鈍い音と、体の奥まで響く重い振動に自身の
大きく吐いた息とともに、戦闘のために冷めさせた思考を通常のものに戻す。
思考により無理やり抑えていた熱が膨れ上がるのを感じながら、モニターを操作。
天井にあたる部分が開き、自身の座るコクピットがせりあがる。
金属特有の光沢をもつ黒い一対の翼をあしらったそれ。
キーと呼ばれ、パスワードと併用することによって
服装に乱れがないか軽く確認して、機体から降りる。
自身の機体…メリオダスしか格納されていないその空間には、すでに何人もの整備士や研究者が集まっていた。
このメリオダスを開発したナイトオブツー専属開発機関・シュティリエルである。
ナイトオブラウンズは、その立場から一人一人がKMFの専属開発機関をもつことが許されている。
「お疲れ様です。アッシュフォード卿」
白衣を着こみ、ブリタニア人によく見られるアッシュブロンドの髪をのばした女性が、クレイにタオルを渡す。
「カリアか…助かる。メリオダスの稼働率はどうだ?」
受け取ったタオルで汗を拭いながら、機体の状態をこの機関の主任である、カリア・ブランシェルに尋ねる。
「現在は安定しています。このままいけば完成も近いかと」
「そういえばまだ完成ではなかったか」
「ええ。…申し訳ありません、私達の技術が至らないばかりにアッシュフォード卿にご迷惑を」
カリアの言葉にクレイは首をかしげる。
普通に言葉をかえしたつもりだったが、なにか謝らせるような言葉を使っただろうか。
そんなクレイの心境を察したのかカリアが苦笑いを浮かべ首を左右にふる。
「アッシュフォード卿の思われているようなことはありません。ただ、時々思うんです。特派がこの機体の開発に携わっていれば、もっと早く完成にこぎつけられたのでは…と。」
「―――いや、それだけは考えたくもない。というか、それは本気で言っているのか?」
自身の機関の、それも主任の口からポツリとこぼれた言葉に頬を引き攣らせ即座に反応する。
特派―――――正式名称を特別派遣嚮導技術部
神聖ブリタニア帝国最新鋭の技術が集結する機関であり、主に次世代
…というのが表向きの顔で、実情はただの
いや、それはとりまず置いておく。
メリオダスの開発に着手してから、形になるまで2年。
そして形になってから現在に至るまでに1年かかっている。
しかし、これは構想を作った時点で実現できれば三世代先にまで至る機体だった。
それを考えれば妥当な期間だろうと思うし、小さな不具合は生じたが戦闘が行えないという事態になった事は一度としてない。
正直な話、新型のトライアルなどでは試験途中の機能停止はざらに起こる。
それは特派でも同じである。
いや、むしろデヴァイサーのことをほとんど考えていない行動を起こすから、普通の開発機関よりもそういった事は多いだろう。
副主任が最後の良心として存在するが、それでもあの集団に自身のKMFを預けたいとは思わない。
「冗談ですよ。相変わらず、特派が苦手なよう…そんなに頭を抱えて、どうかされましたか?」
「いや、なんでもない。お前も相変わらずのようでなによりだよ」
この人物、ただの科学者と侮ることなかれ。
真顔で冗談を語り、皇族すらその見かけと雰囲気に呑まれ冗談と気づかずに話を進めてしまう。
権力に溺れた無能ならばそれも頷けはするが、その相手が第二皇子だったりするのだ。
それも天然だというのだから、たちが悪い。
それを聞いた時、つい膝をつきそうになったクレイは悪くないはずだ。
―――ふとクレイの携帯端末から電子音が鳴り響く。
目を通し、溜息を吐く。
カリアはそれを何か理解したらしく、にこやかに笑っている。
「妹さんから、ですか?」
「この端末のアドレスを教えた憶えはないんだがな」
ジト目でこの端末のアドレスを自身の妹に教えたであろう人物を見つめる。
が、本人はどこ吹く風。
クレイは…というよりラウンズは約一名を除き、携帯端末を仕事用とプライベート用に分けている。
ラウンズの中でも特に戦場に出る彼は、なかなかプライベート用のそれを手に取る事がない。
戦線が続けば、確認した時に連絡やメールがが数十件溜まっていることもある。
シュティリエルのメンバーは、なぜかアドレスを変える度に妹のミレイにそれを教える。
それもマナー設定できない緊急連絡用のを、だ。
自分と、自分を心配する妹の事を思ってくれるのは嬉しいが、せめて通常用のアドレスにして欲しいのが本音だった。
「…とりあえず、メリオダスの事は任せた」
「イエス、マイロード」
ニヤニヤと笑うシュティリエルの一同を見て、溜息をつきつつ早々に格納庫を出る。
格納庫から伸びる廊下…その一角で、クレイは先ほどの携帯端末を開き、メールで送られてきた画像を開く。
艶のある黒髪に紫の瞳をもった少年を中心に、少年少女が集まった画像。
その画像に手を伸ばし、なぞるように触れる。
「本当に、楽しそうだな」
そう呟き、目を閉じる。
――――――――――七年前。
――――――――――まだ自分が画像の中の少年少女のように笑っていられた頃。
――――――――――そして、自分の未熟さゆえに崩れてしまったその時間。
感傷に浸っていたが、ふと顔をあげ視線を虚空へと向け固定する。
まるでナニカがそこにいるような、クレイの行動。
数秒後小さく笑い、自身の部屋へと戻るために携帯端末を懐になおす。
「分かっているさ。七年前の軟弱な
そう独りでに言い、廊下を奥へ奥へと歩いていく。
クレイの独り言が響いた廊下。
そこにはいつの間にか明るい緑の髪を、腰ほどまで伸ばした少女が立っていた。
少女はじっとクレイの歩いて行った廊下を眺めていた。
「己との決別を殺すと言う…か。案外、お前も変わらないんじゃないか?」
決して大きくはない。しかし自然と耳に残る声とともに、少女もクレイの歩いて行った方へと歩きだした。
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初めて書いていますが、正直難しいです(^^;
というか話と話をつなげるのがこんなに難しかったなんて…
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