No.446150 インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#09高郷葱さん 2012-07-05 00:27:12 投稿 / 全1ページ 総閲覧数:3081 閲覧ユーザー数:2927 |
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「さて、こっちの姉妹はこんなもんでいいか。」
小さな声で呟いた空の視線の先には二つのベッドを無理矢理隣接させて作ったダブルベッドに寝る、楯無と簪の姿があった。
模擬戦の後、空の手引きで食堂で出会った一行(簪、楯無、空)はそのまま簪の部屋へ。
しばらくは沈黙に部屋が支配されていたが、『とあるきっかけ』から双方本音の言い合いになり、最終的に仲直りした。
但し、某『消毒液の親戚』の力を借りていた為そのまま二人は寝てしまったが。
ちなみに、盛ったのは空でオレンジジュースに混ぜて飲ませた。
「ふたりとも、いい夢を。」
小声で言って部屋を出た空は屋上を目指す。
「………さて、お仕事でも始めますかね。」
屋上で、IS用のライフルを構える空。
そのスコープの先には
「はい、そこの人たち。重戦車を一発でスクラップにする威力のある狙撃銃で狙われてるから動かないで。」
至って能天気に、空は警告を発する。
それは十分に相手に届くように拡声されて上陸艇まで届いた。
それでも動こうとする一団に空は容赦なく引き金を引く。
ダァン―――
その瞬間、閃光が駆け抜けた。
* * *
[side:一夏]
四月も下旬、遅咲きの桜もみんな散った頃。
「では、これよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、千凪。試しに飛んで見せろ。」
俺たちは今日も千冬姉の授業を真面目に受けていた。
そういえば、空って専用機を持ってたんだ。
初めて知ったぜ。
「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ。」
俺は千冬姉に急かされて意識を集中する。
俺の白式の待機状態は右腕のガントレット。
普通はアクセサリーらしいんだけど、俺のは何故か防具だ。
…なんでだろうか。
「集中しろ。」
次は無いぞと最後通告を受けてる気になって俺は右腕のガントレットを左手でつかむ。
このポーズが一番イメージしやすい。
――――来い、白式。
心の中で呟くと同時、右手首から膜が全身に広がって行くような感覚。
コンマ七秒かけて放出された光の粒子がまとまってISの本体として形成されてゆく。
ふわり、と体が浮かぶ。
展開が終わってPICが起動したらしい。
見ればセシリアもブルー・ティアーズの展開を終えてあとは空だけだが…
「どうした、千凪。早く展開しろ。」
「すいません。換装式固定武装が多いので解除に手間取りました。」
謝りながらも全身に光を纏った空はあっという間、瞬き一回の間にISの展開を終えていた。
全体として訓練機である打鉄に似たシルエットにところどころラファールっぽさのある、ライトグレーのIS。
「それが、空のISなのか?」
「そうだよ。ジャンク品の打鉄とラファールからでっち上げた再生品だけどね。」
………それ、専用機って言っていいのか?
「まあ、武装試験機だからね。機体の性能は重視されてないよ。」
「そうなのか?」
「三名とも、準備が終わったな。では、飛べ。」
それからの行動は早かった。
セシリアが急上昇を開始し遥か上空で静止する。
俺も遅れて飛び上がるがセシリアに比べると遅い。
『何をやっている。スペック上の出力は三機の中で一番上だぞ。』
千冬姉のキツイお言葉。
これでも練習はしたんだけどなぁ………
PICで『上に勢いよく引っ張り上げるイメージ』で急上昇は出来たけど…イマイチ速度が足りないらしい。
『オルコット、お前も第二世代型の改修機に追い抜かれるな。』
………ん?
セシリアも怒られてる?
そう言えば………
「空がいないぞ?」
「あら?」
俺の呟きがセシリアにも届いたらしく二人でキョロキョロと探す。
おかしいな、見当たらないぞ?
『何をやっている、馬鹿者ども。上だ、上。』
千冬姉の声に上を見た。
「や。」
俺たちよりも数百メートル上に、空はいた。
機体の背中に、細身の翼を生やして。
判り易く例えるなら某『歌で全て解決』なアニメの、『操縦桿兼射出シート兼軍用
「なんて加速性能―――本当に第二世代型なんですの?」
「そうだけど?」
「あり得ませんわ………」
セシリアが落胆していると、
『よし、三人とも、今度は急降下と完全停止だ。目標はオルコットと織斑は地表十センチ。千凪は…そうだな、接地しないギリギリだ。砂埃が動いたら接地とみなすぞ。』
なんて千冬姉の命令が下った。
うわ、空の難易度高っ!
「了解です。では、お二人とも。」
セシリアが先に降下を始め、みるみるうちにその姿が小さくなってゆく。
「うまいもんだなぁ。」
そして完全停止も難なくクリアしたらしい。
…よし、俺も!
