No.447831

天の迷い子 第一話

はじめまして。
ド素人の暇つぶし作品です。
自分はメンタル面がへたれなので、つまらないと思った方は、そっと戻るをクリックして、忘れ去って下さいませ。

2012-07-07 03:26:48 投稿 / 全5ページ    総閲覧数:2983   閲覧ユーザー数:2611

 

パカァーーン!!

「馬鹿者!集中を切らすでないわ!!」

「おごっ!すっ、すいません!師匠!」

 

とある道場、そこで対峙する少年と老人。

少年の名は流騎静護、老人の弟子であり、義理の孫でもある。

義理というのは、三年前少年の両親が事故で亡くなった。

天涯孤独となった少年の後見人となったのが遠い親戚であったこの老人、北郷刀真である。

この御方、とても豪快な方で、両親を亡くしてふさぎ込んでいた少年の部屋のドアをけり開けるなり、頭を竹刀で殴りこう言った。

 

「いつまでウジウジ引き篭もっておるか!塞いでいても貴様の両親は戻ってはこんのじゃ!悲しむなとは言わん。忘れろとも言わん。じゃが、下を向いていては何も出来ん。顔を上げろ。前を向け。死んだものに生きているものが出来ることなど何も無い。じゃからこそ、笑って生きねばならんのじゃ!…強くなれ坊主。あの世の両親が心配ないと思えるくらいにな。」

 

それから少年は老人に薦められ、彼の弟子となった。

今まで少年の周りの者たちは、腫れ物に触るように接してきた。

そんなぬるま湯のような環境が少年に厚い壁を作り出すことを良しとしていた。

その壁をぶち破り、外に連れ出した老人は、いつしか師となり、祖父と呼べる存在になっていたのだ。

 

数時間後、床に大の字になって倒れている少年と、肩に木刀を担いで見下ろす老人がいた。

 

「では、今日の稽古はここまで。掃除をして帰るがいい。」

「はあっ!はあっ!ありが、とう、ございましたっ!」

 

肩で息をしながらそう答えると、立ち上がり雑巾の用意を始めた。

道場を出て行こうとする老人に声をかけた。

 

「師匠…、いやじいちゃん。」

「何じゃ?」

「ありがとう。今までずっと思ってたけど言えなくて…。本当にあの時たたき起こしてくれた事、沢山の事を教えてくれたこと、他にも色々感謝してる。いつかきっと恩返しするから。」

「…ふっ。わっはっはっは!恩返しじゃと?未熟者が十年早いわ!もし、わしの教えに恩義を感じたならば、次のものに渡してやればいい。」

「次のもの?」

「そうじゃ。例えば何十年か後、お前に弟子が出来たらその弟子に、後輩でも良い。子供でも良い。お前に護るべきもの、護りたいものが出来たとき、正しく導いてやれ。それが恩を返す事になるわ。…まあどうしてもわしに返したいというなら、早く子供でも拵えて、顔でも拝ませい。名付け親にくらいなってやるわ。」

「ぬなっ!?こ、子供ってそんな、早すぎるって言うか、あ、相手だってその…。」

「はっはっはっ!この程度でうろたえるでないわ、たわけ!ほれ、とっとと掃除を終わらせんといつまで経っても帰れんぞ」

 

笑いながら去っていく師を見ながら、「ありがとう」と少年はつぶやいた。

 

side 静護

 

「遅くなっちまった、早く帰って夕飯作らないと。」

 

言いながら暗い夜道を急ぐ。

しかし、じいちゃんに武術を習い始めて二年。未だに掠ることすら出来ないなんて情けないなあ。

最初に「お前に才能などというものは無い。」とは言われてはいたけど、それでもなあ。

ってか、あれだけ動いて息一つ乱さないあの爺様は何者なんだよ。

まあ、「才能を凌駕する努力はあっても、努力で追いつけない才能は無い」ってのがじいちゃんの持論だし、よし!もっともっと頑張ってみるか!

