も裏も理解しているに違いない。
『断ると勧誘とか面倒くさそうですしね~』
「それは・・・」
あっさり諦めるには、カレイドステッキの能力は魅力的すぎるとリンディも思う。
カレイドステッキは、ルビーの言うように大量破壊や殺戮をもたらす様な物では無いため、強制的に強奪するような無茶な真似はするまいが、ルビーが拒否すればリンディは持ち主であるなのはに交渉するしかなくなる。
それが迷惑だろうと言うのは簡単に想像できるのだが・・・ああ、宮仕えの悲しさよ。
そんな理由で、ルビーが素直に了承してくれたのは渡りに船だった。
「ごめんなさいね、脅迫するような形になってしまって、出来るだけ早く帰れるように手配するから」
『よろしくお願いしますね~』
――――――――――――――――――――――――――
『って言う事でちょっと時空管理局本部まで行ってきますね』
「え?いきなり何なの?」
なんとか、現在フェイト達が借り受けているマンションで、そのまま三人で生活し、保護者として士郎と桃子をつけると言う事で話を収めた・・・ように見せかけて悪女に誘導された途端にこれである。
?マークも乱舞しようというものだ。
『だからですね~時空管理局の中に身の程知らずにもルビーちゃんにちょっかい出そうとしている連中がいるみたいで、』
「え?時空管理局ってショッカーだったの?」
『そうなんですよ、寝台にルビーちゃんを拘束して『やめろ、やめるんですよ~時空管理局―!!』って』
「「そんな事はし|ません(ない)!!」」
ハラオウン母子の二人で一つのW突込みだった。
「う~ん、大丈夫なの?」
『大丈夫じゃなかったら、リンディさんが魔法少女になります』
「え?」
『しかもクロノ君がマスコットになります』
「なに!?」
『しかもその格好のまま一週間、生き恥をさらしてもらいます。勿論、本気と書いてマジですよ』
|災厄(ルビー)は常に周囲を巻き込まずにはいられない。
予想外の方向から飛び火して来たリンディとクロノがぶるぶると震えて・・・。
「どうしようクロノ?母さんまだ少女で行けるかしら?」
・・・訂正、リンディにはその気があるみたいだ。
「母さん、歳を考え・・・ろ!!」
最後の一音は鋭い呼気だった。
一瞬でクロノが崩れ落ちる。
リンディがにこにこ笑っているから何かをしたのは彼女だろうが・・・何をしたのか全く見えなかった。
ひそかな強者がここにも一人?
「・・・本当に大丈夫なの、ルビーちゃん?」
なのはは、その全てをみなかった事にして、話を軌道修正した。
彼女もなかなか肝が太い。
『どっち道、断るのも面倒の種になりそうですからね~ちょっと時空管理局潰してこようかな~と』
「思いっきりテロリストな事言っているよね?」
なのはは動じていない。
何時もは使っていないが、彼女のスルースキルはなかなかのものである。
それをあえて使っているところから、なのはも真面目なのだと見抜けるのはこの場ではルビーだけだ。
「はあ、ちゃんと寄り道しないで帰ってこれる?」
『あはぁ~なのはちゃんはいいお母さんになれそうですね~』
「なるだけ早く帰ってきてね」
『はいは~い、わっかりましたー』
話が終わると、ルビーはリンディと彼女の手に気絶したまま引きずられているクロノの所に飛んで行った。
「それじゃあ、なのはちゃん?三人の事、よろしくね」
プレシアも、なのはに別れを告げてリンディの傍に立つ、最後に見た頬笑みは、どこか桃子に似ていたかもしれない。
「それじゃ、確かにルビーちゃんは預かりました」
「ルビーちゃんをよろしくお願いします。何かいたずらしたら容赦なく叱って下さい」
『あはぁ~信用0ですよ~』
最後までふざけながら、ルビー達は転移の魔法陣の中に消えて行った。
「・・・なのは?」
「フェイトちゃん」
「行かせてしまって良かったの?」
「何で?」
「何でって・・・」
フェイトが気にしているのは、ルビーがさらわれてしまった時の事だ。
人づてに聞いたことではあるが、なのはは大分ショックを受けていたらしいと・・・フェイトはそれを気にしているのだ。
「あの時は連れ去られたわけだし、今回は自分から行くって言いだしたのはルビーちゃんだからね」
「でも・・・」
「ルビーちゃんは帰ってくるって言ったもん」
にっこりと笑うなのはの顔は、ルビーに対する信頼にあふれていた。
「なのはとルビーちゃんの出会いは運命だと思うの」
「運命?」
「そう、運命。あの日ルビーちゃんがなのはの前に現れたのも、その後ドタバタな毎日が来たのも、こうやってフェイトちゃんと会えたのも、それにルビーちゃんの契約は呪い級だから、きっとすぐに帰ってくるよ」
フェイトは、そこになのはとルビーのつながりの強さを見た気がした。
