…悪は滅びた。
いきなり全力全開でクライマックスな話だが、とにかく悪は倒された。
それは数人の勇者による、歴史や物語に残らない…いや、残してはいけない闘争の果ての話。
『フフ…ルビーちゃんは帰ってきますよ~アイシャルリタ~ン』
そんな不吉な言葉を最後に吐き、勇者達を不安のどん底に陥れながらも悪は満場一致の意思で封印され、平和が戻ってきたのである。
だが、勇者達は甘く見ていた…あの|愉快犯(ルビー)のしぶとさを完全に理解しきれていなかったのだ。
『ふう~何とか逃げ切れましたね~』
ここではなく、どこでもない。
そんな次元の狭間…本来ならば何者をも存在し得ない空間に、ありうべかざる存在があった…一本の杖である。
しかも割烹着を着た悪魔な声でしゃべる杖、その名をカレイドステッキの人工天然精霊マジカル・ルビー。
とある世界の最高峰の魔術師が作成した魔術機、使用者に万全の恩恵と力、知識とその全てをまとめてチャラにするほどの迷惑をかけつつ趣味に走る伝説のメフィストより性質の悪い代物である…が、それなら尚の事、なんでそんなものがこんな次元の狭間にあるかと言うと……ぶっちゃけ調子に乗りすぎたからだ。
彼女…多分、彼女だろう。
とにかく彼女は本来存在していた世界で、(本人達の意思を無視して)魔法少女隊を結成し、文化祭のステージで(これまた本人達に断りなく)華々しいデビューステージを飾った…のだが…。
『う~ん、もう少しだったんですがぁ~ルビーちゃん不完全燃焼ですよ~』
これからは五人の魔女っ子達と共に、ご町内の平和を面白おかしく守っていこうと画策していたルビーだが、その野望は問題ありまくりというか問題しかないものであり、立ち塞がった赤い彗星モドキに金の子供、おまけに赤いコートのマフィアっぽいチンピラに阻まれてしまったのだ。
死闘…らしき物の果てに破れ、ルビーは厳重に…本当にこれでもかと言うほど厳重に封印されるはずだったが…それならばなおの事何故こんなところにいるかというと、封印される寸前に残された魔力のほとんどを使って時空に穴を開け、そこに滑り込んだのだ。
あまりにも早技だったので、勇者達にも気づかれずにルビーはまんまと逃げおおせていた。
捕まるのも封印されるのも初めてではない、その経験が生きたようだ…ぜんぜん自慢にならないが…。
『それにしても…お腹がすきましたねぇ~』
勿論、杖が飯を食うわけがない。
ルビーが言っているのは魔力切れという意味だ。
倒される直前、ルビーは5人の魔法少女達から魔力の供給を受けていた。
さすがに結構な量ではあったが、並行世界への道を作ることでほとんど消費してしまっている。
何とか並行世界への出口を作ることは出来なくもないが、安易に開いて飛び込んだ先に魔力を持った人間がいなければ、ルビーはただの杖に成り下がる。
そうなれば動くことも出来なくなるだろう。
ルビーが機能を停止した場合、再起動するためには魔力を持った人間の血が必要になる。
そんな都合のいい偶然に期待するのは、魔術師の製作物としてどうよ?なもんだが…とはいえ、このままでも魔力を消費し続けて最後には止まってしまうのは変わらない。
こんな次元の狭間で機能停止してしまえば、それこそ再起動の可能性はゼロだ。
『安西先生は言いました。「諦めたらそこで試合終了ですよ」…安西先生、ありがとうございます!!』
…何時から安西先生の生徒になったんだ?
