No.444374

とある芸術家の話

la_kyoさん

フリーゲーム『Ib』のゲルテナの話です。

自己満足で書き上げた、妄想が暴走しました。
ゲームを繰り返しプレイしている内に出来たものなので温い気持ちで見ていただけたら幸いです。

2012-07-01 21:41:58 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:748   閲覧ユーザー数:729

 

「ねぇ…」

 

金色の髪が眩い女性が憂いを帯びた目で対峙する男の目を見る。

 

「どうした?」

 

彼女は男の視線を避けるように俯き息を飲んでから、何かを決意したのかもう一度ゆっくりと男を見た。

男は彼女の美しい瞳に自分の姿を見る。

 

「私ね…身ごもったみたいなの…貴方の子よ」

 

弱弱しく響く声に何故だか物凄い力強さを感じる。

そして、男はその言葉を聞き腹の奥底から湧きあがる喜びを感じた。

 

「本当か?!」

 

「…えぇ、ごめんなさい…」

 

「何を謝ることがある、おめでたいことだ!!」

 

「…私、貴方の子を産みたいの…」

 

「当然だ!産んでくれ!君に似て美しく可愛い娘が産まれるよ!」

 

男は【娘】と確信して疑わなかった。

彼女はそんな男の態度を見て、はにかむように笑みを浮かべた。

 

「まだ娘と決まったわけじゃないわ…」

 

「いいや、娘だよ!!娘に決まっている!」

 

「…貴方にそう言って貰えるのは嬉しいわ…でも…」

 

自分の中にある不安が過ぎり、彼女は目を伏せる…

 

「何を迷う必要があるんだ?」

 

「…貴方の奥さんに…申し訳がないわ…」

 

彼女は自分が愛人であることを理解していた。

 

世間的に認められない関係であること…

そして、今自らに身ごもった子供の存在もまた…認められない存在だということを理解していた。

 

「…確かに君は正式な私の妻ではない…

 それでも私は君との子を抱きたい、傲慢で自分勝手かもしれないが…

 

 …私は君を…君だけを愛してるんだ…」

 

マイナーではあるけれど名の知れた芸術家であった男にはスキャンダルが絶えなかった。

元々夫婦仲は良好とはいえなかったが、当初はそこそこありふれた夫婦関係を築いていた。

しかし、強欲な妻は男の財産を食いつぶすようになっていく…。

 

『貴方みたいなつまらない男と結婚してあげたんだから

 これくらいしてくれるのが当然でしょ!!』

 

妻はブランド物の服を買いあさり、パーティに繰り返し出席し豪遊三昧をしていた。

そんな妻の姿を避けるように男は外の女へ救いを求めた。

 

しかし、妻は男の女遊びを知ってから、より一層ヒステリックになっていく。

此処まで破たんした状況でも妻は別れようとは一切しなかった。

 

『貴方だけが幸せになるなんて許せないっ!!

 一生別れてなんてやらないわっ!!』

 

病的にも見える妻の元へ男が帰ることは少なくなった。

元々は美しかった妻の姿は今では、恐ろしい鬼女のようだった…。

 

男は日々逃げるように女遊びをして、家に帰ることを避けていた。

その度に妻から執拗に追いかけられたが、うまいことかわしてこれた。

 

しかし、そんな男の女遊びもピタリと終わりを告げる…

今男に妊娠を告白した彼女と出会ってからというもの、今まで遊びで付き合っていた女性達の関係を次々と断ち切ったのだ。

 

ぽっかり空いた誰にも埋めることのできなかった隙間が彼女と出会ってから埋まっていくのを感じ

他のどんな極上の女を抱いてもより一層虚しくなるだけで、無意味だと感じた。

彼女との特別な時間、甘美な時間を過ごすうちに男は彼女一人、本気で愛してることに気が付いたのだった。

 

「本当にいいの…?」

 

「当たり前だっ!産んでくれ!!」

 

男は彼女を強く抱きしめた。

彼女は小さく震えながら何度もありがとうといい、幸せだと涙をぬぐった。

 

