――総てが下らなかった。
意味もなく笑う同級生も、優しく話しかけてくる家族も、そして僕が生きているこの時間も。
色がない。生きている実感もなく、只々毎日を生きている。
――生きたままに死んでいるとは誰が言ったものかと思った。
言葉そのままに僕は生ける屍のようだった。
そんなとき、ある男に出会った。
名を『オーディン』と言うらしかった。
その男は僕に何も言わず、ただなにやらよくわからない紅い宝石を僕に渡してきた。
それが始まり。
やがてその宝石はどこかへ行ってしまった。
あとから気づいたことだが、どうやら僕の体へ入っていったようだった。
その時はなんとも思わなかったのだが、数日たったある日
僕は何者かに背を押され、道路へと押し出された。
僕の目の前には、死を運ぶ鉄の乗り物が押し寄せていた。
冒頭で生きている実感が無いと言ったが、これには原因がある。
それは幼い頃の交通事故の障害だ。
そしてまた、僕は命の危機にさらされる。
正直死んだと思ったが、そんなことどうでもよかったし、同時にここで死ねるのもいいかなと思った。
しかし、そんな時だった。
僕の頭にある知識が浮かんできた。
それは戦略破壊魔術兵器というらしい。
僕の戦略破壊魔術兵器は『曇りなき真実の嘘』というらしい。
言霊を現実に引き寄せる能力。
そしてこの能力を手に入れた時から僕は不死となった。
僕の両親は運良く助かったと思ったみたいだけど、不死だから助かったのだ。
そして数日後、またあの男が現れた。
『オーディン』だ。
そして僕にこんなことを言った。
「有塚 陣。君に頼みたいことがある。」
初めて会った時から思っていたことだが、この男は胡散臭い。
「よく知りもしない相手の頼みごとを聞く程、僕はお人好しじゃない。それに僕はこの通り、怪我をしている。」
男は僕の言葉など聞く気がないように、表情ひとつ変えず、続ける。
「『召喚せしモノ』にとって怪我など無に等しい。あと数分もすれば全開となるだろう。
そして君には拒否権などない。これより始まる儀式に、有塚 陣。君も参加するのだから。」
「儀式?なんだいそれは。」
「『召喚せし者』達による魔法戦争。12人の『召喚せしモノ』達による、バトルロワイヤルだ。」
どうやら、『オーディン』という男は本気で殺し合いをさせようとしているようだった。
「ふーん……なるほどね。それで?僕に何をさせようっていうのかな?」
「君には、これから始まる儀式に進行役をやって貰いたい。説明は後ほどさせてもらおう。」
そんな事があったのが『最終戦争』の始まる一年前だ。
『最終戦争』は僕の思う通りに進んだ。
『最終戦争』が進めば進みほど、戦えば戦うほど、窮地に追い込まれれば追い込まれる程に、僕の世界に色が出てくる。
そんな中一際異彩を放つ女がいた
――里村 紅葉
彼女は妹を事故で失って以来、罪に苛まれている。
必死に、必死に贖罪を求めている。
そんな姿に何故か惹かれ、焦がれ、振り向かせたくなった。
それゆえに、『最終戦争』の開始を告げる前、最終警告を告げてやった。
「王であるこの僕の、后のならないか」と
しかし彼女はそれを一蹴する。
それでこそ、里村紅葉だ。
『最終戦争』は滞りなく進行する。
思った以上に苦戦する。
まず、仲間にした二人が早々に殺られた。
そしてこの僕の能力が聞かない女すらもいた。
――ワルキューレ
僕の『曇りなき真実の嘘』で創りだした炎さえも、彼女には届かなかった。
そして僕は敗退する、彼女、ワルキューレの手によって、『戦略破壊魔術兵器』をいとも簡単に切り裂かれた。
しかし、運は僕に回って来た。
『最終戦争』におけるイレギュラー。
「召喚せし者』の同時消滅。
これにより僕は『悠久の幻影』を解除し始まりの大地へとその身を隠した。