とはいえ、本当にどうした物かと考えていると、キュピーンというニュータイプな効果音と共にルビーの感覚にヒットするものが来た。
『む、むむ!?こ、こりはぁ!!』
ルビーが何かに反応して、その体をバイブ機能付の如く震わせる…実に子供用の玩具っぽい。
『感じる、感じますよぉ~ビンビン来るオトメのラヴパワー!!ルビーちゃんのアンテナに直撃じゃないですかぁ~!!』
ここに誰か他の人間がいれば、間違いなく退いていただろう。
外見も中身も色々怖い。
『あっちですねぇ~待っててくださーぃ今ルビーちゃんが行きまぁ~す』
さっきまで悩んでいたのはなんだったのか、ルビーはあっさり道を開くと異世界に飛び込んでいった。
その行動に一片の悔い無しと言うかの如く全速全力全開で…。
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…少女が泣いていた。
一人で泣いていた。
おそらくは3歳くらいだろう。
オレンジの髪をツインテールにした藍色の瞳の女の子だ。
こんな子供が一人で公園のブランコに座って泣いている光景はどう考えてもおかしい。
周囲を見回しても、彼女の親らしい人影はいない…っというよりも人影そのものが少ない。
それもそうだろう。
そろそろ時刻は夕暮れ、昼と夜の境目の魔に逢う時間、逢魔が時…少なくとも彼女のような歳の子が外にいていい時間ではない…それでも少女は立ち上がろうとはしなかった。
…ここにいれば、家族の誰かが心配して迎えに来てくれる。
それを期待しているのだ。
そんなことを考えていると、目の前の地面がガサリと鳴った。
少女は家族の誰かだと期待して顔を上げるが、目の前に立つ人物を見た瞬間に凍りつく。
「だ、誰?」
見たことのない男だ。
言葉を選べば恰幅がいい…要するにデブ…結構な歳に見えるが、たるんだ顔の肉が年上に見せているのか?
ぼさぼさで伸ばし放題の髪は、脂ぎっている。
無精髭が濃い。
何よりもアレなのが、男の着ているシャツ…アニメのキャラTシャツである。
男の肉に押されて左右に広がっり、横に伸びているためにキャラの原型が崩れていて、すぐには元が何なのかわからくなっていた。
「お、お嬢ちゃん、どうしたのかな?」
ハアハアと、男の息が荒い。
少女は思わず立ち上がって後ずさる。
そういえば、最近この付近で少女くらいの年齢の女の子が男にいたずらされる事件があっていて、少女も気をつけるようにと母や兄、姉から言われていたことを思い出す。
「い、いや…きゃ!」
更にあとずさろうとしたが、拍子にブランコに引っかかってこけてしまう。
「だ、大丈夫かな~」
男の手が少女に伸びる。
その顔には満面の笑み…助け起こそうとする以上の、何かの感情がそこにはあった。
少女がもう少し色々な経験をつんでいれば、男の笑みの名を欲情、あるいは好色と言うべき物だという事を見抜いていただろう。
「怪我してないかな~」
「ひう」
男の手が伸びてくる。
少女は恐怖のあまり声が出ない。
その指先が、少女の足に触れようとした…が…。
『こんの変態がぁぁぁ!!』
「ブヒー!!」
「え?」
少女が見たのは、真横から飛んできた何かが男にぶつかってそのまま飛んでいったという事実だ。
本能的に飛んでいった方向を見た少女は目を丸くする。
「ブヒー!ブブヒー!!」
『そうそう、肺の中の空気をすべて、一cc残らずしぼり出せ!』
男が木に磔になっていた、
正確には、男の鳩尾に何かが当たり、男の体を木に押し付けているようだ。
しかもドリルのように回転しながら、天元突破しそうな勢いだが、本当にやるとスプラッタなことになってしまうのでそこまではやらない。
しかし、アレでは本当に空気を全て吐き出して失神するしかないだろう…えぐっている物に重なって、中年の波紋使いの姿が見える。
そして少女の予想は現実になった。
男が白目になった所で、やっと回転が止まり、自分を助けてくれた何かが男から離れる。
支えを失った男の体は前のめりにどすんと倒れて痙攣を始めた…死んではいないようだ。
『フウ、まったく、変態には困った物です。ロリータは目で見て愛でるだけ、イエスロリータ・ノータッチ、それが紳士の|正義(ジャスティス)、わきまえない豚が多くて困りますねぇ~。そう思いませんかお嬢さん?』
「え?に、にゃ?」
思わず少女から変な返事が返ってきたが、多分驚きすぎだろう。
彼女は自分に声をかけてきた存在を見て目を丸くしていたのだ。
「ま、魔法使いの杖?」
それは少女がいつも見ているアニメの主人公が持っている魔法の杖によく似ていた。
電池を入れると光ったり音が出るやつだ。
『う~ん、厳密には魔術師の杖なんですが、まあそんな違いは些細なことですよねぇ~』
魔法と魔術師の区分設定を適当に流しやがった。
『初めましてお嬢さん?私の名前はマジカル・ルビーといいま~す』
「あ、なのは…高町なのはっていうの」
…本来ならば、出会うはずのなかった二つのリリカルでマジカルな|運命(フェイト)はここに重なった。
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『そうですか、お父様が怪我をしたんですかぁ~』
「そうなの…お母さんもお姉ちゃんも忙しくて構ってくれなくて…お兄ちゃんは怖くなっちゃったの」
公園から離れたルビーとなのははお話中だった。
OHANASIではなくお話、ここ重要。
ルビーはなのはの手の中にあり、なのはがルビーに話しかけている構図だが、この位の年齢だとまだ好ましく見られてしまうので奇異の視線に晒されることはない。
変態豚な男(仮)?