 

 

 

それからいよいよ男は妻の元へは帰らなくなった。

彼女のお腹が膨れるのを日々楽しみにしていた。

 

「早く生まれてこいよ」

 

「元気な子で生まれてくるんだぞ」

 

「待っているからな」

 

「一緒に外でいっぱい遊ぼうな」

 

「人形遊びもしよう、おままごともだ」

 

「絵もたくさん描こうな」

 

男はお腹の中の子供に向かって毎日話しかけた。

彼女はそんな微笑ましい男の姿を眺めるのが何より幸せで仕方がなかった。

 

「もう、貴方ったらまたこんなにお菓子を買ってきて」

 

男は毎日のようにケーキやチョコレート、クッキーを買って帰ってきていた。

 

「生まれてきたら一緒に食べようと思ったらついな」

 

「ふふっ、まだまだ先のことですよ」

 

「…うーん、じゃぁ、君が食べたらいい!そしたらお腹の子も食べれる!」

 

「こんなに食べたら逆に毒ですよ」

 

男はむむむっと顔をしかめる。

 

「ふふふっ」

 

たまらず彼女が笑う。

 

とてもとても幸せだった。

 

 

こんな幸せがいつまでも続く、そうお互いに信じていた。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そんな日々はすぐに終わりが来た。

 

 

彼女が妊娠してから半年が過ぎた頃…全く帰らなくなった男の妻が狂気に走った…。

バラの花束を持って街を歩く男を見つけた妻はゆっくりと男の後を付けた…。

 

 

「やっと…やっと見つけたわ…」

 

 

男は気付くこともなく、身重の彼女の待つアパートメントへ帰る。

 

「ただいま、今日は君とまだ見ぬ君に花のプレゼントだ」

 

「まぁ、綺麗なバラ」

 

「そうだろう?

 君の金色の髪のようなこの黄色いバラ…とても美しい…」

 

「貴方の作品にもバラの作品がありましたものね」

 

「精神の具現化、か?良く覚えていたね」

 

「ふふっ、もちろんですよ」

 

 

ドンドンドンドンドンドンドンドンッ!!!!!

 

 

「?!…なんだろう?」

 

「…なにかしら」

 

けたたましく叩かれる扉に二人は顔をしかめる。

 

 

「私が見てくるから、君は安静にしてるんだよ」

 

「え、えぇ…」

 

不安に駆られた彼女は男の袖をつかむ。

 

「…大丈夫だから」

 

そういって男は扉に近づいていった…。

その間も尚も執拗に叩かれる扉…。

 

「誰だい?そんなに叩かなくても今開けるから…」

 

そこまでいいかけて扉を開いた男はハッとなる。

扉の向こうに見えたのは、赤い服を着た妻の姿だった。

 

妻は閉められまいとガッと扉を掴み、髪を振り乱し叫び続けた。

 

「此処を開けろ!!!!開けろ!!!!!

 そこにいるのは分かってるんだ!姿をみせやがれ!!!!」

 

騒ぎを聞いた住人達が駆け付けるも妻は抑えの利かない状態で、住人達にも成す術がなかった。

尚も叫び続ける妻に男が叫ぶ・・・

 

「大きな声を出すのはやめてくれ!!」

 

「うるさいっ!!!女だろ!女がいるんだろ!!!」

 

妻は恐ろしい形相で男に掴みかかる。

物凄い力でドアをこじ開けられ、男は必至に妻の両腕を掴んで動きを制した。

 

「そんな状態の君と彼女を会わせるわけにはいかない、まずは落ち着いてくれ」

 

「うるさいうるさいうるさいうるさいっ!!!!殺してやる!!!殺してやる!!!」

 

妻は男の掴んだ腕に噛みつき手を払った。

 

「いっっ!!」

 

男は堪らず掴んだ手を離してしまう

何かにとり憑かれているかのような、素行に周囲の誰もが息を飲み…

妻は目に付いたもの全てを破壊していった…。

 

そして…妻の目に先ほど旦那が持っていたバラの花束を抱えた女性の姿が映る…

 

「…お前かっ!!!!」

 

妻は彼女の髪を掴みその場に倒した。

 

「乱暴はやめてくれ!!」

 

男は間に割って入るが妻が床に転がっていたワインの瓶で男の頭を殴る…

 

ガッ…!!!