 

そんな事を考えながら歩いていると、道の脇の草むらから淡い光が漏れていた。

何だろうと草むらを掻き分けていると、突然あたりが光に包まれた。

何なんだよ、これ。

理解する間も無く、意識は光の中に溶けていった。

 

side 月

 

ぽっかりと大きな満月が浮かんでいる。

私は今、中庭でお月様を見ている。

闇の中でやさしく世界を照らす私と同じ名前を持つ月。

あんな風に町の人たちを照らせているかどうかは不安だけど、月に自分を重ねると少し誇らしくなる。

 

流されるままに洛陽に赴き、祭り上げられるままに高い地位に就き、いつのまにか私は都合のいい人形にされていた。

ただ、そのおかげで洛陽の街を建て直す機会を得ることが出来た。

向こうが利用するつもりなら、僕たちも利用してやるって詠ちゃんは言ってたけど、それでも思い通りにはいかないみたいで、なんとか危険を避けてほんの少しずつ民の暮らしを良くしていくことぐらいしかできないみたい。

私がもっと詠ちゃんのお手伝いが出来れば詠ちゃんの負担を減らしてあげられるのに。

ほんの少しでいい、私に月の様に皆を優しく照らせるだけの力を下さい。

そう願う。強く。強く。

 

 

「あれ?」

 

何だろう?違和感が。光が集まってる?

どんどん光の粒が集まって、しばらくすると私の視線の先に光の円が現れた。

まるで、もう一つ満月が現れたかのように。

すると、

ヒュッ!ドサッ!

 

「げふっ!」

 

何かが落ちてきた。

私は恐る恐る覗き込んでみると、そこには男の人が倒れていた。

どうやら気絶しているみたい。

とにかく、誰かを呼んで部屋に運んでもらわないと!

 

side 詠

 

「それで、その倒れていた男って言うのがこいつなのね?」

 

僕は男を指差しながらそう訪ねる。

光が集まってそこから現れた?そんなことが普通あるわけが無い。

でも、月が僕に嘘を吐くわけが無い。だったら、こいつは何?

光の中から現れた普通じゃない男。

まさか噂の天の御使い?いいえ、それなら平原の劉備という奴のところに降りたって情報が入っている。

なら考え付くのは仙人・道士の類か、五胡の妖術使い?

現実的ではないけれど、否定できる材料も無い。

とにかくこいつが起きない事には話が進まないわね。

 

「うん。詠ちゃん、この人やっぱり悪い人なのかな?」

「今はまだ判らないけど、気を抜いちゃだめよ?」

「まあ、月も詠も安心しい。こんなひょろい兄ちゃんが暴れたかてうちが軽~く抑えたる。華雄もおるしな。」

「ふん!当然だ。私一人で十分事足りる。霞は見ているだけでいい。」

 

この二人がいれば月に危険が及ぶ事は無いでしょうね。

それにしてもいつまで寝ているのよ。いい加減起きなさいよね。

 

「ん、うう……ん。」

 

そんなことを考えていると、男がうめき声を上げた。目を覚ましたようだ。

 

「え?あれ?ここは?っつか誰?!なんで俺囲まれて睨まれてんの?!ここ何処よ?!何で俺こんな知らない場所に?!あーーもう何がなにやら!」

 

ひどい慌てっぷりね。今ので仙人とか妖術使いって可能性は少なくなったわね。自分の能力できた人間の反応じゃないわ。演技って可能性もあるけど。

 

「ここは洛陽の董卓の屋敷や。まずはこっちの質問に答えてもらうで?あんたはいったい何者で何のためにここに来たんや?」

「ええと、俺の名前は流騎静護。光ヶ丘高校一年で、年は十五。そんで、確か…そうだ、家に帰る途中、変な光を見つけて手を伸ばしてみたら光に包まれて…そこから先の記憶が無い。だから何のためって聴かれても答えられるような理由が無い。ところで、出来ればそっちの名前を教えてくれないかな?あんたとかそういう呼び方は失礼だし。」

「こーこー?まあええわ。うちの名前は姓は張、名は遼、字は文遠や。」

「私は、華雄、字は楊高だ。」

「私は姓は董、名は卓、字は仲頴です。よろしくお願いしますね、流騎さん。」

「僕は賈駆、字は文和よ。」

「ちょっと待って。字って大昔の中国にあった風習で今はそんなもん無いんじゃ…。」

「む?何を言っている、静護がお前の字だろう?」

「え?いや違う、静護は名前、ちなみに流騎は姓だ。」

 

姓名が両方二文字ってだけでも珍しいのに字が無い?どういうこと?

