No.447615

万華鏡と魔法少女、第十一話、覚悟と忍

沢山の血を流し、同じ一族を手に掛けた一人の男


彼は唯一の弟と対峙して命を散らせた。

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2012-07-06 23:16:14 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:4593   閲覧ユーザー数:4298

あのクロノとの接触から二週間が経ち、

 

 

イタチは変わらずフェイトとアルフと共に一時、平穏とも取れる日常を過ごしていた…

 

 

翠屋でのアルバイトは勿論、こなしている、高町なのはとの関係は非常に良好なものと言って良いだろう…

 

 

そして、クロノ ハラオウンとは相談役として度々会話を交わし接触していた…接触するたびに彼から得る情報はイタチにとっても貴重なものと言って良いだろう

 

 

 

そうやって平凡な日常を過ごしていたある日の事だ

 

 

「あ、あの兄さん…温泉に行きませんか?」

 

 

「…? 温泉?」

 

 

フェイトからイタチは唐突に旅行の話しを持ち掛けられた

 

 

なんでも、その目的地に自分が手に入れたいモノがあるとか、

 

 

まぁ、イタチはそのモノがなんであるかは把握しており、止める理由も無かった為、アルフと共に引率として彼女に着いて行く事にした

 

 

…そして、旅行先での出来事

 

 

夜遅く、フェイトは旅館を抜け出し、ジュエルシードの回収へと向かって行った

 

 

 

そんな、彼女をイタチはばれない様に後を付ける…

 

 

暫くして、空中で舞う閃光を見かけたイタチはその足を止めた

 

 

 

そこには、いるはずの無い高町なのはの姿、

 

 

それと、彼女と戦うフェイトの姿があったのだ

 

 

…だが、イタチはその戦いには干渉せず、彼女達の戦いを眺めていた

 

 

…ぶつかり分かりあう

 

 

イタチはその戦いにはそんな意思が働いていた様に感じていた

 

 

恐らく、その意思の持ち主は高町なのは、彼女のモノだろう

 

 

そうして、イタチは彼女達の戦闘が自分が割り込まなくとも収拾がつくと悟り、何事も無かった様に旅館へと戻った

 

 

こうした、彼女等の度々の戦闘やジュエルシードを手に入れる為のぶつかり合いに対してイタチは悪化しないかを多少目に掛けながらも、決して無粋な横槍を入れる事だけはしない事にしていた

 

 

彼女達はああやって分かり合おうと足掻き成長しているのがイタチには理解出来た…

 

 

ああいった関係はいずれ理解者として、自分を支えるモノになると知っているからだ

 

 

イタチは彼女等の関係はそういったモノだと感じていた

 

 

成長する彼女等を暖かい眼差しで見守る事が彼が取る最良の選択

 

 

 

それを阻むつもりは今のイタチには微塵も無かった

 

 

そうしてフェイトが誘った旅行も終わり、一時の休息が訪れると思っていたある日の事

 

 

「…今日は随分と帰りが遅いなフェイト…」

 

 

イタチはその日、フェイトの為に料理を作り彼女等の帰りを待っていた

 

 

いつもならば帰ってくる時間帯なのだが、今日はいつにも無く帰りが遅い

 

 

イタチはリビングの机に座ったまま、その上に置かれているプレゼント用に包んで貰った二つの箱へと視線をやり深い溜息を溢す

 

 

(…今日は彼女達に恩返しを込めてこうやって準備したんだが…な)

 

 

イタチは何処か残念そうな表情を浮かべたまま自分が用意した料理とプレゼントを儚げな視線で見詰める

 

 

 

これ等はイタチがこれまで翠屋で働いたお金で用意したモノだ…

 

 

いつも、いつも、世話になっているフェイトとアルフにへと…

 

 

彼女達にはいつかお礼がしたいと思っていたイタチはこうした形でとりあえず恩返しをするつもりでいた

 

 

イタチはふと窓の外へと視線を移す

 

 

(…雨…か…)

 

 

…確か、自分が彼女と出会った時もこの様な雨が降る夜ではなかっただろうか

 

ずぶ濡れで倒れ伏していた自分を彼女が優しく保護してくれた

 

 

アルフが自分の事を気に掛けてくれて、この家に共に住まわせて貰った

 

 

 

あれから、暫く経つが彼女達には何時の間にか感謝しきれない程の恩が積み重なっていた

 

 

(…幸せ、なんだろうな今が)

 

 

かつて、自分が感じていた満たされた暖かい気持ち

 

 

いつもいつも、自分の背中を追いかけてくる可愛い弟…

 

 

家に帰ると、優しく微笑み出迎えてくれた綺麗な母

 