 

男はそのまま床へ倒れた。

 

「きゃぁっ!!貴方!!!」

 

男に駆け寄ろうとした彼女の髪を妻に掴まれ、彼女は振り返る…

 

「誰が誰の貴方なんだ!!!」

 

恐ろしい形相で叫ぶ妻を見て恐怖が頭から足のつま先まで走る。

その瞬間、彼女は妻から何度も殴る蹴るの暴行を受け続けた。

 

「や、やめてっ!お腹だけはっ!!」

 

何度も泣きながら懇願したが、妻は聞く耳を持たなかった。

周囲の住人達が何とか取り押さえた時、妻は大きな声で笑った…。

 

 

「あははは!!!あははははははははは・・・・・・・・・っ!!!!」

 

 

フラフラとしながら散らばった黄色いバラの花を掴んでそのまま妻は家を出ていった。

狂気に染まっているその妻の姿を見て誰も声をかけることも出来ず、ましてや止めることもできなかった。

 

「おい!あんた大丈夫か!!」

 

男は住人によって声をかけられ意識を戻す。

 

「…つぅっ…!!」

 

脳天に響く痛み…その部分を抑えるとぬるりとする。

 

「これで抑えておきな

 今、医者呼んでるからよ!」

 

タオルを渡され自分の血だと気が付く。

 

「う…、彼女は…?」

 

ハッとなって周りを見る…うずくまる彼女が視界に入る。

 

「大丈夫か?!」

 

肩を抱いて抱き起こすが彼女はぐったりとしていた。

何処を見ているのか分からない目からはたくさんの涙が溢れていた…。

 

「私…私の…あか…赤ちゃん…?

 

 痛かったね…痛かった…酷い…あの人酷いの…

 やめてっていったの…に、何度も…何度も…赤ちゃん…何処…?

 

 いなくなっちゃった…ごめ…ごめんね…ごめんなさい…ウウッ…あぁぁぁっ!!!!」

 

顔は涙と血でぐしゃぐしゃの状態だった。

どれだけ殴られ、どれだけ蹴られたのだろう…

 

男は恐る恐る彼女の腹部を触った…

 

「いやぁぁぁぁあ!!!!!!」

 

激しい痛みに襲われ彼女はもんどりを打つ…

医者が来るまで彼女は発狂し続けた…

男はその姿をぼんやりと眺めていた…

 

 

・・・・・・・あぁ・・・娘は死んだんだ・・・。

 

 

それだけは嫌なくらいハッキリと理解できた。

 

彼女はそのまま入院となり、お腹の子は流産と確定した…。

 

 

 

 

数ヵ月後…

 

 

 

 

 

「やぁ、調子はどうだい?」

 

 

「あら、ふふっ、お父さんが来てくれたわよ、良かったわねー」

 

 

男が病室に顔を見せると、彼女は抱きかかえた女の子のぬいぐるみに話しかける。

 

「今日はチョコレートを買ってきたぞ、一緒に食べような」

 

男はぬいぐるみをそっと撫でるとチョコレートを彼女に渡した。

 

「あら、貴方ったらまたそうやって甘やかして、いけないお父さんね」

 

楽しげに話す彼女を見て男は寂しそうな笑顔を向ける…。

 

彼女の心はあの日から、壊れてしまった。

女の子のぬいぐるみを実の娘だと思いこみ、空想の中で生きていた。

本人にその自覚もなく、ただやつれていくばかりだった。

 

 