今度は勢いよく高いところから飛び降りるイメージ。
ついでに下へと引っ張るイメージもオマケだ。
勢いよく降下を始めぐんぐんと地表が近付いてくる。
よし、あとは停止すれば―――
そこで思い出した。
『急停止』のイメージはあるんだけど、完全停止のイメージがイマイチはっきりとしていなかった事を。
―――やべぇ…
そう思ったのと激突寸前に『がくん』と衝撃があって
「おぶぅっ!?」
顔面を地面にぶつけそうになっただけで白式は停止した。
「なにをやっているか、馬鹿者。千凪が手を打っていなければグラウンドに墜落していたぞ。」
「………すいません。」
俺が千冬姉に怒られていると空が降りてきた。
注文通り、着地するかしないかという微妙な高度に砂利ひとつ動かさないで。
そして、空の"打鉄モドキ"の右腕には巨大な釣り竿用リールみたいなパーツが追加されていた。
それを
なるほど、ウィンチランチャーとでもいうものなのか?
「次は武装の展開だ。織斑、やってみろ。それくらいなら自在にできるだろう。」
「は、はい。」
「よし、では始めろ。」
言われて、人がいない方向に向き直ってから、白式を展開した時のように着きだした右腕を左手で握る。
―――来い!
極限まで高まった集中力。
掌から光が放出され、それが形として成立する。
―――よし、必ずできるようになったぞ。
これもイメージが難しかった。
昔、見せてもらったり触らせてもらった真剣のイメージとか色々やっても中々に出来なかったのだ。
「遅い。〇.五秒で出せるようになれ。」
ぐあ………
血のにじむような練習の成果の総括が『遅い』かよ。
「セシリア、武装を展開しろ。」
「はい。」
今度はセシリアか。
名指しされたセシリアは左手を肩の高さまで上げ、真横に腕を付きだす。
一瞬、爆発的に光っただけ。
それだけでその手には特殊レーザー狙撃銃《スターライトmk-III》が握られていた。
展開が終わった時点でマガジンは接続済み。視線を送るだけでセーフティが外れた。
一秒も立たずに射撃可能になっていた。
「流石だな、代表候補生。―――ただし、そのポーズは辞めろ。横に向かって銃身を展開させて誰を撃つ気だ。正面に展開できるようにしろ。」
けれども、千冬姉からすれば『まだまだ』らしい。
「ですが、これはわたくしのイメージを纏めるために必要な―――」
「直せ。いいな?」
「………はい。」
なんとか言い縋るセシリアだけど一刀両断にされ、がっくりと肩を落とす。
「次だ。近接用の武装を展開しろ。」
けれども、我らが担任はそんなことはお構いなしに進めていく。
「えっ、あ、は、はいっ!」
行き成り振られて反応が遅れたセシリア。
きっと内心でぶつくさ文句を言ってたんだろう。
ともあれ、銃を
「くっ………」
光は放出されてるけど、中々に像を結ばない。
「まだか?」
「す、すぐです。――ああ、もう!《インターセプター》!」
武装名を半ばやけくそになって叫ぶセシリア。
それによって武器としてようやく構成される。
「何秒かかっている。お前は実戦でも相手に待ってもらうつもりか?」
「じ、実戦では近接の間合いに入らせません!ですから、問題は―――」
「ほう、織斑との試合では初心者相手で、簡単に懐を許していたように見えたが?」
「あ、あれは…その………」
ごにょごにょとどもるセシリア。
「ふん。では千凪………そうだな、武装リストを寄越せ。」
興味を無くしたかのようにセシリアから視線を外した千冬姉は空にそんな事を言った。
「どうぞ。」
とモニターが展開されて千冬姉の前に浮かぶ。
「ふむ。では千凪は私が言う、番号通りに武装を展開しろ。リストの一番上が一番だ。遅れるな。………一!」
一瞬だけ、ちかり、と光ってアサルトライフルが展開される。
「二!」
展開が終わったかと思ったら千冬姉が次を言う。
その瞬間に空はアサルトライフルを収納し近接用ブレードを展開。
「三、四!」
今度は二つ同時。
近接用ブレードが収納され、右手にショットガン、左手には短銃身のサブマシンガンが展開。
それから、千冬姉が番号をランダムに言えば空が武装を変えるという状態が繰り返される。
「ふむ、中々だな。セシリア、織斑。お前たちも千凪を見習え。―――さて、残り時間は何をしようか。」
「はいっ!」
勢いよく手を挙げるセシリア。
「なんだ、オルコット。」
「千凪さんとの決着をつけさせてください。」
「馬鹿者。そこまでの時間はないし、アリーナでもないのに模擬戦が出来るか。だが、まあ教材代わりにはなるだろう。次回の授業でできるように手配してやる。」
「ありがとうございます。」
「よし、では今日の授業はここまでだ。各自、復習はしっかりとしておけ。専用機持ちは研鑚を怠るな。―――解散!」
千冬姉の宣言で俺たち専用機持ちはISを収納し他の生徒たちもめいめいに散ってゆく。
「一夏。」
そんな中、俺に声をかけてくる空。
「なんだ?」
「今日の放課後、第三アリーナで急降下、完全停止の練習をしようか。大丈夫、出来るように
ぞくり、と背筋に冷たい物が走る。
「オ、オテヤワラカニオネガイシマス。」
空の朗らかな笑顔が、今は逆に怖かった。
* * *
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ちょうど、同刻、
「ふぅん、ここがそうなんだ。」
IS学園の正面玄関。
そこに小柄な体に不釣り合いに大きなボストンバックを抱えた少女がいた。
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#09:束の間の平和