 

 

そして、自分が息子である事を誇りに思い、期待や厳しさ…一族の誇り、それに優しさを秘めた父

 

 

 

イタチは自分が歩んだ道を後悔はしていない…

 

 

その背中にはちゃんと誇り高きうちは一族の家紋、それと…家族の想いを背負っている

 

 

(…フェイトの前から消える事になった時…俺は彼女に何かを残せるだろうか…)

 

 

イタチは今まで、出会った人々の事を思い浮かべる

 

 

フェイトは必死に今もジュエルシードを集めている事だろう、

 

だが、それは明らかに彼女が望んでやっている事では無い…

 

 

クロノが話してくれたフェイト テスタロッサの秘密、Fプロジェクト

 

 

命を使い己の欲だけの為に作り出された人…

 

 

あの話しを聞いただけで…イタチは思わず人間の醜さを改めて知らされたような気がした

 

 

(…そういった人間はどこにでもいるものだ、致し方無い事だが…歯痒いものだな)

 

 

哀しみが籠もる瞳を静かに閉じて、一人で待つリビングの席で沈黙するイタチ

 

 

すると、次の瞬間…バタンと激しい物音を立てて玄関が開く音がリビングにいたイタチの耳に聞こえてきた

 

 

 

イタチはすかさずその音がした玄関の方へとリビングの椅子から立ち上がり向かう

 

 

すると、そこには…

 

 

「…はぁ、…はぁ…イ…タ…チ…」

 

 

ビシャビシャで雨に濡れ、傷だらけでフラフラになっているアルフがボロボロになっているフェイトを担いでなだれ込む様に玄関で倒れていた

 

イタチはその光景に唖然とするしか無かった…

 

 

何故、こんな風に彼女達が傷つかなければならないのか…

 

 

 

一体誰がーーーーー

 

 

 

そこで、イタチの思考が止まり、哀しげな表情を浮かべた

 

悟ったのだ、彼女等にこんな仕打ちをする人物に該当する者はイタチの中では一人しか居ない

 

 

…ひとまず、イタチはなだれ込み玄関で息を切らしているアルフに冷静な口調で問いかける

 

 

「…どうした何があったんだ?」

 

 

「…あの女にやられたんだよ、ちくしょう!」

 

 

息を切らすアルフは悪態をついて、吠える様にイタチの問いかけに答える

 

 

やはり、考えていたイタチの予想通りの返答だった

 

 

そう、アルフが名前を呼ぶあの女とは…今までフェイトに関して酷い扱いしかしていなかった彼女の母親、プレシア テスタロッサの事である

 

 

イタチはプレシアの情報は以前、アルフから聞き及んでいた…

 

 

フェイトにジュエルシードを回収させている元凶と言っても過言ではない

 

 

…彼女から詳しく事情を聞くとフェイトはプレシアから呼び出され回収したジュエルシードを提示した所、一方的な暴力を受けたのちにアルフの元に帰って来たらしい、

 

 

しかも、プレシアはフェイトを散々痛みつけたにも関わらず、その怒りの矛先を自分にまで向けて来たとか…

 

 

 

なんとも、自分勝手で横暴な仕打ちだろうか…

 

 

アルフの話しを黙って聞いていたイタチはその嘆かわしい話に沈黙するしか無かった

 

 

身勝手…、自分の欲望の為に心優しい彼女等をこんな目に合わせる権利等あるはずも無いだろうに…

 

 

「イ…タチ…兄さん」

 

 

意識を取り戻したフェイトの弱々しい呼び声…

 

 

彼女は目を開けて直ぐに哀しげな表情を浮かべるイタチが視界に入り、直ぐに繕う様に作り笑顔を浮かべた

 

 

 

「…へ…へ…、ちょ…っと失敗しちゃっ…た」

 

 

…そのフェイトの言葉を聞いた時、酷くイタチは心が痛かった…

 

 

何故、こんな風にフェイトが傷つかなければならないのか理解出来ない…

 

 

そんな、哀しみが今のイタチの心をいっぱいに満たしていた

 

 

 

暫くして、沈黙していたイタチは静かにボロボロになった彼女等に近づきゆっくりと腰を落とす

 

 

儚げな瞳で彼女達を捉えて優しく微笑むイタチ…

 

 

ーーーーーーそして…

 

 

 

「…良く、ちゃんと帰って来てくれた…」

 

 

ボロボロの二人を包み込む様に両腕で抱き寄せ安堵した様に呟いた

 

 

そのイタチの唐突な行動に思わず驚いた表情を浮かべるアルフとフェイト

 

 