あの後、黄色いバラを握りしめた妻は逮捕され、離婚も成立した。

マスコミは面白おかしく撮り糺していたが、男は何も言い返すことができなかった。

妻を憎いとも思えず、自分のせいで二人の女性と生まれてくるはずだった【娘】の人生をめちゃくちゃにしてしまったことへの自責の念でいっぱいになっていた。

それでも締め切りは迫ってくる。

男は彼女の病室に見舞いに行く以外は作品作りに没頭した…。

 

そうすることで少しでも考える時間が少なくすんだ。

 

そんなある日、病院から緊急の連絡が入る…。

男は嫌な予感を感じながらも急いで病院へいった…。

 

病室に入ると彼女は包帯と点滴まみれになっていた。

 

「…あ…」

 

男は何も言えず、壁に寄り掛かった。

 

「今落ち着いたところですよ」

 

ナースの女性が声をかけてくる。

 

「…す、すいません、一体何が…」

 

「…それが…」

 

ナースが言うには、車いすで庭に行く途中、他の患者が扉を強く叩き続けて暴れているところへ遭遇してしまい

突然悲鳴を上げて車いすでめちゃくちゃに走り、そのまま階段から落ちたというのだ。

おそらく妻が襲いかかってきた日の記憶を呼び戻され混乱したのだろう、ということだった。

 

「色々、ありがとうございました…」

 

「今は安定剤を打ってますので、大丈夫ですよ」

 

そういってナースは病室から出ていった。

 

「すまなかったな…」

 

女性の髪をそっと撫でて男は呟いた。

 

 

「・・・ねぇ、貴方・・・」

 

不意に彼女から声をかけられハッとなった。

 

「すまない、起こしてしまったね」

 

「ううん、ずっと起きてました」

 

「そうか・・・」

 

彼女は男に顔を背けたまま話を続けた。

 

 

「私・・・思い出したわ・・・。

 

 あの日のこと・・・何がどうなったのか、そして今ここにいる理由も・・・」

 

 

脳天から冷水をかけられるような感覚に陥りながら、男はぎゅっと拳を強く握った。

 

「いなかったのね・・・」

 

彼女は身体を起こして腹部を優しく撫でた。

 

「すまない・・・君も・・・娘も守れなかった・・・」

 

彼女は男の頬に手を添える。

 

「貴方も辛かったわよね・・・」

 

慈愛に満ちた彼女の瞳に、何もかも許された気がした。

 

「すまなかった・・・本当にっ・・・本当にすまなかっ・・・た!!!」

 

あふれ出した涙をぬぐいながら賢明に何度も何度も繰り返し謝った。

何度謝罪しても許されるわけはないのに、少しでも【許された】気になった自分を恥じた。

 

 

「もういいの、過ぎてしまったことよ」

 

 

そういって、彼女は今まで【娘】として抱きかかえていた人形を手に取る。

 

 

「貴女にも、会いたかったわ・・・」

 

 

哀しげに人形の頭を撫でる彼女をみて、男の胸は軋むように痛んだ。

その日は、正気に戻った彼女と止め処なく会話をした。

心を壊してしまった彼女とは違い、聡明で美しく、自分がこよなく愛した女性がよみがえったような気がした。

 

「また、明日くるよ」

 

「えぇ、また」

 

病室を出る時の彼女の笑顔がとても愛らしくて何処か儚げだった。

これからやり直せる、男はそう思い彼女の笑顔を反芻していた。

 

 

 

その日の深夜、アトリエの扉を叩く音で作品作りに没頭していた男は立ち上がる。

 

「こんな夜更けになんだい?」

 

男は扉を開けると病院から連絡が入った、と管理人が慌てるように入ってきた。

 

 

「大変だよ!あんたが毎日見舞ってた女が!!!」

 

 

「・・・・!!!!!」

 

 

男は両膝をついてうな垂れた・・・。

 

 

 

 

 

 

 

彼女は病院の屋上から、投身自殺をして息を引き取った…。

 

 

 

 

 

 

 

男が病院にかけつけると、変わり果てた彼女の姿が目に入った。

 

「申し訳ありません!!管理不行き届きでした…!!」

 

担当のナースが何度も頭を下げる。

ドクターも何度も謝っていた。

 