しかし『戦略破壊魔術兵器』は大破し、魔力のほとんどを奪われた。
いつ消滅してもおかしくはなかった。
しかし運は僕に味方したのか、なんとか一命は取り留めた。
しかしこのままではマズイと思った。
なにせ魔力は体が動く程度にしか回復せず、自らの体を修復するほどではなかったからだ。
仕方なく、僕は高嶺病院へと向かった。
そしてまたもや、運は僕に味方した。
高嶺病院の庭で僅かな魔術の波動を感じ、そして見つけた。
賢者の叡智と禁断の力を…
その昔、月読島で起こった戦争。
『10年戦争』
その際にこの島に消えない傷を残した力
――ローゲの炎
対象を燃やし尽くすまで絶対に消えない地獄の炎。
その知識手に入れた。
僕の戦略破壊魔術兵器ならばその能力を再現するのに、さして苦労はしなかった。
そして手に入れた4つの能力。
――屠り尽くす炎の巨人。
僕へ害意をなす行動すべてに反応し、超高温の炎で僕を守る魔術障壁。
――屠り喰らう焔炎の剣
超高温の炎の剣の形に型取り、たとえ防御してもその身、果ては魔法さえも融解する僕の剣。
――天山に聳えし空の王
炎の翼ヘ変形させ、空を駆ける王なる翼。
そして――聖剣ならざぬ焔の翼
かつてこの島に消えない傷跡を残した、対象を燃やし尽くすまで消えない地獄の焔。彼女の叡智に眠っていた禁断にして最凶の能力、それを僕なりに再現した能力。燃やし尽くすた相手を喰らい、その相手の知識や技術、果ては能力までも使用できる、不完全なためストックはひとつのみだけど。
この禁断の力を使い、僕の見つけた切り札を奪おうとしてきた相楽 苺を喰らい、目でみたモノを一瞬で無に還す―摂理たる終焉を手に入れた。
いよいよ最高神の『オーディン』すらも従える、真の王になる準備が出揃った。
僕は『オーディン』の目的も相楽 苺を喰らったので知ることとなった。
そして手に入れた切り札を使い、『オーディン』を僕の右腕とし、邪魔者を排除することを考えた。
それこそが真の王になる方法だと考えたからだ。
そして見事それは成功した。
僕の新たな能力と『オーディン』の絶対的な能力を前に、勝てる者などいなかった。
そう一人を除いては。
――芳乃 零ニ。
恐ろしく頭の回る男だった。
ただ24時間前までの事象と存在を戻すだけなのに、たったそれだけの能力で彼は『オーディン』を打倒した。
まさか『オーディン』を倒すとは思ってもいなかった。
しかし僕には奥の手がある。あの里村紅葉を砕く、奥の手が。
彼女の最愛の妹を投影した親友、鈴白なぎさ。
彼女を僕と『オーディン』の概念魔術によって僕の忠実な下僕とした。
まぁ結果は彼女を完璧に縛りきれず勝手に消えたけどね。
それでも彼女は魔力をほとんど失った。
里村紅葉は僕に色を見せてくれたけど、もう飽きてしまった。
「ハハハハハ、さすがだよ里村、君は僕を楽しませてくれる。僕の自信作の黒騎士すらも打倒するなんてね。」
ここいらで適当に葬っておこう。そう思った。しかし
「あんたの御託はいい、有塚 陣!あんただけは許さない…!」
――――――――――――――高次元領域展開 魔術兵装!―――――――――――――
彼女は僕すらも予期しなかった高次元領域に至ったのだ。
やはり彼女は最高だと思った。僕にこんな色をみせてくれるのだから…
「!なぜ、貴様がその剣を持っている!あの女の戦略破壊魔術兵器は消え去ったはずだ!」
「あんたにはわからないでしょうね、でもなぎさはあたしに中で生きている。あたしと一緒に戦ってくれているのよ!」
意味が分からない。これが高次元領域展開なのか。
「あたしとなぎさの思いその身に受けろオオオオオオ!!――黄金色の聖約!――」
その能力はぼくが一番警戒していた概念魔術を帯びた神話魔術!