勿論放置してきましたが何か?
ちなみに、舌っ足らずにもがんばって自分の事を話してくれるなのはを見たルビーが実に良く萌えている…文章に起こせば、それだけで本が一冊出来そうだが、ともあれ、それを語り始めると脱線して長いので、ここはひとまず…ひーとーまーず置いて置く。
なんでも最近、なのはのお父さんが大怪我をして入院してしまい。
喫茶店を始めたばかりのお母さんとお姉さんは店にかかりっきりになっているらしい。
兄も、これは良くわからないががんばっているようだが、逆にそれでなのはに怖がられているというわけだ。
『なんというか…』
うーんとルビーは悩む。
いつもはお気楽ご気楽だが、ある意味で確信犯のルビーは本当に苦しがっている人間や困っている人を前にしてまで、そのスタンスを貫くほど外道ではない。
「ねえルビーちゃん、どうしたらいいの?」
なのはが涙を浮かべて聞いてくる。
それを見たルビーは考えた…こういう時、シロウさんたちならどうするんでしょうねぇ~?っと…そんなのは考えるまでもない
シロウならなのはを助けようとするに決まっている。
『ではそうしましょうか』
「にゃ?」
なのはが独り言をつぶやくルビーに首をかしげるが、さっきからルビーのオトメのラヴパワーメーターは振り切っている。
しかも、なのはは魔術師ではないがかなりの魔力の持ち主だ。
あの凛やルヴィアすら凌ぎ、キャスターのメディアと同等かそれ以上…末恐ろしい才能だ。
そしてルビーはそろそろ|魔力切れ(ガスケツ)…しかしそんなことは関係なく、ルビーはなのはの力になってやりたいと思うようになっていた。
『なのはさん?お父さんを助けたいですか?昔のように家族全員で過ごしたいですか?』
「え?う、うん。なのは、皆と一緒がいいの!」
『判りましたぁ~。ではちょっとちくっとしますよぉ~すぐ済みますからねぇ~、後、私の言う言葉を復唱してくださぁ~い』
…数秒後、誰もいない路地裏で七色の光が立ち上った。
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海鳴総合病院、その一室になのはの父、高町士郎は入院している。
事故にあったと担ぎ込まれてきてから数日、全身に包帯を巻いた高町士郎はベッドの上で意識が戻らないままに寝ている。
動く者のない室内に、不意に風が入り込んできた…看護師が窓を閉め忘れたわけではない。
”誰か”が…鍵を開けて…地上から五階分もの高さにある窓を“外から”開けたのだ
『…ここですか』
「うん、そう」
声の主達は、音もなく室内に侵入する。
足音すら立てず、“空を飛んでいる”かのように…
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…う」
高町士郎は覚醒に向かう倦怠感に囚われながら、自分がどういう状況にあるかを分析する。
剣士として、戦士としての本能が自然とそうさせるのだ。
戦場において、情報は大きな意味を持つのだから…。
『…う・・丈夫…』
「お…さ…」
声が聞こえる。
すぐ傍に誰かいるようだ。
士郎はわずかに目を開け…。
「な!!」
驚きで半開きだった目を限界まで見開いた。
目の前にいるのはなのは、見間違えようもなく、同時に見慣れた自分の娘…だが、いくら自分の娘とは言え、それが空中浮遊をしているとくれば驚くには十分な光景だろう。
「おとうさん!!」
泣きながら胸の中に飛び込んでくるなのはを受け止めて驚く士郎に、更に追い討ちがかかった。
『はじめまして高町士郎さん。わたくし人工天然精霊マジカル・ルビーと申します。お気軽にルビーちゃんと呼んでください』
「な!?」
聞いたことの無い声に顔を上げた高町士郎は、今度は空中に浮いている杖を見て絶句する。
『唐突ですがぁ~とっても可愛くて素敵に無敵、一家に一本カレイドステッキはいかがですかぁ~?なんって、もう契約しちゃったんでルビーちゃんの身も心もなのはちゃんの物なんですけどぉ~キャーはずかしーですね~あはぁ~』
マシンガントークで惚気られた。
しかも赤くなって杖が身をよじっている…あの杖、弾力があるのか?