 

「ええっと、皆の名前と字、この部屋の雰囲気なんかをふまえて考えるとちょっとありえない予想が浮かんだ。聞きたいんだけど、いま国で一番偉い人って誰?」

「皇帝陛下、劉宏様ですけど。」

「………そう、か。解った。荒唐無稽な話で、信じられないと思うけど俺は…。」

 

その後流騎が話したことは信じられないことだった。

こいつが来たのは今から千八百年もあとの時代で、しかも時間だけでなく世界すらも超えてきたという。

流騎が居たところには「三国志」という歴史小説があり、僕たちと同じ名前の人間が出てくるだとか。ただ、物語でも歴史でも、それらの人物は全員男で、人物のあり方もかなり違うらしい。

確かにそれが事実なら、そう考えることしか出来ないでしょうね。

確かめることが出来ない以上、「そういうこと」と仮定して話を進めるしかないわね。

 

「それで相談というか、お願いがあるんだけど聞いてくれるかな?」

「えっと、何ですか?」

「俺に仕事を紹介して欲しいんだ。俺は今無一文。まあ、持っているものを売ればいくらかのお金にはなって、しばらくは生活できるくらいにはなると思うんだけど、長くは続かないだろうし、何よりこの世界の常識や空気に慣れるためには働くのが一番いいと思うんだ。のんべんだらりと暮らすのは性に会わないし。だから…。」

 

そう言って、流騎は膝と手を床に着いて頭を下げた。

 

「俺に居場所を下さい!知識の中の後漢の時代なら職にありつけない人間がたくさんいるって事も承知しています!でも、ここには他に頼る人がいない。お願いします!俺に生きる術を与えて頂けないでしょうか!」

 

驚いた。

僕も、月も、華雄も、霞も。

急に頭を床に擦り付け、請い願うなんて思わなかったから。

その言葉に、姿に、不安が滲んでいたから。

 

(そっか。今まで普通にしていたのは混乱していたのと、そうしないと取り乱してしまうから必死で抑えていたんだ。)

 

まるで、迷子の子供。

実際、それ以上に不安があるんだろう。

考えてみれば当然よね。気を失って、目が覚めたらそこは知らない場所で、周りに味方は一人も居ない。

そんな状況で不安にならない方がおかしい。

仕方ないわね。拾ってしまったんだし、それにこんな姿を見せられたらほうっておけないじゃない。

 

月も同じように思ったのか僕に視線を向けて頷いた。

そして、そっと流騎の前にしゃがみ込み、優しく手を取った。

 

「わかりました。貴方に仕事と部屋を用意します。ですから顔を上げて下さい。私たちは貴方の味方です。決して、見捨てたりなんかしません。だから、安心してください。」

 

そこにはとてもとても柔らかい笑顔があった。

まるで、夜道を照らす月の光の様な。

 

涙と嗚咽を吐き出す子供がそこに居た。

全部流してしまえばいいわ。

そうすれば、少しは荷が軽くなるでしょうから。

「~~~みっともない所を見せてごめん。あと、ありがとう。」

「ええよ、ええよ、よう考えたら当たり前のことやしな。」

 

まあ、そうね。

ただ聞いておかなきゃいけないことは…

 

「それで、あんた何が出来るの?」

 

ということ。

 

「ああ、それもそうか。ええ~っと、読み書きは正直自信ない。多分短い文ならなんとなく読めるって程度かな?計算はそれなりに。足し引き掛け割り算は習っている。武術の嗜みも有るけど、精々素人よりマシって程度でなおかつ人を切った経験も無い。だから、多少腕に自信のある新兵みたいなもんだろうな。あっ、でも家事はじいちゃん…師匠にしこまれたから結構得意だ。」

「そう、わかったわ。とりあえず当面はこの屋敷の使用人として働きなさい。ただし、そうね、十日間は町へは出ないこと。あんたが現れたときの光とやらが噂になってたらややこしい事になるからね。部屋は離れに用意するわ。」

「わかった、世話になる。」

「あと、もし月に手を出したら………殺すわよ。」

「≪ぞくぅっ≫りょ、了解であります!…ところで、さっきから互いに呼び合ってるのってあだ名かなにかか?」

「何を言っているのだ?真名に決まっているだろう?」

「まな?まなって?」

 