もし、二人の間に呪い級の運命が存在するのなら、きっとルビーはすぐにでも帰ってくるだろう。
そんな気がする。
「なのはが気になるのは・・・」
「気になるのは?」
「管理局の人達は大丈夫かなって・・・」
「「ああ、なるほど・・・」」
フェイトとアルフの主従コンビは、その言葉に全てを納得した。
同時に、管理局の局員たちの冥福を祈っておく。
本当に時空管理局が潰れるような事にならなければ良いなと思う。
「マスター、どう言う事ですか?」
一人だけ、ルビーとの接点が少なくて何の話なのか理解できていないのはアリシアだ。
「・・・さあ、まずはなのはの家に行くの、お父さんとお母さんにお話ししないと」
「そうだね、なのはさんはあたしがおんぶしようか?」
「お願いねアルフ」
「え?マスター?姉さん?アルフ?」
明確な言葉にするのを避けた三人に、アリシアがついて行く。
ちなみに、ぶっ飛ばされたユーノは気絶したまま放置中・・・それから三時間過ぎた。
『たっだいまーですよ~』
「「「「帰ってくるのはや!!」」」」
公園から家に戻って士郎達に事情を説明していたなのは、フェイト、アルフ、ユーノの四人が異口同音に叫んだ。
「お騒がせしました」
「お邪魔します」
玄関から普通に入ってくるのはルビーで、それについて入ってくるのはリンディとクロノだ。
二人とも、キツネにつままれたような顔をしている。
「ど、どうしたのルビーちゃん!?」
『おや?早く帰ってきたことが不満ですか?』
「そんな事ないけど、早すぎない?」
『それなんですけどね~何でです?』
ルビーが後ろについてきたクロノに伺いを立てる。
「さっき説明しただろう?グレアム提督が・・・」
『そうそう、そのクレ餡提督が』
「グレアム提督だ」
『その愚レ唖無って人が・・・』
「わざと間違えてるだろお前?」
全員がルビーとクロノの漫才からリンディに視線を向けた。
口ほどに目で雄弁に語られ、リンディがため息を漏らす。
「グレアム提督は私達の上司に当たる人なのですが、その方がルビーさんを本部に招くに当たって問題あるのではと・・・」
曰く、97世界である地球は管理外世界であり、その世界の住人であるなのはに時空管理法の適用は難しく、その所有物をロストロギア認定するのは横暴である。
確かに、ルビーの能力は破格だが、それはあくまで|持ち主(マスター)であるなのはに限定したものであり、その全力を持ってしても次元世界に大きな影響を与えうるものでは無い。
「言っている事は一理も二理もあるな」
間違ってはいないが、それならば最初から余計な事をしなければ良いのにと思う一同・・・因果は巡り巡って|蝶の羽根効果(バタフライ・エフェクト)・・・グレアムがルビーが本部に来る事を妨害した理由は、その能力にある。
彼は事前に、ルビーが相手の魔力を見ぬき、更には個人の特定までが可能だと言う事を知っていたからだ。
もし、ルビーが本部にきて、彼女達と鉢合わせするような事態になれば・・・あるいは、グレアム自身に会う事になれば・・・そして、ルビーが魔力を感知する事が可能な距離が広ければ・・・“気づかれてしまうかもしれない”。
しかし、これらの事は今の時点で知りうる者はこの場にはいないので、皆不思議な顔をする事しかできない。
「そう言えばルビー?」
『何ですかクロノ君?』
「君はリーザロッテとリーゼアリアという女性を知っているか?」
『いえ、初めて聞く名前ですけど?』
「そうか・・・」
『誰なんです?』
「ああ、僕の魔法の師匠に当たる姉妹なんだが、やたらと君が本部に来るは良くないって熱弁していたな、彼女達はグレアム提督の使い魔だから感化されているのかもしれないが・・・妙におびえているように見えたのは気のせいだな」
むしろ、ルビーが本部に来ると聞いて、いちばん戦々恐々としていたのが彼女たちであり、クロノの考えは正反対なのだがそれもまた知る者はいない。
「ルビーちゃん?」
『は~い?』
「お帰りなの」
『はい、ただいまですよ~』
・・・どうやら、二人の間にある|Fate(うんめい)という奴は簡単にはなれる事さえも許してくれないほどに強固なもののようだ。
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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい?あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう?だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