「くっ!させないよ!――聖剣ならざぬ焔の翼!――」
消えない獄炎の焔と総てを絶つ黄金の斬撃が衝突する。
僕はついている。結果は相打ち。
彼女の聖剣は三度振るえばその身を破壊する諸刃の剣。
つまり実質あと一度しか振るえない。
しかし僕は違う。
魔力が尽きない限り撃ち続けられる。
勝機は僕にあった。
しかし彼女は二度目の――聖剣ならざぬ焔の翼――を始まりの大地へと侵入することで回避してみせた。
事前に始まりの大地への侵入を許可してしまっていた僕のミスだ
そのせいで僕は――黄金色の聖約――で『戦略破壊魔術兵器』を破壊されてしまった。
しかし僕の――聖剣ならざぬ焔の翼――の技能で取り込んでいた『摂理たる終焉』を代わりとすることで一回破壊を免れた
――二重魔力融合
最後の最後で運が僕に味方した。
当然今度は始まりの大地への侵入を許可しない。
「今度こそ消え失せろ里村!――聖剣ならざぬ焔の翼!――」
そして僕は勝利した。
真の王となるんだ。
そうあの男が現れなければ。
男はロキと名乗り、別の平行世界で『究極魔法使い』となった芳乃 零二だった。
あの男さえ現れなければ…
そして僕は敗北した。
彼の能力『復元する原初の世界』によって。
あらゆる事象を戻され、黄金色の聖約を幾度と無く振るわれ敗北した。
僕はまだ、生を実感していない。
死にたくない死にたくない死にたくない、納得がいかない。
許せない認めない。
「そうだ…僕は…まだ…認め、ない」
そうだ、まだ死ねない。
「納得、いか、ない…」
魔力がそこを尽き、『戦略破壊魔術兵器』が大破してなお、敗北を認めたくなかった。
「僕は、まだ!消えたくない…まだ、僕は生きている!」
そうだ、まだ立ち上げれるから
「…里村。ここは、俺に任せてくれないか」
ロキがそう、里村 紅葉に言う。それがさらに僕の神経を逆なでる。
「う、うん。負けないでねれーじ」
「…あぁ、有塚。一対一でやろう。――復元する原初の世界――」
彼は僕に『復元する原初の世界』を使ってきた。魔力、体の傷、そして『戦略破壊魔術兵器』を万全の状態へ復元した。
「なんのつもりだロキ!僕をバカにしているのか!」
「…いいや、お前は全力で迎え撃つ、全力のお前を全力で。納得いかないんだろう。だったら、納得させてやる。お前を救ってみせる。」
「やってみろ…!うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
渾身の魔力を込める、しかし同時にわかっていた。あの能力を前にいかなる力も無意味だということを…
それでも諦められない。
「――聖剣ならざぬ――!」
「…――神討つ――」
そしてお互いの魔術がぶつかり合う。
「――焔の翼!!!!!!――」
「――拳狼の蒼槍――!」
渾身の魔力を込めた地獄の焔がロキの魔法を燃やす。
しかし、同時に僕の体を暖かな光が覆う。
「強くなったな有塚。だけど俺も負けられないんだ、悪い。――復元する原初の世界――」
そして僕は戻され消される。
この世界の僕はいなくなるのだろう。
「安心しろ有塚、誰もが願いし平和の世界でまた会おう。」
そんな言葉が聞こえる。僕が彼のマホウをかけられてる間に気づいた。僕はとっくに生きることを実感している。
僕にはもう色が見えている。
生きている意味を、生きている心地をしっかりこの身に感じている。
「悔しい、けど…完、敗だよ…ロキ。」
そして僕は負けた。しかし勝利以上の何かを手にし、新しい世界へ歩を進めた。
~Fin~
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