ああなるほど。そんな所まで違うんだ。

 

「真名って言うのはその人の生き筋、魂を現す真なる名のことよ。あんたの居た世界には無かったのかもしれないけど、本人から許されない限りは呼ぶことは許されないわ。たとえ知っていてもね。もし、勝手に呼んでしまったら、殺されても文句は言えないのよ。」

「つまり、その真名ってやつを許されるって事は、自分の命そのものを預けられるようなものなんだな?…すごいな。それほどのものを預けられる信頼を得て、それを受け止めるだけの心の強さを持ってなきゃいけない。でも、なにより嬉しいんだろうな。きっと。」

「せや。あんたもうち等が真名預けられるぐらいええ男に成れるように頑張りや。」

「うん。それじゃあさ、俺は皆のことなんて呼べばいい?四人とも偉い人なんだろ?敬語にしたほうがいいよな…ですよね。」

「ああ、別にええよ。うちは堅苦しいのは嫌いやし普通にしといてや。呼び方も好きに呼び。」

「私も、構わんぞ。だが、私の真名を呼ぶなら私を倒してからにしろ!≪どーん!≫」

「いや、胸を張られても。じゃあ、よろしく!遼姉!雄姉!ええと、賈駆は姓が賈で名前が駆だから…≪?!はっ≫くーちゃん!」

 

なによ、その呼び名は!

 

「ちょっと待ちなさい!何でそんな子供みたいな呼び名なのよ!字でいいじゃない!」

「え~?ダメか?かわいいと思ったんだけどな。…わかったよ、そんなに睨むなって。文和な、文和。」

 

まったく、解ればいいのよ。

 

「んじゃあ董卓をたくちゃんと…≪ぎろり≫よろしく!仲頴!(怖えぇぇ!)」

「はい、よろしくお願いします。(たくちゃんでも良かったんだけどな。)」

「そうだ、えっとさ、少し話しただけだけど、みんなとてもいい人達だと思うんだよ。それでな、よかったらさ俺と友達になってくれないかな?」

「ふむ、友達か。泣き顔も見てお前の人となりも多少わかったことだ。友人になるくらい構わんぞ。」

「うちもええで。男の涙っちゅうおもろいもんも見せてもらったしな~。」

 

からかう様ににゃははと笑う霞。

流騎は顔を真っ赤にして、

 

「そのことはもう忘れてください。むちゃくちゃ恥ずかしいんだから。」

 

と、うつむいていた。

 

「私も良いですよ。男の人のお友達なんて初めてです。」

「ちょっと月、まだどんな奴かも判らないんだから、簡単に気を許しちゃだめよ。」

「詠ちゃん、流騎さんは悪い人じゃないよ?詠ちゃんだって判ってるよね?」

 

そりゃ、頭を下げたときの雰囲気とか、泣き顔とかを見た感じでは、人を騙したりするような奴には見えなかったし、今みたいに顔を赤くしてるのもかわい……って何考えてるのよ、僕は!

 

「…ダメ?詠ちゃん?」

 

ああもう!そんな風に言われたらダメなんて言えないじゃない!

 

「わかったわよ。僕もなってあげるわよ。その、と、友達に。…って笑うなぁ!」

「いや、だって顔真っ赤だし、っくく。」

「ふふっ、詠ちゃん可愛い。」

 

こうして、つつがなく自己紹介も終わって、流騎は月の屋敷で働くことになった。

さっきまで大泣きしてたくせに、今はもう月や霞たちと笑い合ってるなんてほんと子供みたいなんだから。

たとえ、それが空元気でもね。

まあ、あんたが月の味方でいるうちは面倒見てあげるわよ。

 

あとがき

 

どうも、初投稿になります。

いやあ~、難しいものですね文を書くのは。

他の皆さんの作品のレベルの高いこと高いこと。

そんな中無謀にも投稿してみた訳ですが、自己満足の域を出ない。

まあ、誰か一人でも「ふーん、別にいいんじゃね?」とか思ってもらえれば幸いです。

それでは、次の作品(と呼ぶのもおこがましいですが)があるかはその時の気分次第。

気まぐれ人間の初投稿、これにて終了。

 

 
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