イタチは抱き寄せたそんな二人に淡々と語り出す…

 

 

「…正直、二人がこうなって帰って来た事は凄く哀しい…、

 

だが、ボロボロになってもこうやって無事に生きて帰って来てくれた、俺にはそれがとても嬉しい…」

 

 

抱き寄せられイタチの優しく語られるその言葉に思わず目頭熱くなるフェイト、

 

 

そうして、彼女の眼からはポロポロと次第に冷たい雫が流れ始める…

 

 

まるで、それは今まで溜め込んでいたモノが彼女の中から外に全て溢れ出てしまいそうに感じられた…

 

 

イタチは片手で抱き寄せた手で優しく何度も撫でてやりながら優しく告げる

 

 

「我慢…しなくてもいいんだぞフェイト」

 

 

「…うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!」

 

 

泣き叫ぶ様に声を漏らしながら、イタチの胸元で涙を流すフェイト

 

 

そんな、フェイトを横目に、同じくイタチに抱き寄せられたアルフは彼に呟く様に静かに囁く

 

 

「…ゴメンね…イタチ、ありがとう心配してくれて嬉しかったよ」

 

 

「別に…構わないさ…」

 

 

イタチはそう言って抱き寄せた涙を流すフェイトの頭を優しく撫でながら微笑む

 

 

 

それから暫くして、

 

 

ボロボロになってイタチの胸の中で一時間程散々泣き叫んだフェイトは疲れた様にグッスリと眠ってしまった…

 

 

イタチはそんな彼女を抱き運び、優しく自分が引いた布団の上にへと寝かせる

 

 

余程、酷い目にあったのだろうとイタチは一時間もフェイトの泣き様を見てそう思った

 

 

精神的にも、肉体的にも彼女はまだ幼い…

 

 

イタチにはそんなボロボロで泣き疲れきったフェイトの姿が痛々しく感じられて仕方なった

 

 

 

一方、傷だらけのアルフはイタチが心配するのに対して、大丈夫だと答え、イタチは落ち着いた彼女に改めてフェイトについての話しをリビングでする事にした

 

 

「…今までもこの様な事があったのか?」

 

 

「…そうだよ…あの女はあぁやってフェイトを平然と傷つけてるのさ…」

 

 

そう言って、泣き疲れて布団で寝ているフェイトを横目に悲しげに答えるアルフ

 

 

それに対して、イタチはそんな悲しげに答える彼女に深刻な表情を浮かべていた

 

 

…決心は着いた、あんな彼女の顔など自分も見たくは無い

 

 

恐らく、これがもう潮時なんだろう

 

 

イタチはアルフ同様にグッスリと寝付いているフェイトに視線を向ける

 

 

それはまるで、兄と呼んで嬉しそうに笑う彼女の顔を思い返す様に…

 

 

イタチはアルフに告げる様にゆっくりと口を開いて話し出した

 

 

もう、ここからは後戻りは出来ない…

 

 

「…アルフ…」

 

 

フェイトを見つめ、沈黙した空気の中で唐突なイタチの呼び声に反応するアルフ

 

 

そして彼女はイタチの元にへと、視線をゆっくりと戻す…

 

 

 

刹那、視線を戻したアルフは言い表せないような悪寒が背筋を通り過ぎた

 

 

そう、そこにはあの日常で見ていた様な優しいフェイトのお兄さん等では無い

 

 

「…悪いが彼女の母親、プレシア テスタロッサの所まで案内してくれないか…」

 

 

冷たく、氷点下の様な雰囲気を身に纏い眼が据わっているその姿…

 

 

先程まで、優しく自分達を迎え入れてくれたその人物がリビングのテーブルに両手を組み、感情も何も込もっていない声色でそう要求してきた

 

 

アルフはそんなイタチの姿に思わず生唾をゴクリと飲み込む

 

 

最早、イタチのそれはアルフに有無を言わせないモノがあった

 

 

アルフはイタチの身に纏うそれに完全な恐怖の感情で満たされている

 

 

自分が無意識の内に身体がその恐怖に反応し、気づけば凍りついた様に硬直していた

 

 

動物的勘というものだろうか…

 

 

そんな危機的勘を感じ取る場面に直面したアルフは見据えてくるイタチに対して、静かに縦に首をゆっくりと振って応えるしか無かったのだった

 

 

 

 

雨の降る中、雷鳴が響き渡る…

 

 

 

 

それは、まさしく、嵐に近い何かが起こる前触れの様に

 

 

 

 

だが、それをこの場にて知る者は

 

 

 

三つ巴の眼を持つ罪人にしか分からなかった…

 

 

 


 
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