しかし、男の耳にはまるで水が入り込んだかのようにボワンボワンとした音しか入ってこなかった。

昼間見た彼女の笑顔は・・・精一杯の【強がり】だったのだと思い知った。

 

彼女の心を壊してしまう程の強烈な出来事を、正気に戻った彼女が受け止めきれるものではなかったのだ…。

考えれば分かることだったのに、【やり直せる】などという考えは浅はかで、自分本位でしかなかった。

男は声が枯れるまで泣き続けた…。

 

しばらくして、泣くことにも疲れてしまった男は彼女が横たわるベッドの横で座り込んでいた…。

 

 

 

「…あのこれ…」

 

 

ナースがおずおずと男に彼女の所持品を差し出した。

 

 

「ありがとう…」

 

「あの…本当に申し訳ありませんでした…」

 

「うん」

 

「それから…これ…」

 

そういってナースが差し出したのは封筒だった。

 

「枕元に…ありました」

 

ナースは「失礼します」といってそのまま去っていった。

 

 

男はしばらく手に取った封筒を眺めていたが、意を決して封を開けた。

そこには彼女の字で

 

 

「ごめんなさい」

 

 

とだけ、書かれていた。

その文字を見た時、男は「彼女が死んだ」ことを現実だと受け止めて、泣いた…。

 

 

 

その後、男はテキパキと彼女の葬儀を行った。

マスコミも煩かったが、男は気にする素振りもなく仕事も両立していた。

 

 

 

彼女の葬儀がすべて終わった夜、男はキャンバスの前に立つ…。

 

「きっと・・・生まれてきたら、君はこういう姿だったろうね」

 

白いキャンバスを撫でながら呟くと、男は一気に絵の具をつけ描き始めた。

 

一心不乱に筆を振り、魂を込めるように描き続けた…。

 

 

 

 

 

 

 

作品を書き始めて9年が経った。

 

 

 

キャンバスは繰り返し繰り返し描き直しが入った。

 

最初は…乳児…幼児…そして、少女へと時を経て成長していくように男は何度も描き直していた。

完成、と思う事はなかった。

死んだ娘の姿を思い描くことで、娘の成長を見送っている感覚だった。

 

 

あの日、彼女が病院から投身自殺をしてから9年が過ぎた…。

 

 

 

「私は…もう君を描き直すことは出来ないね」

 

 

男は老いた。

とはいえまだまだ、壮年の男性に【死】は遠かった。

しかしこれが、最後になると思いながら筆を手に取りまたキャンバスに絵の具をつけていく。

 

男の頭には様々な情景が浮かんだ。

彼女と共に過ごした日々は何にも代え難いすばらしい日々だった。

彼女の笑顔…彼女の声…彼女の…すべてが今もなお鮮明に覚えている…。

しかし、彼女も、また生まれてくるはずだった娘も、この世には存在しない。

 

それならば、と筆を取り【娘】の姿を描くことを始めたのは贖罪のつもりだった。

もちろんそんなもので、気が済むはずなく、男は彼女を想い、娘を想うことを

ただ、ただ、忘れたくなかった。

 

自分の記憶の中で、彼女と娘の存在が美化されていくのは嫌だった。

ちゃんと記憶して、忘れたくなかったのだ。

 

 

その頃のことを、男は日誌にこう記している・・・

 

 

”ヒトの想いがこもった物には

 魂が宿ると言われている

 それならば、作品も同じことができるのでは、と

 私は常に考えている

 そして今日も私は自分の魂を分けるつもりで作品作りに没頭している・・・。”

 

 

彼の描くこの【少女】には、彼の魂が込められている・・・。

 

 

「完成だよ…」

 

 

男の目は、満足感でいっぱいだった。

 

 

「私の魂を込めた…

 

 

 

 

 

 たった一人の娘…

 

 

 

 

 

 ……………………………【メアリー】」

 

 

 

 

 

 

その絵を完成させた後、間もなく男は息を引き取った。

 

~fin~

 

 
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