「…なのは、ちょっとどいていなさい」
「うん」
金魚のようにパクパクしていた口を閉じた士郎は、大怪我をしているはずの体に痛みを感じることなく自分の上に乗っていたなのはを避難させ、深呼吸をするかのように大きく息を吸い込んで…3…2…1…0。
「なんで杖がしゃべってる!!!?」
…そして数年後、唐突過ぎるがお約束の流れで時間が過ぎた。
高町家の道場では8歳になったなのはと空中浮遊しているルビーが対峙している。
『それでは、今日も行きますよ!!|なのはちゃん(マスター)!?』
「はい、師匠!!」
ルビーの言葉になのはも気合を入れる。
ちなみに、なのはの体操服にブルマ姿はルビーの差し金だ。
『流派!東方不敗は』「王者の風よ!」
『全新!』「 系烈!」
『「天覇狂乱!』」
『「見よ! 東方は赤く燃えている!』」
ババーンと、周囲で魔力の花火が上がる。
極彩色だ。
無駄に凝った演出はルビーの担当。
『Gooood、流石なのはちゃんは天才ですぅ~一発でこれを物にするなんて!!』
「えへへ、そんな事ないよぉ~」
『次回はこれで行きましょう。ああ、それにしても照れてるなのはちゃんは何ってキュートなんでしょう。お姉さんのハートをどっきゅんストライクです』
「いや、師匠?何を言ってるか判りません。後ちょっと怖いです。身の危険を感じます」
『かは!!』
素に戻ったなのはの反応にルビーが吐血(幻視)した。
「…ねえ恭ちゃん?なのはとルビーちゃんが最近始めたアレって何?」
「俺も知らん、何か意味があるらしいが…悪くないな」
「は?」
予想外の言葉に、美由希が見れば、兄の恭也は士郎を見ていた。
「なあ親父、|御神(うち)にはああいうのはないのか?」
「ない。が、なければ作ればいい。だろ?」
「そうだな」
二人は実に良い笑顔で笑いあい、頷き合ってまじめにああでもないこうでもないと、キメ台詞?らしき物を考え始めた。
しばらくして立ち上がると、適度な距離をとって向かい合い。
「師匠ぉぉぉぉ!!!」
「こんの馬鹿弟子がぁぁぁぁ!!!!」
そして始まる木刀の応酬、4本の小太刀が見えないレベルのラッシュをかわしている。
「ははっ男の子って好きだよね~こういうの、女の子の私には理解できないかな~」
二人共男だからな…蒸し暑い展開に飢えていたか?
我が家も毒されてきたなーと思いつつ、美由希はすぐ傍にいる二人(一人+一機?)の事はあえて無視する。
なんか自分だけ置いてけぼりを食らってる気がして鬱になりそうだったから。
「みんな~ごはんできたわよ~」
台所から桃子の声が聞こえてきて、4人+1本?が朝食に向かって動き出す。
これがここ数年繰り返されている高町家の朝の風景だ。
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リリカルなのはに、Fateのある者、物?がやってきます。 自重?ははは、何を言ってるんだい? あいつの辞書にそんなものあるわけないだろう? だって奴は・・・。 ネタ多し、むしろネタばかり、基本ギャグ